恋する閉鎖病棟

れつだん先生

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最終章 夢で逢えたら

第11話 金欠

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 インターフォンで起こされる。起きた瞬間に、今日は金曜日であること、そして金曜日は真理さんが来ることを思い出した。薬が変わって寝つきやすくなったと言えば、雑談の時間も長くなるのではないだろうか? と期待しながらドアを開くと、気の強い看護師だった。内心、ものすごくテンションが下がったが、それを顔に出さないように、「おはようございます」と言うと、気の強い看護師も、「おはよう」と返し、部屋へ招き入れた。
 事務作業が終わり、僕は薬が変わって寝つきやすくなったということを伝えると、気の強い看護師は喜んでくれた。「これが続くといいんだけどね」と言い残し、アパートを後にした。
 昼になり、適当に飯を済ませ、することもないので洗濯物を処理した。僕のアパートには洗濯機置き場がない。一階の階段の下にある共同の洗濯機を使って済ませる。以前、別のアパートにいた時は、洗濯機一回二百円、乾燥機一回三百円だったので、良心的なのかもしれない。五月も終わりに近づき、どんどん暑くなってきている。窓を開けて扇風機をかけたぐらいでは涼しくないので、エアコンを入れる。電気代が心配だが、暑いもの暑いんだからしかたがない。
 眠っていた。夕方に目が覚め、腹が減っていたので、アパートから歩いて五分少々のところにあるすき家へ行った。米を炊けば安く済むのはわかっているが、起きた瞬間、「牛丼が食べたい!」という意味のわからない欲求が出てきたので、しかたがない。そこで食事を済ませ、隣にあるスーパーで煙草を買って部屋へ戻った。
 パソコンの前に座るなり、財布を取り出して、あり金すべてを床にばらまいた。どう考えても金がない。僕は毎月毎月同じことを繰り返している。欲望に従う結果、月末になると金がなくなり、困窮する。何とかしなきゃいけない。取り敢えず煙草は安い銘柄のechoに変更し、米を炊いて一袋百円のレトルト・カレーを食べることに決めた。しかしそう決めてスーパーへ行っても、「あ、この天ぷら食べたいな……」となってしまい、金を使ってしまう。もうこれは病気じゃないか?……。

 そうして金のない週末を過ごした。食事は、ご飯とたらこのふりかけと卵。刑務所よりも酷い献立だ。一日一箱近く吸う煙草を諦めれば、もっとましな食事がとれるのはわかっているが、煙草だけは止められない。
 しかし唯一嬉しいことがあった。夜ちゃんと寝られる。尚且つ熟睡できている。

 月曜日になり、以前真理さんと一緒に来た派手そうな看護師がやって来て、事務作業を終わらせて、「薬が変わって寝られるようになりました?」と聞いてきたので、僕は少し得意げに、「ばっちりです」と答えた。派手そうな看護師は喜んでいた。
 それから煙草の話になった。どうやら派手そうな看護師も以前喫煙者だったようで、妊娠を機にすっぱりと禁煙したと言う。僕には無理だな……。
 その日、いつも行くスーパーへ行った。残金がもう煙草代しかなくなったので、echoを買った。……という、いつものよくある風景なのに、レジに立った瞬間、胸に矢が突き刺さった。レジのパートの主婦が結構な美人だ。僕の好きそうなキリッとした顔だちで、当然パーツは整っており、化粧も濃くなく薄くなく、いいバランスを保っている。僕はどきどきしんがら、「すいません、echo一つ下さい」と言うと、そのレジの主婦は微笑みを浮かべながら、「はい」と答え、別のレジ横にある煙草棚からechoを取り出し持ってきて、「こちらでよろしいですか?」と聞いて来たので、僕はただただ頷くだけで、部屋へ逃げて帰って来た。あんなに美人なパートがいただなんて、なぜ今まで気づかなかったんだろう? いや、待てよ……。
 気づいても、主婦なんだから、意味がない。
 そうだよなぁ、と思いながら、煙草を吸ってインター・ネットを続けた。
 なぜ急に気づいたんだろう、と考えると、一つの仮定に行きあたった。真理さんとは週に一度しか会えない、という状態でギリギリ保っていた恋心が、先週の金曜日に来なかったせいで二週間会えず、それによって薄れたんじゃないだろうか?
 と深く考えたところで、真理さんもレジの主婦もどちらも、僕と仲良くなるなんてことはないのだから……。

 火曜日はなにもしていない。というか、金もなく、気力もないので、なにもする気に起きない。カレンダーを確認する。五月三十一日。二日の深夜零時、つまり三日の深夜零時に生活保護費が銀行に振り込まれるので、あと二日頑張れば、待ちに待っていたすき家の鰻丼、もしくは海鮮丼が食べられる。
 その嬉しさのせいなのか、木曜日から毎日ちゃんと寝つけられていたのが、その日はなぜかまったく寝られなかった。寝られずに朝を迎えるということは、無駄に煙草を消費するということだった。
 しかし変わったことはそれだけではなかった。今まで好き勝手に使っていたツイッターやたまに来るLINEに、拒否反応を起こし始めたのだ。それにはなんとなく理由はあった。流れてくるツイートが、どれもこれも人生を楽しんでいて、幸せそうなものばかり。僕がどれだけ屑なのかを見せつけられているかのようで、吐き気がした。そしてそれによって気分が下がっていることを言うと、心配される。しかしツイッターもLINEも止められない。止めると周りが心配しだすし、ことによっては、「連絡しにくい」と怒られる。

 そんな複雑な心境の中、六月がやってきた。今年も折り返し地点だ。
 朝まで適当に時間を潰し、十時にインター・フォンが鳴った。常連の気の強い看護師だった。事務作業を終え、僕は眠れてないことと気分が下がっていること、そしてネット恐怖症に陥っていることを正直に伝えた。
「私はおばさんだから、ネットやSNSのことはさっぱりわからないけれど、メンタルに支障をきたすなら、止めなさいって言っても……止められないよね?」
「そうですね……SNSだけで繋がっている知人友人もいますし、止めると心配されたりするんですよ」
「心配されたくない?」
「そうですね」
「辛いのに辛いと言えない」
「はい」
「でもそれによって辛いから、メンタルが落ち込む」
「そしてそれを誰にも言えない」
「そうかぁ……」と気の強い看護師は少し言葉を止めた。「今はSNSでいじめとか色々あるからねぇ」
「LINEの既読無視は厳禁ですからね」
「今の若い子は大変だね」
 同情はするが理解はできない、そういった会話の流れで、看護師は部屋を後にした。しかし最後に、「金曜日は……Aが来るからね」と言った。待ちに待った真理さんがやってくる! それだけで沸々と元気が出て来たので、洗濯物の処理と台所の片づけを、一気に済ませた。そしてそれを終わらせると、ヘルパーがやってきた。しかし部屋は荒れていないし、その他の片付けも終わっているので、ほとんどすることがなかった。
 ヘルパーが帰った後、少し元気が出たので、ふと思いついたネタを掌編にまとめた。書き終えてから、これを数日分一気に書き上げた。作家志望の友人が、「最近鬱が酷くて執筆どころか読書もなにもできない」と言っていたので、小説を書けるだけまだ元気なんだろうな、と思った。その後はいつもどおり、適当に時間を潰した。
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