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第2部
第10話:堕天使②
しおりを挟む遠く離れた高台でオークション会場を眺めていると、もう全てが終わったのか観客が続々と外へ出て来る。
購入できた者は勿論、出来なかった者も皆満足そうにしていた。
自分たちがやったことがそのまま返ってきたと自覚しているからか、この後自分がどうなるか想像できているのだろう。まだ本当の苦しみは始まっていないというのに、連れられて出てきた人間は皆この世の終わりのような表情をしていた。
外に出てくる購入者の中に、先ほどスープを与えた女を引き連れた悪魔が出てきた。
悪魔は女を人目につかない物陰に無理やり引き連れ、壁に押さえつけるとそのまま女の服を破き始めた。泣き叫ぶ女に、悪魔は満足そうに手を伸ばす。
…これ以上は見る必要もないだろう。
人目もつかない物陰と言っても通行人の中には泣き叫ぶ彼女に気付いている者は沢山いたが、誰一人助けようとしなかった。
男の方も見つけたが、そちらの方は購入者の悪魔に髪を掴まれ、引きずられているところだった。後の事は私が知る必要のない事だ。
「全て終わったよ。君もお疲れさまだ」
私は後ろに居る13番に話しかけた。
あの『グランコクマ帝国』での騒動の後、ちゃんと私が助け、介抱しておいた。彼の身体に流れる人間たちの薬品も、ディア君に刺された洗脳の悪魔の血も全て取り除いた。にもかかわらず、13番は怒りに満ちた顔で私を見てくる。
「おや、約束通り助けたというのに、まだ何が不満なのかい?」
「約束通り? 俺の腕をこうしておいてか!?」
彼は右腕をこちらに見せるかのように振り上げた。
腕は薬品の影響で膨れ上がっていることもなく、浮かび上がっていた血管のような模様も消えている。ただ違うことと言えば、手首から先は切断されて無くなっていることくらいだ。間引かれた悪魔では治癒する事も出来ないだろう。
勿論彼の手はそのまま返したが、彼はいらないと言ってどこかに放り投げてしまった。
「約束通り君の身体の悪いものも全て取り除いてあげただけだよ。君は攻撃の意志もないルキ君に大怪我を負わせた。彼は一歩間違えれば死んでいたんだ。そんな悪い腕なんて必要ないだろう?」
「ルキ…誰だそれは? 貴様の妄想で話を進めるな!」
「関わった時間が短いから忘れてしまったのかな? まあいいか、ルキ君は私の友達だよ。そして妄想ではない。私は自分の被造物の記憶媒体…例えば頭に触れると本人が思い出せない記憶も読み取ることが出来る。ルキ君の記憶も、君の記憶も確認済みだ」
13番は何か言いたげに歯を食いしばる。
私を傷つけることも、腕をどうすることも出来ないと悟った彼は大きな舌打ちをした。
「狂ってやがる…」
「自覚済みだよ」
ニコッと笑うが13番が不機嫌そうな様子は変わらないようだ。ルキ君に『無表情だと怖い』と言われたので、それ以降ずっと笑うようにしているがなかなか難しいな。
ああ、だったらこれを見たら少しは機嫌を直してくれるだろうか。
私は手のひらに魔力を集める。私が見た記憶を映像にして映し出す水晶を創造した。
「ほら、君が憎くてたまらなかった看守たちの末路だよ。これ見て機嫌直して」
私は水晶に、先ほどスープを提供してから彼らの買取が確定するまでの記憶の映像を映し出した。13番は最初は興味なさそうに見ていたが、やがて私の手にある水晶を食い入るようにじっと見始めた。全てに絶望し、泣き叫び許しを乞う人間たちを水晶を優しく撫でながら瞬きをせずに見ていた。
先ほどまでの不機嫌そうな雰囲気は完全に消えていた。どうやらとても気に入ってくれたらしい。やがて記憶の映像が終わると、13番は興奮が隠しきれない様子で口を開く。
「…もう一度見たい!」
「いいよ。何度もループ再生してあげよう。」
水晶にループ再生機能も追加させると、また初めから映像を映し始める。
13番は私から水晶を奪い取り、顔に近づける。泣き叫ぶ人間が移るたびに頬を高揚させ興奮し、うっとりとした目で見つめる。何度も何度も食い入るように繰り替えす映像を眺めていた。ふと彼の下半身を見ると、下腹部が熱を帯び、ズボンのファスナー部分が盛り上がっているのが見えた。
「君は苦しみ泣き叫ぶ彼らに恋をしてしまったんだね」
そう言うと、13番は図星かのようにビクリと大きく肩を震わせた。
私の言葉に肯定も否定も返さなかった。
ただ自分だけの世界に入り込んでしまったかのように、身体を丸めて私を無視していた。これには予想外だったが、13番がとても喜んでくれたようで、彼の苦しみは報われたと言って良いだろう。
「初恋記念にそれはプレゼントしよう。大事にすると良い」
「…ああ」
13番は最後に小さな声で返事をすると、それ以降はもう何も話さなくなった。ただずっと取り憑かれたかのように水晶を見ているだけ。
私はもうここにいる必要はないと判断し、その場から離れた。
―――――――――
私は門の魔法を使い、魔界から人間界へ戻ってきた。
かなり長い時間滞在していた気がする。
人間界の時間に合わせた時計を確認すると予定時刻の少し前くらいだった。良かった、時間調整は完璧だ。予定通りに進めば、そろそろアカツキ君とディア君が来てくれることだろう。
何をして待っていようかと考えていると、私の目の前に光の線が現れ、そこから1枚の紙が出てきた。
私がルキ君に渡した伝達魔法の手紙だ。
私はかつてかなり重要な役職についていたので、部下から毎日ひっきりなしに報告書が届いたものだ。伝書鳩とは違い、時間もかからなければ事故もない。私がかつてつくりあげたこの伝達魔法はとても便利で、今でもたまに利用している。
『ハルへ
随分と長い間帰ってきていないが大丈夫か?
杞憂だと思うが、変なトラブルに巻き込まれていないか心配だ。
何時くらいに合流できそうか教えてもらえると助かる』
そうたどたどしい字で書かれていた。
ルキ君は文字の勉強はしていたみたいだが書くことは慣れていないみたいで文字がミミズみたいだ。
「ルキ君は心配症だね。本当は私の方が遥かに強いというのに」
大した要件でもなければ中身もない。仮に報告書がこれなら返事もせずに捨てているレベルだ。それでも、文字を読んでいると何故か温かい気持ちになった。私はペンを取り出し、手紙下部の空白部分に返信を書く。
『ルキ君へ
心配してくれてありがとう。体調も問題ないよ。
夜には合流できると思う』
内容を確認して、ルキ君の元へ届くようイメージすると、手紙は光の線に吸い込まれるように消えていった。ルキ君には言っていないがアカツキ君とディア君には特別な物を頼んでおいた。
それを受け取った彼は、どんな反応をしてくれるだろう。
想像するだけで幸せな気分になれる。
今から楽しみで仕方なかった。
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