淡色に揺れる

かなめ

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前章

インターハイ当日(勝負の時)

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真昼の太陽が、容赦なく照りつける。
選抜メンバーたちは、3回戦・4回戦を順調に突破し、ついに山場となる第5回戦へと差しかかっていた。
すでに2戦勝ち取っており、今試合中の彩里と詩弦が勝てば次へと進める。

1セット取られるもののなんとか2セット勝ち取り、最後の3セット目の試合へ差し掛かったころ。
全体の空気が「あと少しだ」と前向きになる中、事件は起こった。

詩弦の足が、ぐきっ、とねじれる。

一瞬、無理な体勢での体重移動。
コートの端でバランスを崩した彼女は、ほんの数秒の遅れで体勢を立て直したものの、その動きに、顧問も仲間たちもすぐ異変を察した。

「あれ、やばくね?」
「詩弦、足……」

詩弦はその場に立ったまま、顔をしかめていた。

「水沢!下がれ!」

タイムカードを出した顧問の一言が飛ぶと、すかさずベンチに下がってくる詩弦。
顔に汗とも脂汗ともつかない光が浮かぶ。

ベンチの脇で、蓮が誰よりも早く駆け寄る。
テーピングを持って、片膝をついた姿勢のまま、詩弦の足首に手を添える。
ぐっと押さえた瞬間、わずかな痛みに詩弦が眉をしかめる。

「腫れてきているな」

「っ、でも、この試合はやりきります。白川、テーピングきつめにお願い」

その声は、まるで自分に言い聞かせるような静かさだった。

蓮は何も言わず、首を縦に振った。

手際よくテーピングを巻く。
熱と緊張で滲む手元。だが、蓮の手は震えていなかった。

そのとき。
詩弦は、そっと蓮の肩に手を置いた。

「っ?!」

蓮の手が止まる。驚いて見上げると、目の前には詩弦の顔。
距離はわずか5センチ。

息を呑んだまま、動けない蓮に、詩弦が小さく囁く。

「この試合、勝てたら――」

蓮のまなざしが、詩弦の真剣な眼差しに吸い込まれていく。

「今夜の11時。ホテルの庭に来て。あんたに言わなきゃいけないことがある」

蓮が言葉を返す前に、詩弦はそっと肩から手を離し、
少し引きずるようにしながらも、まっすぐコートへ戻っていった。

「……あの距離、何あれ」

「え、もしかして、告白?」

「は!?なんで??詩弦が蓮ちゃんに!?彩里は???」

例の野次馬5人組は、ベンチ後方でそろってざわついていた。

「ちょ、今彩里の顔やばくね?」

確かに、コート中央でペアとして立つ彩里の表情が、ぴくりと動いた。

詩弦の異変。蓮との距離。そして、その視線。
彩里の胸に、嫌な予感だけがぐるぐると渦巻いていた。

だが、試合は始まった。
詩弦は痛みを隠し、彩里と見事なコンビネーションを再現する。

無理をしているのは明らか。だが、気力でそれを押さえ込んだ。
詩弦の鋭いストレート。彩里の抜群のフォロー。
会場が盛り上がる中、ついに、5回戦を突破した

試合後、握手を終え、詩弦は足を引きずるようにしてベンチへ戻る。

何も知らない蓮は、まだその言葉の真意をはかる。

"――11時。ホテルの庭に来て"

それが何を意味するのか、まだ答えは出ていない。
だが、なにか大きな物語の山場に差し掛かっていることを、なんとなく感じ取っていた。
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