ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

文字の大きさ
10 / 25

10.にんにくましましラーメン

 
 会社の休憩時間にPCを見ながらメモを取っていると、横デスクの同僚の岡村が覗き込んでくる。

「三栗さん、真剣に何見てんの……うわっ」

 岡村が大声を出したけど、丁度部署に人は出払っていて迷惑にならずに済んだ。
 俺が真剣に見ていたのは【退職届の書き方】【退職届の出す時期】だ。そして、俺がPCを見ながら書いているのはメモじゃなくて退職届だ。

 岡村は椅子に座って、小声になった。

「え。なんで? 三栗さん、うちの職場天職だって言ってなかった?」
「……」

 うん。この前まで本当にそう思っていた。フェロモンが分からないこの体質のおかげで感謝されることが多く、やりがいを感じていた。

「全部、この体質のせいなんだ……くぅ!」


 今まで何不自由なかったこの体質が仇となった!
 俺にフェロモンを感知する感覚があれば、八乙女に運命だと“勘違い”していることに気づかせてやれるんだ!
 話が全然っ通じないし、話せば話すほど相手のペースになってしまう。
  

「なになに? 辞める程悩むこと? あ、もしかして今担当している八乙女様がヤバい客とか? 担当変更してもらえばいいじゃん。うちの会社そういうの融通利くでしょ?」

「どうだろう……、八乙女さん、アルファでヤクザの顧問弁護士なんだ。俺に執着して周りが見えてないんだ。下手に刺激したくない」

「あぁ……アルファの執着って怖いからね。災難だね」


 岡村はこの話には触れないでおこうと席を立つが、がしっと腕を掴んだ。
 まぁ、聞けよ。
 興味があったんだろ?
 中途半端に聞くなら最後まで聞いていけ。

 俺が、そう目で訴えると、岡村は苦笑いしながらしぶしぶ椅子に座り直した。

「前から言っているように、俺はフェロモンが分からない」
「あぁ、それが三栗さんの長所だから」
「今回は、それが仇になったんだ……」

 俺は八乙女とのこれまでの経緯を伝えた。
 とある問題に巻き込まれてヤクザ事務所に連れて行かれて八乙女と出会い執着されることとなったこと。
 ──そして、仕事中の様子。

 八乙女の家では、買い出し、料理、掃除を行っている。……掃除って言ったって、元々汚れていない場所を掃除するのだから、非常に楽な仕事だ。

 ただ、問題は仕事が終わった後……。
 仕事が終わる時間帯になると、今までPCを触っていた八乙女がじぃっと俺を見始める。
 水中にいるあざらしが水辺に顔を出すのを待つ白熊かのような計画的で獰猛な目だ。

 ギクリギクリしながら、「用事があるので仕事終わったら急いで帰りますね」なんて誤魔化そうとしてもそうは問屋が卸さない。

「なら車で送っていきます」

 すぐさま、そう言われる。
 調子が悪いと言えば、泊っていけ・外に出るな。
 部屋から急いで出ようとすれば、追いかけられてキス。
 無駄に早く動いたせいで息が上がってすげぇ苦しいキス。
 友達と約束していると言えば、待ち合わせは何時かと聞かれ時間ギリギリまでねちっこいキス。

「あ! 俺、今日はにんにくましましラーメンを食べたので、恥ずかしいので近寄らないでくださいねぇ!」

 言い訳のために本当に二郎系ラーメンににんにくましましで食べたのだ。
 普段こういう仕事しているから絶対に食べないけれど、嫌われる勇気を持つべきだ! と。 
 この何とも言えない脂っこい臭いは一緒の部屋にいる八乙女だって気付いているだろう。

 ──が。
「七生さんの匂いがいつもと違って興奮しますね」
 この男は、口臭など些細なものだと言わんばかりにキスをしやがった。
  

 逃げる言い訳もネタ切れ。


「俺、もうどうしたらいいのか分からないんだよぉ」
「……凄いことになっていたんだな」
「そう! そうなんだよ。だからこれは退職届はお守りだ」
「どんまい……」
 

 俺は退職届をデスクの一番上の引き出しに入れた。
 いざという時にこれを出す。そう思うと幾分気分がマシになった。




感想 6

あなたにおすすめの小説

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

俺の婚約者は悪役令息ですか?

SEKISUI
BL
結婚まで後1年 女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン ウルフローレンをこよなく愛する婚約者 ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。