追放された令嬢、辺境の小国で自由に生きる

腐ったバナナ

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 宮廷の大理石の廊下に、リディアの足音が低く響いた。だが、その静けさの奥には、胸を抉るような緊張が潜んでいた。今日、彼女はこの場で「役立たず」の烙印を押され、追放されることになる――。

「リディア・フォン・エルデン、聞き届けなさい」

 王の声は冷たく、威厳に満ちていた。彼女の心臓は、まるで槌で打たれるように高鳴る。

 王の周囲には廷臣たちが並び、目を光らせていた。そして、隣には元婚約者のカイランが不快そうに眉をひそめ、令嬢たちは口元に薄笑いを浮かべている。

「あなたは、宮廷で役立たず。これ以上、この場所にいる意味はない」

 王の声は重く、廊下の空気を凍らせた。

「え……っ?」

 リディアの声は震えた。心臓の奥で何かが崩れる音がした。目の前の光景が、まるで遠くに霞んで見える。

「私が……役に立たない……ですって……?」

 自分の耳を疑いながらも、王の表情は一切変わらない。冷たく、否定する余地のない現実が、リディアを押し潰そうとする。

「ふふっ、やっと消えるのね」

「やっぱり、何もできないわ」

 周囲の令嬢たちの笑い声が、鋭い刃のように胸に突き刺さる。

 リディアは深く息を吸い、両手をぎゅっと握った。涙が頬を伝うが、すぐにそっと拭った。感情を表に出すことで、彼女の存在をさらに侮辱されるのは耐えられなかった。

「……わかりました」

 小さな声で答え、静かに一歩踏み出す。馬車の用意が整っている門の方へ、ゆっくりと歩を進める。その背中を見つめる廷臣たちの視線が、鋭く突き刺さる。

 門の外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。宮廷の重苦しい空気から解放される一方で、これから待ち受ける不安が胸を締め付ける。夕日に染まる街並みは、どこか遠い国の景色のように見えた。

 馬車の扉を開け、荷物を積む。馬たちの鼻を鳴らす音が、緊張をほんの少し和らげる。小さく笑みを浮かべ、リディアは心の中で決めた。

「もう、誰のためでもなく、私自身のために生きる」

 馬車がゆっくりと動き出すと、森の香りが鼻をくすぐった。道端で小さな野うさぎが跳ね、風に揺れる草がささやく。世界は広く、そして冷たくもあたたかかった。

「怖くない……大丈夫。私なら、きっとできる」

 リディアは窓の外を見つめ、心の中で小さく頷いた。今日、宮廷に別れを告げたことで、彼女は自由への第一歩を踏み出したのだ。

 夕暮れの山並みが遠くに広がる。馬車の揺れに身を任せながら、リディアは初めて、少しだけ胸の奥が軽くなるのを感じた。

「私の物語は、ここから始まる……」
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