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第1部
第5話:人間ファンクラブへようこそ②
しおりを挟む数日後、バルドロさんに言われた場所に早めに着いた。
本当に石と土しか無い山の中で、水源も近くにないため人間たちが来ることもなさそうな場所だ。実際人間に一人も会わず真っ直ぐ来れた。
山道を突き進み、開けた空間に出たが、道中と同じで何もない。
本当に門とやらが現れるのか心配だったが、言われた時間になると黒いモヤのようなものが立ち込み始めた。
やがてまたモヤが一箇所に集まるとその中から人間一人が潜れるような大きさの黒い扉が現れた。これがバルドロさんが言っていた門の魔法だろう。
世界を跨ぐ程の門を作るには沢山の魔力が必要だと聞いたが、本当にとても強い魔力だ。俺だったらこんなの出したらそれだけで一日中倒れてしまうだろう。
ハルに一声をかけて、恐る恐るドアノブに手をかけた。
普通の金属製のドアノブのような手触りだ。捻るとあっさり扉は開く。
中に入り込むと先程までの岩山とは一変して、野外のパーティー会場のような場所に出た。
魔界と聞いていたので薄暗い場所かと思っていたが、想像とは真逆だった。
快晴の空の下、舗装された広場に白いテーブルクロスがかかった長い机がずらりと並んでいる。テーブルの上には様々な料理が盛られており、各々が料理皿に添えられたトングで必要な量を取り、食事をしながら対談を楽しんでいる。
呆気に取られてポカンと口を開けていると、隣から一組の悪魔と人間の男女がこちらに近づいてきて話しかけてきた。
黒髪のやや小柄な悪魔だった。
髪の毛は猫の耳のようにツンツンと跳ねて、幼さの残る顔付きだが強い力を感じる。咄嗟にハルの前に立つように移動すると、慌てたように『驚かせてごめんね』と謝られた。
「初めて見る顔だね。その様子からして、ここは初めてかな?」
「あ、はい、すみません…初めまして、ルキと言います。よろしくお願いします」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。同志は強さ関係なく平等。大歓迎さ! 僕の名はキズナ、彼女はノエルちゃん。とっても可愛らしいだろう? 自慢のお嫁さんだよ」
キズナと名乗った悪魔は彼の腕にしがみついている少女に顔を向けた。
薄茶色の少しウェーブがかった長い髪の女の子だ。キズナさんの腕から離れると彼女はニコリと笑い、優雅にお辞儀をした。礼儀正しく美しい所作に思わず胸がドキリとした。
「ルキ君、行こう」
突然ハルに腕を引っ張られるような形でその場から離れさせられた。俺はハルらしくない行動に唖然としていたが、キズナさんはあまり気にせず手を振ってくれた。
こちらも手を振り返した後、腕を振り下ろすようにハルの腕を振り払った。
「いきなりどうしたの」
「あの悪魔、あまり良くない能力を持っている。必要以上に近づかない方が良い」
「えっ、どういうこと?」
「あ、居た居た! ルキっち~、こっちこっち~!!」
離れたところでバルドロさんが手を振って俺たちを呼んでいる姿が見えた。
話の続きを聞きたかったからどうしようか悩んでいると、ハルは俺の質問には答えず話を逸らしてきた。
「バルドロ君が呼んでいるよ、行ってあげた方が良いと思う」
「…まあいいや。でも女の子に“君”と言うのは違うんじゃない?」
「……」
しばらく気まずい沈黙が流れた。あれ、俺はなんかおかしい事言ったかな?
とりあえずハルの手を引いてバルドロさんの居る所へ向かった。
多くの悪魔や人間に囲まれていて気付かなかったが、バルドロさんの隣には背の高い男の悪魔が立っていた。
俺を見た後、ハルを見て眉をひそめている。
「ルキっち、紹介するよ。ボクの友人のディアっちだよ」
紹介されたディアさんはこちらに軽く一礼をした。
目の前で彼をじっくり見ていると、あまりの強い魔力に腰を抜かしそうになった。
なんだ、これは…世の中にはこんな悪魔が存在しているのか。
先ほどのキズナさんも強い悪魔だと一目で分かり、思わず警戒してしまったほどだが、このディアさんはそれ以上だ。見ているだけで埋められない力の差を感じ、背筋がぞわりと震えた。
仮に彼が目の前で無防備に眠っていたとしても、俺では傷ひとつつけることは出来ないだろう。
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。ディアっち目つき最悪だしデリカシー0(ゼロ)だし可愛いボクにパフェもおごってくれない程ケチだけど比較的温厚だから」
「余計なことは言わなくていい」
そう言うとディアさんはバルドロさんの頭を軽く小突いた。
頭を押さえて『痛ぁ~』と言っているバルドロさんを見ていたら、なんだか緊張感がほぐれてきた。
「ああ、君が新しく来たっていう悪魔&人間コンビさん?」
突然どこからか、若々しくはきはきした声が聞こえてきたと思うと、ディアさんの後ろからひょっこり人間が顔を出してこちらを向いた。
白髪赤目のアルビノの青年だった。歳は10代後半といった感じだろうか。
背は低い方ではないが高身長のディアさんと並ぶと一回り小さく見える。灰色シャツに黒のベストにパンツ、動きやすいようなアウトドアシューズと町で見かける普通の人間のような格好だ。
「こんにちは。僕はアカツキ」
彼は握手を求めるかのように右手を差し出してきたので、こちらも右手を出して握手を交わした。
ニコリと笑う姿は気さくな好青年といった印象なのに、なんだか変わった形の魂をしている。
「えっと、アカツキさんはその…人間、ですよね?」
「そうだよ。悪魔は魂が見えるんでしょ?」
「分かるよルキっち、アカっちの魂なんか変だもん」
「えっ、そうなの…? ディア、僕の魂ってなんか変なの?」
アカツキさんは困惑したようにディアさんの方を向いた。
人間には俺たち悪魔と違って魂が見えないから気付かないのも分かるけど、ディアさん全然気にしていないんだ。ディアさんはアカツキさんをじーっと見て、言葉を選んでいるようだった。
「ええ、人形みたいで可愛らしい姿をしていますよ」
「「えぇ……」」
俺とバルドロさんはシンクロしたかのように同じように飽きれた顔をした。
アカツキさんはこちらに目もくれず、ディアさんの言葉に照れているみたいだった。
―――――――――
せっかくのパーティーなので、先に料理を持ってきてテーブルでお話しすることに。
渡されたお皿にいろんな料理を少しずつ乗せていく。
どれも美味しそうで、俺は肉魚野菜問わずいろんな食べ物を少しずつ乗せていった。ハルは空のお皿をもったまま立ち尽くしていたので、俺が勝手に盛り付けておいた。
俺たちがテーブルに戻る頃には3人とも席についていた。
バルドロさんはフルーツ中心の可愛いらしいプレート、
ディアさんはコーヒーとサンドイッチを数個、
アカツキさんは遠慮なくいっぱいお肉が盛られていた。
「こんなにお肉食べられるの、僕は最後かもしれないからね!」
そう言ってアカツキさんは笑顔で大きめにカットしたステーキに齧り付いた。
食事を交えながらの対談は思ったより盛り上がった。
バルドロさんが本当に話し上手で、上手く間を取り持ってくれて本当に助かった。
ハルは他の人たちより料理の方に興味があるようだった。自分から声を上げることもなく、黙々と食べている。でもちゃんと周りの話は聞いており、質問にはちゃんと答えていた。
「そういえばすご~く気になっていたんだけど、ディアっちとアカっちはどうやって恋人になったの?」
「こ、恋人!?」
俺は驚いて思わず声を上げた。肩がビクッと揺れて、フォークから薄切りのハムが皿にペタッと落ちた。
アカツキさんは誇らしげにこちらに向かってニコリと笑い、ディアさんも当然かのようにうなずいた。
いや、まあ先ほど惚気ていたし、納得と言えば納得なのか? しかしこんなに強い悪魔を惚れさせるとはいったいアカツキさんは何をしたというのだ。
ディアさんは会話している感じだと悪い性格とは思えないが、本心というか…イマイチ考えが読めない。
パッと見ただけですごく強い魔力を持っていることだって分かる。その力の全容を、おそらく俺は理解できていない。彼はとても顔が整っているし、バルドロさん曰く悪魔って強い存在に惹かれる傾向にあるから、彼に惹かれる者は数知れずだろうに。
「ふふっ、知りたい?」
「知りたい知りたい~」
胸を張っているアカツキさんに、バルドロさんは手をパチパチ叩きながらねだる。
確かにすごく気になる…今日一番気になるよこんなの!
「そうですね、アカツキの口からも聞いてみたいです」
そうディアさんが言うと、アカツキさんは持っていたコーヒーをくいっと飲んで『長くなるよ』と言った。
皆の視線が集まる中、アカツキさんはゆっくりと語り出した。
「ディアとの出会いは……」
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