「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ

文字の大きさ
19 / 26

19話

しおりを挟む
 冷たい沈黙が、獣人王宮の玉座の間を支配していた。

 玉座の間の中央には、先ほどまで呪詛の箱を運んでいた使者が、拘束され、恐怖に顔を歪ませて跪かされていた。その背後には、彼が持ち込んだ呪いの魔力によって僅かに汚染されかけた空気が、まだ微かに残っているようだった。

 ガゼル王は、玉座に深く腰掛け、フィーアを左腕に抱き寄せたまま、一切の感情を排した黄金の瞳で使者を見下ろしていた。王の背中に隠されたフィーアは、その強靭な腕の温もりの中で、完全な安堵を感じていた。

「貴様らの行為は、単なる裏切りではない」

 ガゼル王の低い声が、王宮の石造りの壁に響き渡った。その声は、深淵の底から響く怒りのようだった。

「我が妻、この獣人国の女王の命を、呪詛をもって奪おうとした。これは、我が国に対する、愚かなる宣戦布告だ」

 使者の口から、情けない嗚咽が漏れる。

「ひ、陛下の命では…!全ては、リシアン様が…!」

「言い訳は聞かぬ」

 ガゼル王は冷酷に言い放った。

「リシアンの嫉妬にせよ、国王の無能にせよ、結果は同じだ。貴様らは、私たちが最も大切にするものを、最も卑劣な手段で破壊しようと試みた」

 ガゼル王は、クロウに命じ、準備させた羊皮紙を取り出させた。それは、以前提示した制裁条件を、遥かに上回る最終通告だった。

「以前提示した条件は、貴様らの国を救うための最低限の賠償だった。だが、今回の愚行により、貴様らはその償いを百倍にして支払うことになる」

 羊皮紙に記されていたのは、もはや資源の譲渡といった生易しいものではなかった。

 ◇

 最終制裁条件:

 人間国の全領土を、獣人国の永久的な保護領と見なす。外交権および軍事権は全て獣人国に帰属する。

 フィーア女王への呪詛を主導した偽聖女リシアンに対し、公開の場で罪を認めさせ、獣人国への永続的な献納の義務を負わせる。

 人間国の国王は、フィーア女王に対し、公式かつ公的な謝罪を、全領土の民に宣言させること。

 浄化力の提供は継続するが、その管理と費用は全て人間国が負担し、獣人国の永遠の属国としてその義務を果たすこと。

 ◇

 侯爵の心の声:(王よ!この条件は、事実上の滅亡だ!属国どころか、奴隷国ではないか!)

 ガゼル王は、使者の恐怖と絶望を心の声で読み取りながら、冷酷に言った。

「貴様らの国王に伝えろ。この条件を拒否すれば、獣人族の軍が、貴様らの国境を越える。その時は、滅亡ではなく、完全な殲滅となるだろう。貴様らの唯一の救い主である女王を、命を懸けて守れなかった報いだ」

 王の宣言は、愛する妻を守るためであれば、世界を敵に回すことも厭わないという、彼の狂気的なまでの愛と庇護欲の証明だった。

 フィーアは、ガゼル王の冷徹な決意を感じ取りながら、彼の頬にそっと触れた。

「王よ。もう、わたくしは大丈夫です。あなた様の愛と庇護が、わたくしを永遠に守ってくださいます」

 ガゼル王は、フィーアの頭を胸に押し付け、深く、強い安堵の息を吐いた。

「ああ、フィーア。君は私の光だ。この光を汚そうとした者には、永遠の後悔を味合わせる」

 使者は、その鉄壁の愛と、冷酷な制裁を前に、もはや獣人国に立ち向かう術がないことを悟り、全身を打ち震わせた。彼は、この屈辱的な通告を携え、自国の破滅的な結末を伝えに戻るしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

テイマーなのに獣人ばかりにモテすぎて困ってます!~彼女はまだツンデレ獣人に番認定されたことに気付いてない~

しましまにゃんこ
恋愛
リリアは、この春、アリシア王国で冒険者になったばかりのテイマーの女の子。早く冒険者として活動したいのに、まだ一匹もテイムすることができずに焦っている。 森に入れば触手に襲われ、街を歩けば獣人に襲われる無自覚天然ドジキャラのリリア。 そんなリリアを溺愛し、陰ながらこっそり見守る黒ヒョウ獣人のロルフは、いつもリリアに振り回されっぱなし。 実は二人の間にはある秘密が!? 剣と魔法、魔法道具が使えるファンタジーな世界で、テイマーとして活躍したい女の子と、好きなのに好きといえない獣人の男の子の、勘違い、溺愛、ジレジレ、時にヤンデレなドタバタ系ラブコメです! 『王女様は聖女様!?おてんば姫の冒険録~全属性の賢者、500年後に転生する!ペットのドラゴンが迷子なので冒険者になって探しにいきます!』と同じ世界です。今後「王女様~」のほうでも登場予定です。お楽しみに! 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶
恋愛
なんちゃって聖女認定試験で、まさかの「勇者認定」を受けてしまったリン。 実は戦う気ゼロ、しかも金なし・仲間なしの超ポンコツ。 そんな彼女に下されたのは、魔王復活の危機を理由に街の外へ放り出されるという無茶な命令! 途方に暮れながら魔王城のあるダンジョンを目指すも、道中で遭難。 絶体絶命のピンチを救ってくれたのは――なんと、あの魔王だった!? 帰る場所もなく、頼み込んで魔王城に居候することになったリン。 戦えない勇者(?)と、戦いを嫌うツンデレ魔王。 この不器用で奇妙な共同生活が、今、始まる――!

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!

魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

処理中です...