辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ

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2話

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「……その、匂い。それは、なんだ」

 冷徹な騎士の視線と、彼が放つ強烈な威圧感に、ミサキは恐怖で体が動かなかった。男の黄金の瞳は、ミサキではなく、彼女が手に持つ肉野菜炒めに釘付けになっている。

(え、怖い!これが辺境の住人!?この人、絶対強い……そして、すごい血の匂いがする!)

 ミサキは意を決して、男に話しかけた。

「あの……ここは私有地です。許可なく入らないでください。これは、ただの料理です」

「料理だと?」

 男は一歩、ログハウスに踏み入れた。その動作だけで、床が微かに軋む。

「私が長年嗅いだことのない純粋な香りだ。……いや、忘れかけていた香りだ」

 男はミサキが持つ皿に近づいた。あまりに無遠慮で、ミサキは思わず皿を後ろに隠した。

「触らないでください!これをあなたに差し上げる義理はありません!」

 男は構わず、強引に皿の縁を掴んだ。ミサキは抵抗したが、彼の圧倒的な膂力に敵うはずもなく、皿は男の手に渡った。

 男はミサキを睨みつけ、威圧的な低い声で名乗った。

「私は、辺境を守る『鉄血』騎士団長、ガイウス・バルドだ。この領域の全ては、私の監視下にある」

(ガイウス……!この人が噂の冷酷騎士団長!?私が目立たずスローライフを送るには、最も関わってはいけない相手じゃない!)

 ミサキは絶望した。

 ガイウスは、ミサキが作った肉野菜炒めを、まるで鑑定するかのように慎重に見つめた。そして、フォークで一口、口に運んだ。

 その瞬間、彼の冷徹な無表情が、一瞬で驚愕に変わった。彼の瞳は大きく見開かれ、全身が微かに震える。

「あ……」

 彼はすぐさま二口目を口に運んだ。そして、三口目。その冷酷な男が、まるで飢えた子供のように、ミサキの料理を貪り始めた。

「この味は……不協和音がない。全ての味が、完璧に調和している」

 ガイウスは、皿をあっという間に空にし、深く息を吐いた。その顔は、冷酷さよりも、深い感動と渇望に満ちていた。

「どうしたの?」

 ミサキは恐る恐る尋ねた。

 ガイウスは立ち上がると、ミサキの肩を強く掴んだ。その瞳には、狂気的なまでの熱意が宿っていた。

「私は、過去の戦での酷い食事のせいで、長年味覚を失いかけていた。食事は、ただの『燃料』だった。だが、君の料理……君の料理が、私に味覚を完全に復活させた!」

 ミサキは、自分のチート料理の威力が、思っていた以上に強大だったことを悟り、背筋が凍った。

「ミサキ・アズマ。君の能力は、私の命と等しい」

 ガイウスは、ほとんど命令するように告げた。

「今日から、君は私の専属料理人だ。君の料理は、私以外の誰にも提供することを許さない」

 彼の言葉は、ミサキが望んだ静かなスローライフが、たった一つの料理によって、最強の男に独占されるという、最悪の形で崩壊した瞬間を意味していた。
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