「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ

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6話

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 公爵領の邸宅は、クラウディアの青魔鉱による魔導具の成功により、活気づき始めていた。領民や職人たちの活気は、凍てついていた公爵邸に、少しずつ温かい空気をもたらしていた。

 しかし、アレクシス公爵自身の孤独は、未だ深かった。

 ある夜、公爵はいつものようにクラウディアの部屋を訪れた。その夜は、公爵は特に静かで、その金色の瞳には深い影が落ちていた。彼は、クラウディアの隣の椅子に腰かけ、無言で彼女の節約料理のスープを口に運んでいた。

 クラウディアは、彼にそっと尋ねた。

「公爵様。何か、お悩みですか?」

 公爵は、一口スープを飲み、静かに息を吐いた。彼の顔には、冷徹な仮面の下に隠された、深い疲労と悲しみが滲んでいた。

「クラウディア。君の温もりは、俺に過去を思い出させる」

 公爵は、ゆっくりと話し始めた。彼の過去は、王都の貴族が流布する噂よりも、ずっと冷酷で悲惨なものだった。

「俺には、かつて妻と息子がいた。王都で結ばれた政略結婚だったが、彼女は優しかった。だが、王都の愚かな陰謀により、辺境の守りが手薄になり、妻と息子は魔物の群れに襲われて命を落とした」

 公爵の拳が、微かに震える。

「その時、俺は王都にいた。辺境を離れられないよう、王太子派の貴族に呼び出されていたのだ。俺は、愛する者たちの死から、目を逸らすことしかできなかった。この傷跡は、その時の魔力の暴走の痕だ。それ以来、俺は愛を捨てた。情は、全てを裏切る」

 クラウディアは、初めて公爵の重すぎる孤独の理由を知った。彼が「氷壁」となったのは、愛する者を守れなかったという後悔と、王都への深い憎悪からだった。

 公爵は、クラウディアの顔を見つめた。

「君を娶ったのは、跡継ぎのため、そして王都への復讐の道具としてだった。だが、君は違った。君は、王都の悪意の中で、誰よりも静かに耐え、そして私に温もりを与えてくれた」

 公爵は、立ち上がり、軍服のボタンを一つ外し、胸元の傷跡を露わにした。

「クラウディア。君の温もりでしか、俺の傷は癒やされない。君の存在は、俺にとって薬だ。君の鑑定眼は、俺の冷え切った領地を救った。だから頼む」

 公爵は、その傷ついた胸に、クラウディアの小さな手を当てた。

「君だけは、裏切らないでくれ。王都の愚か者どものため、この冷たい場所から、二度と心を離さないでくれ。君の温もりを、俺から奪わないでくれ」

 それは、冷酷な公爵が初めて見せた、一人の男としての、深く重い、大人の甘えだった。

 クラウディアは、公爵の胸の冷たさと、傷跡の痛みを肌で感じた。彼女自身も、王都で愛と温もりを裏切られた経験がある。

「公爵様」

 クラウディアは、公爵の傷跡を優しく撫でた。

「わたくしは、もう王都に何の未練もございません。王都の温もりが偽りであることも知っています。わたくしが欲しいのは、公爵様の冷徹な信頼と、この裏切りのない静寂だけです」

 クラウディアは、公爵の体をそっと抱きしめた。

「わたくしは、あなたを裏切りません。わたくしの温もりは、公爵様のためだけにございます」

 公爵は、クラウディアの抱擁の中で、長年止まっていた涙腺が緩むのを感じた。彼は、彼女の小さな体を、壊れ物のように、しかし強い独占欲を込めて抱きしめ返した。

(この温もりは、二度と手放さない。この娘の全ては、俺が支配する)

 冷酷な公爵の心に、静かで重い、極上の溺愛が刻み込まれた瞬間だった。
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