私の好きとあなたの好きが重なる時

Rj

文字の大きさ
3 / 8

黒歴史は突然に

しおりを挟む
 カレンは元恋人のワイアットが、カフェの座席の隣りに立っているのを見て、「やっぱり好みだなあ」と思った自分に笑いそうだった。

 ワイアットはカレンの初めての恋人で、最後に見かけたのはワイアットが修行で王都にいった三年前だ。

 別れてからお互いさけていたので、ワイアットをこれほど近くで見るのは久しぶりだった。

 すっかり大人になったワイアットは精悍さがましていた。

 目つきが鋭いため女の子から怖がられることはあったが、不器用なやさしさをもった男の子だった。

「久しぶり。元気そうだね」

 突然あらわれたワイアットに動揺していたが、カレンは冷静さをとりもどし無難な挨拶を口にした。

「王都にいったきりだったから三年ぶりか? 変わってないな」

 変わっていないというのがほめ言葉なのかカレンは悩む。

 ワイアットはもともと表情が豊かな方ではなく、それは今でも変わっていないようで真顔だ。

「それをいうならワイアットも変わってないよね。すぐ分かった。

 前に同級生に声をかけられた時は、あまりにも変わってたからぜんぜん分からなくて、名前をいわれてようやく誰か分かったんだよね」

 自分では落ち着いているつもりだったが、自分の甲高くなった声をきき動揺していると知る。

「邪魔してすまない。懐かしくてつい声をかけてしまった。またあらためて」

 ワイアットがタイラーに軽く会釈するとあっさりいってしまった。

 タイラーもそろそろと席をたったので解散となった。

 カレンは商会にもどりながらワイアットのことを考える。

 ワイアットが王都での修行をおえ帰ってくることは幼馴染みのルーシーからきいていたが、まさかこれほど早く遭遇するとは思わず心の準備をまったくしていなかった。

「ちょっと待って。心の準備って何?」

 動揺がはげしいようで、自分でも何を考えているのかよく分からない。

 ワイアットとは十六歳の時に三か月というみじかい付き合いだった。

 カレンが十五歳の時に実家の商会が引っ越し、ワイアットの実家の靴工房のご近所さんになった。そのおかげでワイアットと顔を合わせることが多くなった。

 ワイアットとカレンは学校と教会が同じなのでお互いの存在は知っていた。

 カレンはワイアットを格好良いと意識していたが、どうせ美人の姉のことが好きだろうとたまに姿をみかけるだけで満足していた。

 一歳上のワイアットは取っつきにくかったが、顔を合わせれば挨拶し、話しをするようになってと親しくなっていった。

 ワイアットはすこし怖くみえたりするがやさしくて、くしゃっとした笑顔が子供みたいでかわいかった。

 カレンはワイアットから付き合おうといわれ本当にうれしかった。

 これまでカレンが好きになった男の子は、カレンではなく姉のことが好きで、はじめて姉ではなくカレンのことを好きになってくれる人がいたと浮かれた。

 仕事のあいまに話しをしたり、時間があえば昼食をいっしょに食べ、カフェにいったあと行く先を決めずぶらぶら歩いているだけで楽しかった。

 はじめてワイアットと手をつないで歩いた時は、うれしすぎてその日は眠れなかった。

 そのような時間がずっとつづいていくと思っていたが、あっけなく終わりがきた。

 教会の奉仕活動で男女に別れてそれぞれ作業をしていた時に、幼馴染みのマチルダとカレンが荷物を運んでいると男の子達の話し声がきこえた。

「お前、なにニヤけてんだよ。さっきエマに話しかけられたからか? あいつ見目のよい男が好きだからお前のことなんて眼中にないって」

「テメー、人のこといえる顔か?」

 馬鹿騒ぎしている声にあきれながらマチルダと一緒に通りすぎようとしていると、ワイアットとカレンの名前がきこえた。

「そういえばワイアットは最近カレンと仲良くしてるみたいだけど、カレンの姉ちゃんねらいなんだろう? あいつの姉ちゃん本当にきれいだよなあ」

 姉に近づく手段としてカレンと仲良くなろうとする男の子はたくさんいた。

 しかしワイアットは姉に興味があるようにみえず安心していたが、本当は姉をねらっていたのかもしれないと胸騒ぎがする。

「はあ? そんなわけないだろう」

 ワイアットの声がはっきり聞こえた。姉のことを否定したのでカレンの気持ちは一気に上がった。

 しかし現実は残酷だった。

「あいつ俺のこと好きそうだったから、本命ができた時にうまく付き合えるように付き合う練習してるだけだ」とワイアットがいった。

 姉ねらいといわれた方がましだった。

「最低! あんたみたいな最低野郎にカレンはもったいない。二度とカレンの前にあらわれるな!」

 呆然としているカレンのかわりにマチルダが男の子達にまくしたてると、カレンをうながしその場をはなれた。

 怒りがおさまらないマチルダは、ワイアットのことをルーシーにぶちまけた。

 ワイアットはカレンにあやまろうと追いかけてきたが、マチルダとルーシーがカレンに近よらせなかった。

 カレンは打たれ強い方だが、さすがに好きな人から練習台といわれたのはこたえた。これ以上ダメージを受けたくないのでワイアットをさけた。

 しばらくカレンにあやまろうとしていたワイアットもカレンをさけるようになり、お互い町で思いがけず会っても挨拶さえしなくなった。

 そしてワイアットが修行で王都にいったので見かけることもなくなった。

 カレンにとってワイアットは気まずい相手のままで、まさか懐かしそうに声をかけられるとは思わなかった。

「さすがにあの頃のような怒りはないけど、だからといって平静でいられるほどでもないんだよね。

 練習台発言、まだ痛いなあ。やっぱり兄さんがいうように呪われてるわ」

 男運の悪さをあらためて実感し、カレンは苦笑した。

 ワイアットが帰ってきたということは、お互いの仕事場が近いのでこれから何かと顔を合わせるだろう。

 大人として普通に接するしかない。

「黒歴史、つらい」

 自分の深刻ぶった声色とため息が我ながらおかしかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

セラフィーネの選択

棗らみ
恋愛
「彼女を壊してくれてありがとう」 王太子は願った、彼女との安寧を。男は願った己の半身である彼女を。そして彼女は選択したー

カメリア――彷徨う夫の恋心

来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから

よどら文鳥
恋愛
 私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。  五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。  私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。  だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。 「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」  この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。  あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。  婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。  両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。  だが、それでも私の心の中には……。 ※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。 ※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。

契約婚しますか?

翔王(とわ)
恋愛
クリスタ侯爵家の長女ミリアーヌの幼なじみで婚約者でもある彼、サイファ伯爵家の次男エドランには愛してる人がいるらしく彼女と結ばれて暮らしたいらしい。 ならば婿に来るか子爵だけど貰うか考えて頂こうじゃないか。 どちらを選んでも援助等はしませんけどね。 こっちも好きにさせて頂きます。 初投稿ですので読みにくいかもしれませんが、お手柔らかにお願いします(>人<;)

処理中です...