【本編完結済み】二人は常に手を繋ぐ

もも野はち助

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【番外編:二人の過去とその後の話】

銀髪の令嬢(中編)

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  そして二日後……ロナリアはライリアの伯父であるストレム伯爵家主催の夜会に一人で参加していた。

 あの後、今回の夜会参加の準備に協力するという建前で、友人一同に全力で着せ替え人形として堪能された今日のロナリアの装いは、普段好んで着ているピンクやオレンジ、黄緑色の明るく可愛らしい色合いのドレスではなく、やや大人っぽい色合いの濃紺のドレスだ。

 しかし、小柄で愛らしさを感じさせる事が多いロナリアに合わせ、大人っぽさを損なわないように大きめのリボンが、密かに施されている。
 髪型もドレスの装飾に合わせ、結い上げた状態の真ん中に大きなパールの装飾が施された大きな濃紺のリボンの髪飾りが挿されているので、大人っぽさの中に女性らしい愛らしさも感じさせる仕上がりだ。

 このドレス姿であれば、普段はパステルカラーのドレスを着る事が多いロナリアが知人に出会っても瞬時には気付かれにくい装いである。
 そんな普段とは違った装いの上にたった一人で知人がほぼいない夜会に送り出されたロナリアは、パーティー会場内を不安そうな表情を浮かべながら、必死でリュカスと噂の銀髪令嬢の姿を探し始める。

 その間、何度か見知らぬ男性にダンスを申し込まれたのだが……。
 友人エミリーナ直伝の『人妻なので……』という断り文句で、何とかその誘いを躱していた。
 だが、いくら探してもリュカスどころか、参加しているはずのエクトルの姿すら見つけられない状況だ。しかも慣れない靴で足も痛めてしまったようだ……。

 仕方がないので、ロナリアは一度休もうと配られている果実水を受け取り、ダンスフロアから抜け、二階の休憩スペースの長椅子に座り、ダンス会場の上からリュカス達を探す事にする。

 すると、一部人が群がっている集団が目に留まる。
 その集団の中心に目を凝らすと、そこには探していた第三王子エクトルとリュカスの姿があった。

 だが、そこには皆が目撃した銀髪の令嬢の姿は見当たらなかった。
 その事に安堵したロナリアは、手にしていた果実水を一気に飲み干し、階下にいるリュカス達のもとへと向う。

 しかし、二人に近づこうとした瞬間、ロナリアの足はピタリと止まってしまう。
 なんと近付こうとしたリュカスの隣には、先程は確認出来なかった小柄で銀髪の美しい令嬢が、楽しそうに笑みを浮かべていたからだ。どうやらその令嬢が小柄過ぎて、上からではその姿が確認出来なかったらしい。
 
 実際に銀髪の令嬢がリュカスの側にいる事にショックを受けたロナリアだが、更に心を抉ってきたのは、現状リュカスがエクトルを交えながらもその銀髪の令嬢と楽しそうに会話をしている様子だった。 
 その状況を目の当たりにしてしまったロナリアは、時が止まったようにその場から動けなくなってしまう。

 そんな人だかりの中心にいたリュカスだが、ふとした瞬間にロナリアの方へと視線が向いた。
 すると、バチリとロナリアと目が合う。
 その瞬間、リュカスが大きく目を見開いた。

「ロナ……?」

 声は聞こえなかったが、リュカスの口の動きが明らかに自分の名前を口にした事を確認したロナリアは、慌ててその場を去ろうと踵を返す。
 しかし、慣れない靴で足を痛めていた為、一瞬出遅れた上に機敏な動きが出来ず、大股で近づいてきたリュカスにあっという間に腕を掴まれてしまった。

「ロナ! どうしたの!? なんでストレム伯爵家主催の夜会に参加しているの!?」
「え、ええと……」
「そもそも今日は誰が君のエスコートをしているの? 義父上……は、一緒ではないようだけれど……」
「……………」

 リュカスに腕を掴まれたまま、ロナリアが俯きながら黙り込むと、リュカスの表情が心配そうなものから驚愕の表情へと変化する。

「まさか……一人でこの夜会に参加したの!?」

 明らかに説教モードに突入する勢いのリュカスの様子にロナリアが、俯いたままビクリと両肩を震わせる。そんな反応をされたリュカスは、盛大に呆れながらため息をつく。

「ロナ……。僕、言ったよね? この先社交場には、絶対に一人では参加しないでって……。参加したい時は、必ず僕に相談してって言ったよね!?」
「そ、それは……」
「そもそも何でこの夜会に参加出来ているの? 西側寄りの領地を持つアーバント子爵家は、東寄りの領地を持つストレム伯爵家とは特に交流はなかったはずだけれど? どうやってこの夜会の招待を受けたの!?」

 後半はやや語彙が強めになったリュカスに詰め寄られ、ロナリアは口ごもりながら明後日の方向に視線を向ける。だが、そこにはまるで妖精のような小柄で美しい銀髪の令嬢がおり、ロナリアはバッチリと目が合ってしまった。
 すると、その銀色妖精のような令嬢がロナリナに可憐な笑みをニッコリと送ってきた。

 まるで、ガラス細工のような美しく透き通った銀髪を持つ淡い青緑色の瞳をしたその令嬢は、触れたらすぐに壊れてしまいそうな程の繊細な美を放っており、その姿を改めて認識したロナリアは自分との圧倒的な差に打ちのめされる。
 同時にそんな人物が、つい先程までリュカスの隣で楽しそうに微笑んでいた事も思い出し、胸の奥に何かが突き刺さるような感覚がロナリアを襲い始めた。

 悔しさというよりも絶対的な敗北感……。
 そんな感情がロナリアに襲いかかり、不安からか涙腺を強く刺激してくる。
 そんな今にも泣き出しそうなロナリアの様子に気が付いたリュカスは、先程強めな言葉を放ってしまった事で怯えさせてしまったと勘違いをし、慌て弁明をし始める。

「ロ、ロナ、違うよ? 僕はさっき怒鳴ったわけではなくてね? ロナが一人で勝手に夜会に参加するような危ない事をしたから、注意しただけで……」
「うぅー……」
「な、何で泣くの!?」

 リュカスの言葉よりも銀髪の令嬢の存在にショックを受けてしまったロナリアは、俯いたままポロポロと涙を流し始めてしまった。
 するとリュカスだけでなく、その状況を目にした銀髪の令嬢も慌て出し、二人のもとへ駆け寄ってくる。

「まぁ! リュカ! 女性を泣かすなんて……。いくら顔が端整過ぎるとはいえ、紳士として最低よ!?」
「顔は関係ないだろう! と、とにかく……ここでは人目を引いてしまうから、二階のソファー席の方に行こう? ね? ロナ」
「う、うん……」

 ポロポロと涙を流し始めてしまったロナリアの肩をリュカスが優しく抱き寄せ、先程までロナリアがいた二階の休憩スペースまで誘導し始める。
 しかしロナリアは、先程の令嬢とリュカスのやり取りで更に不安を募らせていた。

 先程、銀髪の令嬢はリュカスの事を『リュカ』と愛称呼びをしたからだ。
 今までロナリア以外で同年代の令嬢が、リュカスの事を愛称呼びした事など聞いた事がない。
 しかもリュカスは、この令嬢からそのように呼ばれる事に慣れている様子だ。

 更に令嬢に対するリュカスの態度にも引っかかった。
 学生時代から女性に群がられる事が多かったリュカスだが、毅然とした態度で対応する事はあっても、相手にぞんざいな態度をした事は一度もない。
 たとえどんなにしつこく言い寄ってきた相手に対しても、常に最低限の紳士的な対応をする事は崩さなかった。

 しかし先程の令嬢に対する態度は、明らかに親友のライアンなどと同じような慣れ親しんだ相手にする接し方だ。しかも今現在、リュカスに肩を抱かれているロナリアだが、一緒になって銀髪の令嬢も心配そうにロナリアに手を添えてくれている状態なので、結果的に彼女もリュカスと密着している状態でもある。だが、リュカスはその状況をすんなりと受け入れているようで、全く頓着している様子がない。

 その状況は『自分よりもこの銀髪の令嬢の方が、リュカスと親密な関係なのでは……』とロナリアに彷彿させる。そんな考えに至ってしまったロナリアの瞳からは、更にポロポロと涙が零れ始めた。
 そんなロナリアの状態にますますリュカスが慌て出し、更に強くロナリアの肩を自分の方へと抱き寄せる。

 すると、固まって移動しているロナリア達の前に一人の男性が突然、立ちはだかった。
 その状況にリュカスは歩みを止め、ロナリアは涙を零しながら顔をあげる。

 すると、そこには眩い程のサラサラのハニーブロンドにリュカスと同じ澄みきった空のような水色の瞳をした美青年がいた。
 中性的な顔立ちをしたその美青年は、一見女性と見間違えてしまう程の美しい顔立ちをしており、エクトル以上に『白馬に乗った王子様』という表現がピッタリの美しい青年である。

 しかし、ロナリアはこの美青年に僅かだが見覚えがあった。
 同じくその美青年の方もロナリアに覚えがあるようで、まるでその事を確認するかのようにジッと見つめてくる。
 その状況に少しだけ涙が引っ込んだロナリアが、不思議そうに首を傾げた。
 すると、美青年がゆっくりと口を開く。

「もしかして、その子……あの小さかったロナちゃんかっ!?」
「えっ……?」

 まるで『正統派白馬の王子様』の見本のような容姿の凄まじい美青年が発したとは思えない程、ギャップを感じさせる砕けた口調にロナリアが唖然とする。
 だが、この感覚をロナリアは幼い頃、同じように感じた事がある事を思い出す。

「うわぁ~! 懐かしいなぁ~! でも今ではすっかり綺麗になって立派な淑女じゃないか! それでも小柄なのは同じか……。うん! だが、それはそれで可愛い! ところでロナちゃん、俺の事覚えてる?」

 繊細そうな見た目に反して砕けすぎた口調のその美青年は、何故か大興奮気味でロナリアに話しかけてきた挙句、その頭を撫でようと手を伸ばしてきた。
 すると、その手をリュカスが容赦なく叩き落とし、ロナリアを庇うように自分の胸元に引き寄せ、深く抱きしめる。

「いくらレックス兄様でも気安くロナに触れないでください! あともう子供の頃とは違うのだから、公の場で彼女を呼ぶ時は『ロナリア嬢』と呼ぶようお願いします!」

 リュカスが発した『レックス』という名で、その美青年が誰なのかロナリアが思い出す。
 今目の前にいる『正統派白馬の王子様』のような見た目の美青年の正体……。

 それは魔法学園の魔法騎士科の中等部を卒業後、進級もせずに家を飛び出し、勝手に国内最強とも言われているリングブルト騎士団に入団してしまったエルトメニア家の問題児……。
 次男のレックス・エルトメニアだった。
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