夏と竜

sweet☆肉便器

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62 キマイラ準備変

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 さて、威勢のいい言葉で煽りはしたものの、僕だって我武者羅に突っ込んでって勝てるだなんて甘い考えはしていない。
 なんと言っても相手は神話にも語られているような幻獣なんだ。用心に用心を重ねそこにさらにもう一段用心を重ねるくらいの慎重さで挑みたい。
 そんな訳でまずは部隊の所持している武装を確かめる。
 人数分の小銃、89式5.56㎜小銃。自衛隊とかで標準的に配備されるライフルらしい。うーん、カッコイイ。
 拳銃、シグザウワーP220って種類だそうだ。小銃が目の前にあるから影が薄くなってしまっているけど、一般人の僕にはやっぱりもの珍しいし、格好よく映る。
 それに…

 「お、これは?」

 「いいのに目を着けたわね。ソレこそが今回一番活躍するんじゃないかって私たちが予測している秘密兵器よ」

 そう言って花子さんが自慢げに肩に担いだソレは大きい銃…いやバズーカみたいなデザインだった。

 「なんだか大袈裟な武器だね。けどこんなおっきな大砲撃ったら森に引火して火事になったりしない?」

 キマイラにどれだけの戦力が必要なのか、正直誰にも判らないので強力な火力があるのはありがたいけれど、周囲の山まで焼き払われてしまうようでは大問題だ。
 なんと言ってもここはじいちゃんの家がある場所なのだから、この土地を愛するいち・・ナッちゃんとしては一面焼け野原なんて惨状はご遠慮申し上げたい。

 けど花子さんは僕の心配など無用とばかりに首を振る。

 「心配しないで、これは非殺傷兵器、ネットバズよ」

 「ネットバズ?」

  花子さん曰くこのバズーカは放った弾丸が爆発するんじゃなくって捕獲網が開くモノなのだそうだ。

 「本当は不審なドローンを捕まえる為に開発されたそうなんだけど、ヒトや動物なんかを捕らえるのにも有効だって意見が出て対人用に改良されたのが配備されてたのよ。
 このネットバズは一発こっきりだけど、網の大きさはキマイラの全身も余裕で包み込めるわ」

 おお! 頼もしい! 確かに網で包んじゃえば逃がすことも襲われることもないもんね。 
 花子さんの言葉通り銃で射つよりも確実かも知れない。
 
 武器も弾薬も充分、捕獲道具もネットバズをはじめ三叉槍まで揃ってる。

 「スバラシイッ! 圧倒的じゃないか我が隊はっ!!」

 「キュー♪ キュックルルル~!!」

 僕とアオちゃんはこの申し分のない布陣に歓喜の声をあげる。

 ちょっと離れた場所から太郎さんが「あ、ソレ負けフラグ」とか呟いてるけれども、シリマセン~、ボクラハ勝ツンデス~、偉大ナル花子隊長閣下ニ率イラレタ僕ラハ最強ノ神兵デアリ敗北ナドアロウハズモ無ク、細螺しだたみノ吾子ヨ打チシテ止マム乾坤一擲ノ精神デ一億総火ノ玉トナリ悪ノ枢軸ナリシ逆賊悪鬼ニ正義ノ鉄槌ヲ………

 「ナッちゃん」

 「はぐっ!?」

 誰? ばあちゃん? 今後ろからナナメ45度で延髄に
チョップ極めたのばあちゃん!? スゴく痛かったよ? 一瞬意識翔んでお花畑のなかで手を振っているじいちゃんが見えたよ!?

 「あら、貴方のお爺ちゃんなら今はエミさんたちを迎えに行ってる最中じゃない。
 シャノンちゃんも幻獣だからアオちゃんと一緒にこっちで守るって話、忘れちゃってたの?
 トリップするのもホドホドにしないとそのうちに社会生活も困難になっちゃうわよ」

 「うん、ゴメン。それでばあちゃんは何か僕に用事だったの?」

 「ハイ、ナッちゃんにお電話よ」
 「電話?」

 僕に電話を掛けてくるだなんて誰だろう? そう思いながら僕はばあちゃんから黒い受話器を受け取った。

 「モシモシ」

 「ナッちゃんはわたしと離れてから何回わたしの夢を見た? わたしは毎晩よ。いいえ、むしろ起きている時ですら時折ナッちゃんの幻影が耳許に語り掛けてくるの『ゆまは姉ちゃん、はやく僕の赤ちゃん孕んでよ』って。一億年と二千年前から愛してるわナッちゃん」

 「あ!」

 この妄言とこの声は従妹のお姉さん、ゆまは姉ちゃんだ。

 なるほど、ばあちゃんの言った通りトリップは危険だね。こんな身近に重度の患者が居るのに忘れていたよ。
 
 「ゆまは姉ちゃんひさしぶり、自動車の学校はどう? 免許とれた?」

 ちなみにゆまは姉ちゃんの何回夢見た云々ってのは僕との会話の中でのあいさつみたいなもんだからスルーだ。ヘタに会話を拾ってしまうと言葉巧みに婚約まで話が進んでしまうので注意が必要なんだ。

 「うん、エヘヘ~、とれたよ。バッチリ! これもナッちゃんがわたしに注いでくれた愛のお蔭だよね。免許さえあればもう海までドライブしても怒られないもんね。次はどこ行く? 山? 砂漠? 成層圏? お姉ちゃんはナッちゃんと一緒ならどこでも構わないよ。あ、でも初めてはちゃんとお布団のある部屋がいいかな。ワラの敷かれた水車小屋や蒸し暑い体育倉庫ってのも惹かれるけどもまぁお互い初めてだしね、スタンダードから始めるべきじゃないかしら? ああ、マジックミラーに囲まれたトラックのコンテナの中でってのもロマンチックよね。やぁん、どうしよう。ワクワクがとまらないわーー」

 トラックのコンテナがロマンチック? ゆまは姉ちゃんくらいの年代のひとたちはトラックのコンテナでイチャイチャするのにロマンを感じるのだろうか? ゆまは姉ちゃんと話をするといつも僕は人類がどこに向かい何を目指し進んでいるのかが不安になるんだ。

 「んん? ナッちゃん? どうしたの? なんだか心拍数が若干速いわよ? 脳波に乱れも感じるわ。不安や心配事があるのならお姉ちゃんに教えて?」

 「…たいしたことないよ、ちょっとアオちゃんのことでね。心配しないで」

 さすがはゆまは姉ちゃん、電話回線で僕の心拍数と脳波を測定するだなんて電話局のひともそこまでの機能を電話回線に盛り込んではいないだろうに…
 きっとそのことをゆまは姉ちゃんに指摘すれば「これもナッちゃんへの愛のパワーの賜物よ。むしろ回線を通じてナッちゃんの傍らへ移動出来ない事を口惜しく感じるわ」と、返してくるだろう。

 「その通りよ、わたしの愛パワーが物理法則をねじ曲げるまでもうしばらく掛かりそうなの。不甲斐ないお姉ちゃんでゴメンね、ナッちゃん」

 ホラね、読心術まで心得ている。

 「そんな訳でこれからそちらへ向かうから期待して待っててね、ナッちゃん」

 チュッと受話器越しに響いたキスの音を最後に通話は切れた。
 ゆまは姉ちゃんの柔らかな唇の感触が僕の頬に触れた気配がしたのはけっして僕の錯角だけではなかっただろう。

 「うん、ゆまは姉ちゃん、キマイラをやっつけて、全てを終らせてアオちゃんと一緒に待ってるよ」

 僕は受話器から鳴るビジートーンを聴きながらもう聴いていないであろう彼女に語りかけた。

 
 
 
 
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