暁の悪魔達の狂愛物語【完結】

ノノノ

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第1部

第5話:人間ファンクラブへようこそ①

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【side:ルキ】
―――――――――



ハルと一緒に行動するようになってから数ヶ月の時が流れた。
慣れない生活に手一杯で、あっという間に時は過ぎ去っていった。でも今までの苦しい生活と比べ物にならないほど充実していた。

あれから俺たちは食料などを集め、木材で杖などの道具を作り、ゆっくりと下山していった。

あんなに堂々と任せてくれと言ってしまったのに、最初のころはもう恥ずかしいくらい役に立たなかった。
動物なんてそう簡単に見つかるものじゃない。鹿を見つけて襲いかかったが、後ろ足で蹴られて無様に吹っ飛ばされた。あいつら思ったより強いな…。
その日の収穫は野うさぎ1匹だった。
しかも自分で捕獲したものではなく、すでに息絶えているうさぎだ。腹部に大きな切り傷があったので、猛獣に襲われて逃げたもののそのまま力尽きた感じだろう。
正直他の動物に捕食される前に見つけられたのは運が良かったが、何度も起こるものではない。もっとしっかりしなければ…

一方ハルは、良い感じの木材と沢山の小さなリンゴを持ち帰ってきた。
偶然沢山実っている木があったらしい。そんな都合の良いことあるのか…それを見つけられるハルも強運すぎる。

ハルは俺が持ち帰ってきた野うさぎを上手く解体してリンゴと一緒に炒め、彼が持っていた塩で軽く味付けした炒め物を作った。
簡単なものしか作れなくてごめんと言われたが、俺にとっては涎が溢れそうなほど豪華な食事だった。天気が良いとはいえまだまだ寒いので、温かい料理が身に染みる。
リンゴはあまり甘味が強くないみたいで肉や塩ともよく合う。半分くらい残してハルに渡したが、

「実はリンゴを持ちきれなくてね、その場で胃に詰められるだけ食べたから今日のご飯は食べられそうにない。それは全部ルキ君が食べてくれ」

と言われた。
これが何より情けなくて死にそうだった。


その後もすぐには上手くいかなかったが、だんだん成果を出せるようになった。
うさぎは活動範囲がある程度決まっているらしく、それを理解して柵で簡易的な誘導通路を作り、罠を張れば捕獲の成功率がかなり上がった。
罠は直接捕獲するより遥かに有効だった。
リンゴの芯周りの部分を餌にして罠を張って、初めて鹿を捕獲できた時は大喜びして帰った。
この時の肉で作った干し肉は下山の際とても役に立った。ハルが持っていた消耗品が尽きかけていたところだったので本当に良かった。

天候もずっと良く、山を下りきる頃にはすっかり雪は溶け、早めの春が訪れていた。本当に、ハルが春を連れてきてくれたかのようだと感じた。
不安の残る新生活ではあったが、ハルがとても頼もしい事もあり、ずっと順調だった。

―――――――――

山を降りた俺たちは定住できる安全な地を探して旅をしている。
ハルの荷物に入っていた僅かな紙幣で買い物をしたり、安全に道を横切ったり町に出入りする時はハルに魔法をかけてもらっている。
曰く、という使える人があまり居ない珍しい魔法らしい。身体能力が落ちるが、悪魔だと人間にバレることもほぼなくなるらしい。そんな魔法もあるなんて世の中知らないことが多いな。
俺はともかく、ハルは人間だから人間の町に着いたらお別れだろうなと思っていたが、

「一人で生きる方法が分からない。助けてほしい」

と言われ、結局一緒に居ることに。


ハルと一緒に過ごしていくごとに分かったことが3つある。
1つは、俺は頼られることが嬉しいと感じるタイプであるということ。勿論あの看守たちのようなやつらはごめんだが、ハルのように協力し合える関係は心地良かった。

もう1つは、ハルはとても器用ですごい人間だが、1人で何かを考えて行動を起こす事が苦手らしい。
例えば買い物で『好きなものを買ってきて』と言われても何を買えば良いか分からないので出来ないが、『ニンジンとジャガイモ買ってきて』と言えば出来る。
“一人で生きる方法が分からない”というのも、こういうところじゃないかなと思う。

最後の1つは、ハルはあらゆるものに興味関心を持っていない。
何があっても落ち着いて淡々としている。これをしたいといった要望を受けたことがない。
旅の途中、俺が周りの景色に感動していても、ハルは無表情で眺めているだけ。怖いからもうちょっと笑うようにしてほしいと頼んだら少し笑ってくれるようになったが、本心ではないだろうな…。

ハルは一人で生きていける方法が分からないと言った。だが俺にはこの先ずっとハルと一緒にいれるというビジョンが見えなかった。
人を殺したことのある自分がこんなに良い人間と居続けて良いわけがない。それに俺は弱い悪魔だから、彼より先に寿命を迎える。

だからハルに俺が居なくても生きていけるような…大切な人を見つけることを第二の目標にして一緒に歩き回ったり、いろんな人と交流している。


そんなある日、『ウィルズヴィル』という町で不思議な2人組と出会った。

「え…悪魔だ…」

何気なくすれ違う男女を見て、驚いて思わずぼそりと言葉が漏れる。
小声だったので周りの人間たちには聞こえなかったと思うが、何かを感じ取ったのか2人組の片方が振り向いてきた。

長い黒髪の、ドレスのような可愛らしい服を着た女の悪魔だった。
彼女は隣にいる白衣の男に何か話しかけた後、小走りでこちらに近づいてきた。急な展開に狼狽えていると彼女は声をかけてきた。

「あれー、君ってボクと同じ悪魔だよね」

「えっと、うん、そうなんだ…」

「どうやってこの町に入れたのか気になったけど、なんかディアっちみたいな変な魔法かけてるなぁ。この町に何か用? 暴れるのは厳禁だよ~」

「ち、違う! 物騒な事は絶対にしない。だから人間たちには黙っていて!」

俺は慌て首を振った。本当にこの町で暴れようとかそんな事は考えていない。
目の前の悪魔が人間と一緒に居ることなど、いろいろ聞きたいことはあるが騒ぎになるのは非常に困る。早急に逃げるべきかと考えていると、目の前の悪魔は笑いを堪えきれず息を噴き出した。

「あははっ、冗談だよ。なんか君たち訳ありっぽくて面白そうだからゆっくり話をしたいな。明日もこの時間にこの場所に来れる?」

「あ、ああ…」

突然の誘いに驚いたが願ったり叶ったりだ。こちらもこの2人組のことが気になっていたところだ。
人間と悪魔が仲睦まじそうに歩いているなんて…俺が今まで生きてきた常識とはかけ離れすぎていて、話をしたいと思っていたところだ。
もしかしたらハルが気になる人を見つける参考になるかもしれない。人間に対して友好的な悪魔を気に入る可能性もあると思っていたし、むしろ有難い。

町であった悪魔はバルドロという名前らしい。
最初に彼女のお気に入りだというカフェに案内された時は焦った。だって俺たちはあまり金を持っていない。

そう伝えると呆れられたが、カフェは1オーダー制らしいのでその日は奢ってもらうことになってしまった。1番安いドリンクメニューを頼み、後でお金返してねと言われた。
人間社会のことをまだよく分かっていない俺は、いつの間にか彼女に借りを作ってしまいなんだか恥ずかしかった。こんな調子で生きていたらそのうち詐欺に遭ってしまいそうだ…。

初めこそ警戒していたが彼女は聞き上手であり話し上手で、気が付けば目の前の飲み物のこと忘れるほど話に熱中していた。
俺が気になる事をうまく汲み取り話を広げ、いろんなことを聞くことが出来た。

この町の人間たちにとって悪魔はどういう存在か、お金の稼ぎ方、学びの教材がある程度揃っている図書館の存在など人間社会に関する事を一通り聞くことが出来た。

彼女のことや彼女が好きな人間のシトラスさんのことも沢山自慢されたし、俺も施設での生活以外のここに至るまでの話や旅の目的なども話した。
話を聞いたバルドロさんはハルの姿を見てうーんと唸っていたが、特に何か言われることなく俺に視線を戻して話を続けた。

そして今俺たちが居る人間が住んでいるこの世界…『人間界』とは違う、悪魔達がいる『魔界』という世界の事も聞くことが出来た。
人間はその場所の行き方も知らず、魔界に住んでる人間は全員さらわれた存在だとか。
ほぼ全ての悪魔はそこで生まれて生活するらしく、モノ好き以外はあまり人間社会に関わらないらしい。

うん? じゃあ何で俺はあの看守たちにさらわれていたのだろう。自分は物心つく前の幼い頃から人間の世界に住んでいると疑問を口にすると、バルドロさんはなんだか言いにくそうに顔を歪めた。

「魔界は弱い悪魔にとってはあまり良いところではないよ。簡単に言えばボクは魔界の連中に捨てられた。弱い悪魔はいらないって言われて、ここに来た時はもう荒れに荒れたよ。言い辛いけどルキっちもそんな感じなのかなぁ…」

「そうか…」

そんなところでも自分の弱さが足を引っ張っていたのか。
思わず手のひらをギュッと握って小刻みに震えていると、ハルがそっと手を添えてきた。ハッとなりハルの方を見ると、無言でじっとこちらを見ていた。

「ごめん、大丈夫だ」

そう言って手のひらを開くと、ハルは手を離した。
まあ、過ぎたことをいつまでも気にしていたらキリがない。一生の一番の困難は乗り越えたはずだ。これからのことを考えよう。

「ああそうだ、魔界が気になるなら『人間ファンクラブ』に加入しない? 世界を跨ぐにはすごく魔力が必要だからボクみたいな下位の悪魔は通常は無理だけど、同じ志を持つ強い仲間ならを開いてもらえるよ。ルキっちなら参加条件を満たしていると思う」

そうバルドロさんは俺たちを見て言った。
どうやら人間に興味や愛情を持っている悪魔たちが集まるコミュニティがあるらしい。初めは数人の小さなマニアックなコミュニティだったらしいが、今では毎月交流パーティーが開かれるほど大きくなったそうだ。
そしてその交流パーティーが、偶然にも数日後にあるらしい。

正直、とても興味がある。
人間が好きかと言われれば嫌いの感情の方が上回るが、ハルや彼女の言うシトラスさんみたいに良い人間もいることは分かった。悪魔たちが惹かれるほどの人間ならきっと優しくて魅力的だと思うし、もっといろんな悪魔たちと話がしてみたい。

ただハルはどうだろう? ハルにとっては悪魔がとても怖い存在かもしれない。そうだとしたら悪魔たちが集まる場所に連れていくのも気が引ける。
俺たちには決まった住処は無いし、滞在時間がどれくらいか分からないので離れ離れになるかもしれない。離れたいと言うなら受け入れるつもりだったが、ハルは当然のようについてくるつもりのようだ。大丈夫なのだろうか?

「まあ、ファンクラブなら人間を連れてくるのは全然OKだから無問題だよ。ボクはシトラス君を連れて来れないけど、連れてくる悪魔は沢山居るから変に目立つわけでもないし。でも自分が懇意にしてる人間以外にはキツい悪魔も居るから気を付けてね。まあそんな奴マナー違反で追い出されるから滅多なことは起きないけど、取られないようにね~」

「ルキ君から離れるつもりはないから問題ないよ」

「お、おいハル…」

あまり他人と話さないハルが珍しく話に入ってきて驚いていると、何が面白いのかバルドロさんはニヤニヤと笑った。
ま、まあ俺が行きたいと言い出したんだ。あまり細かいことは気にするまい。

その後は次のパーティーの日程と場所を教えてもらった。
見せてもらった地図で場所を確認したら人気ひとけのない岩山の中だった。
誰も来ないような場所だからこそ良いらしく、こういった人気ひとけのない場所のいくつかに入り口を作り、決まった時間に会場へ開通するらしい。
最近ファンクラブにとても強い悪魔が入会したとかで、この入り口の数も増えたそうだ。後で紹介すると言ってくれた。

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