聖女として白龍の生贄になると思ったらなぜか騎士様と契約結婚することになって愛されています

鳥花風星

文字の大きさ
2 / 82

旅立ち

しおりを挟む

「えっ、逃げ出そうとしてたの?」

 騎士様に手を引かれながら私は今、教会の表側に向かっている。

 荷物は最低限のものしか持ってなかったし、このままでは行けないからと正直に話したら、騎士様は怒るどころか楽しそうに笑っていた。

 第一印象は真面目で堅物そうなイケメンとしか思わなかったけれど、実は意外にとっつきやすい人なのかもしれない。

 教会から続く宿舎の玄関から入り直して、騎士様と一緒に自室に向かう。

「流石にもう逃げませんから玄関で待っていただいて大丈夫です」

 そう言ったのだけれど、騎士様は君の暮らしていた部屋が見てみたいと言って一緒についてきた。

 いやいや、自室を初めて会った男性に観られるのって普通に恥ずかしいんだけどなぁ。

「ドアは開けておきますので、ここで待っててください」

 自室についたので騎士様にはドアの前で待つように言って、私は部屋の中で荷物をまとめ直す。

「へぇ、綺麗にしてるんだね。家具もシンプルだけど可愛らしいな」

 騎士様は部屋を眺めながら感心したように言う。

 教会なので一般家庭よりはもちろん厳しいが、虹の力を持つ聖女はいつ生贄に選ばれるか分からないからと、普段なるべく好きなものを購入できるようになっている。

 だから家具や休日用の衣服は好きなものを選ぶことができた。

「家には君好みの家具はないから、君の部屋には同じような家具を選び直した方がいいかな」

 ん?私の部屋?部屋があるの?現地に着いたらすぐ生贄になるんじゃないの?あ、それとも生贄になるまでは好きなように生活していいということなのかな。

「支度、できました」

 よいしょ、と荷物の入った鞄を持つと、騎士様がすぐに手を伸ばして鞄を持ってくれた。

 優しい。本当に優しい。生贄になるからとあえて慈悲の心で優しくしてくれてるのだろうか。




「セシル!!!」

 騎士様と一緒に玄関に行くと、そこには涙をたくさん浮かべたリリーがいる。

 私が生贄に選ばれたことは、すぐに教会中に知れ渡ったみたいで駆けつけてくれたようだ。

「セシル!本当なの?本当に行ってしまうの?やだ!そんなの嫌よ!」

 わあぁぁと泣いてしまうリリー。ごめんね、リリー。私だって行きたくないけれど、こうなってしまったからにはもう後戻りはできない。

「リリー、ねぇリリー。こっちを向いて、お願い笑って。私、リリーの笑顔が好きなの」

 ね?と微笑むと、リリーも頑張って微笑み返してくれる。あぁ、リリー、本当にごめんね。

「セシル……これ、お誕生日プレゼント……」

 リリーが綺麗な包みに包まれた品を渡してくれる。そうだ、今日は私の誕生日。お祝いしてくれるって言ってたんだった。

「ありがとう。大事にするね」

 プレゼントを受け取って、そのままリリーを抱きしめた。もう二度とリリーに会えなくなるなんて信じたくない。

「セシル、リリー。別れ難いのはわかるが、そろそろ時間だ」

 教皇様が静かに言う。本当に別れ難いけれど、ずっとこうしてるわけにはいかない。

 そっとリリーから離れて、騎士様の隣に立つ。すると、騎士様がリリーを見て言った。

「彼女のことは私が責任を持って連れて行きます」

 騎士様の言葉に、リリーは両手で顔を覆いながら泣きじゃくった。




「君はここで友達からとても愛されていたんだね。連れて行くのは忍びないな」

 騎士様がポツリとつぶやいた。そう思ってくれることはありがたいけれど、でも結局連れていかれることには変わりない。

 いまいち腑に落ちないと思いながら騎士様を見ていたら、騎士様が片手を上げた。

「さて、出発だ」

 騎士様の手から青白い光が放たれる。すると、空の向こうから飛翔する大きな姿が現れた。

「白龍様だ!!」

 見送りに外へ出てくれていた教会の人々が空を見上げて叫ぶ。白龍様はどんどん降りてきて、教会の目の前にある大きな広場に降り立った。

「ミゼル、お待たせ」

 騎士様がそう言って白龍様の顔に手を近づけると、白龍のミゼル様は騎士様に顔を擦り寄せた。すごい、本当に懐いているんだ。

 騎士様達の様子を見ていたら、ミゼル様と目が合った。

「あ、初めまして。セシルと申します」

 思わず自己紹介してお辞儀をすると、ミゼル様はゆっくりと顔を下げてお辞儀をしてくれた。

「へぇ、聖女様は本当に白龍と会話ができるんだ」

 騎士様が楽しげに言う。実際に会話ができてるかどうかはわからないけれど、意思の疎通はできてる気がする。

「それじゃ、行こうか」

 そう言って、騎士様はミゼル様の背中に乗って手を差し出した。あぁ、この背中に乗るんだ私。

 ここに乗ったらもう後戻りはできない。というか、すでに後戻りはできないんだよね。

「行ってきます」

 今までの聖女たちがしてきたように、私も教会の皆へ挨拶をして騎士様の手を取った。

 騎士様は私を自分の前方に座らせたけれど、そのせいかすごい密着してる。こんな時でも思わずドキドキしちゃうのっておかしいのかな。

「行くよ。僕の腕にしっかり捕まってね」

 騎士様の腕が私のお腹を抱えるようにまわってきたので、その腕にしがみついた。

 フワッと体が浮く。

「わああぁっ」

思わず声をあげると騎士様はクスクスと笑っている。笑い声がすごい近くてくすぐったいしなんか恥ずかしい……!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました

鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。 けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。 そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。 シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。 困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。 夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。 そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。 ※他投稿サイトにも掲載中

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

処理中です...