追放された令嬢、辺境の小国で自由に生きる

腐ったバナナ

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10話

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 朝の光が森の向こうから差し込み、城跡の石垣や庭の草花に柔らかく反射している。リディアは深呼吸をしながら、手にした籠に摘んだハーブや野菜を整える。

 昨日収穫したニンジンやハーブの香りが、朝の冷たい空気の中でほのかに漂う。村人たちも一日の仕事に向かい、笑い声や足音が静かな城跡に響いていた。

「リディア様、おはようございます!」

 声の主は、近くの小屋で暮らす少女アリサだった。手には昨日の残りの野菜を抱えている。

「おはよう、アリサ。今日も手伝ってくれるの?」

「はい! リディア様のお手伝いなら、どんなことでも!」

 リディアは微笑み、籠をアリサに差し出した。

「では、一緒に畑に運びましょう」

 二人が庭を歩くと、風が葉を揺らし、遠くの森から小鳥のさえずりが聞こえる。石垣に絡まるツタの緑も、朝の光に映えて輝いていた。リディアは心の中で静かに満足感を味わう。

 ここにいる自分は、宮廷で評価されるかどうかに左右されず、自分の力で生活を築き、人々と信頼関係を持てる。

「リディア様、昨日の薬草の件ですが、近隣の村の医師からも相談がありました」

 声はマルク。手には手紙と薬草の小箱がある。

「そう。じゃあ、午後に診察しましょう。まずは村の人たちの手当てを終えてから」

 リディアの声は落ち着いている。かつて宮廷で震えながら指示を受けていた自分とは違い、今は自然と指示を出し、人々を導くことができる。

 畑で作業を終えると、村人たちが次々にリディアの元へ顔を見せる。小さな怪我や体調の相談、作物のこと、家畜の世話の悩み——。リディアは一つ一つに耳を傾け、的確な助言を返す。

「リディア様、本当に助かります。あの時、宮廷に残っていたら、こんなことは無理でした」

 老夫婦の言葉に、リディアは小さく微笑む。心の中で、かつての侮辱や軽蔑が静かに昇華されるのを感じる。

 午後になると、森を抜ける小道を歩きながら、リディアは薬草の整理に取り掛かる。太陽の光が木々の間から差し込み、地面に揺れる影が水面のように揺れている。小鳥たちも自由に空を舞い、リディアの心に静かな充実を与える。

「リディア様、今日も一日頑張りましょうね」

 アリサの声が元気に響く。

「ええ、皆で力を合わせれば、どんなことでもできるわ」

 リディアは籠を肩にかけ、深く息を吸い込む。宮廷で押し付けられた「役立たず」の烙印は、もうどこにもない。ここでは、自分の価値は自分の手で示すものだ。

 夕暮れになると、城跡の上空には朱色の空が広がり、風が柔らかく頬を撫でた。リディアは城の一角に置かれた小さな椅子に腰を下ろし、遠くの森や山並みを見つめる。

 日々の生活の中で生まれる小さな喜び——庭の花、村人の笑顔、朝の鳥の声——それらがすべて、かつて宮廷で抑圧されていた自分にとっての宝物となった。

「私……こんなに穏やかに、自由に生きられるなんて」

 心の中で呟きながら、リディアは夕焼けに染まる山々を眺める。過去の屈辱や悲しみは、ここでは力に変わる。人々と共に過ごす日常こそが、彼女にとっての真の価値だった。

 夜になり、ランタンの柔らかい光が石畳を照らす。村人たちは家々に戻り、リディアも自分の小屋に灯りをともす。静かで満ち足りた時間——それは、誰にも邪魔されない、リディアだけの生活だった。

 宮廷の世界で失ったものは、ここで新たに取り戻されていく。

 深呼吸を一つ、リディアは微笑む。明日も、また一日を大切に過ごすのだ。ここには評価も、恐怖もない。ただ、自分の力で築いた生活と、人々の信頼がある。それだけで十分だと、彼女は確信した。
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