暁の悪魔達の狂愛物語【完結】

ノノノ

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第2部

第13話:Dear③

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人間ファンクラブの敷地に着いた私は、管理者に許可をもらって館内の図書館に向かった。
この場所は魔界では珍しく人間の文化に関する資料がある程度置かれている。

調べるのは、人間の埋葬についてだ。
人間は死後、その者を地面に埋めるらしい。悪魔にはそんな文化はないが主は人間だ。見よう見まねになるが、丁重に土に返そうと思う。

埋葬場所はさほど悩まなかった。
皮肉なことにあの場所以上に適した場所はない。
死後硬直のピークは過ぎている。腐敗が進む前に行動しなくては。

ざっくりだが調べものを終えた私は、もう一度を使って人間界へ向かった。


―――――――――


を潜った先の地に足をつけるとパキっと何かが割れる音がした。細かい瓦礫を踏んでしまったらしい。冷たい風が吹き、舞い上がる砂埃が鬱陶しい。

「もう二度と来たくなかったのだがな」

目の前にある『アルマニア国』の紋章を睨みつけながら言った。

久しぶりに来たが何も変わっていない。
相変わらず人気ひとけは一切なく、積み重なった石壁がゆっくり崩れていくだけ。森の一部になりかけている国は動物たちの住処にすらなっていない。

今となっては見る影もないが、夢で何度もあの時の光景を見ていたので国の事はよく覚えている。1000年前の事だというのに、町を囲む壁の高さも、広さも、塔の外観も大体覚えている。

私は封印が解かれた日、主と出てきた大穴の近くまで着いた。封印されていた地下室の位置から、主と会話をしていた塔のおおよその位置を割り出した。
その場所は、今はつたが絡まった瓦礫が崩れているだけ。私は魔法でその瓦礫を破壊し、地面を掘る。大柄の人間でも問題なく入るくらいの大きさの穴が空いたところで、を使ってあるものを取り出した。

人間が死者を埋葬する時に使う棺だ。
主の死期はあらかじめ分かっていたので用意しておいたものだ。魔界に棺など売っていないので人間界で買ったものだ。手に入れるのもまあ大変だったが、少しでも気持ちよく寝られるようにと願って。
棺の上蓋を退けると内側には柔らかい布が敷いてあり、その上に主を横たわらせる。顔が青白い事を除けば、ただベッドで眠っているように見えた。

さらにもう一つ、あるものを取り出す。
百合の小さな花束だ。イブリースの庭にあるものを分けてもらったものだ。
それを主の胸元に置き、棺の蓋を閉めた。

「どうか安らかに」

私は先程掘った穴に棺を埋めた。
木でできた十字架を土に刺し、祈りを捧げた。


―――――――――


「…さてと」

主を埋葬した後、壊れた石壁に座ってしばらく休憩をしていた。
一息ついてからポケットの中に入っていた手紙を取り出す。

埋葬に関する事を調べている時、いつの間にか入っていたことに気付いた。封筒には『ディアへ』と書かれている。差出人は主だろう。背負って隠れ家まで歩いている時にでも入れられたのだろうか。
封を閉じているシールをゆっくり離し、折りたたんで入れてある便箋を開く。少し掠れた筆跡で書かれている文章を静かに読み始めた。

―――――――――

ディアへ

君がこの手紙を読んでいる頃は、僕はもう一時の深い眠りについた後だと思う。

君にはまだちゃんと感謝の気持ちを伝えきれていなかったと思う。きっとこの手紙を書いて眠りにつく僅かな間にも、照れくさくて直接言えないままだろう。文章での言葉になってしまい、本当にごめんね。

今まで本当にありがとう。

君と再会してから半年ほどしか経っていないが、君と旅をする日々は今までの人生の中で最も幸福な時間だった。

かつて『アルマニア国』から出られなかった僕に、君はいろんな場所について語ってくれたよね? 君が語った場所を、君が見ていた景色を、一緒に旅をする日々は夢のようだった。苦労した事も含めて、語り尽くせないほど大切な思い出が沢山出来た。

君が僕の事を覚えてくれていて本当に嬉しかった。僕は君の事がとても大切だけど、再会するまで君の気持ちは分からなかったから。実はね、『無駄だ』と言われた事もあるんだ。でも最後に交わした約束をずっと信じて君を探した。
君を信じ続けて本当に良かった。

再会するまで封印されていた事は心苦しかったけど、君もずっと僕を想い続けてくれていた事実にどれだけ安心したか…言葉に出来ないよ。

いろいろな雑用も文句言わずに手伝ってくれてありがとう。馬と馬車についても、本当に助かった。おかげでよりいろんな場所に行くことができた。君のおかげで旅をする上で困った事も沢山解消された。

ハルさんの言葉が本当なら、次の僕は『ウィルズヴィル』で目覚めるそうだ。迷惑でなければ、会いに来てほしい。多分君が来てくれる方が早く再会出来る。

……。

本当に君には助けられてばかりだ。

人間に正体を悟られないように魔力を抑えて生活する日々は、思うように動けないことも多く苦労しただろう。旅の道具の扱い方や人間界のマナーなど、覚えることも多く大変だっただろう。
それでも最後まで旅に付き合ってくれて、ずっと僕を支えてくれてありがとう。
来世はもっと2人でゆっくり出来る時間を増やせるように、もっと君の負担を軽減出来るように立派な人間になりたいな。

なんだか別れの挨拶みたいになってしまったけど、今後も君と一緒に居たいと思っているよ。

ディア、また会おう。
愛している。

―――――――――

「…ふむ」

手紙を全て読み終えた私は、紙を綺麗に折りたたみなおして封筒にしまった。
絶対に無くさないように、で異空間に仕舞い込んだ。

「はあ…まいったな」

長年生きてきたがここまで長く感謝の言葉をつづられたのはいつぶりだろうか。敵意を向けられる事に慣れすぎてなんだかむずがゆいが、不思議と悪い気分ではない。

手紙を読みながら、様々な思い出が次々と溢れ出てきた。
私も主と同じ気持ちだ。主と旅をする日々がどれだけ楽しかったことか。私の事を忘れず迎えに来てくださった事が、どれだけ幸せであったことか。私の方こそ言葉に出来ない。

また会おうと約束してくださった。
この別れは未来のために必要な一時的なものなのだ。以前のように憂う必要もない。しばらくして私は立ち上がり、手作りの墓をゆっくり撫でた。

ここにずっと居ても主は喜ばない。

「また会いましょう」

久しぶりに翼を広げ、空に向かって大きく羽ばたいた。
主の墓はすぐに見えなくなった。
だが今はもう、寂しくない。

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