「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ

文字の大きさ
20 / 26

20話

しおりを挟む
 人間国の使者は、ガゼル王の最終通告を携え、自国へと戻った。その報告を受けた国王は、国土の全権益を失うという現実的な破滅と、フィーアへの呪詛という愚行が招いた王の激怒に、ただただ絶望した。獣人国の軍事力とガゼル王の冷徹な決意を知る人間国には、もはや拒否する選択肢は残されていなかった。

 数日後、人間国の王都広場で、屈辱的な儀式が執り行われた。

 フィーアを「偽聖女」と断罪した国王、そして彼女を追放した張本人であるリシアンが、民衆の前に引き出された。

 リシアンは、かつての華やかな聖女の衣装ではなく、質素な白い服を纏い、顔には激しい屈辱と憎悪が浮かんでいた。彼女の心の声は、「なぜ私が、この国を滅ぼした裏切り者のために謝罪せねばならない!」という、憤怒で満ちていた。

 そして、獣人国からは、フィーア自身が、ガゼル王に護衛され、真の女王としての威厳をもって、人間国の王都に降臨した。

 国王は、憔悴しきった表情で、獣人国の新たな女王となったフィーアに対し、公式に土下座の姿勢を取った。

「フィーア女王陛下。我々は、貴方を『偽聖女』と断罪し、追放するという、取り返しのつかない過ちを犯しました。その結果、この国を滅亡の淵に追いやったこと、そして貴方に対し呪詛という卑劣な行為を試みたこと、全てを深くお詫び申し上げます」

 国王の謝罪は、獣人王への恐怖と、自国の存続のために絞り出されたものだった。

 次に、リシアンの番だった。彼女は、地面にひれ伏すことを拒み、憎しみの目でフィーアを睨みつけた。

「姉様、私は…!」

 その瞬間、ガゼル王の冷徹な殺気がリシアンに向けられた。ライオンの王の絶対的な威圧は、リシアンの抵抗を打ち砕いた。

「立て。そして、我が妻への罪を認めろ」

 ガゼル王の声は、低く、全てを支配していた。

 リシアンは、震える声で、自らの嫉妬と陰謀を民衆の前で告白せざるを得なかった。

「私は……フィーアの真の浄化の力に嫉妬し、自らの派手な治癒魔法が真実だと信じ込ませるために、彼女を偽聖女として追放しました。私の傲慢が、この国を滅亡させました…」

 リシアンの告白は、民衆に衝撃と絶望を与えた。彼らは、自分たちが捨てた女性こそが、唯一の救い主だったという残酷な真実を知った。

 フィーアは、玉座の間でガゼル王の隣に立っていた。彼女の目には、かつて自分を冷遇し、今絶望する妹や国王への憎しみはなかった。あったのは、冷たい諦めと、わずかな慈悲だった。

「リシアン」

 フィーアは、静かに、しかし王都全体に響く声で語りかけた。

「あなたは、わたくしを偽聖女だと罵りました。ですが、わたくしには、あなたを憎悪し続ける時間も、無意味な復讐に身をやつす意志もありません」

「わたくしには、わたくしを心から愛し、守ってくれる夫と、わたくしを必要とする国があります。わたくしが今、あなたに与えられるのは、呪詛の罰ではなく、浄化の力による、国の再建です」

 フィーアは、ガゼル王の同意を得て、遥か遠方から浄化の力を、一時的に人間国の王都全体に放った。その力は、汚染された大地と病に苦しむ人々の元へ届き、一時的な安寧をもたらした。

「この浄化は、永遠の属国としての義務が果たされる限り続きます。あなたたちが、わたくしを偽りなく必要とする限り」

 それは、真の聖女の慈悲であると同時に、永遠に続く屈辱的な支配の始まりだった。

 ガゼル王は、フィーアの強さと慈悲深さに、さらに深く愛を誓った。

 彼の心の声は、「君の強さは、私の力。君の慈悲は、私の正義。君の全ては、私が守る」という、絶対的な溺愛に満ちていた。

 フィーアは、かつての祖国の絶望と、現在の夫の深い愛を対比させ、自身が選んだ道が正しかったことを確信した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【改稿版】猫耳王子に「君の呪われた力が必要だ」と求婚されています

こうしき
恋愛
アルリエータ王国の辺境伯令嬢エステルは、「目が合った者の心を読む」呪いにかかっていた。 呪いのせいで友もおらず、おまけに婚期も逃し、気がつけば三十路は目前。自由気ままに生きることを決めていたというのに、この力を欲する変わった国に嫁ぐことになって──? エステルを欲した国は全国民が魔女の呪いにかかり、半猫化したハルヴェルゲン王国。 どうやら半猫同士での会話は成立するようだ。 しかし貿易大国であるハルヴェルゲン王国が半猫化したことにより、諸外国とは言葉も通じず国内は混乱状態。 そこで白羽の矢が立ったのが、心を読めるエステルたった。 『うにゃにゃ──君の呪われた力が必要なんだ。私の妻として外交に加わってほしい』 「……え? 何ですって?」 果たしてエステルは、ハルヴェルゲン王国を危機から救い、幸せを掴めるのか──……。 ※小説家になろう、エブリスタに投降していた作品の改稿版になります

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

偽聖女と蔑まれた私、冷酷と噂の氷の公爵様に「見つけ出した、私の運命」と囚われました 〜荒れ果てた領地を力で満たしたら、とろけるほど溺愛されて

放浪人
恋愛
「君は偽物の聖女だ」——その一言で、私、リリアーナの人生は転落した。 持っていたのは「植物を少しだけ元気にする」という地味な力。華やかな治癒魔法を使う本物の聖女イザベラ様の登場で、私は偽物として王都から追放されることになった。 行き場もなく絶望する私の前に現れたのは、「氷の公爵」と人々から恐れられるアレクシス様。 冷たく美しい彼は、なぜか私を自身の領地へ連れて行くと言う。 たどり着いたのは、呪われていると噂されるほど荒れ果てた土地。 でも、私は諦めなかった。私にできる、たった一つの力で、この地を緑で満たしてみせる。 ひたむきに頑張るうち、氷のように冷たかったはずのアレクシス様が、少しずつ私にだけ優しさを見せてくれるように。 「リリアーナ、君は私のものだ」 ——彼の瞳に宿る熱い独占欲に気づいた時、私たちの運命は大きく動き出す。

『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」 その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。 有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、 王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。 冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、 利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。 しかし―― 役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、 いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。 一方、 「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、 癒しだけを与えられた王太子妃候補は、 王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。 ざまぁは声高に叫ばれない。 復讐も、断罪もない。 あるのは、選ばなかった者が取り残され、 選び続けた者が自然と選ばれていく現実。 これは、 誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。 自分の居場所を自分で選び、 その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。 「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、 やがて―― “選ばれ続ける存在”になる。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

王家の血を引いていないと判明した私は、何故か変わらず愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女であるスレリアは、自身が王家の血筋ではないことを知った。 それによって彼女は、家族との関係が終わると思っていた。父や母、兄弟の面々に事実をどう受け止められるのか、彼女は不安だったのだ。 しかしそれは、杞憂に終わった。 スレリアの家族は、彼女を家族として愛しており、排斥するつもりなどはなかったのだ。 ただその愛し方は、それぞれであった。 今まで通りの距離を保つ者、溺愛してくる者、さらには求婚してくる者、そんな家族の様々な対応に、スレリアは少々困惑するのだった。

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜

赤紫
恋愛
 私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。  絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。  そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。  今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!

処理中です...