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第5話
しおりを挟むレギナをアーロン王子に任せたカーラは、急いで帰りの馬車に乗り込んだ。
「もう!どうして途中で帰っちゃうの!?」
ステフィは不満そうにしながらも一緒にカーラと共に馬車に乗り込んだ。
「だって、あのままいたら、アーロン王子やヴェルナー様に色々聞かれるかもしれないじゃない?」
とにかく王族と関わり合いたくないのよ。
「え!?そんなの、緊張しすぎて無理だわ!!」
「そうでしょう?私も無理よ……」
下手に名前を知られて、顔見知りにすらなりたくないもの。
「それにしてもカーラ、リーブシス語が話せたのね」
さっきまで、ヴェルナー様に話しかけられたら鼻から血が出ちゃう!!と騒いでいたステフィが急に鋭い突っ込みをしてきて、カーラは内心ドキッとした。
「え、ええ。昔、ちょっと習った事があってね」
前世の時だけど……。
語学の先生がリーブシス王国の独自文化が好きでリーブシス語は特に力を入れてたからね。先生はリーブシス王国に留学した時に国外には流通しないっていう高価なお茶を飲んだのが忘れられないって言っていたのよね。
その事を王子に話したら、わざわざ取り寄せてくれて……。上手くいっていた時もあったのにな……。
「カーラ、どうしたの?」
つい前世を思い出して暗い顔になってしまったカーラをステフィは心配そうに覗き込んできた。
「ううん。なんでもないわ」
カーラは何でもないように笑うとステフィも安心したように笑い返してくれた。
久しぶりに宮廷に行ったからか、変な事を思い出しちゃったわね。まあ、もう行く事もないからいいわ!
そんなカーラは再び宮廷に行く事になるとはこの時は思ってもみなかった。
◇◆◇
宮廷での舞踏会後、再び穏やかな日々を送っていたカーラにその知らせは突然届いた。
「カ、カカカカーラ!!た、大変だあ!!」
カーラの父、ミッシェル伯爵は大慌てで娘の部屋へやって来た。
ちょうどお茶を飲んでのんびりしていたカーラは、父の慌てようにも動じる事なく紅茶を一口飲むと聞き返した。
「お父様、どうされましたの?」
「カ、カーラに!婚約の話が来た!!」
「まあ、そうですか」
年齢的にもそろそろだろうと思っていたカーラは特に動揺する事もなく、紅茶を一口飲むと落ち着き払った様子で聞いた。
「それで、どこの伯爵家の殿方ですか?」
「ち、ちちちがう。伯爵家ではないんだ!!」
「あら、でしたら子爵家?それとも男爵家?」
「ち、違う!王家だ!我がハンメルン王国のアーロン王子!!」
父の言葉にカーラは何度か瞬きを繰り返すと
「……何かの手違いでしょう」
と言って紅茶を飲み直した。
「いや、カーラ!落ち着いている場合ではないぞ!!」
相手を聞いても未だ落ち着き払う娘に、ミッシェル伯爵の方は更に取り乱す。
「お父様、少し落ち着いてよく考えて下さい。伯爵家の中でも下級の家柄、それに加え普通、いえ地味な容姿の私にアーロン王子との縁談が持ち上がるはずがありませんわ」
「だ、だがこの前、宮廷の舞踏会に行っただろう?あの時に見初められたのではないのか!?」
「そんな筈ありませんわ」
だって、宮廷舞踏会の時にアーロン王子と鉢合わせたのはほんの一瞬。名乗る前に宮廷から去ったんだから、私の素性を知るはずもないもの!
「と、とにかく一度お前と話がしたいから王宮へ来てほしいとの事だ」
「…………お断りを」「出来るわけないだろう!!」
カーラの言葉に被せるようにミッシェル伯爵の声が響いた。
まあ、王族の誘いを下級の伯爵家が断れるわけはありませんよね。これからも地味に穏やかな人生を送るために王家に睨まれるわけにもいかないわ。
ここはサクッと行って、サクッと人違いだったって分かってもらった方が得策ね!
カーラは1つ大きく溜息を吐くと
「仕方がありませんわね」
と言って、立ち上がったのだった。
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