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第2部
第7話:濃霧の町に潜む⑤
しおりを挟む【side:アカツキ】
―――――――――
研究所の地下から怪しげなファイルを見つけた後、僕たちはまずこの町の役場へ向かった。
一応仕事をしている人は居たが受付カウンターにはシャッターが下ろされていた。
書類を挿入できる程度の小さく細長い穴と相手を確認できる程度の小さな窓がついており、やり取りは最低限しか行えなかった。
もう見慣れたことだが、役場の人は旅人の僕を警戒した目で見ていた。
探し物の事を聞いてもこちらの話をろくに聞かず、知らないと突っぱねられた。
懲りずに聞き続けると、研究所にないなら図書館くらいしかないと言われて、それ以上は話を聞いてもらえなかった。
この町はそんなに広くもないので、研究所以外に資料があるとすれば図書館くらいだとマリアさんも言っていた。
仕方がないので次は図書館へ向かう。
図書館は無人で、貸し借りもセルフで行う形式らしい。
曇った窓から差す光と本が重々しい雰囲気を漂わせていた。薄明かりに照らされた館内には町人は誰1人おらず、広い空間がやけに静かに感じた。掃除は最低限、たまにしかされていないみたいでやや埃っぽい。
マリアさんはもう体力的に辛そうだったので設置してある椅子に座ってもらった。僕も荷物を下ろして研究に関連ありそうな本を無言で探す。
本棚の本は返却されずそのままにされているものも多く、本来よりも冊数が少ないとはいえかなりの量だ。
ある程度カテゴリー分けされているが、きちんと整理されているとは言いがたい。本をめくっては戻し、まためくっていく。
「アカツキさんは、魂の魔法をご存知なのでしょうか?」
どれくらい経っただろうか、マリアさんが僕に質問してきた。
驚いてマリアさんの方を向くと、彼女はリュックのそばに置いていた研究所のファイルを読んでいた。
「すみません、勝手に見てしまって。なんだか気になってつい…」
「良いですよ。他所の町でも聞いたことがないですし気になりますよね。僕もその…そんな魔法があるということ以外はよく分からないんです」
正直これは嘘ではない。僕も大昔、魔術師のお偉いさんに聞いたくらいだ。
あの人は僕を道具のようにしか思っていなかったし、細かい説明を聞くといったコミュニケーションすらほぼなかった。どうせ僕は魔法の完成の通過点にすぎないと思われていたからだろう。
術式も、本当に全く分からない。自分の意思で止めることもできない。
出来るのは死期が近くなると魔力が魂に吸収されていくので、魔力に記憶情報を織り交ぜるくらい。正直全ての記憶を引き継げるわけではない。でも重要なことはだいたい覚えているのでなんとかなってる。
「その人の全ての魔力を魂に込めて引き継ぐ魔法…存在すると思いますか? もしそうなら、ずっと生き続けるようなものですよね?」
「うーん、そう思うかは人それぞれかなぁ…。悪魔の感性で言えばそうらしいけど、僕は覚えていなければ別の人って認識」
そう言っても、マリアさんは何か考え込んでいるようだった。
何となくこのファイルを見せるべきではないと感じ、黙々とページをめくるマリアさんの手からファイルを取り上げた。
「軽食でも食べませんか? お店の場所さえ教えてもらえれば買ってきますが」
「は、はい。でも飲食店はずっと閉まっているので…近くに私の家があるので簡単なものなら用意できますよ」
「いえ、僕も簡単な料理なら作れるので休んでいてください。 あちこち連れ回してしまったお詫びをさせてほしい」
まだ図書館で魂の魔法に関する資料は見つかっていないが、一旦探すのを中断して一休みすることにした。
多少座っている程度ではマリアさんの体力は回復しそうにない。栄養のあるものを食べて休めば少しはマシになるだろうか。
マリアさんの家が近くにあるのは都合が良い。僕が図書館で資料を探している間、彼女は家に居れば安心のはずだ。
椅子に座っていたマリアさんは重い腰を上げるかのようにゆっくり立ち上がり、フラフラとした足取りで歩きはじめる。
僕も先ほどまでめくっていた本たちを急いで本棚に戻して、図書館の出入り口の扉を開けた。
「あっ!」
図書館の扉を潜った後、数メートル先に居る数人の人影を見て思わず声が漏れる。
ディアだ!
良かった、無事…ではなさそうな雰囲気だった。
ディアの背後にはフードを目深にかぶった4人の人間が居た。
実際に見るのは初めてだが、エクソシスト少数精鋭の特殊部隊のようだ。ディアとエクソシストの間には和やかな雰囲気は一切なく、お互い隙を見せないよう緊張感でピリピリしている。
もしやエクソシストはディアが悪魔だと気づいている?
でも、そうだとしたら何故ディアと一緒に居るのだろう。
僕が図書館から出た瞬間、ディアもすこし目を見開いていた。
だから僕の存在には気付いているはず。
ディアのすぐ真後ろには1人のエクソシストがくっつくように立っている。僕から身を隠そうとしている様子でもない。いつもならすぐ駆け寄ってくれそうなものだが全く動いていないとなると、多分背中に武器でも突き立てられているのだろう。
とりあえずこれはエクソシストたちに話をするしかなさそうだなぁと考えていると、ディアは何か悩んでいるかのように目を伏せた後、口を開いた。
「…主、そこから離れて下さい」
静かに、だけど力強い声が耳に届いた。
いつもみたいに名前呼びでないのもあって、なんだか全身に緊張感がほとばしる。
眉間に皺を寄せたディアは僕ではなくマリアさんの方を向いている。
「そこに居るのは悪魔です。離れて下さい」
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