15 / 52
第1部
第5話:人間ファンクラブへようこそ①
しおりを挟む【side:ルキ】
―――――――――
ハルと一緒に行動するようになってから数ヶ月の時が流れた。
慣れない生活に手一杯で、あっという間に時は過ぎ去っていった。でも今までの苦しい生活と比べ物にならないほど充実していた。
あれから俺たちは食料などを集め、木材で杖などの道具を作り、ゆっくりと下山していった。
あんなに堂々と任せてくれと言ってしまったのに、最初のころはもう恥ずかしいくらい役に立たなかった。
動物なんてそう簡単に見つかるものじゃない。鹿を見つけて襲いかかったが、後ろ足で蹴られて無様に吹っ飛ばされた。あいつら思ったより強いな…。
その日の収穫は野うさぎ1匹だった。
しかも自分で捕獲したものではなく、すでに息絶えているうさぎだ。腹部に大きな切り傷があったので、猛獣に襲われて逃げたもののそのまま力尽きた感じだろう。
正直他の動物に捕食される前に見つけられたのは運が良かったが、何度も起こるものではない。もっとしっかりしなければ…
一方ハルは、良い感じの木材と沢山の小さなリンゴを持ち帰ってきた。
偶然沢山実っている木があったらしい。そんな都合の良いことあるのか…それを見つけられるハルも強運すぎる。
ハルは俺が持ち帰ってきた野うさぎを上手く解体してリンゴと一緒に炒め、彼が持っていた塩で軽く味付けした炒め物を作った。
簡単なものしか作れなくてごめんと言われたが、俺にとっては涎が溢れそうなほど豪華な食事だった。天気が良いとはいえまだまだ寒いので、温かい料理が身に染みる。
リンゴはあまり甘味が強くないみたいで肉や塩ともよく合う。半分くらい残してハルに渡したが、
「実はリンゴを持ちきれなくてね、その場で胃に詰められるだけ食べたから今日のご飯は食べられそうにない。それは全部ルキ君が食べてくれ」
と言われた。
これが何より情けなくて死にそうだった。
その後もすぐには上手くいかなかったが、だんだん成果を出せるようになった。
うさぎは活動範囲がある程度決まっているらしく、それを理解して柵で簡易的な誘導通路を作り、罠を張れば捕獲の成功率がかなり上がった。
罠は直接捕獲するより遥かに有効だった。
リンゴの芯周りの部分を餌にして罠を張って、初めて鹿を捕獲できた時は大喜びして帰った。
この時の肉で作った干し肉は下山の際とても役に立った。ハルが持っていた消耗品が尽きかけていたところだったので本当に良かった。
天候もずっと良く、山を下りきる頃にはすっかり雪は溶け、早めの春が訪れていた。本当に、ハルが春を連れてきてくれたかのようだと感じた。
不安の残る新生活ではあったが、ハルがとても頼もしい事もあり、ずっと順調だった。
―――――――――
山を降りた俺たちは定住できる安全な地を探して旅をしている。
ハルの荷物に入っていた僅かな紙幣で買い物をしたり、安全に道を横切ったり町に出入りする時はハルに魔法をかけてもらっている。
曰く、魔力を抑えるという使える人があまり居ない珍しい魔法らしい。身体能力が落ちるが、悪魔だと人間にバレることもほぼなくなるらしい。そんな魔法もあるなんて世の中知らないことが多いな。
俺はともかく、ハルは人間だから人間の町に着いたらお別れだろうなと思っていたが、
「一人で生きる方法が分からない。助けてほしい」
と言われ、結局一緒に居ることに。
ハルと一緒に過ごしていくごとに分かったことが3つある。
1つは、俺は頼られることが嬉しいと感じるタイプであるということ。勿論あの看守たちのようなやつらはごめんだが、ハルのように協力し合える関係は心地良かった。
もう1つは、ハルはとても器用ですごい人間だが、1人で何かを考えて行動を起こす事が苦手らしい。
例えば買い物で『好きなものを買ってきて』と言われても何を買えば良いか分からないので出来ないが、『ニンジンとジャガイモ買ってきて』と言えば出来る。
“一人で生きる方法が分からない”というのも、こういうところじゃないかなと思う。
最後の1つは、ハルはあらゆるものに興味関心を持っていない。
何があっても落ち着いて淡々としている。これをしたいといった要望を受けたことがない。
旅の途中、俺が周りの景色に感動していても、ハルは無表情で眺めているだけ。怖いからもうちょっと笑うようにしてほしいと頼んだら少し笑ってくれるようになったが、本心ではないだろうな…。
ハルは一人で生きていける方法が分からないと言った。だが俺にはこの先ずっとハルと一緒にいれるというビジョンが見えなかった。
人を殺したことのある自分がこんなに良い人間と居続けて良いわけがない。それに俺は弱い悪魔だから、彼より先に寿命を迎える。
だからハルに俺が居なくても生きていけるような…大切な人を見つけることを第二の目標にして一緒に歩き回ったり、いろんな人と交流している。
そんなある日、『ウィルズヴィル』という町で不思議な2人組と出会った。
「え…悪魔だ…」
何気なくすれ違う男女を見て、驚いて思わずぼそりと言葉が漏れる。
小声だったので周りの人間たちには聞こえなかったと思うが、何かを感じ取ったのか2人組の片方が振り向いてきた。
長い黒髪の、ドレスのような可愛らしい服を着た女の悪魔だった。
彼女は隣にいる白衣の男に何か話しかけた後、小走りでこちらに近づいてきた。急な展開に狼狽えていると彼女は声をかけてきた。
「あれー、君ってボクと同じ悪魔だよね」
「えっと、うん、そうなんだ…」
「どうやってこの町に入れたのか気になったけど、なんかディアっちみたいな変な魔法かけてるなぁ。この町に何か用? 暴れるのは厳禁だよ~」
「ち、違う! 物騒な事は絶対にしない。だから人間たちには黙っていて!」
俺は慌て首を振った。本当にこの町で暴れようとかそんな事は考えていない。
目の前の悪魔が人間と一緒に居ることなど、いろいろ聞きたいことはあるが騒ぎになるのは非常に困る。早急に逃げるべきかと考えていると、目の前の悪魔は笑いを堪えきれず息を噴き出した。
「あははっ、冗談だよ。なんか君たち訳ありっぽくて面白そうだからゆっくり話をしたいな。明日もこの時間にこの場所に来れる?」
「あ、ああ…」
突然の誘いに驚いたが願ったり叶ったりだ。こちらもこの2人組のことが気になっていたところだ。
人間と悪魔が仲睦まじそうに歩いているなんて…俺が今まで生きてきた常識とはかけ離れすぎていて、話をしたいと思っていたところだ。
もしかしたらハルが気になる人を見つける参考になるかもしれない。人間に対して友好的な悪魔を気に入る可能性もあると思っていたし、むしろ有難い。
町であった悪魔はバルドロという名前らしい。
最初に彼女のお気に入りだというカフェに案内された時は焦った。だって俺たちはあまり金を持っていない。
そう伝えると呆れられたが、カフェは1オーダー制らしいのでその日は奢ってもらうことになってしまった。1番安いドリンクメニューを頼み、後でお金返してねと言われた。
人間社会のことをまだよく分かっていない俺は、いつの間にか彼女に借りを作ってしまいなんだか恥ずかしかった。こんな調子で生きていたらそのうち詐欺に遭ってしまいそうだ…。
初めこそ警戒していたが彼女は聞き上手であり話し上手で、気が付けば目の前の飲み物のこと忘れるほど話に熱中していた。
俺が気になる事をうまく汲み取り話を広げ、いろんなことを聞くことが出来た。
この町の人間たちにとって悪魔はどういう存在か、お金の稼ぎ方、学びの教材がある程度揃っている図書館の存在など人間社会に関する事を一通り聞くことが出来た。
彼女のことや彼女が好きな人間のシトラスさんのことも沢山自慢されたし、俺も施設での生活以外のここに至るまでの話や旅の目的なども話した。
話を聞いたバルドロさんはハルの姿を見てうーんと唸っていたが、特に何か言われることなく俺に視線を戻して話を続けた。
そして今俺たちが居る人間が住んでいるこの世界…『人間界』とは違う、悪魔達がいる『魔界』という世界の事も聞くことが出来た。
人間はその場所の行き方も知らず、魔界に住んでる人間は全員攫われた存在だとか。
ほぼ全ての悪魔はそこで生まれて生活するらしく、モノ好き以外はあまり人間社会に関わらないらしい。
うん? じゃあ何で俺はあの看守たちに攫われていたのだろう。自分は物心つく前の幼い頃から人間の世界に住んでいると疑問を口にすると、バルドロさんはなんだか言いにくそうに顔を歪めた。
「魔界は弱い悪魔にとってはあまり良いところではないよ。簡単に言えばボクは魔界の連中に捨てられた。弱い悪魔はいらないって言われて、ここに来た時はもう荒れに荒れたよ。言い辛いけどルキっちもそんな感じなのかなぁ…」
「そうか…」
そんなところでも自分の弱さが足を引っ張っていたのか。
思わず手のひらをギュッと握って小刻みに震えていると、ハルがそっと手を添えてきた。ハッとなりハルの方を見ると、無言でじっとこちらを見ていた。
「ごめん、大丈夫だ」
そう言って手のひらを開くと、ハルは手を離した。
まあ、過ぎたことをいつまでも気にしていたらキリがない。一生の一番の困難は乗り越えたはずだ。これからのことを考えよう。
「ああそうだ、魔界が気になるなら『人間ファンクラブ』に加入しない? 世界を跨ぐにはすごく魔力が必要だからボクみたいな下位の悪魔は通常は無理だけど、同じ志を持つ強い仲間なら門を開いてもらえるよ。ルキっちなら参加条件を満たしていると思う」
そうバルドロさんは俺たちを見て言った。
どうやら人間に興味や愛情を持っている悪魔たちが集まるコミュニティがあるらしい。初めは数人の小さなマニアックなコミュニティだったらしいが、今では毎月交流パーティーが開かれるほど大きくなったそうだ。
そしてその交流パーティーが、偶然にも数日後にあるらしい。
正直、とても興味がある。
人間が好きかと言われれば嫌いの感情の方が上回るが、ハルや彼女の言うシトラスさんみたいに良い人間もいることは分かった。悪魔たちが惹かれるほどの人間ならきっと優しくて魅力的だと思うし、もっといろんな悪魔たちと話がしてみたい。
ただハルはどうだろう? ハルにとっては悪魔がとても怖い存在かもしれない。そうだとしたら悪魔たちが集まる場所に連れていくのも気が引ける。
俺たちには決まった住処は無いし、滞在時間がどれくらいか分からないので離れ離れになるかもしれない。離れたいと言うなら受け入れるつもりだったが、ハルは当然のようについてくるつもりのようだ。大丈夫なのだろうか?
「まあ、ファンクラブなら人間を連れてくるのは全然OKだから無問題だよ。ボクはシトラス君を連れて来れないけど、連れてくる悪魔は沢山居るから変に目立つわけでもないし。でも自分が懇意にしてる人間以外にはキツい悪魔も居るから気を付けてね。まあそんな奴マナー違反で追い出されるから滅多なことは起きないけど、取られないようにね~」
「ルキ君から離れるつもりはないから問題ないよ」
「お、おいハル…」
あまり他人と話さないハルが珍しく話に入ってきて驚いていると、何が面白いのかバルドロさんはニヤニヤと笑った。
ま、まあ俺が行きたいと言い出したんだ。あまり細かいことは気にするまい。
その後は次のパーティーの日程と場所を教えてもらった。
見せてもらった地図で場所を確認したら人気のない岩山の中だった。
誰も来ないような場所だからこそ良いらしく、こういった人気のない場所のいくつかに入り口を作り、決まった時間に会場へ開通するらしい。
最近ファンクラブにとても強い悪魔が入会したとかで、この入り口の数も増えたそうだ。後で紹介すると言ってくれた。
0
あなたにおすすめの小説
【本編完結済】神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~
一ノ瀬麻紀
BL
前世で恋人を失い、自身も命を落とした僕は──異世界で双子の兄として転生した。
新たな出会いと、再び芽生える恋心。
けれど、オメガとしての運命は、この世界でも僕を翻弄していく。
これは、前世の記憶を抱えた僕が、二度目の人生を懸命に生きる物語。
✤✤✤
ハピエンです。Rシーンなしの全年齢BLです。
よろしくお願いします。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
きっと、君は知らない
mahiro
BL
前世、というのだろうか。
俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。
大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。
皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。
あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。
次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。
次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。
それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる