「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ

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14話

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 王太子アルバートの懇願と、リリアンの傲慢な要求は、クラウディアと公爵によって完全に拒絶された。広間には、王都の使者団の屈辱と、辺境側の鉄壁の意志だけが満ちていた。

「救済不可能…だと?」王太子は、その言葉に絶望を滲ませた。

 アレクシス公爵は、静かに、しかし断固として、最後の通告を行った。

「アルバート殿下。王都が今日に至ったのは、貴殿が私の妻の真の価値を見抜けず、己の愚かさによって彼女を追放した結果です」

 公爵はクラウディアを強く抱き寄せ、その頬に唇を寄せた。

「私の妻は、この辺境の、そして私の、至宝です。その至宝を侮辱した者に対し、私が寛容であると、本気で思っておられたか?」

 公爵は、騎士団長オスカーに合図を送った。オスカーは一通の書類を王太子の前に叩きつけた。

「殿下。本公爵領は、本日をもって、王都への青魔鉱および、全ての加工品の供給を完全に停止いたします。王都の防衛および、魔導具の維持に必要な供給も、一切行いません」

 王太子の顔から血の気が引いた。青魔鉱は、王都の最先端の魔導具、さらには魔物対策の防衛壁の維持に不可欠だった。

「な、何を馬鹿なことを!それでは、王都は魔物に襲われる危険に晒されるぞ!公爵、お前は国賊になるつもりか!」

 公爵は冷徹に言い放った。

「国賊?我が領地は、クラウディアの賢明な経営により、王都の援助なしに独立した防衛力を築いています。辺境の魔物は、王都の魔物より獰猛ですが、我が領民は安全です」

 公爵は、王太子を睨みつけた。

「王都の防衛力低下は、貴殿が国庫を空にした結果です。我が妻を『無能』と罵り、『厄介払い』として追放した報いです。そして、その妻の価値に気づき、今さら媚びへつらおうとした、貴殿の浅ましさへの報いです」

「クラウディア、助けてくれ!お前の力があれば、まだ間に合う!私が王になったら、必ずお前を……!」

 王太子は、プライドを捨ててクラウディアに縋り付こうとした。

 しかし、公爵がクラウディアを背後に庇い、鉄壁のように立ちはだかった。

「触れるな。私の妻に、二度と汚い手で触れるな」

 クラウディアは、公爵の背中から顔を出し、王太子を見下ろした。

「殿下。わたくしの愛は、もう、あなた様の子供じみた情熱には戻りません。わたくしが今得たのは、公爵様の深く重い、揺るぎない包容力です。あなた方には、何も渡しません」

 リリアンは、目の前の光景を信じられないといった様子で、嫉妬と怒りに震えていた。彼女は、クラウディアが王都に戻るのを断ったことで、完全に理性を失った。

「地味な女のくせに!あなたなんかに、聖女であるわたくし以上の富や幸せがあっていいはずがない!きっと、あの青魔鉱の秘密は、簡単なものよ!わたくしの聖なる光があれば、あなたなんかより、もっと効率よく採掘できるはずだわ!」

 リリアンは、その傲慢な確信を胸に、王太子の制止を振り切って、クラウディアと公爵に背を向け、青魔鉱の採掘現場へと走り出した。

 公爵は、その愚かな背中を見て、冷笑を浮かべた。

「…愚か者が。自ら毒に触れに行くか」

 自滅が始まった。王太子は、経済的な破綻と、元婚約者の圧倒的な勝利に打ちひしがれ、リリアンは、その傲慢さゆえに自ら破滅の道を選んだのだ。
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