ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

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13.ぞくん。ってなに? *

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「変な匂いがします」
「え……?」

 SEIの仕事は午前中に終わったため、午後からの仕事は八乙女宅だ。

「変な匂い? おかしいな。今日はラーメン食べていませんけど」

 臭い攻撃は八乙女には効果がないと思って、あれ以来にんにくましましラーメンを食べていなかった。
 昼ごはんはコンビニで買った鮭弁(料理出来るからと言って皆自炊するとは思うなよ)を職場で食べた。

 毎日風呂も入っている。というか、にんにくましましラーメンよりキツイ臭いを俺はしているのか!?
それってエチケット的に駄目じゃない!?

 慌てて自分の臭いをクンクン嗅ぐけれど、自分の臭さって分からない。

 え……、加齢的な? それとも腋臭的な?

 困って八乙女を見ると、眉間に深いシワを作っている。

「臭い!」
「っ!!」
 
 ひぃ、コイツは鬼か。酷すぎる。凄く臭そうな顔して、二度も言われた。

「それ、なんです?」

 八乙女が俺の首を指さした。俺は首にSEIから貰ったサポーターを巻き付けていた。
 SEIが付けてくれて、外すのを忘れていた。


「あぁ、お洒落なサポーターでしょう。いただいた……ひぃいいい!?」

 八乙女が俺のサポーターを掴んだ。だけど、そのサポーターはオメガ用の特注なので、中に針金がぁ、なんに、するんだ!?

 睨むと、八乙女が物凄い圧で見下ろしてくる。
 ひゅう~と冷気を感じるような恐ろしい目だ。

「失礼。全身臭いですが、特にこれが臭いです」
「そ、そんなはずないですよ!? ひぇ!?」

 睨むのをやめてくださーい! 
 直ちにそのナイフのような鋭く尖った目で見つめてくるのをやめてください!


「首に違う男の匂いを巻き付けるなんて、有り得ない。耐え難い。すぐに洗い流します」

「へ……?! ひゃぁっぁぁあああああ!?」

 八乙女は170センチの俺を軽々と抱き上げた。突然宙に浮き、咄嗟に八乙女の首にしがみ付く。

 ひぇっと思った先は、既に脱衣所で。やめっと抵抗してもすぐに服が脱がされていた。


「………………」


 そして、ジャ────と頭からシャワーをぶっかけられている。
 え。なに。
 どういうこと?
 酷くない? 俺への対応、めちゃんこ酷くない? 

 そう思っていると、もくもくの泡で全身を洗われた。え。気持ち良すぎて混乱。
 その後、適温の湯を張った湯船に肩までつからされる。
 え。対応が酷いのか良すぎるのか混乱。


「……」

 チラリと横目で八乙女を見ると、シャツとズボンがびちょ濡れだ。また表情が能面になっているし。
 浴室の縁に腕と顎を乗せて睨んだ。

「八乙女さん」
「はい」
「……匂いがしたんですね」

 そこで、ようやくまともに目が合った。

「すみません……、衝動が抑えきれず」


 縄張り意識か? 
 最近、カバの縄張り意識が高すぎる動画を見た。テリトリーに入るだけで威嚇攻撃をする。それがカバの本能。
 万能感溢れるアルファだけど、最も動物的な性なのかもしれないな。

 なんだか、大人しくしょげているので、その形がいい額にデコピンした。


「八乙女さん、俺はとりあえず恋人は一度につき一人です」
「素敵な考えです」
「そうでしょうとも。──まぁ、お試し中ですけど」


 にこっと笑ってあげると、彼も肩の力を抜いた。
 場の雰囲気元通り。
 さぁ、よかった、そら出て行け! こうなれば、このやたら大きなユニットバスを楽しんでやる。

「折角なので、お風呂ゆっくりいただきます! 八乙女さんは出てくだ」
「キスしたいです」
「……え」

 振ろうと思った手をぎゅっと握られた。

「キスしていいですか?」

「え」

 八乙女の唇が近付いてくる。
 え、くっつくじゃん。もう唇がくっついとるやんか! 裸でキスとか無理だけど!

 いいですか!?
 疑問形で聞く時はちゃんと俺の許可をとるもんなんですよおおっぉおおおお!!!


「ぎゃっ……ふ!」

 おいおいおぉい~、八乙女ぇ! 

「んんんんんっ」
 八乙女の胸を押して腰を引くが、腕が巻き付く。
 ぎゃ、ぎゃ……裸で身体が密着するのは、やばいだろう⁉

 藻掻く俺に対して、早くキスで気持ちよくなれ! と言わんばかりに口腔内に入ってきた舌が暴れまわる。
 
「ふ……ぅ……んっ」

 浴室だから、自分のくぐもった声がよく響く。
 感じやすい下顎をなぞられる感触に、気持ちよくならないように、瞼に力を入れた。
 気持ちよさ、あっちへいけぇ……

「……っ」
 八乙女が、腰をゆったりと撫でた。
 俺と八乙女との間に服一枚隔たりがないせいで、その手に全神経集中してしまう。

 抱きしめている手が、俺の背中を何度も撫でる。

「ふ、……っ」

 いつもは服で隠れている下半身の反応が、今日は隠す物がない。
 これ以上酷くなる前にやめてもらおうと再び腰を引くと、八乙女の太ももに性器が擦れた。
 ぞくっ。

 直接的な快感に自分の性器がぴくんと跳ねる。
 八乙女が、少しだけ唇を離し、そんな俺を見ている。


「ぅ……も、やめて……」
「……」

 返事がない。だけど唇がすぐに迫ってくる気配もしない。

 いつものキスだって、下半身が反応してしまう。けど、彼は無視してくれていた。
 お試し期間だから、キスだけに留めてくれているのだと勝手に思っている。


「……俺が、風呂から出ますから」

 出て行ってくれないのなら、自分が。
 ──そう思い、もう一度突っぱねた時だ。八乙女は掴んでいる腕を弱めた。俺の視界には彼の首筋がある。

 
 ぞくん。

 
 あ、れ……?
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