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11.どっちみち
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◇
「……あのぅ……これは、一体?」
仕事おわり、俺は八乙女の膝の上にいた。
行きたくないぃと心がダダを捏ねても、俺は真面目な社会人。すっぽかすことなど出来ずに今日もしっかり八乙女宅で仕事をしていた。
「七生さんが昨日キスがもう嫌だと半泣きになるから、今日はキスは我慢します。代案です」
「……だ、代案!? これが!?」
「えぇ。かなり譲歩したつもりですよ」
どうにか密着を最小限にしたいと前のめりになるが、腰元に回された彼の腕が引き戻す。
膝上ギュウギュウは、バカップルの図そのものじゃないか!!
「お、重たくないですか?」
「いいえ、全く」
八乙女が「これ、いいですね」と頬を緩ませるが、俺はこれのよさがさっぱり分からない。
キスとはまた違った拷問に狼狽える。
沈黙していると、さらにいたたまれない。
「あっ、あの、八乙女さんってどうしてヤクザの弁護士をされているんですか!?」
ひぎゃ、俺、なんてことを聞いているんだ!
これを聞いてどうすんだよぉ。怖い過去とかあったら、聞きたくないよぉ!
「あぁ、僕はずっと“三栗七生“を探していました。普通の探偵はちっとも役に立たないクズばかりなので。あの人達に国内外のオメガを探してもらっていたんです。その代わりに弁護を引き受けました。闇ルートでしか分からない手がかりもあるだろうと身元不明者など色々探してもらいましたね」
「……」
え。
ガチで怖い返答きた。
斜め上すぎて怖い怖い。
え。俺? 三栗七生って俺だっけ? 実は俺、三栗七生じゃないんじゃないかな。
現実逃避を考える俺の身体を八乙女はぎゅっと抱きしめて、ふっと笑う。
「私があの事務所の顧問弁護士をしなかったら、出会わなかったので必然ですね」
「……」
キュンしないけど、動悸がするよ?
なんだろう、このガクガクブルブル悪寒が止まらないよ?
そんな俺の首元にふわっと髪の毛がくすぐる。
「七生さんの匂い、堪りません」
「……」
首筋にやわらかい感触。
「ひ──っ」
逃げようとしたら、腰に回されている八乙女の手が上半身を撫でる。セクハラでーすっ!
「やめてくださいっ、俺はそこまでは許していません」
「首の後ろに黒子。全然変わらないんですね」
「え⁉」
黒子⁉ 俺、首の後ろに黒子なんてあったっけ⁉
指摘されないと気付かないそれをちゅうっと強く吸引される。
「っひん!」
自分の高い声に口元を押さえた。
口へのキス攻撃もマズかったけど、この状況の方がより一層ヤバいんじゃないか。
以前、客のオメガの首が、アルファに噛まれて酷い傷を負ったのを見たことがある。
化膿を心配した俺は病院に連れて行った。そのとき、オメガは自分も“トリップ”しているから気持ちよさしか感じないと言っていたっけ。
でも、それってさ。アルファとオメガ間だけだよね!?
さぁっと血の気が引いていると、八乙女が急に首を吸引しはじめた。
「わわっ、八乙女さんっ⁉」
彼の体温がみるみるうちに上がっていく。これ、ラット起こしかけてない!? ラット起きたらどうなんの!?
抱き締めてくる彼の腕をつねりながら、懸命に逃げようとするがビクともしない。
こうなりゃ、鞄の中に入っている非常用のベルを鳴らして……げ。
吸われていた首から唇が離されたと思った後、尖った歯の感触────……。
「八乙女さぁああんんっ!! 俺、ベータです! 正気に戻って下さい」
「っ!?」
ベル以上の大きな声で叫んだその瞬間、俺の身体を抱きしめていた両腕はパッと離された。身体が自由になりゆっくりと彼の膝から抜け出して、ひょろひょろと地面に座り込んだ。
恐るおそる八乙女を見ると、彼も青白くなっている。俺と目が合うとハッとして座り込んでいる俺にどこも痛くないかと心配してくれる。
「ごめんなさい。無理やり番にするつもりなんてないのに、本能的に噛もうとしてしまいました。怖がらせて本当にごめんなさい。なんて謝っていいのか!」
「え、いや。番にはなれないですよ」
「少し、歯が当たりました。今から病院へいきましょう!」
あの何を言っても独自スタイルで飄々としている八乙女が、ものすごく焦っている。彼の額から冷や汗が伝う。
初めて見た彼の狼狽を見て、冷静になってくる。
「落ち着いてください。俺はベータです。もし噛んでも噛み傷だけで番にはなれませんよ」
立ち上がって、落ち着いた声で、なんともないことを伝える。
そして自分で首を触って、出血もないことを確認し、もう一度「大丈夫です」と声をかけた。
すると、八乙女は息を吐き、頭を下げた。
「……すみません。取り乱しました。大声で叫んでくださり助かりました」
そのあと俺は彼の膝上ではなく、ちゃんとソファに座らせてくれる。凄く反省しているっぽいので……
「そんな落ち込まないでくださいよ! ぜーんぜん平気ですよ。ベータですからね! 三栗七生はベータそのものです! どんなにキスされたってこれっぽっちも匂いが分かりません。だからぜぇったいに番にはならないので安心してくださいね! ちなみに俺の好きなタイプは可愛い系です。八乙女さんと真逆です。だから運命もかんち────……ひぇえ」
ガシィと両頬掴まれた。
「そこは分からせてさしあげます」
額に青筋たてて八乙女にブチューと腰砕けになるまでキスされた。
滅茶苦茶しつこくて一時間はしていたように思う。
結局キスするんじゃんかぁ。
「……あのぅ……これは、一体?」
仕事おわり、俺は八乙女の膝の上にいた。
行きたくないぃと心がダダを捏ねても、俺は真面目な社会人。すっぽかすことなど出来ずに今日もしっかり八乙女宅で仕事をしていた。
「七生さんが昨日キスがもう嫌だと半泣きになるから、今日はキスは我慢します。代案です」
「……だ、代案!? これが!?」
「えぇ。かなり譲歩したつもりですよ」
どうにか密着を最小限にしたいと前のめりになるが、腰元に回された彼の腕が引き戻す。
膝上ギュウギュウは、バカップルの図そのものじゃないか!!
「お、重たくないですか?」
「いいえ、全く」
八乙女が「これ、いいですね」と頬を緩ませるが、俺はこれのよさがさっぱり分からない。
キスとはまた違った拷問に狼狽える。
沈黙していると、さらにいたたまれない。
「あっ、あの、八乙女さんってどうしてヤクザの弁護士をされているんですか!?」
ひぎゃ、俺、なんてことを聞いているんだ!
これを聞いてどうすんだよぉ。怖い過去とかあったら、聞きたくないよぉ!
「あぁ、僕はずっと“三栗七生“を探していました。普通の探偵はちっとも役に立たないクズばかりなので。あの人達に国内外のオメガを探してもらっていたんです。その代わりに弁護を引き受けました。闇ルートでしか分からない手がかりもあるだろうと身元不明者など色々探してもらいましたね」
「……」
え。
ガチで怖い返答きた。
斜め上すぎて怖い怖い。
え。俺? 三栗七生って俺だっけ? 実は俺、三栗七生じゃないんじゃないかな。
現実逃避を考える俺の身体を八乙女はぎゅっと抱きしめて、ふっと笑う。
「私があの事務所の顧問弁護士をしなかったら、出会わなかったので必然ですね」
「……」
キュンしないけど、動悸がするよ?
なんだろう、このガクガクブルブル悪寒が止まらないよ?
そんな俺の首元にふわっと髪の毛がくすぐる。
「七生さんの匂い、堪りません」
「……」
首筋にやわらかい感触。
「ひ──っ」
逃げようとしたら、腰に回されている八乙女の手が上半身を撫でる。セクハラでーすっ!
「やめてくださいっ、俺はそこまでは許していません」
「首の後ろに黒子。全然変わらないんですね」
「え⁉」
黒子⁉ 俺、首の後ろに黒子なんてあったっけ⁉
指摘されないと気付かないそれをちゅうっと強く吸引される。
「っひん!」
自分の高い声に口元を押さえた。
口へのキス攻撃もマズかったけど、この状況の方がより一層ヤバいんじゃないか。
以前、客のオメガの首が、アルファに噛まれて酷い傷を負ったのを見たことがある。
化膿を心配した俺は病院に連れて行った。そのとき、オメガは自分も“トリップ”しているから気持ちよさしか感じないと言っていたっけ。
でも、それってさ。アルファとオメガ間だけだよね!?
さぁっと血の気が引いていると、八乙女が急に首を吸引しはじめた。
「わわっ、八乙女さんっ⁉」
彼の体温がみるみるうちに上がっていく。これ、ラット起こしかけてない!? ラット起きたらどうなんの!?
抱き締めてくる彼の腕をつねりながら、懸命に逃げようとするがビクともしない。
こうなりゃ、鞄の中に入っている非常用のベルを鳴らして……げ。
吸われていた首から唇が離されたと思った後、尖った歯の感触────……。
「八乙女さぁああんんっ!! 俺、ベータです! 正気に戻って下さい」
「っ!?」
ベル以上の大きな声で叫んだその瞬間、俺の身体を抱きしめていた両腕はパッと離された。身体が自由になりゆっくりと彼の膝から抜け出して、ひょろひょろと地面に座り込んだ。
恐るおそる八乙女を見ると、彼も青白くなっている。俺と目が合うとハッとして座り込んでいる俺にどこも痛くないかと心配してくれる。
「ごめんなさい。無理やり番にするつもりなんてないのに、本能的に噛もうとしてしまいました。怖がらせて本当にごめんなさい。なんて謝っていいのか!」
「え、いや。番にはなれないですよ」
「少し、歯が当たりました。今から病院へいきましょう!」
あの何を言っても独自スタイルで飄々としている八乙女が、ものすごく焦っている。彼の額から冷や汗が伝う。
初めて見た彼の狼狽を見て、冷静になってくる。
「落ち着いてください。俺はベータです。もし噛んでも噛み傷だけで番にはなれませんよ」
立ち上がって、落ち着いた声で、なんともないことを伝える。
そして自分で首を触って、出血もないことを確認し、もう一度「大丈夫です」と声をかけた。
すると、八乙女は息を吐き、頭を下げた。
「……すみません。取り乱しました。大声で叫んでくださり助かりました」
そのあと俺は彼の膝上ではなく、ちゃんとソファに座らせてくれる。凄く反省しているっぽいので……
「そんな落ち込まないでくださいよ! ぜーんぜん平気ですよ。ベータですからね! 三栗七生はベータそのものです! どんなにキスされたってこれっぽっちも匂いが分かりません。だからぜぇったいに番にはならないので安心してくださいね! ちなみに俺の好きなタイプは可愛い系です。八乙女さんと真逆です。だから運命もかんち────……ひぇえ」
ガシィと両頬掴まれた。
「そこは分からせてさしあげます」
額に青筋たてて八乙女にブチューと腰砕けになるまでキスされた。
滅茶苦茶しつこくて一時間はしていたように思う。
結局キスするんじゃんかぁ。
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