「無能な妻」と蔑まれた令嬢は、離婚後に隣国の王子に溺愛されました。

腐ったバナナ

文字の大きさ
7 / 9

7話

しおりを挟む
 レオンは、婚約が成立した翌日、すぐさま行動に移した。彼は、王都からの密偵たちに対し、自身の隣国第三王子としての身分を公然と示唆。アリアンナに近づく者を、一切容赦なく排除するよう、辺境の治安部隊に命じた。

「アリア様。もう貴女を平民として扱わせません。貴女は、隣国の未来の王妃となるべき女性です」

 レオンは、診療所の外に自国の護衛騎士を数名配置し、アリアンナの周囲を鉄壁で固めた。その過剰なまでの守護は、公然たる牽制であり、アリアンナの元夫であるエドガー侯爵の耳に届くには十分だった。

 そして数日後、エドガー侯爵は、辺境には場違いなほど華美な馬車に揺られ、アリアンナの診療所の前に現れた。

 彼は、レオンが仕向けた護衛騎士の冷たい視線を無視し、診療所の扉を乱暴に開けた。

「アリアンナ!やはり貴様はここにいたか!」

 エドガーの顔は、激しい後悔と強欲な欲望に歪んでいた。彼は、アリアンナの真の才能を知り、彼女の価値を痛感していた。

「何を勘違いしている。貴様は私が手放した侯爵夫人だ。私には、貴様を連れ戻す権利がある!」

 エドガーは、アリアンナの手を掴もうと、ずかずかと歩み寄った。

「侯爵様、おやめください!」アリアンナは、かつての夫の冷酷さと傲慢さに、恐怖で体が硬直した。

 その瞬間、レオンがアリアンナとエドガーの間に立ちはだかった。

「そこまでだ、ノイマン侯爵」

 レオンの青い瞳は、氷のように冷たく、怒りに満ちていた。

 エドガーは、レオンの高貴な威圧感と、隣国騎士団の鎧を着た護衛たちを見て、初めてレオンがただの助手ではないことを悟った。

「貴様、何者だ!この女は、我が家から逃げ出した無能な妻だぞ!」

 レオンは、嘲笑を込めて言った。

「無能?いいや、侯爵。貴様こそ、世界最高の才能を目の前にして、それを無価値と断じた愚か者だ。そして、私は、貴様が手放したその至宝を、私の王国の未来の王妃として迎え入れる者だ」

 レオンは、エドガーの目の前で、アリアンナの細い腰を抱き寄せて見せつけた。

「私は、隣国アステア王国の第三王子、レオン・フォン・アステア。そして、アリアンナは、私の正式な婚約者だ。貴様には、彼女に指一本触れる権利も、口出しする資格もない」

 エドガー侯爵は、「無能な妻」と蔑んだはずの女が、隣国の王子に熱烈に溺愛され、王妃の座を手に入れているという残酷な現実に直面し、顔面が蒼白になった。

「ば、馬鹿な……!あの女が、王子妃だと……!?」

 レオンは、エドガーを冷徹な瞳で見下ろした。

「貴様は、愛のない貴族社会の価値観に囚われ、真の才能と愛を見抜けなかった。その代償は、貴様の侯爵家の地位をもって償ってもらう」

「アリアンナ。貴様が私から逃げ出したのは、私の目が節穴だったからだ!頼む、戻ってきてくれ!今なら、貴様の才能を最高の地位で遇する!」

 エドガーは、後悔と絶望、そして強欲にまみれた顔でアリアンナに懇願したが、アリアンナは冷たい視線を返した。

「侯爵様。私はもう、貴方の道具ではありません。私は、私の才能を、私の心を肯定し、一途に愛してくれるレオン様の妻になります。貴方のような、愛を知らない愚かな貴族の元へ戻る気は、二度とありません」

 アリアンナの毅然とした拒絶は、エドガーにとって最後の決定打となった。レオンは、その場に跪いたエドガーを見下ろし、王子の威厳をもって告げた。

「貴様の罪は、我が愛する婚約者を侮辱したことだ。これより、貴様の侯爵家に対し、隣国王子としての正式な制裁を加える。二度と、アリアンナの視界に入るな」

 こうして、「無能な妻」と蔑まれた女性の華麗な逆転劇は、隣国王子による圧倒的な力をもって、王都の貴族社会に知らしめられるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中

かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。 本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。 そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく―― 身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。 癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。

悪役だから仕方がないなんて言わせない!

音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト オレスト国の第一王女として生まれた。 王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国 政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。 見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

婚約破棄されましたが、隣国の大将軍に溺愛されて困ってます

有賀冬馬
恋愛
「君といると退屈だ」 幼い頃からの許嫁・エドワルドにそう言われ、婚約破棄された令嬢リーナ。 王都では“平凡で地味な娘”と陰口を叩かれてきたけれど、もう我慢しない。 わたしはこの国を離れて、隣国の親戚のもとへ―― ……だったはずが、なぜか最強でイケメンな大将軍グレイ様に気に入られて、 まさかの「お前は俺の妻になる運命だ」と超スピード展開で屋敷に招かれることに!? 毎日「可愛い」「お前がいないと寂しい」と甘やかされて、気づけば心も体も恋に落ちて―― そして訪れた国際会議での再会。 わたしの姿に愕然とするエドワルドに、わたしは言う。 「わたし、今とっても幸せなの」

処理中です...