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第6話
しおりを挟む「やっぱり君だった」
そう言ってアーロン王子は満足そうに微笑んだ。
再び宮廷にやって来たカーラは、アーロン王子と対面していた。
「……アーロン王子が私のような地味な娘を婚約者になどとは何かの手違いですよね?」
満面の笑みを浮かべるアーロンとは対象的に引きつった表情でカーラは聞いた。
お願い!手違いって言って!
「いいや、間違っていない。君はあの時レギナ様を助けてくれた令嬢だ。レギナ様が改めて礼がしたかったと残念がっていたよ」
ああ、そう言う事ね。レギナ様に頼まれて探していたのね。なんだ。お父様の勘違いね。婚約者だなんて人騒がせな事を……。
「いいえ、あの時は人として当然の事をしたまでです。恐れ多いですわ」
婚約者などという恐ろしい話ではなかった事に安心したカーラは穏やかに話し始めた。
「いいや、君のお陰で国際問題にならずに済んだんだ。私からも礼を言わせてもらう」
「アーロン王子にそう言って頂けて光栄ですわ。所であの時は名乗りもしなかったのに私の事はどこでお知りになられたのですか?」
「ああ、ラバイス伯爵の子息が君の名を教えてくれたよ」
リドット、どこまでも余計な事を!!
でもこれで、もうここには用はないわね。
「そうでしたか。では、これで失礼致します」
そう言って礼をしようとするカーラをアーロンが手で制した。
「カーラ嬢、まだ話しは終わっていないが?」
止められたカーラはアーロンの方を怪訝な顔で見た。
なに?報奨金でも貰えるの?
すると、アーロンは意味ありげに微笑んで言った。
「それで、手紙にも書いた通り君を私の妃候補の一人にしたいんだ。受けてくれるかい?」
そ、それは手違いじゃなかったのー!?
「知っての通り、私には妃候補が他にもいるんだが、そこにカーラ嬢も加わって欲しい」
それだけは、絶っっっ対に嫌!!
王族に睨まれようがなんだろうがここだけはちゃんと断らないと!!
「……お断り」「大変光栄でございます!!ぜひとも!!」
カーラの言葉に被せるように満面の笑みで答えたのは父のミッシェル伯爵だった。
「そうか。良かった」
そして、アーロン王子も満足そうに微笑む。
ちょっと待って!!私の意見は無視!?
にこやかに微笑む二人にカーラはハッキリと言った。
「あの!!大変光栄なお話ではありますが、お断りさせて頂きます!!」
「カ、カーラ!?」
ミッシェル伯爵の焦った声が響く。
「どうしてだ?」
そして、アーロン王子は焦る事なくしっかりとカーラを見つめて聞いた。
「私は下級の伯爵令嬢です。王子の妃など、釣り合うはずもありませんし、王族の妃になる為の教育なども受けておりません。私には荷が重すぎます……」
どう考えたって釣り合ってないんだから諦めてよ!
カーラは深刻そうにそう話したが、アーロンは意に介さぬ様子で言った。
「それは問題なさそうだが。カーラ嬢は、リーブシス語が話せるらしいね。それもかなり上手だとか……。レギナ様が言っていたよ」
「そ、それは以前、習った事があって少し話せるだけで……。他の国の言葉は話せませんし……」
本当は前世の公爵家の厳しい妃教育で主要国の言語はマスターしているけれど……。
「まあ、その辺は追々、妃教育でやるとして……、一番は、私が君の事が気になるからだ。君の事をもっと知りたい」
真っ直ぐにカーラを見てそう告げたアーロンに、カーラは視線を逸らす事が出来なかった。
……そんな事、前世の婚約者だった王子にも言われたこと無い――
「アーロン王子……」
「だから、私の妃候補になって貰いたい。駄目か?」
駄目かと聞かれれば、駄目だと答えたい。だって、私は王族とは関係ない地味な人生を送りたいんだから。
でもこの人なら……、前世の私が人生を掛けてしてきた事を肯定してくれるのかもしれない。でも……
アーロンは答えられないでいるカーラの目の前に来ると、手を取って甲にそっと口付けて聞いてきた。
「カーラ……良いか?」
「は、い……」
「そうか」
私の答えに満足そうに笑うアーロン王子を見て、自分が何を言ったのか理解した。
ちょっと待って!!何でOKしちゃったの!?私の馬鹿ー!!
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