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第1部
第2話:ボクをカタチ作る①
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―――――――――
鏡の前に立ち自分の顔を眺めながら、今日はどんな姿で彼に会いに行こうか考える。
よし、決めた。
メイクはナチュラルに、ボクの可愛さを引き立てるように。長い金髪は後ろで括って可愛いシュシュをつけよう。
大きめにした胸のボディラインが分かりやすいタンクトップは前屈みになれば少し胸元が見えるくらいに。大きめパーカーを羽織って、彼の前以外ではチャックは閉める。
うんうん、どこからどう見ても今日のボクはとっても可愛い女の子だ。
彼の反応を楽しみにしながら肩掛けカバンを手に取り、施設の前から出ていった。
―――――――――
『ウィルズヴィル』は今日も雲ひとつない良いデート日和だ。
そよ風も気持ちよく、通行人も笑顔に満ちている。すれ違い際に近くのキッチンカーから焼きたてのパンのいい匂いがした。
時計を確認しながら彼との待ち合わせに向かう。
建物の角から待ち合わせ場所に彼の姿を確認して、足を早める。
「ごめんシトラス君、メイクしていたら遅れちゃった~」
待ち合わせ場所に時間通りに到着している人間…シトラス君に手を振りながら言った。
彼の姿は今日も白衣・丸い黒縁眼鏡・天然パーマのいつもの3点セット姿だ。
白衣も眼鏡も手入れはされているがちょっと年季が入っている。
黒くてちょっと硬そうな髪の毛も天然パーマと言えば聞こえは良いが、最低限の手入れをしているだけである。
名前と違い清潔感はちょっと欠けてる姿だけど、いつもの姿の方がむしろ安心するので気にならない。
時刻は10時5分。5分遅れたのはわざとだ。
ちょっとドジっ子アピールをしてみたのだが彼はいつも通りにこやかに「気にしないで」と言った。
うぅ…好き…でもドジっ子アピールは一切通じないようだ。
今回は許してくれたが悪魔であるボクの行動時間は限られている。次からは気をつけよう。
傍に寄ると柑橘系の香水の香りがほんのりした。先日のデートでボクがプレゼントした物だ。
ボクは嬉しくなって彼の腕にしがみつく。
突然しがみついたので彼は驚いていたが、ボクの腕を振り払う事もせずじっと支えてくれた。
そしていつものように小首を傾げ上目遣いで質問した。
「ねぇ、今日のボク、可愛いかな?」
落ち着きがないように片手で髪の毛を触ってみる。
「ああ、とても可愛いよ」
彼はいつもと同じ調子でニコっと笑いながらそう返してくれた。
その言葉はとても…とても嬉しかったのだけど、まだ何か足りない。彼が本当に喜んでいる姿を見た事ないのだ。
彼の理想の女の子になりたい。
そう思ってずっと努力しているが空回りしてばかりだ。
ちょっと残念だけどまあ急ぐ必要もない。
総当たりすればいつか彼の好みストライクを狙えるはずだ。
―――――――――
「それで、その人間に会うたびに魔法で姿を変えていると?」
「うん、なかなか思い通りにいかないけどね~」
翌日ボクはこの街で人気のオープンカフェで最近知り合った同族の友人とお茶をしていた。
肩までかかる黒髪と切れ長の赤い瞳、鼻筋が通ったかなりの美貌の持ち主だ。
服は最近、彼が慕う人間から買ってもらったらしい。
黒のズボンにグレーのタートルネックシャツ、その上に黒いロングコートを着こなしている。首元には銀色の鎖のようなアクセサリーがきらりと光る。
すらりとした体形はモデルのようだ。
変身魔法を使わずにこの顔と身体は羨ましい。
ちなみに今日のボクは黒髪ロングストレートに目元は濃いめのメイク、白黒のフリフリワンピースの俗にいうゴシックロリータファッションだ。
厚めのヒールを初めて履いたが、今みたいに飲食だけならともかく歩き回るのは大変だなぁ。
「諸々の話を聞く限り、私にはその人間がお前に恋愛感情を抱いてるとは思えないのだが」
「え~そんな事ないよ!彼は悪魔を研究しているんだけど、ボクの事いろいろ研究させてくれって言ったの!
それってつまり、ボクの全てを知りたいって事=ボクと結婚したいってことだよ!!」
「…まあ、解釈は悪魔それぞれか」
対して興味なさそうにそう言うと彼は頼んでいたコーヒーに口をつけた。
一口飲んで息を吐く姿はそれだけで絵になる。
「ディアっちは良いな~。その姿コーヒー似合いすぎ。本当はボクもそっちが良い」
「コーヒーが良ければ頼めばいいだろう。しかしお前が頼んでいるそれ、すごいな…見ているだけで胃もたれを起こしそうだ」
そう言ってボクが頼んだ“ショコラ&ストロベリー デラックスパフェ”を指差した。
縁がヒラヒラ波だった可愛らしい細長いグラスに盛られたパフェだ。
チョコレートと苺味のアイスクリームをベースに、コーンフレークやフルーツ、クリームにゼリーなど
甘いものたっぷり入った季節限定メニューである。
「ディアっち分かってないな~。今のボクみたいな可愛い子がこういうのを食べてると映えるし可愛さ急上昇なんだよ」
「私の前で可愛いこぶる必要はないが?」
「いつ街中で彼に会うか分からないんだよ!
ボクは形から入るタイプなの。ディアっちってば顔が良くてもデリカシー0だから彼氏にはしたくない!!」
「こちらから願い下げだが」
「本当にデリカシー0!!」
ふてくされてチョコレートソースがかかった苺を頬張る。
丁寧口調の割に口は悪いがこう気兼ねなく話せる仲間は少ない。人間にはいろいろ本音を話せないし、人間が好きだなんて悪魔にもほぼ言えない。
こんな性格でも彼には心から愛する人間が居る数少ない同志だ。
口は悪いがシトラス君の事も、ボクの恋心を馬鹿にしてこない貴重な存在なのだ。
「シトラス君に可愛がられたいな…寂しいな…」
デザートスプーンを口に咥えながら呟いた。
ボクがシトラス君の理想の恋人になれたら、彼はどんな顔してくれるかな。
きっとカッコよくて可愛いんだろうなとは思うけど、どんな顔をしてくれるのかイマイチ想像がまとまらない。
「それならそこの綺麗な彼女、俺たちと遊ばない?いっぱい可愛がってあげるよ」
シトラス君の事をぼんやり考えていたら隣から聞き覚えのないねっとりした下卑た声が聞こえた。
横目でチラッと見ると、知らない人間の男3人がボクを見ていた。一緒の席に座っているディアっちの事は完全に無視している。
う~ん、人間の美醜の基準は理解しているがこいつら全員平均以下だ。
気持ち悪い笑みと舐めるようにボクの全身を見る汚い目は、やましい事考えているとすぐ分かった。
美女美男が一つのテーブルで話し合っている姿なんて傍から見れば理想のカップルだろうに、この下衆どもなかなかの度胸である。
ボクたち悪魔は性別や顔などの外側の見た目より魂を含めた中身を重視する傾向があるが、こいつらどちらも一目見ただけで論外だ。
「ああいや、きっ、君とっても可愛いなぁと思ってね。ぐ、偶然話を聞いていたんだけど彼氏君に相手にされていなくて可哀想だなぁ思って…」
「ふ~ん」
偶然とはなんて苦しい言い訳だ。間違いなく、意図的にボクたちの話を聞いていただろう。
ボクがディアっちと離れたらナンパでもするため近くで待機していた、でもボクらが恋人同士でない上にボクが恋人から相手されていなくて寂しいと言ったのでその感情につけ入ってきた、ってところだろうか。
しかし初対面のボクに“可哀想”と言ってくるなんて…この対人スキルの低さ、こいつらモテてないんだろうな。
あーあ、可哀想に。
「良いよ、この後暇してたし。寂しくて寂しくてウズウズして辛かったんだぁ…ちゃあんと、ボクを楽しませてよ?」
そう言って照れたように視線をそらして、太ももを擦り合わせるようにモゾモゾすると下衆どもは興奮したようにヒュウと声を上げた。
ふっ、チョロいな。
「…おい」
ボクが立ち上がるとディアっちが制止するように低い声を出した。
大丈夫だよと伝わるようにぱちんとウィンクをすると呆れたように大きなため息をついていた。
ボクはバッグから財布を取り出し、1000Gの紙幣を1枚取り出してテーブルに置いた。
「お釣りはいらないから」
ディアっちにそう伝えて下衆どもの方を向き、精一杯の猫撫で声で言った。
「か弱いレディなんだから、ちゃんとエスコートしてね」
「も、勿論だよ。こんなに可愛い女の子と遊べるなんて嬉しいなぁ…」
腰に手を添えられ、鳥肌が立った。気持ち悪さで顔面を特製ネイルで切り裂いてやろうかと思ったけど、こんな場所で事件を起こすわけにもいかない。無理やり笑みをつくってグッと堪える。
逃げられないようにしてるのか3人に囲まれながら、案内されるまま相手について行った。
ディアっちは見えなくなるまで訝しげにこちらを見ていた。
◆―――――――――◆
友人が3人の人間について行き、1人テーブルに取り残されたディアは彼らが消えた方向を眺めながら呟いた。
「いや…お前 男 だろ」
まあ自分にはどうでもいいが、と思い直し、友人が置いていった紙幣を回収する。
小腹が空いたのでフードメニューでも頼もうと、テーブルの端に掛けてあるメニュー表を手に取りページをめくる。
最初のページには季節限定メニューが載っているようだ。
“ショコラ&ストロベリー デラックスパフェ”1500Gと書かれていた。
「チッ…!!」
苛立ち交じりの舌打ちが出たが周りに聞こえた者は誰も居なかった。
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