追放された令嬢、辺境の小国で自由に生きる

腐ったバナナ

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4話

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 城の中庭での作業を終え、リディアはほっと息をついた。石の塔に登って風景を眺めると、村は小さくも穏やかに広がっていた。森の緑と草原の黄、遠くの山の青が、夕日に染まる光景はまるで絵画のようだ。

「リディア様!」

 低く慌ただしい声が聞こえた。振り返ると、先ほど手伝ってくれた老女が駆け寄ってくる。手には小さな籠、顔は汗と涙で濡れていた。

「どうしたの?」

 リディアはすぐに駆け寄った。

「お嬢様、うちの子が……熱で寝込んでしまって……助けてください」

 リディアの胸に温かいものが広がった。宮廷では人の痛みに触れる余裕さえなかったが、ここでは手を差し伸べることで誰かを守れる。

「大丈夫、すぐに診ましょう」

 リディアは籠を受け取り、城の中の簡易な部屋に案内した。部屋の木の床は冷たいが、窓から入る夕日の光が暖かく、子どもを優しく包み込むようだった。

「名前は?」

 リディアは微笑みかけながら尋ねる。

「マリウスです……昨日から高熱が続いて……」

 老女がかすれた声で答える。
 リディアはゆっくりと子どもの額に手を置き、熱を測った。

「……少し高いわね。でも、水分をとらせて、しっかり休めば大丈夫」

 老女は涙を浮かべ、「でも薬がなくて……」と訴えた。

 リディアは城の倉庫に走り、薬草や乾燥したハーブを取り出す。手に取る度、これまでの知識が自然に体に染み込むのを感じた。宮廷で「役立たず」と言われた日々も、この瞬間のための学びだったのかもしれない。

「これを煎じて飲ませましょう。少し苦いけれど、効きます」

 老女は小さく頷き、リディアの指示通りに動く。子どもは熱にうなされながらも、手を握り返してきた。その小さな温もりに、リディアの胸はぎゅっと締め付けられる。

「……大丈夫、マリウス。すぐに良くなるわ」

 声をかけながら、リディアは心の中で誓った。ここでは誰も私を役立たずなどと言わない。自分の力で人を助けられる、それだけで十分だ、と。

 翌朝、マリウスの熱は下がり、笑顔を見せた。老女も嬉しそうに涙をぬぐう。

「お嬢様、本当にありがとうございます……」

「いいえ、私も嬉しいわ」

 リディアは優しく微笑む。初めて、誰かの笑顔が自分の喜びになる感覚を味わった。

 その日、村人たちが城の前に集まった。噂を聞きつけたらしい。

「リディア様、本当にありがとう! 私たちの生活が少しずつ良くなりそうです!」

「城でお手伝いさせてください!」

 と、若者たちも声を上げる。

 リディアは心の中で微笑む。宮廷での孤独や無力感、追放の痛みはまだ完全には消えていない。しかし、ここでは自分の行動が確かに人の役に立つのだ。誰かのために動くことで、自分の価値を実感できる。

 夕暮れ、城の塔から眺める村の景色は、昨日とは少し違って見えた。家々の窓から漏れる暖かな光、煙突から上る細い煙、遠くで子どもたちが遊ぶ声。すべてが、リディアにとって生きている実感を与えてくれた。

「……これで、私も少しは役に立てるんだ」

 心の中で呟き、リディアは深く息を吸った。追放され、誰も期待していない場所で、彼女は初めて自分の価値を感じたのだった。宮廷での屈辱は遠く、ここには温かい信頼と優しさがある。

 その夜、リディアは星空を見上げながら、明日も村人たちの役に立とうと決めた。自由と孤独、そして小さな責任感が混ざり合い、初めて心が安らぐ感覚を味わった。辺境の小国での生活はまだ始まったばかりだが、彼女の胸には確かな希望が芽生えていた。
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