淡色に揺れる

かなめ

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前章

インターハイ当日(予感)

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5回戦を勝ち抜き、少しざわついた空気を残したままベンチを後にした蓮。
もちろん、3年生たち5人は詰め寄った。

「ねぇ蓮ちゃん、さっき詩弦に何て言われたの!?」

「マジで、耳打ちっぽかったけど!?もしかして告白とかじゃないよね!?」

「え、てか私たち、詩弦と彩里が好き合ってると思ってたんだけど!?」

ぴしゃぴしゃと畳み掛けるような質問。
その勢いに、蓮はわずかに目を見開いたあと、笑ってごまかした。

「あー、それですか?」

「そうそれ!気になって夜しか眠れないやつ!」

(なんだか、言っちゃダメな気がする。たぶん、言わない方がいい)

蓮は、本能的にそう思った。
だから、にこっと笑って、

「夜の11時に、部屋でマリカー大会しましょう、って言われました」

「………は?」

「マリ、カー?」

数秒の静寂のあと、野次馬たちがぽかんとする。

「いやいや、なんで!?試合の合間にそんなこと決める!?」

「しかもあの距離で!?恋じゃなくてマリオカートなの!?」

「いや、もしかして“マリカー”って暗号……?」

「や、ちが……」

さすがにフォローしようかと迷った蓮だったが、既に5人は「マリカー派」と「マリカーは隠喩で実は告白派」で勝手に論争を始めていた。

(ま、いっかな)

その頃、医務室に向かう詩弦の後ろ姿を見送った彩里もすぐに動いた。
タオルを投げ捨てると、直線に蓮のもとへ向かう。

「ねえ、蓮ちゃん」

「なんですか彩里先輩」

まるで他愛のない話をするふりをしながら、彩里は蓮と並んで歩く。

「さっき、詩弦に何か言われてたよね? 何て言われたの?」

真正面から見つめられると、蓮はほんのわずか、ためらった。

(彩里先輩って、詩弦先輩と両想いなんだよね。だったら、ほんとのこと言った方がいい)

そう、蓮は思った。

「“今夜の11時、ホテルの庭に来て”って。言いたいことがあるって言ってました」

「………ああ、そうなんだ」

彩里の声が、数拍遅れて返ってきた。
笑ってはいる。余裕の表情も崩さない。けれど、明らかに、その目が泳いでいた。

「ふーん、そっかそっか。じゃあ行かなきゃね、蓮ちゃん」

「そうですよね、いったい何の用なんだろう?」

「………」

しばらく黙って歩いたあと、彩里は「試合結果出してくるわ!」と持っていたプリントを手に挟んでその場を離れた。

「……そっか」

誰にも聞こえない一言を、彩里は溢す。

(もう、つもりなんだ。そうかそうか)

ぎゅっと握りしめられた彩里の拳は、もちろん蓮は気づくことはなかった。
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