追放された令嬢、辺境の小国で自由に生きる

腐ったバナナ

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2話

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 辺境の小国への道は、想像以上に厳しかった。宮廷を出て間もなく、舗装された道は途切れ、荒れた山道へと変わった。

 リディアの馬は石ころに躓きそうになりながら、慎重に一歩一歩を刻む。朝の霧が山間を覆い、遠くの樹々の間から差し込む光が幻想的に揺れる。

「……本当に、この道で合っているのかしら」

 リディアは小声で呟いた。声が霧に吸い込まれるようで、返事はない。しかし、それでも自分の足で進むしかないのだ。

 道の脇に小さな野うさぎが飛び出してきた。驚いた様子で一瞬立ち止まり、すぐに草むらに逃げ込む。その姿を見て、リディアは思わず微笑んだ。些細な生き物との触れ合いが、心の緊張を少しだけ和らげる。

「……小さな命でも、こうして必死に生きている」

 リディアは馬の手綱を握りながら、心の中で静かに誓った。

「私も生きてみせる」

 しばらく進むと、山道の先に一人の旅人が現れた。背負い袋を背に、杖をついてゆっくり歩いている。

「お嬢さん、こんな山道を一人で?」

 旅人が声をかける。

「はい、少し長い旅路ですが、目的地があります」

 リディアは馬を止め、礼儀正しく答える。

「ふむ……無事にたどり着けるといいな。道は険しいし、夜は冷える」

 旅人は心配そうに眉をひそめる。

「ありがとうございます。お気をつけて」

 リディアは微笑み、再び鞭を握り直す。

 旅人と別れ、再び進む道は険しさを増す。谷間から吹き上げる風が馬のたてがみを揺らし、霧が濃くなると視界はほとんど遮られた。

 リディアは目を細め、進むべき道を見定める。時折、遠くの木の間から小川のせせらぎが聞こえる。自然の音が、宮廷での重苦しい日々を思い出させる。あの場所では、誰の声も暖かくはなかった。今はただ、風と鳥と、足元の道だけが伴走してくれる。

「……怖くはない、わけじゃない」

 リディアは心の中で正直に認める。

「でも、自由なんだ。これからは、自分で決められる」

 涙はもう流れない。重かった胸の奥が、少しずつ軽くなるのを感じた。

 昼が近づく頃、道の脇に小さな野営所が見えた。焚火の跡があり、野草の上に食べ残しのパンが置かれている。近くに小動物が数匹、慎重にパンをついばんでいる。リディアは馬を止め、そっと手を差し出した。小動物たちは一瞬警戒するも、やがて草むらに戻っていく。

「……小さな生き物たちも、必死で生きている」

 リディアは微笑む。

「私も負けない」

 胸の奥に、遠くの小国での生活への期待が芽生える。自分を誰も束縛せず、否定もせず、ただ新しい日々を待っている場所があるという希望が、かすかに光った。

 夕方になると、遠くの谷間に小国の城が見えた。瓦屋根が夕日に輝き、城壁の影が長く伸びている。リディアは馬の首をゆるめ、息をついた。

「……あそこが、私の新しい場所」

 心の中でそう呟くと、胸の奥に安堵とわくわくが混ざった感情が湧き上がる。誰の評価も気にせず、自分の力で日々を築ける場所。今まで抱え続けてきた重圧が、少しずつ風に流されていくようだった。

「さあ、行こう」

 リディアは手綱を握り直し、馬を進ませる。谷間に吹く風は冷たいが、それすらも心地よく感じられる。荒れた道の先に待つ未知の世界が、彼女の胸を高鳴らせた。宮廷での記憶は胸に残るが、もう恐れるものは何もない。自分だけの人生が、ここから始まるのだ。
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