四季の姫巫女(完結)

襟川竜

文字の大きさ
97 / 103
第四幕 愉比拿蛇

第三六話

しおりを挟む
目を閉じていても強烈すぎる光の中、何かが聞こえた。
それは泣き声みたいで、わたしはゆっくりと目を開ける。
真っ白な空間にわたしはいて、隣に居たはずのお姉さんがいない。
辺りを見回せば、小さな女の子が泣いていた。
「どうしたの?なんで泣いているの?」
声をかけてから罠かもしれないって思ったけれど、五、六歳くらいの女の子が目の前で泣いていたら放っておけないよ。
「ごめんなしゃい…ぜんぶ、ぜんぶ、ゆながわるいの」
「ゆなちゃんって言うのね。ねえ、どうしてゆなちゃんが悪いの?」
ゆなちゃんと視線が合うように、わたしはひざを折る。
でもゆなちゃんの顔は手で覆われていて見えない。
「ゆながちゃんとせいぎょできなかったから…。だから…」
「制御…?」
どういう意味なのか分からず、ゆなちゃんをよく見る。
すると腕に鱗のようなものがあるのが見えた。
これ、姥妙の人型に似ている。
もしかしてこの子…。
「あなた、もしかして愉比拿蛇?」
「うん」
泣きながらゆなちゃんは頷いた。
という事は、ゆなちゃんがいう「制御」というのは、溢れ出して暴走している妖力の事を言っているのかも。
「ゆなちゃん、もう泣かないで。どういう事か、教えてくれないかな?」
「それは、私がお話しします」
ゆなちゃんの後ろから女性が一人歩いてきた。
白い髪に、金の瞳。
額には天景さんと同じタイプの角が生えている。
「初めまして。私は七草」
「七草さん?変わった名前ですね」
「七草粥からとったの」
「そうなんですか。わたしもなんです」
「貴女も?」
「はい。わたしは七草冬です」
「まあ、偶然ね」
「そうですね」
ゆなちゃんは七草さんにしがみつく。
七草さんはそんなゆなちゃんの頭をゆっくりと撫でた。
「この子は蛇一族の中でもずば抜けた妖力の持ち主だったの。そこに目を付けた一部の人間が、この子を支配し、使役して世界征服を企んだの。霊魂を吸収して自分の力とする能力を持っていたせいで、沢山の魂を無理やり食べさせられたらしいわ」
「ゆな、もうたべたくないの。でも、たべないと、いたいことされるの」
痛い事を思い出したのか、ゆなちゃんの体が震えた。
そんなゆなちゃんを安心させるために、七草さんは優しく抱きしめた。
「幼いこの子に沢山の力を制御する事なんて、当然不可能。それでもこの子は、頑張って耐えたの。暴走しないように、必死に抑えた。でも…」
「でも?」
「ただ、守りたかったのよ…。彼を、守りたかった。愛していたから」
「七草さん?」
「…ごめんなさい。ゆなちゃんが暴走したのは、私を取り込んだせいなの」
「七草さんを、ですか?」
「ええ。私は神鬼と呼ばれる種族なの。私の力は、どんなモノノケも比じゃない程に強くて。当然、制御なんて無理。今まで抑え込んでいた全ての力が増幅・暴走し、邪神愉比拿蛇となってしまったの」
「そんな…」
それはつまり、愉比拿蛇は悪の元凶なんかじゃなく、実験の被害者って事だよね。
今までずっと語り継がれてきた事は、真実なんかじゃなかったんだ。
悪いのは愉比拿蛇じゃない。
人間だったんだ…。
何度も何度もゆなちゃんは謝り続ける。
ゆなちゃんが謝るのはおかしいよ。
だってゆなちゃん、必死に頑張ってたんだもの。
「もう…たべたくないよ…」
ゆっくりと顔をあげたゆなちゃんは、泣きすぎて腫れあがってしまった目でわたしを見た。
可愛い顔が台無しで、胸が痛くなった。
七草さんから離れ、わたしへと歩いてくる。
すがる様な目でわたしを見た。
「ふゆおねえちゃん…」
止まらない涙を拭いながら必死に、小さく掠れた声で、ゆなちゃんはハッキリとこう言った。

「たすけて」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...