【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ

もも野はち助

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【本編】

14.二人は甘く囁くように手を繋ぐ

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 翌日から学園の構内では、再び仲睦まじく手を繋ぐリュカスとロナリアの姿が目撃される様になった。

 しかも以前と比べて、リュカスのロナリアに対する接し方が、かなり甘さを含むものに変わった為、多くの女子生徒達が落胆する事となる。
 中には、それでも果敢に挑む女子生徒もいたが、結局はリュカスによって完膚なきまでに断られ、諦めるしかない状態に追いやられていた。

 そんな甘い雰囲気を惜しげもなく振り撒きながら、リュカスは嬉々としてロナリアの手を取り、魔獣研究所へと向かっていた。

「リュカ……」
「何?」
「ちゃんと前を向いて歩かないと、危ないよ?」
「大丈夫だよ。それよりも怪我をしているロナの方が転びやすくなっているから、気を付けないとね」
「だからって、そんなに顔を覗き込まれると恥ずかしいのだけれど……」
「だって、こうしてロナと手を繋ぐのは一カ月ぶりだから、嬉しくて!」

 そう言ってニコニコしながらロナリアの手を取っているリュカスだが、その手の繋ぎ方は、指を絡ませ合う『恋人繋ぎ』と言われているものだ……。
 一週間前のカオスドラゴンに襲われた一件以来、リュカスの中で何かが吹っ切れたようで、最近は幼馴染という雰囲気に一切徹しなくなってしまった。
 更にあの後、リュカスはかなり必死な様子でロナリアに告白もしてきた。

「ロナ、緊急事態だったとはいえ、いきなりあんな事をしてしまって、ごめんね……。でもあれは、魔力譲渡の為だけと言う訳ではないんだ。僕はずっと前から、ロナにああいう事をしたいという感情を抱いていて……。だけど、ロナが僕との友情を大切にしていた事も理解しているつもりだよ? だけど……いつかは、僕に対して友愛だけじゃなくて異性に対する恋愛感情も抱いて欲しいんだ……。それまで僕は待つから。だから、もしロナの気持ちの整理がついて、僕の気持ちに応えられそうになったら、教えて欲しい……」

 そのリュカスの告白でやっとロナリアは、この二年間リュカスへの恋心が重罪な事のようにしか思えなかった苦しみから解放された。

 自分はリュカスの事を一人の男性として、特別な愛情を抱いてもいい。

 ずっとそういう感情を抱いてはいけないと、勝手に自分に言い聞かせていたロナリアにとって、リュカスのその告白は救いの光のようだった。

 しかし……何故かその時、ロナリアはすでに抱いていたリュカスへの恋心の事を言い出せず、待つと言ってくれたリュカスの言葉に甘んじる選択をする。
 折角、お互いに想い合っている事が判明したにも関わらず、だ。
 では何故ロナリアは、そのような選択をしてしまったのか……。
 それは魔獣の樹海から戻ってから、リュカスのロナリアに対する接し方が、かなり甘いものになってしまったからだ。

 今まで涼しげな表情で無自覚に過剰なスキンシップをしていたリュカスだが、カオスドラゴンの一件以降、あからさまに溺愛する接し方を惜しげもなくしてくるようになってしまったのだ……。
 救護室に駆けつけて来た際は、ずっとロナリアの手を両手で包み込み、ロナリアがタウンハウスに帰宅する際は、心配だからとついてきた挙句、結局そのまま宿泊した。
 その際、常にロナリアの横にピッタリと張り付き、その二人の姿を目にした母レナリアに「何だか昔、リュカス君がロナのお陰で魔法が使えると判明した頃に戻ってしまったみたいね」と、微笑ましい眼差しを向けられた。

 だが母のその解釈は、全くの的外れだ。
 何故なら現在のリュカスから注がれているのは、当時の純粋な友愛ではなく、甘く熱を含んだ溺愛なのだ……。
 その為、ロナリアの心臓は以前よりも更に酷使されている。
 今のリュカスは手を繋ぐ際、必ず互いの指を絡めてくる。
 話し掛ける時は、甘い笑みを浮かべながら下から顔を覗き込んでくる。
 座る際は、以前以上にピッタリと横に付かれ、かなり距離が近くなった。
 何かあるごとにすぐに髪に触れてくるし、膝枕回数も無駄に増えている気がする……。

 今までもそういう接し方をされる機会はそれなりにあったが、涼しげな表情でされるのと、甘く熱を含んだ表情でされるのとでは、破壊力が全く違う。
 リュカスもそういう接し方をされた際、ロナリアが硬直する事を理解しているので、過剰にスキンシップを図ろうとする際は一応、一言声を掛けてくれる。
 だが……そのワンクッションがあったとしてもリュカスの甘い接し方は、いつもロナリアの心の準備が整わないまま、決行されるのだ。

 何よりもそういう状態にロナリアがなる事をリュカスは気付いているはずだ。
 それでも敢えて甘すぎる接し方を強行してくるのは、確実にロナリアを篭絡させる気満々という事になる……。
 ロナリアの気持ちの整理がつくまで待つと言ってくれたリュカスだが、現状のリュカスの態度や行動から考えると、待つつもりは一切ないらしい……。
 今のロナリアは、ジワジワと手の中に落ちてくるのを待たれている捕獲間近の獲物状態なのである。

 そんなリュカスの態度から、ロナリアは抱いている恋心の存在をすぐに伝える事に躊躇した。
 今でさえ、この甘すぎる接し方をしているリュカスだ。
 もしこの想いの存在を告げてしまったら、恐らくもう手加減はして貰えない。
 そんな貞操の危機感を抱いてしまったロナリアは、リュカスから告白を受けた際、一旦保留する事にしたのだ。

 だがリュカスの方は、すでにロナリアの気持ちに気付いている様子だ……。
 それを知っての上で、あの甘い接し方をしてくるのだから、もはや今の二人はどちらが先に折れるかの我慢比べとなっている。

 そんな状態になっている事をロナリアは、友人令嬢達に相談してみた。
 しかし、意見は真っ二つに割れる。
 一方は、早く想いを告げて甘い恋人期間を楽しむべきだという意見と、もう一方は卒業まで引き延ばし、学生らしい男女交際を維持するべきだと言う意見に分かれたのだ。
 そんな中で特に後者の意見を強く訴えてきたのが、ティアディーゼだ。

「リュカス・エルトメニアは、油断も隙もあったものではありません!! ロナの淑女としての品位を守る為にもその恋心は、卒業するまでは隠すべきです!」

 そうティアディーゼには力説されたが……。
 現状のロナリアは、早くもリュカスの甘い誘惑に屈しそうだ。
 リュカスのあの容姿を最大限に活用した甘やかな攻撃は、卑怯である。
 そしてその攻撃をリュカスは、故意で繰り出しているはずだ。
 その証拠にどんなにロナリアが顔を赤らめても、あの熱のこもった視線で顔を覗き込んでくる行為をやめてはくれない……。

 そんな常に甘くなる空気を必死で振り払おうと、ロナリアは敢えて真面目な話題をリュカスに振った。

「そういえば……今日は何で私は魔獣研究所に呼ばれたのかな?」
「なんでも……ロナの魔力が引き寄せてしまう上級魔獣には、ある共通点がある事が分かったらしいんだ」
「共通点?」
「僕もまだ詳しくは聞いていない……。でもロナには安全の為、説明した方がいいから放課後連れて来て欲しいって、上級魔獣を研究しているサイクスさんという男性に頼まれたんだ。その時、僕にも説明してくれるって」
「何だろう? 共通点って……」
「それが何にせよ、上級魔獣を引き寄せてしまう事には変わりないのだから、ロナは今後、絶対に屋外では魔法を使っちゃダメだよ!?」
「わ、分かってるよぉ……」

 顔をズイっと近づけながら念を押してきたリュカスに対して、ロナリアは違う意味で焦ってしまう。リュカスの顔が間近に来ると、どうしてもカオスドラゴンに遭遇した時にされた行為の記憶が蘇ってくるのだ。
 その事に気付いているのか、リュカスは以前よりも顔を近づけてくる頻度が増えた。最近では確信犯ではないかと、ロナリアは少々疑っている……。
 そんなやり取りをしていたら、いつの間にか目的の場所に到着する。

「えっと……。確か三階の一番端の部屋だって……。あっ、ここだね」

 そう言ってロナリアと『恋人繋ぎ』をした状態のまま、リュカスが扉をノックする。この状態で部屋に入る事に恥ずかしさを感じたロナリアだが、リュカスにそれを訴えても無言の笑顔で聞き流されてしまう事は分かり切っているので、諦めて羞恥心に耐える事にした。

「失礼します」
「やっと来たわね。いらっしゃい!」
「エ、エレインさんっ!?」

 部屋に入ると何故かロナリアがよく知った人物が、笑顔で出迎えてくれた。
 その事にロナリアが驚く。
 エレインは、ロナリアが高等部に上がってから通っていた魔法研究所で、魔力譲渡に関する研究を行っているチームの研究員だ。リュカスに効率よく魔力を譲渡する方法がないか、色々相談にも乗ってくれた人物でもある。
 だが二人を呼び出したのは、研究所の男性研究員のはずだ。

「えっと……。僕達、サイクスさんに呼ばれたのですが……」
「ここにいるぞー?」

 声のした方へ目を向けると、山積みになった本の向こうからヒラヒラと手を振った男性の姿があった。
 だが、ロナリアはエレインがこの場にいる事の方に驚いている。

「ここ、研究所ですよね……? それなのにどうして研究所所属のエレインさんが、いるんですか?」
「サイクスに呼ばれたの。ロナちゃんに魔力性質の説明をして欲しいって」
「私に?」

 すると、山積みになった本の陰から、二人を呼び出したと思われるサイクスが姿を現し、中央のテーブルに座るように促して来た。
 リュカスと同じ黒髪だが、手入れをしていないのかボサボサだ……。
 だが、黒髪なので魔力は強い人のようだ。

「散らかっていて悪いな。とりあえず先に俺達、魔獣研究所の調査結果から説明させて貰うな」
「はぁ……」

 よく分からないまま、ロナリアがリュカスと一緒に座るように促された長椅子に腰掛けると、サイクスとエレインも向かい側の長椅子に座った。

「まずロナリア嬢の魔力が上級魔獣を引き寄せる原因なんだが……どうやらその湯水のように沸き上がる魔力体質の所為だ。君の放つ魔法は、魔力の濃度が非常に濃厚だそうだ。その為、特定の種族の魔獣にとって、君の放つ魔法はご馳走のように感じるらしい」
「ご、ご馳走!?」
「サイクスさん、それってロナ自身もその特定の魔獣からすると、ご馳走扱いされるという事ですか?」
「まぁ、屋外で彼女が魔法を放てば、そういう感じになるかな……。で、その特定の種族の魔獣ってのが、ドラゴン系の魔獣だ」
「「ドラゴン!?」」

 流石にその情報はロナリアだけでなく、リュカスも驚かせた。

「で、でも! 初等部の頃に僕達を襲って来た魔獣はドラゴンではなかったはず……」
「当時の資料を確認したが、確かに一度目はドラゴンではなく、飛行するリザード系の魔獣だったみたいだな。だがコイツの祖先はドラゴン系だ。ついでに二度目に襲って来た魔獣は、いわゆるキメラってやつだな。無駄に背中に生えている小さな翼があっただろう? あれがまさに過去にドラゴンの血が混ざったという名残になる」
「じゃ、じゃあ、フェイクドラゴンも?」
「あいつも今はリザード系に分類されてはいるが、元はドラゴン系の魔獣だな……。ドラゴンは『魔力を喰らう者』と言われているのは知っているか? 古龍なんかは同属性の魔法をぶち込むと、逆に吸収されるって授業で習っただろう? それだけドラゴンってやつは、魔力との関係性が深いんだよ。だから逆にそのドラゴンの弱点属性をぶち込むと、簡単に倒せる事もある。倒した後に魔石が取れるのもドラゴン系の魔獣だ」

 平民上がりなのかサイクスの言葉遣いは、ややぞんざいだ。
 だが二人はライアンで慣れているので、あまり気にはならなかった。
 それよりも何故、ロナリアの魔力がドラゴン系に好かれやすいのかが、よく分からない。その考えからロナリアが、思わずその疑問をポツリとこぼす。

「でも何故、私の魔力はドラゴンに好まれるんだろう……」
「その説明は、コイツの方が専門だから今回、呼んだ」

 そう言ってサイクスが顎で指すように、エレインへと視線を誘導させる。

「それじゃあ、ここからの説明は私がするわね」

 そう言って、今度は魔法研究所の研究員であるエレインが語りだした。
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