5 / 11
第5話
しおりを挟むレギナをアーロン王子に任せたカーラは、急いで帰りの馬車に乗り込んだ。
「もう!どうして途中で帰っちゃうの!?」
ステフィは不満そうにしながらも一緒にカーラと共に馬車に乗り込んだ。
「だって、あのままいたら、アーロン王子やヴェルナー様に色々聞かれるかもしれないじゃない?」
とにかく王族と関わり合いたくないのよ。
「え!?そんなの、緊張しすぎて無理だわ!!」
「そうでしょう?私も無理よ……」
下手に名前を知られて、顔見知りにすらなりたくないもの。
「それにしてもカーラ、リーブシス語が話せたのね」
さっきまで、ヴェルナー様に話しかけられたら鼻から血が出ちゃう!!と騒いでいたステフィが急に鋭い突っ込みをしてきて、カーラは内心ドキッとした。
「え、ええ。昔、ちょっと習った事があってね」
前世の時だけど……。
語学の先生がリーブシス王国の独自文化が好きでリーブシス語は特に力を入れてたからね。先生はリーブシス王国に留学した時に国外には流通しないっていう高価なお茶を飲んだのが忘れられないって言っていたのよね。
その事を王子に話したら、わざわざ取り寄せてくれて……。上手くいっていた時もあったのにな……。
「カーラ、どうしたの?」
つい前世を思い出して暗い顔になってしまったカーラをステフィは心配そうに覗き込んできた。
「ううん。なんでもないわ」
カーラは何でもないように笑うとステフィも安心したように笑い返してくれた。
久しぶりに宮廷に行ったからか、変な事を思い出しちゃったわね。まあ、もう行く事もないからいいわ!
そんなカーラは再び宮廷に行く事になるとはこの時は思ってもみなかった。
◇◆◇
宮廷での舞踏会後、再び穏やかな日々を送っていたカーラにその知らせは突然届いた。
「カ、カカカカーラ!!た、大変だあ!!」
カーラの父、ミッシェル伯爵は大慌てで娘の部屋へやって来た。
ちょうどお茶を飲んでのんびりしていたカーラは、父の慌てようにも動じる事なく紅茶を一口飲むと聞き返した。
「お父様、どうされましたの?」
「カ、カーラに!婚約の話が来た!!」
「まあ、そうですか」
年齢的にもそろそろだろうと思っていたカーラは特に動揺する事もなく、紅茶を一口飲むと落ち着き払った様子で聞いた。
「それで、どこの伯爵家の殿方ですか?」
「ち、ちちちがう。伯爵家ではないんだ!!」
「あら、でしたら子爵家?それとも男爵家?」
「ち、違う!王家だ!我がハンメルン王国のアーロン王子!!」
父の言葉にカーラは何度か瞬きを繰り返すと
「……何かの手違いでしょう」
と言って紅茶を飲み直した。
「いや、カーラ!落ち着いている場合ではないぞ!!」
相手を聞いても未だ落ち着き払う娘に、ミッシェル伯爵の方は更に取り乱す。
「お父様、少し落ち着いてよく考えて下さい。伯爵家の中でも下級の家柄、それに加え普通、いえ地味な容姿の私にアーロン王子との縁談が持ち上がるはずがありませんわ」
「だ、だがこの前、宮廷の舞踏会に行っただろう?あの時に見初められたのではないのか!?」
「そんな筈ありませんわ」
だって、宮廷舞踏会の時にアーロン王子と鉢合わせたのはほんの一瞬。名乗る前に宮廷から去ったんだから、私の素性を知るはずもないもの!
「と、とにかく一度お前と話がしたいから王宮へ来てほしいとの事だ」
「…………お断りを」「出来るわけないだろう!!」
カーラの言葉に被せるようにミッシェル伯爵の声が響いた。
まあ、王族の誘いを下級の伯爵家が断れるわけはありませんよね。これからも地味に穏やかな人生を送るために王家に睨まれるわけにもいかないわ。
ここはサクッと行って、サクッと人違いだったって分かってもらった方が得策ね!
カーラは1つ大きく溜息を吐くと
「仕方がありませんわね」
と言って、立ち上がったのだった。
322
あなたにおすすめの小説
今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、推しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる