離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ

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19話

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 リゼッタへの「冷徹な庇護」という形で愛を証明したアークライトは、セシルからの完全な理解を得て、精神的に大きく成長した。彼の感情の色は、もはや不安や焦燥を示す青や黒をほとんど放たず、安定した「幸福のオレンジ」と「愛の金」が常であった。

 彼の不器用さも徐々に解消されつつあった。

 ある日の夕食時。セシルが侯爵家代々の伝統料理をアークライトに出すと、アークライトは一口食べ、無表情のまま言った。

「美味しい。セシル」

 セシルは微笑んだ。

「ありがとうございます、アークライト様」

 前世では、アークライトは料理を無言で平らげ、セシルはそれを「義務的な食事」だと解釈していた。しかし、今世では違った。

 アークライトは、セシルの目をまっすぐに見つめ、続けた。

「私は以前、『美味しい』という感情を言葉にすることを、弱さだと思っていた。だが、君が、君の作った料理への喜びを伝えることが、君への愛情の一部だと教えてくれた」

 アークライトは、スプーンを置き、セシルの手を握りしめた。

「君は、私に言葉を教えた。感情を表に出すことは、弱さではなく、愛する者への最大の贈り物だと教えてくれたのだ」

 彼の言葉は、冷徹な仮面を完全に脱ぎ捨てた、一人の夫の真摯な告白だった。セシルは、彼が不器用な愛を卒業しつつあることに、喜びと深い感動を覚えた。

 侯爵家の公務も、セシルの手腕とアークライトの共同体制により、完全に安定した。アークライトは、結界騎士としての務めを完璧に果たしつつ、以前の彼からは想像もできないほど多くの時間をセシルと過ごした。

 彼は、セシルが読む小説の内容を真剣に尋ねたり、庭園でセシルの隣で何も言わずにただ座っている時間を作ったりした。

「君の存在を感じている。それだけで、私の心は満たされる」

 それが、彼が口で言えるようになった、最高の愛情表現だった。

 ルーク副官も、その変化に感銘を受けていた。

「セシル様のおかげで、団長は本当に変わりました。以前はまるで鋼の彫像のようでしたが、今は、愛と光に満ちた生きた人間です」

 ある穏やかな昼下がり、セシルはアークライトに寄り添いながら、静かに尋ねた。

「アークライト様。貴方にとって、二度目の人生とは、どのようなものでしたか?」

 アークライトは、セシルの髪に頬を寄せた。彼の感情の色は、穏やかな「慈愛の白」に包まれていた。

「それは、絶望からの解放だ」

 彼は目を閉じて、続けた。

「前世、私は君を愛しながら、その愛を言葉にできず、孤独なまま君を失った。私は、その後悔を抱えたまま、残りの人生を冷たい義務の中で過ごすしかなかった」

「だが、君が戻ってきてくれた。そして、私の不器用な愛を、真実の愛として受け入れてくれた。君が私に与えてくれたのは、やり直しの機会ではない。それは、愛を知る機会だった」

 アークライトは、セシルを抱きしめた。

「私は今、君と愛し合い、君と共に生きる、真の幸福を知った。もう、君を失う恐怖はない。君は永遠に私の隣にいる」

 セシルは、彼が孤独な冷徹な夫ではなく、最高の愛をくれる一人の男になったことに、心から感謝した。二人の人生は、愛と信頼の絆によって、完璧に結び直されたのだった。
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