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世間知らずで頭がお花畑。それは私です
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カレンは実家の食料品をあつかう商会で経理の仕事をしている。
三人兄弟の一番上の兄は後継ぎとして営業にはげみ、姉は三年前に結婚し遠くの町に住んでいた。
身内で気安いことから両親だけでなく兄からも雑用をたのまれるので、経理以外の仕事でもこきつかわれている。
「カレン、タイラーの対応をお願い」母から指令がとぶ。
隣町の取引先の商会ではたらいているタイラーは、仕事でなくても近くにくると顔をだす。
カレンはちょうど一息入れようと思っていたので、タイラーをさそいカフェ・ジェスに移動した。
仕事の話をしたあとタイラーがカレンの様子をうかがうように、「元気そうでよかった」といった。
なぜタイラーに心配されているのか考えていると、
「その…… この間大変なことがあったと聞いたけど」といわれ、すっかり意識の外においやっていた結婚詐欺男のことを思い出した。
きっと兄がもらしたのだろう。妹の不運を世間話のネタにするのはやめてほしい。
「恥ずかしすぎですよね。まさかあのようなことに巻き込まれるなんて思いませんでしたよ。
知り合いとしてコーヒーを一緒に飲んでただけなんですけどね」笑いながら明るくいった。
この手のことは本人が気にしていなくても、周りが勝手にかわいそうと同情する。
カレンと結婚詐欺男はカフェで会えば話しをする顔見知りなだけと、家族や幼馴染み達がしっかり周知してくれたが、陰でさんざんなことをいわれているだろう。
「生きてると、とんでもないことが何かとおこるもんですよ」
タイラーがしんみりした声でいう。
「僕なんて結婚してからいろいろあって、人からかわいそう過ぎるといわれ笑うしかなかったですから。それに比べれば何ともありませんって」
タイラーがカレンをなぐさめるため、わざと自分の不運な話を匂わせる気持ちがうれしかった。
タイラーは二十四歳ですでに二度の離婚歴がある。
一度目の結婚はタイラーが仕事で一週間家をはなれている間に妻が他の男性のもとへ走りおわった。
二度目の結婚は妻が病気で生死をさまよい回復したあと、「一度しかない人生なので自分が望むように生きたい」と王都にいってしまい離婚となった。
男運の悪いカレンにいわれたくないだろうが、タイラーの女運の悪さは気の毒だった。
タイラーは頼んだ仕事をしっかりこなしてくれ、商人らしく愛想がよいので親しみやすい。
身なりに気をつけているので清潔感があり女性ウケもよい。
商会の従業員が、「誠実そうで、丸眼鏡がすごくにあってて好きだわあ」といっていた。
「そういえば結婚詐欺師はなぜ私に近付いたんだろう? 詐欺師にねらわれるような財産なんてうちにないし、兄がいるから跡取り娘でもないから、ねらうような価値がそもそもないし」
あらためて考えると、なぜあの男がカレンに近付いたのか不思議だった。
だまされた女性はこの辺りでは見ない色あざやかで上品なコートをきていた。王都に住むお金持ちのお嬢様なのではと思う。
「単純にカレンがあの男の好みだったんじゃないですか? 詐欺のために近付いたのではなく、好みだったから近付いただけでは」
タイラーがにこやかにいった。
「カレンはやさしいし落ち着きもある。一緒にいるとほっとするんですよね。それにかわいいし」
かわいいとほめてもらっても、詐欺師に気に入られたというおまけ付きなので、「そんな男に好かれたくない」と気持ち的にはビミョウだ。
「まあ、その男が考えてたことなんて分かりませんが、カレンが被害にあわず本当によかった」
「終わりよければすべてよしですか?」
「その通り。結果がすべてですよ。
カレンは年頃のかわいい女の子だから、変な男に引っかからないようくれぐれも気をつけて。
もし僕に二度の離婚歴という条件の悪さがなければ、カレンの恋人に立候補したいですよ」
タイラーにはじめて恋人に立候補の社交辞令をいわれた時はドキリとしたが、何度もいわれているのでさすがに聞きあきた。
口先だけと分かっているが、ここでにっこりほほえみ「ぜひ恋人になってほしい」といったらどうなるだろう?
カレンはそのように考えた自分自身を笑う。
気にしていないつもりだったが、結婚詐欺男のことを考えて気持ちが荒れているのかもしれない。
恋愛も結婚もこれほど面倒だとは思わなかった。
好きな人に好きになってもらえない。
それなら親に結婚相手をきめてもらい、さっさと結婚しようと思った。
どうせ好きな人と結婚するようなことはおこらないので、何も期待せずに結婚し、恋だの、愛だのと振りまわされず生きる方が楽だろうと考えた。
世の中、仲の悪い家族でも同じ屋根の下で暮らしている。お互い一緒の空間にいるのが平気なら何とかなるはずとカレンは思ったが、そういうものではなかったようだ。
まさか相手に逃げられるとは想定外すぎた。
婚約者は結婚にたいしカレンとはまったくちがうものを求めていた。
町一番の美人といわれる姉にすこしでも接することができる立場をえようとカレンと婚約した。内気な人だったので何かとこじらせていたようだ。
婚約者はそれでも結婚するのだからとカレンのことを好きになろうとしたが、姉へのこじれきった感情で苦しくなったらしい。
「本当はカレンのお姉さんのことが好きで、カレンのことも好きになろうと努力したけどやっぱり駄目だった。これ以上は無理だ」
姉のことが好きなら姉と婚約できるようにすればよかったのにとそこからして理解できないが、婚約解消の理由も理解できなかった。
簡単に結婚できるだろうと思っていたカレンは頭がお花畑すぎたのだろう。
その後もちがう理由で結婚までいたらない。
結婚詐欺男もカレンが世間知らずでだましやすそうだと近付き、巻き上げるような財産がないので暇つぶしに会っていたような気がする。
それをよい雰囲気になっていると思っていた自分の勘違いぶりがあまりにも痛い。
「知り合いでは?」
タイラーの声に意識をもどすと、見知った男性が隣りに立っていた。
元恋人のワイアットだった。
三人兄弟の一番上の兄は後継ぎとして営業にはげみ、姉は三年前に結婚し遠くの町に住んでいた。
身内で気安いことから両親だけでなく兄からも雑用をたのまれるので、経理以外の仕事でもこきつかわれている。
「カレン、タイラーの対応をお願い」母から指令がとぶ。
隣町の取引先の商会ではたらいているタイラーは、仕事でなくても近くにくると顔をだす。
カレンはちょうど一息入れようと思っていたので、タイラーをさそいカフェ・ジェスに移動した。
仕事の話をしたあとタイラーがカレンの様子をうかがうように、「元気そうでよかった」といった。
なぜタイラーに心配されているのか考えていると、
「その…… この間大変なことがあったと聞いたけど」といわれ、すっかり意識の外においやっていた結婚詐欺男のことを思い出した。
きっと兄がもらしたのだろう。妹の不運を世間話のネタにするのはやめてほしい。
「恥ずかしすぎですよね。まさかあのようなことに巻き込まれるなんて思いませんでしたよ。
知り合いとしてコーヒーを一緒に飲んでただけなんですけどね」笑いながら明るくいった。
この手のことは本人が気にしていなくても、周りが勝手にかわいそうと同情する。
カレンと結婚詐欺男はカフェで会えば話しをする顔見知りなだけと、家族や幼馴染み達がしっかり周知してくれたが、陰でさんざんなことをいわれているだろう。
「生きてると、とんでもないことが何かとおこるもんですよ」
タイラーがしんみりした声でいう。
「僕なんて結婚してからいろいろあって、人からかわいそう過ぎるといわれ笑うしかなかったですから。それに比べれば何ともありませんって」
タイラーがカレンをなぐさめるため、わざと自分の不運な話を匂わせる気持ちがうれしかった。
タイラーは二十四歳ですでに二度の離婚歴がある。
一度目の結婚はタイラーが仕事で一週間家をはなれている間に妻が他の男性のもとへ走りおわった。
二度目の結婚は妻が病気で生死をさまよい回復したあと、「一度しかない人生なので自分が望むように生きたい」と王都にいってしまい離婚となった。
男運の悪いカレンにいわれたくないだろうが、タイラーの女運の悪さは気の毒だった。
タイラーは頼んだ仕事をしっかりこなしてくれ、商人らしく愛想がよいので親しみやすい。
身なりに気をつけているので清潔感があり女性ウケもよい。
商会の従業員が、「誠実そうで、丸眼鏡がすごくにあってて好きだわあ」といっていた。
「そういえば結婚詐欺師はなぜ私に近付いたんだろう? 詐欺師にねらわれるような財産なんてうちにないし、兄がいるから跡取り娘でもないから、ねらうような価値がそもそもないし」
あらためて考えると、なぜあの男がカレンに近付いたのか不思議だった。
だまされた女性はこの辺りでは見ない色あざやかで上品なコートをきていた。王都に住むお金持ちのお嬢様なのではと思う。
「単純にカレンがあの男の好みだったんじゃないですか? 詐欺のために近付いたのではなく、好みだったから近付いただけでは」
タイラーがにこやかにいった。
「カレンはやさしいし落ち着きもある。一緒にいるとほっとするんですよね。それにかわいいし」
かわいいとほめてもらっても、詐欺師に気に入られたというおまけ付きなので、「そんな男に好かれたくない」と気持ち的にはビミョウだ。
「まあ、その男が考えてたことなんて分かりませんが、カレンが被害にあわず本当によかった」
「終わりよければすべてよしですか?」
「その通り。結果がすべてですよ。
カレンは年頃のかわいい女の子だから、変な男に引っかからないようくれぐれも気をつけて。
もし僕に二度の離婚歴という条件の悪さがなければ、カレンの恋人に立候補したいですよ」
タイラーにはじめて恋人に立候補の社交辞令をいわれた時はドキリとしたが、何度もいわれているのでさすがに聞きあきた。
口先だけと分かっているが、ここでにっこりほほえみ「ぜひ恋人になってほしい」といったらどうなるだろう?
カレンはそのように考えた自分自身を笑う。
気にしていないつもりだったが、結婚詐欺男のことを考えて気持ちが荒れているのかもしれない。
恋愛も結婚もこれほど面倒だとは思わなかった。
好きな人に好きになってもらえない。
それなら親に結婚相手をきめてもらい、さっさと結婚しようと思った。
どうせ好きな人と結婚するようなことはおこらないので、何も期待せずに結婚し、恋だの、愛だのと振りまわされず生きる方が楽だろうと考えた。
世の中、仲の悪い家族でも同じ屋根の下で暮らしている。お互い一緒の空間にいるのが平気なら何とかなるはずとカレンは思ったが、そういうものではなかったようだ。
まさか相手に逃げられるとは想定外すぎた。
婚約者は結婚にたいしカレンとはまったくちがうものを求めていた。
町一番の美人といわれる姉にすこしでも接することができる立場をえようとカレンと婚約した。内気な人だったので何かとこじらせていたようだ。
婚約者はそれでも結婚するのだからとカレンのことを好きになろうとしたが、姉へのこじれきった感情で苦しくなったらしい。
「本当はカレンのお姉さんのことが好きで、カレンのことも好きになろうと努力したけどやっぱり駄目だった。これ以上は無理だ」
姉のことが好きなら姉と婚約できるようにすればよかったのにとそこからして理解できないが、婚約解消の理由も理解できなかった。
簡単に結婚できるだろうと思っていたカレンは頭がお花畑すぎたのだろう。
その後もちがう理由で結婚までいたらない。
結婚詐欺男もカレンが世間知らずでだましやすそうだと近付き、巻き上げるような財産がないので暇つぶしに会っていたような気がする。
それをよい雰囲気になっていると思っていた自分の勘違いぶりがあまりにも痛い。
「知り合いでは?」
タイラーの声に意識をもどすと、見知った男性が隣りに立っていた。
元恋人のワイアットだった。
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