1 / 82
出会い
しおりを挟む「本当にこんな気持ちになるなんて。君の心も体も全てを食べてしまいたい。……愛してるよ、セシル」
そう言って目の前の騎士、ランス様は今まさに私を(いろんな意味で)食べようとしている。
まさかこんなことになるなんて、あの日の私には絶対に予想できなかった。だって、私は騎士様にではなくて白龍への生贄としてここにやってきたはずだったのだから。
♢
白龍使いの騎士。それはこの国に古くから仕える最強の騎士。その力は膨大で、どんな魔物も倒し、国同士の争いでさえ一掃してしまうという。
そんな白龍使いの騎士様にほんのり憧れを抱いた時期もありました。ありましたとも。小さい頃、言い伝えとして白龍使いの騎士様の上辺だけの話を聞いてかっこいい!なんて思ったりもしたなぁ。
だけど、今は違う。むしろ絶対に会いたくない。なぜなら、白龍使いの騎士様には生贄が必要だからだ。虹の力という、聖なる力を持つ聖女を白龍に生贄として差し出すことで白龍使いの騎士は一人前の白龍使いの騎士と認められるのだ。
そして、私がその虹の力を持つ聖女なのです。やだどうしよう、怖い。
どうして私が虹の力なんて持っちゃってるのか自分でも全く意味がわからない。でも、小さい頃から妖精や天使が見えたりとにかく不思議ちゃんなものだから魔力を測られたらあまりにも異常な数値、なおかつ10歳の時にうっかり奇跡を起こしてしまい、虹の力を持つ聖女に認定されてしまった。
そしてあれよあれよという間に教会に預けられ、今日も私は目立たないようにひっそりと暮らしているのです。
まだ白龍に選ばれていない虹の力を持つ聖女は国内で私を含めて現在3人。今までに何人もの聖女が白龍使いの騎士様に生贄として望まれ教会からいなくなっていったけれど、いなくなるごとになぜか新しい聖女が国のどこかで誕生するのだ。
「セシル!確か明日はお誕生日だったわよね。お祝いしなくちゃ!」
虹の力を持つ聖女ではない、教会に勤める修道女の中でもひときわ仲良しなリリーが嬉しそうに言ってきた。そっか、誕生日か、すっかり忘れてた。
「二十歳か、なんとかここまで生き延びてこれたわ。来年もひっそりと目立たないようにしていこう」
ボソリ、と呟くとリリーが悲しげに寄り添ってきた。
「セシルも虹の力を持つ聖女ではなく普通の修道女だったらよかったのにね。そしたら何も心配しないでここでずっと一緒にいれるのに。あっ、でも生贄になるって決まってるわけじゃないし!これからもきっとずっと一緒にいられるわよ、ね」
ぎゅっと腕を組んで笑顔で言ってくれるリリー。その笑顔、全力で守りたい。
「ありがとう、リリー。とりあえず明日の誕生日楽しみにしてるね」
そう言うとリリーはさらに笑顔になって頷いた。
それなのに。どうして、どうしてこうなってしまったの。
「セシル、お前にお客様だ。白龍使いの騎士、ランス様がいらしている」
誕生日当日の朝、教皇様に突然呼び出されたと思えばこれだ。
教皇様の横には、美しいダークブルーの髪色にアメジスト色の瞳をした美しい青年がいる。わぁ、スラリとして背も高めだしすごいイケメン……じゃな・く・て!
「わかっているとは思うが今回お前が白龍様に選ばれた。急だが本日中に支度をしてランス様と一緒に行ってくれ」
え、まさか本当に?私?私なの?なんで???
「……な、なぜ私なのでしょうか。虹の力を持つ聖女は国内に3人います、なぜ私が選ばれたのですか」
私が選ばれなければ他の誰かが選ばれる。それはそれで辛い。今までだってとても辛い気持ちで選ばれてしまった虹の力を持つ聖女たちを何度も見送ってきた。
でも、でも!それとこれとは話が違うわ。
「お前の力がこの方の白龍に適していた。ただそれだけのことだ。詳しくは道中でランス様に聞きなさい」
教皇と話している最中、ランスという騎士様はずっと私を見つめている。イケメンに見つめられるのは嬉しいしちょっと恥ずかしいけれど、今は正直それどころではない。
どうしよう、この危機をなんとか脱するためにはどうしたらいい?とにかく、なんとかして逃げなくちゃ。
「……わかりました。支度をして参りますのでしばらくお待ちください」
教皇と騎士様に深々とお辞儀をして、私はその部屋を出てから一目散に自分の部屋へ戻る。
いつか来るこんな日のために、実は日々少しずつ少しずつお金を貯めていたのだ。さらに編み物や織物、職としてやっていけそうなものはとにかく何でも一通り身につけてきた。
ここから逃げ出して、どこか遠くに行って一人でも生きていこう。きっと簡単なことではないだろうけれど、でも生贄になって死ぬよりはまだマシだわ!
最低限の荷物をまとめて、一旦廊下を見る。何人か人が歩いているから不審な動きをするとバレてしまうかな。
ドアを閉めて窓の外を見る。ここは教会から続く建物で2階、下には観賞用の植物がいい感じに植えられている。飛び降りてもうまくいけば無事に降りたてるかも。
「……よし。行くわよ」
ふうーっと深呼吸する。こんな時に浮遊魔法でも使えたらよかったのに、なんで私は浮遊魔法が使えないのかしら。
窓枠に足をかけていざ!と思った瞬間、建物の影から騎士様が突然現れた。え、なんで?騎士様がこちらを見上げた、嘘でしょ。見つかった!
慌てて部屋に戻ろうと思ったのに、まんまと足を滑らせてしまった。
「いやああああ!!!!」
あぁ、だめだ、落ちちゃった……そう思って目を瞑ったけれど、あれ?痛くない。確かに落ちた感覚はあるのに。でも植物の感触も地面の感触もない。なんでだろう。
「大丈夫?」
声がして恐る恐る目を開けると、そこには騎士様がいた。どうしよう、騎士様にしっかり受け止められている。っていうか、顔が近い近い近い!!!
イケメンの破壊力!やばい!
「わあああすみません!大丈夫ですか?重かったですよねすみません」
慌てて退けると、騎士様はフッと微笑んだ。やだ、笑った顔もめちゃくちゃイケメン、結構タイプかも……じゃな・く・て!
「俺は大丈夫。全然重くなかった。むしろ軽かったよ、ちゃんと食べてるの?」
よいしょ、と私の腕を掴んで起こしてくれる。優しい……っていうか、待って、そもそもなんでちょうどいいタイミングでここに来たの?
「あの、なぜこちらに?教皇様とご一緒に部屋で待っていらしたのでは……」
「あぁ、ミゼルが教えてくれたんだ。ミゼルっていうのは白龍の名前ね」
ポンポンと手で足元の砂を払いながら騎士様は言った。えっと、白龍が教えてくれた?どゆこと?
「君って窓から飛び降りるのが好きなの?面白いね」
クスクス、と楽しげに笑う騎士様。わぁ、笑った顔もやっぱり素敵だけど、違う、そうじゃない
「荷物はそれだけ?準備ができたなら行こうか」
片手を差し出しながらそう言う騎士様は、朝日に照らされてとっても綺麗だ。それはもううっとりするくらい。
思わず片手を出すと、騎士様はその手を掴んで歩き出す。暖かい手。男の人と手を繋ぐなんて初めてだから緊張してしまう。
私はきっと、この騎士様から逃げ出すことはできないんだろうなと、自然にそう思ってしまった。
35
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~
白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。
国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。
幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。
いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。
これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる