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第2部
第7話:濃霧の町に潜む④
しおりを挟む【side:アカツキ】
―――――――――
「アカツキさん、どうでしたか?」
「マリアさんの言った通りでしたよ。ちょっと気になる資料がありました。」
うっかり転移魔法に引っかかった僕は紆余曲折があって町人のマリアさんと一緒に『ミスカルタウン』の中を探索していた。
正直探し物がかなり特殊なものだったので町中に残っているか、知っている人が居るか怪しいものだったが、現在順調に進んでいると思う。
僕は先ほどマリアさんに言われた古い研究所の倉庫で探し出したボロボロのファイルを手に取った。研究室の更に奥…本棚の裏に隠れていた地下室の奥に僕が探していた資料と思われるものがあった。
『魔力と魂の転生魔法の研究経過記録』…手に取ったファイルの表紙にはそう書いてあった。
中を軽くペラペラとめくってみる。一番初めに選ばれた子供の記録を中心にいろいろ記されてあった。
魂の魔法の研究について、
魔法の付与に失敗したたくさんの子供たちの末路、
失敗の反省点に奇跡的に成功した1人の子供、
成功した子供の経過観察など…
ある意味自分の事でありながら、すごく遠い存在を見るような気持ちで眺めていた。
やはりこの魔法はそう簡単に他者に付与できるものではないようだ。
奇跡的に1人成功して今はこうしてアカツキとして生きているわけだが、どうして成功したのかも分からないらしい。偶然成功したから奇跡の子と言われている。とりあえずこの記録が正しければ本当に僕以外に魂の魔法にかかっている者は1人も居ないと確定したわけだ。
「でも本棚の裏に地下室があるなんてよく知っていましたね」
「隠し部屋とはいえ、かなり昔からありますからね。本の整理を手伝っていた子供が偶然発見したり、空気が通る音に気付いた若者が偶然発見したり…知っている方は町中にそれなりに居ますよ」
「なるほどねー。どうりでちょっとおかしいと思っていたんだ」
「おかしい、ですか?」
そう言うとマリアは首を傾げる。
僕は先程潜った研究室地下の部屋を思い出す。
「いや…1000年前からある割には想像より綺麗だったなと思っただけ」
正確には汚かったけど机の埃が払われていたり、床に埃で出来た足跡がうっすら残っていた。
つまり最近人が入った形跡があったということ。
しかも最近地下室に行ったであろう誰かはかなり乱暴に物を漁っている感じだった。本棚の周りにはたくさんの本がボロボロと落とされていたり、ファイリングされていた資料の用紙が床に散乱していたり…。
その誰かはおそらく僕と同じものを探していたのではないだろうか。本や資料には風化防止用の魔法が施されているとはいえ、貴重な資料に対してこの扱いは感心しない。
「探し物は見つかったのですよね? そろそろ町を出ませんか…?」
落ち着きがない様子でマリアさんは尋ねてくる。
先程襲われたせいかすぐにでも出ていきたいようだ。その気持ちは分かるけど…
「いや、もう少し探します」
「えっ…!?」
「肝心な資料が見つかっていない。探し尽くして無いなら無いでいいけど、このままじゃ帰れない」
もう一つ気掛かりなことがあった。
先程奇跡的に残っていたこのファイルを開いたが、肝心の魔法の術式そのものについての資料が一切無かった。ファイリングされている用紙に記入されているページ数も一部がごっそり無くなっている。何枚か抜き取られているようだ。
もうすでに持ち去られている可能性もあるが、念の為しっかり町中を探したい。
「この町、図書館とかありますか?」
「あ、ありますけど研究資料はそれ以外無いかと…」
「教えて下さい。早く外に出たいのは分かりますが、僕は無いと断言出来るまで何日だってここに滞在する覚悟で来ました」
「で、では先に外に出してもらえないでしょうか? 外で貴方を待ちます」
「すみません…」
頭を下げるとマリアさんはそれ以上何も言わなかった。
彼女を必要以上に疑いたくはないけれど、もし馬車を取られたら僕たちが困る。
それに町の出入り口には転移魔法が仕掛けられている。彼女はいきなり公園に出現した。おそらく僕と同じで転移魔法にかかったのだろう。彼女に魔法の解除が出来ないのなら僕が解除する必要がある。どのくらいの範囲に仕掛けられているかは分からないけど、一筋縄ではいかなさそうだ。
現状、そんな事に時間と体力を使ってられない。
せめてもと思い、背負っているマリアさんの大荷物を担いであげることにした。
彼女ははじめこそ自分で持つと大慌てで首を振っていたが、やはりお腹に命を宿している身体で歩き回るのは相当辛いようで、渋々大きなリュックを渡してくれた。
『貴重品が多いので絶対に開けないで』と念を押され、自分のリュックを手に持って背負った。
ズシリと肩に強い重みがかかる。自分の荷物は最低限にしていて本当に良かった。
ディアに会う前は自分の足で旅をしていたからこの程度の重みなら歩くのには慣れている。でも妊婦の彼女がこれを背負って外へ行くのは無謀だと改めて思った。
リュックを取ってもやはりマリアさんは辛そうに額から汗を流していた。
なんとか助けてあげたいという気持ちはあるけど…
……。
その後は図書館や役場など、何か手掛かりが少しでもありそうな所をいろいろ歩き回った。
町人にも話を聞けないかと扉をノックしたが、なかなか情報収集はうまくいかない。
ドアチェーン越しで会話できれば良い方だ。中には罵声を浴びせられ、追い出そうとしてくる人もいる。
畑に向かえば農作業をしている人は何人もいた。食料の供給がないと言われていたから、生きる為に作業している人自体は少なくないようだ。
ただ全員僕の姿を見るなり石を投げたりして追い出そうとしてくるので会話するだけでも困難だった。マリアさんを見て攻撃を止めてくれた方が数人居たので、彼女が居なかったらもっと時間がかかっていたと思う。
そこでマリアさんも数ヶ月前にここに引っ越してきた人であることを知った。
町人の辛辣な対応にも慣れている様子で、うまく仲介してくれて頼もしかった。落ち着いてくれた人に話を聞くと、やはり泥棒が後を絶たないらしい。
どこに、何人居るかも分からない擬態している悪魔の影響で、町の人々はゆとりのない生活をしていた。
とりあえず人々からの話を聞く限り、魂の魔法について知っている人は居なかった。それどころか存在すら知られていない。
命最優先で余裕のない生活なので、研究室の資料も目を通していないらしい。完全に忘れ去られた魔法のようだ。
それでも抜き去られた資料のことが気がかりで、僕はずっと町を離れる気になれなかった。
◆―――――――――◆
【side:ディア】
―――――――――
「あの老婆、悪魔です」
私はすぐ後ろについてくるクロノアに小声で言った。
私の目線の先には裏庭にゴミを捨てようとしている老婆がいた。あまり外に出ていないのか溜め込んでいた沢山のゴミをせっせと運んでいる。
クロノアは他のエクソシストたちに目配せをする。するとプルームがその老婆に歩み寄る。
老婆はその時私たちの存在に気付いたようで、明らかに警戒と敵意を向けていた。
プルームと老婆が何か会話をし、揉めている。距離が離れている為会話は聞き取れない。老婆の金切り声だけが響く。
しばらく揉めた後、プルームは半ば強制的に老婆に聖水を飲ませた。
「ギャ…ガァ゛ア゛アァァァ!!」
聖水を飲まされた老婆から水を蒸発させたようなジュウウという音が響き、口から湯気のようなものが出る。
魂を視認すると燃え上がっている魂がゆっくり溶かされているような様子が見えた。人間には見えないだろうがなかなか酷い光景だ。
老婆はその場に倒れ、苦しそうにのたうち回った後、しばらくして動かなくなった。プルームは念の為肩を揺するが何の反応もない。完全に息絶えてしまった。
「3人目ですね。そろそろ信じてもらえませんか?」
私は真後ろにいるクロノアに首を横に向けて尋ねた。
クロノアは眉間に皺を寄せこちらを睨んでくる。
「…早く先に進め」
「はいはい」
やはり悪魔の私では彼らの警戒を解くことは出来そうにない。私は大人しく先へ進み出した。
この町に入ってから擬態している悪魔には、先程の老婆を含めて3人出会った。外に出ている者は少ないが、悪魔は悪魔に対する警戒心が低いのか順調に見つかっている。とはいえ、今のところ全て間引かれた悪魔ばかりだ。強い悪魔…オズマらしき悪魔は見かけない。
主の姿も見かけていない。霧が深く視界も悪い上に、真後ろでは常にエクソシストが刃を向けている。
分かってはいたが思い通りに動けないのが歯がゆい。
指示の通り進んでいくと、前方からよく知っている魔力を感じた気がした。
後方では地図を持ったリザがスカーレットに『この先は広場です』と言う声が聞こえた。
やがて噴水の見える小さな広場に出た。
この広場に近づくにつれて霧に紛れて感じていた魔力について確信した。
間違いなく、主の魔力だ。主の魔力はその性質上感知しづらいが、感知能力が優れた悪魔にとっては封魔の力がとても強いので分かりやすい。そしてこの魔力からここでおそらく悪魔と一戦したというのも、分かってしまった。
「むっ?」
霧の向こうに何かが見えて思わず立ち止まる。
「な…なんだあの人は…」
私の真後ろに居るクロノアも、霧の向こうのものが見えたようで怪訝そうな顔をしている。
視線の先には街灯に鎖で縛りつけられた痩せ細った男が居た。身なりもボロボロで、手足も枝のように細い。だがそれ以上に私を動揺させたのはその男に巻き付いている鎖の存在だ。
何度も見てきたし何度も縛られたことがあるから間違いない。あれは主の拘束魔法の鎖だ。
鎖に縛られた男はこちらの存在に気付いて身をよじっていたが、鎖から抜け出せそうにない。主の鎖は特殊だ。縛った悪魔の力を抑えることが出来る。正直縛られているだけでも弱い悪魔には辛いものだろう。あの悪魔が痩せ細っていなかろうと抜け出すことは出来まい。
「…あの縛られている男も悪魔です」
「あ、ああ」
そうすると先程と同じようにプルームが悪魔に近づき、かなり揉めた後聖水を飲ませた。
男の口から先程までの悪魔たちと同じように蒸発するような音が響く。もう鎖で体力を奪われていたからか、苦しみ叫ぶ声も大きくはなかった。
今日会った悪魔の中では一番静かに命を落とした。
鎖に縛られたまま息絶えてうなだれている男の足元に、先日私たちが他の町で買ってきたゼリーのパックが落ちているのが見えた。
主の食べ物を盗んだのか、哀れみで与えられたのかは知らないが、主となにかしらの意思疎通をしていたのだとしたら先に聞いておくべきだったかもしれない。惜しいことをした。
「おい変態悪魔、何か気付いたことがありそうな様子だな。言え!」
離れたところからスカーレットが声を上げる。
なるべく動揺を見せないように気をつけていたつもりだが、この男はかなり勘がいいようだ。
「彼を縛っていたあの鎖は、間違いなく私の主の魔法です。…この先の通路に魔力の痕跡が続いています。主を追いたいのでこの先へ進んでよろしいでしょうか」
私は広場からいくつか分岐する道の1つを指差して言った。
リザ曰く、この先は公共機関や商業施設が集まる区画らしい。
「…貴様の主とやらは本当に悪魔ではないのか? あの拘束魔法が悪魔に使えるとは思えん」
「おや、まだ疑われていましたか。この魔力で分かると思いますが、悪魔に非常に有効な封魔の力の使い手です。悪魔に使えるわけがない」
「はぁ…良いだろう。人が多い場所の方が有益な情報が得られるかもしれんしな」
気に食わなさげな顔でそう言うと、スカーレットは他のエクソシストに細かい指示を出す。
私たちは主の魔力の痕跡が残る方角へ足を進めた。
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