夏と竜

sweet☆肉便器

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14 マーベリック

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 アオちゃんが飛ぶことに興味をおぼえたのは映画が切っ掛けだった。

 以前テレビで放映された映画でじいちゃんが録画してくれてたヤツ。

 正直アオちゃんとの毎日が楽しすぎて撮ったことさえ忘れてたんだけど、何気なくテレビのリモコンをいじってたらその映画のタイトルが表示されて思い出したって訳。
 放映してた時はもう九時過ぎで半分僕も寝てたからあんまりおぼえてないんだけど、あの時にアオちゃんが音楽にスゴく反応してノリノリだったのは記憶にこびりついてる。
 たしかハーピィも唄ってたから幻獣って音楽が好きなのかなって考えたんだっけ。

 で、再生スタート。

 話がおもしろいどうこうよりも僕はアオちゃんの反応が気になって観てみたんだ。

 結論から言うとアオちゃんは食いついた。そりゃぁもう真剣に食い入るみたいに画面を凝視し続けたんだ。
 曲が終わって物語が進む。
 主人公のパイロットが相棒と一緒に戦闘機に乗って宙返りをする。敵のミグ? ってヤツのコックピットスレスレに近付いて写真を撮るのは面白かった。
 あと、ドックファイトって言うの? 戦闘機同士の戦いはハラハラしたしカッコよかった。

 エンディングが流れて映画は終わった。

 「アオちゃん、面白かったね」

 僕はアオちゃんはどうだったかなって思って声をかけたんだ。そしたら。

 「キュー♪ キュッキュッ、キューッ」

 え!? なに? もう一回観たいの?

 まだお夕飯までは時間があったから僕はアオちゃんのおねだりを聞いてあげた。

 さっき聴いた曲がもう一度流れる。

 ふふふ、アオちゃんってば曲にあわせて「キュ~キュ~キュ~」って歌ってるよ。かわいいな。

 だけど次の行動が僕を慌てさせた。

 場面は戦闘機の発進のシーン。
 誘導役のひとが戦闘機を誘導して発進の合図をだす。

 するとアオちゃんはなにを思ったのかその場で姿勢を低くしたままパッと翼を広げた。

 画面の中でクッと一瞬戦闘機が沈み込んで後ろから炎を出しながら発進。

 「あ、ちょっ、まっ!?」

 それにあわせてアオちゃんはダッシュをキメた。

 ダッシュって言っても短い脚でのポテポテ走りだからそう速くはないんだけど、突然のことだったから僕の反応は遅れてアオちゃんを捕まえ損ねた。

 「キュオオオオオ~ーーーーッ」

 たぶんジェット機の音を真似てるんだと思うけど、聞いたことのない鳴き声をあげてアオちゃんは畳を駆け抜け縁側まで到達すると開け放たれていた窓から大空へと飛び立った。

 ……っと思ったのは幻覚。

 アオちゃんはすぐに墜落した。

 「飛行機って言っても鳥人間のほうだった」

 僕の感想はさておき、庭に突っ伏したアオちゃんは起き上がると「どうして?」って表情で左右を見渡した。

 たぶんだけど、アオちゃんは戦闘機になりきってたのかもしれない。自分には翼があるから映画のように自由自在に大空を飛べるんだと思ったみたいだ。

 「アオちゃん、ケガはしてない?」

 僕はサンダルを履くと庭に降りてまだ現実を飲み込めてないアオちゃんを抱き上げて身体に付いた土を払ってあげた。

 「キュウ、クウウウ」

 アオちゃんはひどく落ち込んでいる様子で僕のされるがままになっている。

 パッパッって土ぼこりを落とすと僕はアオちゃんを膝に抱えて縁側に座った。

 「アオちゃんは空を飛んでみたいの?」

 「キュ、キュー」

 「そっか、アオちゃんはドラゴンだったね」
 
 「キュッ」

 すっかり忘れてたけど。
 
 マンガやゲームでもドラゴンって空を飛ぶイメージが強い。翼だってあるんだし、アオちゃんも実際飛べるのかもしれない。
 まぁ、さっきのを見た限りすぐに飛べる訳でもなさそうだけどね。

 今アオちゃんは僕の膝の上でピッと翼を真横に広げて頭を真っ直ぐに伸ばしている。
 飛んでいるイメージだと思うんだけどそれって……

 「どう見てもジェット戦闘機のイメージで飛ぼうとしてるよね? アオちゃん」

 実際にドラゴンが空を飛んでいるとこなんて僕も見たことないからこれは想像の域を出ないんだけどさ。

 「ドラゴンの飛び方って翼をバッサバッサ上下させて飛ぶもんじゃないの?」

 「キュゥ!?」

 『えっ? そうなの!?』ってこっちを向かれても困るなぁ。

 あ、ちょうどカラスが飛んでる。

 「ほら、カラスの飛ぶ姿をよく見てアオちゃん、翼をはためかせて飛んでるでしょ? ああしたらどうかな?」

 「ピュルル~…」

 なんかアオちゃんの中では羽ばたいて飛ぶのは彼が求める理想の飛び方とはちがってるらしくって、イマイチ翼を羽ばたかせることには消極的だったけど、僕が一度見せてってお願いしてやってもらってみた。

 アオちゃんが庭で踏ん張って翼を羽ばたかせる。ピコピコピコピコピコ。

 翼がちっちゃいからバッサバッサじゃなくってピコピコだ。

 「ガンバレッ、アオちゃん!」

 「キューーーッ」

 ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ。

 「ガンバレッ、もっとだっ、アオちゃん!!」

 「キュキューーーッ」

 ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ。

 「ガンバレッ、もっと、もっとだよっアオちゃん!!! もっともっとっ」

 「キューーーーーーーーーーーーーーーッッ」

 ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ。

 「キュウ」

 三分ぐらいアオちゃんは翼を羽ばたかせ続けてそれからピタッと止まる。

 「ふうっ、やりきったぜ」とでも言うかのような満足げな表情で額の汗を拭う。

 そんな彼にこんなことを告げなければならないのは酷くツラい。
 アオちゃん、僕だって本当はこんなこと言いたくなんてないんだ。だけどアオちゃんのためだから僕は心を鬼にして真実を君に告げよう。

 「ちっとも飛んでなかったよ」

 「キュッ!??」

 羽ばたきを始めてから一歩も動いてないその場所でアオちゃんは信じられないって驚愕の表情を浮かべた。
 




 
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