「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ

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5話

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 アレクシス公爵は、クラウディアの「絶対鑑定」の力を知って以来、彼女への態度を一変させた。冷徹さは保ちつつも、それはもはや警戒ではなく、彼女の才能を誰にも渡すまいとする、静かなる執着へと変わっていた。

 彼の執務室には、毎日クラウディアが作った節約料理が運ばれた。公爵はそれを黙って平らげ、以前のように手つかずで残すことはなくなった。食事は別々という契約も、形骸化しつつあった。

 ある日、クラウディアは領内の地図と資料を広げ、公爵に報告していた。

「公爵様。領内で魔物の群生地として避けられている『絶望の谷』ですが、鑑定した結果、地面に含まれる鉱石に、非常に高い魔力反応があります」

 公爵は眉をひそめた。

「あの鉱石か。あれは『毒鉱石』として知られている。触れるだけで病になる。使い道はない」

「いいえ」クラウディアは静かに訂正した。「王都の研究ではそうですが、わたくしの鑑定によれば、この鉱石は『イソルの薬草』と合わせて一定の高温で加工することで、毒性を完全に除去できます。そして、その加工後の鉱石は、王都のどの素材よりも強力な魔導具の核になります」

 公爵は、思わず身を乗り出した。魔導具は辺境の防衛に不可欠だが、王都からの供給は不安定だった。

「その真偽は?」

「わたくしの『最適化』スキルがそう導きました。この鉱石は、公爵様の冷気の魔力と相性が良い。もし成功すれば、辺境は王都に頼らない、自前の魔導具供給源を持つことになります」

 公爵は、クラウディアの顔をじっと見つめた後、深く息を吐いた。

「クラウディア。君は、私にあまりにも多くの希望を与える」

 公爵は即座に指示を出した。クラウディアの指示通りに、鉱石採掘部隊と、魔導具開発に長けた職人を招集。クラウディアの指揮のもと、極秘裏に「毒鉱石の加工実験」が始まった。

 実験は成功した。

 クラウディアの指示通りの配合と温度で加工された鉱石は、毒性を完全に失い、深みのある青い輝きを放つ、美しい青魔鉱となった。

 この鉱石で作られた魔導具は、従来のものの三倍の耐久性と魔力効率を持っていた。辺境の防衛力は劇的に向上し、公爵領の財政は潤い始めた。

 その夜、公爵はいつものようにクラウディアの部屋を訪れた。彼は、上着だけでなく、常に着用していた手袋も外していた。彼の手に残る、深い火傷のような傷跡が見える。

「クラウディア。君は、私に最高の贈り物をしてくれた」公爵は、その傷ついた手で、クラウディアの頬を優しく包んだ。

「公爵様のお役に立てたのなら、光栄です」

「お飾りどころか、君はこの領地の光だ」

 公爵の声は、以前の冷徹さとは違い、深い響きを持っていた。

「君の才能は、王都の者どもには永遠に理解できぬ、真の至宝だ」

 公爵は、クラウディアを抱きしめた。彼の体はまだ冷たかったが、その抱擁には、以前の事務的なものとは違う、静かで重い情熱が込められていた。

「この成功の報は、すぐに王都に届くだろう。王太子は、君が『無能』ではなかったことを知り、必ず後悔する」

 公爵の金色の瞳に、強い光が宿る。

「だが、安心していい。君の才能は、この先もずっと、俺だけのものだ。誰も、君から一欠片たりとも奪わせない。君が私に温もりを与えてくれたように、今度は俺が、君の全てを守り抜く」

 王都の冷遇の中で凍えていたクラウディアの心は、公爵の静かなる独占欲という炎によって、ゆっくりと、しかし確実に溶かされ始めていた。彼女にとって、この年の差の公爵の愛情こそが、最も重く、そして最も確かな温もりだったのだ。
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