追放された令嬢、辺境の小国で自由に生きる

腐ったバナナ

文字の大きさ
2 / 15

2話

しおりを挟む
 辺境の小国への道は、想像以上に厳しかった。宮廷を出て間もなく、舗装された道は途切れ、荒れた山道へと変わった。

 リディアの馬は石ころに躓きそうになりながら、慎重に一歩一歩を刻む。朝の霧が山間を覆い、遠くの樹々の間から差し込む光が幻想的に揺れる。

「……本当に、この道で合っているのかしら」

 リディアは小声で呟いた。声が霧に吸い込まれるようで、返事はない。しかし、それでも自分の足で進むしかないのだ。

 道の脇に小さな野うさぎが飛び出してきた。驚いた様子で一瞬立ち止まり、すぐに草むらに逃げ込む。その姿を見て、リディアは思わず微笑んだ。些細な生き物との触れ合いが、心の緊張を少しだけ和らげる。

「……小さな命でも、こうして必死に生きている」

 リディアは馬の手綱を握りながら、心の中で静かに誓った。

「私も生きてみせる」

 しばらく進むと、山道の先に一人の旅人が現れた。背負い袋を背に、杖をついてゆっくり歩いている。

「お嬢さん、こんな山道を一人で?」

 旅人が声をかける。

「はい、少し長い旅路ですが、目的地があります」

 リディアは馬を止め、礼儀正しく答える。

「ふむ……無事にたどり着けるといいな。道は険しいし、夜は冷える」

 旅人は心配そうに眉をひそめる。

「ありがとうございます。お気をつけて」

 リディアは微笑み、再び鞭を握り直す。

 旅人と別れ、再び進む道は険しさを増す。谷間から吹き上げる風が馬のたてがみを揺らし、霧が濃くなると視界はほとんど遮られた。

 リディアは目を細め、進むべき道を見定める。時折、遠くの木の間から小川のせせらぎが聞こえる。自然の音が、宮廷での重苦しい日々を思い出させる。あの場所では、誰の声も暖かくはなかった。今はただ、風と鳥と、足元の道だけが伴走してくれる。

「……怖くはない、わけじゃない」

 リディアは心の中で正直に認める。

「でも、自由なんだ。これからは、自分で決められる」

 涙はもう流れない。重かった胸の奥が、少しずつ軽くなるのを感じた。

 昼が近づく頃、道の脇に小さな野営所が見えた。焚火の跡があり、野草の上に食べ残しのパンが置かれている。近くに小動物が数匹、慎重にパンをついばんでいる。リディアは馬を止め、そっと手を差し出した。小動物たちは一瞬警戒するも、やがて草むらに戻っていく。

「……小さな生き物たちも、必死で生きている」

 リディアは微笑む。

「私も負けない」

 胸の奥に、遠くの小国での生活への期待が芽生える。自分を誰も束縛せず、否定もせず、ただ新しい日々を待っている場所があるという希望が、かすかに光った。

 夕方になると、遠くの谷間に小国の城が見えた。瓦屋根が夕日に輝き、城壁の影が長く伸びている。リディアは馬の首をゆるめ、息をついた。

「……あそこが、私の新しい場所」

 心の中でそう呟くと、胸の奥に安堵とわくわくが混ざった感情が湧き上がる。誰の評価も気にせず、自分の力で日々を築ける場所。今まで抱え続けてきた重圧が、少しずつ風に流されていくようだった。

「さあ、行こう」

 リディアは手綱を握り直し、馬を進ませる。谷間に吹く風は冷たいが、それすらも心地よく感じられる。荒れた道の先に待つ未知の世界が、彼女の胸を高鳴らせた。宮廷での記憶は胸に残るが、もう恐れるものは何もない。自分だけの人生が、ここから始まるのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

続・無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……✩✩旅を選んだ娘とその竜の物語

タマ マコト
ファンタジー
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……の第2部 アストライア王国を離れ、「自分の人生は自分で選ぶ」と決めたエリーナは、契約竜アークヴァンとともに隣国リューンへ旅立つ。肩書きも後ろ盾もほぼゼロ、あるのは竜魔法とちょっと泣き虫な心だけ。異国の街エルダーンで出会った魔導院研究員の青年カイに助けられながら、エリーナは“ただの旅人”として世界に触れ始める。 しかし祭りの夜、竜の紋章が反応してしまい、「王宮を吹き飛ばした竜の主」が異国に現れたという噂が一気に広がる。期待と恐怖と好奇の視線に晒され、エリーナはまた泣きそうになるが、カイの言葉とアークヴァンの存在に支えられながら、小さな干ばつの村の水問題に挑むことを決意。派手な奇跡は起こせない、それでも竜魔法と人の手を合わせて、ひとつの井戸を救い、人々の笑顔を取り戻していく。 「竜の主」としてではなく、「エリーナ」として誰かの役に立ちたい。 そう願う彼女と、彼女に翼を預けた白竜、そして隣で見守る青年カイ。 世界の広さと、自分の弱さと、ほんの少しの恋心に揺れながら── “旅を選んだちょっと泣き虫で、でも諦めの悪い娘とその竜”の物語が、本当の意味で動き出していく。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした

タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。 身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。 だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり―― それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

処理中です...