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黒歴史は突然に
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カレンは元恋人のワイアットが、カフェの座席の隣りに立っているのを見て、「やっぱり好みだなあ」と思った自分に笑いそうだった。
ワイアットはカレンの初めての恋人で、最後に見かけたのはワイアットが修行で王都にいった三年前だ。
別れてからお互いさけていたので、ワイアットをこれほど近くで見るのは久しぶりだった。
すっかり大人になったワイアットは精悍さがましていた。
目つきが鋭いため女の子から怖がられることはあったが、不器用なやさしさをもった男の子だった。
「久しぶり。元気そうだね」
突然あらわれたワイアットに動揺していたが、カレンは冷静さをとりもどし無難な挨拶を口にした。
「王都にいったきりだったから三年ぶりか? 変わってないな」
変わっていないというのがほめ言葉なのかカレンは悩む。
ワイアットはもともと表情が豊かな方ではなく、それは今でも変わっていないようで真顔だ。
「それをいうならワイアットも変わってないよね。すぐ分かった。
前に同級生に声をかけられた時は、あまりにも変わってたからぜんぜん分からなくて、名前をいわれてようやく誰か分かったんだよね」
自分では落ち着いているつもりだったが、自分の甲高くなった声をきき動揺していると知る。
「邪魔してすまない。懐かしくてつい声をかけてしまった。またあらためて」
ワイアットがタイラーに軽く会釈するとあっさりいってしまった。
タイラーもそろそろと席をたったので解散となった。
カレンは商会にもどりながらワイアットのことを考える。
ワイアットが王都での修行をおえ帰ってくることは幼馴染みのルーシーからきいていたが、まさかこれほど早く遭遇するとは思わず心の準備をまったくしていなかった。
「ちょっと待って。心の準備って何?」
動揺がはげしいようで、自分でも何を考えているのかよく分からない。
ワイアットとは十六歳の時に三か月というみじかい付き合いだった。
カレンが十五歳の時に実家の商会が引っ越し、ワイアットの実家の靴工房のご近所さんになった。そのおかげでワイアットと顔を合わせることが多くなった。
ワイアットとカレンは学校と教会が同じなのでお互いの存在は知っていた。
カレンはワイアットを格好良いと意識していたが、どうせ美人の姉のことが好きだろうとたまに姿をみかけるだけで満足していた。
一歳上のワイアットは取っつきにくかったが、顔を合わせれば挨拶し、話しをするようになってと親しくなっていった。
ワイアットはすこし怖くみえたりするがやさしくて、くしゃっとした笑顔が子供みたいでかわいかった。
カレンはワイアットから付き合おうといわれ本当にうれしかった。
これまでカレンが好きになった男の子は、カレンではなく姉のことが好きで、はじめて姉ではなくカレンのことを好きになってくれる人がいたと浮かれた。
仕事のあいまに話しをしたり、時間があえば昼食をいっしょに食べ、カフェにいったあと行く先を決めずぶらぶら歩いているだけで楽しかった。
はじめてワイアットと手をつないで歩いた時は、うれしすぎてその日は眠れなかった。
そのような時間がずっとつづいていくと思っていたが、あっけなく終わりがきた。
教会の奉仕活動で男女に別れてそれぞれ作業をしていた時に、幼馴染みのマチルダとカレンが荷物を運んでいると男の子達の話し声がきこえた。
「お前、なにニヤけてんだよ。さっきエマに話しかけられたからか? あいつ見目のよい男が好きだからお前のことなんて眼中にないって」
「テメー、人のこといえる顔か?」
馬鹿騒ぎしている声にあきれながらマチルダと一緒に通りすぎようとしていると、ワイアットとカレンの名前がきこえた。
「そういえばワイアットは最近カレンと仲良くしてるみたいだけど、カレンの姉ちゃんねらいなんだろう? あいつの姉ちゃん本当にきれいだよなあ」
姉に近づく手段としてカレンと仲良くなろうとする男の子はたくさんいた。
しかしワイアットは姉に興味があるようにみえず安心していたが、本当は姉をねらっていたのかもしれないと胸騒ぎがする。
「はあ? そんなわけないだろう」
ワイアットの声がはっきり聞こえた。姉のことを否定したのでカレンの気持ちは一気に上がった。
しかし現実は残酷だった。
「あいつ俺のこと好きそうだったから、本命ができた時にうまく付き合えるように付き合う練習してるだけだ」とワイアットがいった。
姉ねらいといわれた方がましだった。
「最低! あんたみたいな最低野郎にカレンはもったいない。二度とカレンの前にあらわれるな!」
呆然としているカレンのかわりにマチルダが男の子達にまくしたてると、カレンをうながしその場をはなれた。
怒りがおさまらないマチルダは、ワイアットのことをルーシーにぶちまけた。
ワイアットはカレンにあやまろうと追いかけてきたが、マチルダとルーシーがカレンに近よらせなかった。
カレンは打たれ強い方だが、さすがに好きな人から練習台といわれたのはこたえた。これ以上ダメージを受けたくないのでワイアットをさけた。
しばらくカレンにあやまろうとしていたワイアットもカレンをさけるようになり、お互い町で思いがけず会っても挨拶さえしなくなった。
そしてワイアットが修行で王都にいったので見かけることもなくなった。
カレンにとってワイアットは気まずい相手のままで、まさか懐かしそうに声をかけられるとは思わなかった。
「さすがにあの頃のような怒りはないけど、だからといって平静でいられるほどでもないんだよね。
練習台発言、まだ痛いなあ。やっぱり兄さんがいうように呪われてるわ」
男運の悪さをあらためて実感し、カレンは苦笑した。
ワイアットが帰ってきたということは、お互いの仕事場が近いのでこれから何かと顔を合わせるだろう。
大人として普通に接するしかない。
「黒歴史、つらい」
自分の深刻ぶった声色とため息が我ながらおかしかった。
ワイアットはカレンの初めての恋人で、最後に見かけたのはワイアットが修行で王都にいった三年前だ。
別れてからお互いさけていたので、ワイアットをこれほど近くで見るのは久しぶりだった。
すっかり大人になったワイアットは精悍さがましていた。
目つきが鋭いため女の子から怖がられることはあったが、不器用なやさしさをもった男の子だった。
「久しぶり。元気そうだね」
突然あらわれたワイアットに動揺していたが、カレンは冷静さをとりもどし無難な挨拶を口にした。
「王都にいったきりだったから三年ぶりか? 変わってないな」
変わっていないというのがほめ言葉なのかカレンは悩む。
ワイアットはもともと表情が豊かな方ではなく、それは今でも変わっていないようで真顔だ。
「それをいうならワイアットも変わってないよね。すぐ分かった。
前に同級生に声をかけられた時は、あまりにも変わってたからぜんぜん分からなくて、名前をいわれてようやく誰か分かったんだよね」
自分では落ち着いているつもりだったが、自分の甲高くなった声をきき動揺していると知る。
「邪魔してすまない。懐かしくてつい声をかけてしまった。またあらためて」
ワイアットがタイラーに軽く会釈するとあっさりいってしまった。
タイラーもそろそろと席をたったので解散となった。
カレンは商会にもどりながらワイアットのことを考える。
ワイアットが王都での修行をおえ帰ってくることは幼馴染みのルーシーからきいていたが、まさかこれほど早く遭遇するとは思わず心の準備をまったくしていなかった。
「ちょっと待って。心の準備って何?」
動揺がはげしいようで、自分でも何を考えているのかよく分からない。
ワイアットとは十六歳の時に三か月というみじかい付き合いだった。
カレンが十五歳の時に実家の商会が引っ越し、ワイアットの実家の靴工房のご近所さんになった。そのおかげでワイアットと顔を合わせることが多くなった。
ワイアットとカレンは学校と教会が同じなのでお互いの存在は知っていた。
カレンはワイアットを格好良いと意識していたが、どうせ美人の姉のことが好きだろうとたまに姿をみかけるだけで満足していた。
一歳上のワイアットは取っつきにくかったが、顔を合わせれば挨拶し、話しをするようになってと親しくなっていった。
ワイアットはすこし怖くみえたりするがやさしくて、くしゃっとした笑顔が子供みたいでかわいかった。
カレンはワイアットから付き合おうといわれ本当にうれしかった。
これまでカレンが好きになった男の子は、カレンではなく姉のことが好きで、はじめて姉ではなくカレンのことを好きになってくれる人がいたと浮かれた。
仕事のあいまに話しをしたり、時間があえば昼食をいっしょに食べ、カフェにいったあと行く先を決めずぶらぶら歩いているだけで楽しかった。
はじめてワイアットと手をつないで歩いた時は、うれしすぎてその日は眠れなかった。
そのような時間がずっとつづいていくと思っていたが、あっけなく終わりがきた。
教会の奉仕活動で男女に別れてそれぞれ作業をしていた時に、幼馴染みのマチルダとカレンが荷物を運んでいると男の子達の話し声がきこえた。
「お前、なにニヤけてんだよ。さっきエマに話しかけられたからか? あいつ見目のよい男が好きだからお前のことなんて眼中にないって」
「テメー、人のこといえる顔か?」
馬鹿騒ぎしている声にあきれながらマチルダと一緒に通りすぎようとしていると、ワイアットとカレンの名前がきこえた。
「そういえばワイアットは最近カレンと仲良くしてるみたいだけど、カレンの姉ちゃんねらいなんだろう? あいつの姉ちゃん本当にきれいだよなあ」
姉に近づく手段としてカレンと仲良くなろうとする男の子はたくさんいた。
しかしワイアットは姉に興味があるようにみえず安心していたが、本当は姉をねらっていたのかもしれないと胸騒ぎがする。
「はあ? そんなわけないだろう」
ワイアットの声がはっきり聞こえた。姉のことを否定したのでカレンの気持ちは一気に上がった。
しかし現実は残酷だった。
「あいつ俺のこと好きそうだったから、本命ができた時にうまく付き合えるように付き合う練習してるだけだ」とワイアットがいった。
姉ねらいといわれた方がましだった。
「最低! あんたみたいな最低野郎にカレンはもったいない。二度とカレンの前にあらわれるな!」
呆然としているカレンのかわりにマチルダが男の子達にまくしたてると、カレンをうながしその場をはなれた。
怒りがおさまらないマチルダは、ワイアットのことをルーシーにぶちまけた。
ワイアットはカレンにあやまろうと追いかけてきたが、マチルダとルーシーがカレンに近よらせなかった。
カレンは打たれ強い方だが、さすがに好きな人から練習台といわれたのはこたえた。これ以上ダメージを受けたくないのでワイアットをさけた。
しばらくカレンにあやまろうとしていたワイアットもカレンをさけるようになり、お互い町で思いがけず会っても挨拶さえしなくなった。
そしてワイアットが修行で王都にいったので見かけることもなくなった。
カレンにとってワイアットは気まずい相手のままで、まさか懐かしそうに声をかけられるとは思わなかった。
「さすがにあの頃のような怒りはないけど、だからといって平静でいられるほどでもないんだよね。
練習台発言、まだ痛いなあ。やっぱり兄さんがいうように呪われてるわ」
男運の悪さをあらためて実感し、カレンは苦笑した。
ワイアットが帰ってきたということは、お互いの仕事場が近いのでこれから何かと顔を合わせるだろう。
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