ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

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14.アルファの前でしてはならないこと*

「七生さん?」
「……」

 俺を呼ぶ八乙女の声。
 彼の腕は完全に俺から離れていた。なのに、一瞬、俺はぼんやりして八乙女を見つめてしまったようだ。

「ご、ごめん……」

 すると、八乙女が「ちっ」と舌打ちする。

「誘うような表情をしている、七生さんも悪いですよ」
「……い、いやいや……」
「どこまでしていいですか?」
「えっ……どこまで?」
「お試しは、どこまでならいいですか。──髪、肩、腕?」


 八乙女は言いながら、そこを撫でていく。

「胸?」

 平らな胸のぷくっとした尖りを胸の腹で撫でた。
 やたらそこをゆっくり触るから、感覚が敏感になって過剰な反応をしてしまう。
 ──なんで、触られているだけで、先走りまで出ちゃっているんだよ⁉


「ひぅっ」
「ねぇ、その反応した性器、出さないと収まらないでしょう?」
 
 低く艶のある声が耳元で囁く。
 ぞくぞく……

「手伝うだけ。お願いします。触れたいんです」
「あ……う」

 理性を総動員させたって。
 今の八乙女の真っすぐな瞳の威力には適わない。
 
 八乙女は俺の胸に添えている指をつぅっと下にスライドさせていく。
 腹、臍、下腹部、それから勃起している性器に触れた。

「──ん」

 柔らかく陰茎を包み込む手がゆっくりと上下に動かし始める。

「……っ、ん、ん……」

 リズミカルに擦られて、俺の性器からつぅっと透明の液体が漏れ始める。
 それをぬちゃりと性器全体に塗り込んでいく。

「う……あ」

 視線をあげると、八乙女の目をぶつかった。ぞわぞわ……
 なんで、こんなに胸がざわつくのか。

「み、見ない、で」

 途絶え途絶えに伝えると「分かりました」と言いながら、奴はキスをしてきた。
 激しいキスの中、俺は高そうな服を汚してしまった。

 



 ◇ 




 やっちまった。
 最近のお高い洗濯機は音も静かなんだなぁ。と回っている洗濯機を眺めながら思った。


「はぁぁああ」

 俺を発散させた後、八乙女はすぐに浴室から出て行った。
 身体が冷えるような季節じゃなかったけど、再度湯船に身体を沈めた。猛烈な恥ずかしさとでしばらく湯船から出られなかった。

 何に配慮したかって? 
 それは八乙女の身体が物凄く反応していたからだよ。


 だから……そういう配慮だ。
 長湯し過ぎて、若干のぼせた。

 それから脱衣室には新品下着(俺のサイズ…)と着替え用の八乙女のシャツが置いてあった。自分の服が見当たらないのでそれを着ることにした。


 暫く回る洗濯機を無心で眺めていたが、、洗濯機が「早く行けよ」と言うように終わりの音を鳴らす。
 俺は仕方ないと立ち上がり、脱衣室からリビングの扉をそうっと開いて室内を覗いた。


 キッチンの隅、換気扇の下、八乙女は煙草を吸っていた。
 この家で煙草を吸う姿を初めて見る。
 その姿は何とも男らしい色気が漂っていた。愁いを含んだ表情も骨ばった手も仕草も格好いい。

「八乙女さん、服、お借りしました」

 気まずさを押し殺して声をかけると、振り向いた八乙女が微かに目を見開き、ポロリと煙草を床に落とした。
 その後、眉間にシワを深く刻みながら落とした煙草を拾い、灰皿にグリグリと煙草を潰す。

 ──あれ? イライラしている?

「服、置いてあったので勝手に着たのですが、違いましたか?」

「……いいえ。七生さんの着替え用に僕が置いたものです。すみません。七生さんのシャツ、ボタンを飛ばしてしまいまして」

 俺のシャツはリビングにきちんと畳んで置かれていた。
 手に取ってみると第二ボタンが外れている。ボタン付けくらいなら出来るけど、ソーイングセットは持ってきていない。
 シャツを弁償すると言う彼を断り、その代わり今日は服を借りることにした。

「じゃぁ、洗濯物干してきますね」
「……はい、お願いします」

 灰皿をちらりと見ると、たばこが九本。
 来たときは臭いも何もなかったから、今の間にどれだけ吸っていたんだろう。

 やっぱり不機嫌な気がするけど、八乙女が変わった反応することは今更だ。
 だけど、ベランダから戻ってきたあとも、八乙女は苛立ったままだった。
 飴かタブレットか? やけにガリガリ噛み砕いている。

 

 どうしたんだ?
 聞き返す? いや、地雷かもしれない。
 不機嫌な理由は──まだ俺の首からSEIのフェロモンがする、とか? いや、それは流石にないだろう。

 残るは?
 もしかして、さっき風呂で俺の性器を扱いたとき、“運命”じゃないと気づいた。とか?

「……」

 チラリと彼を見た。
 う。視線が突き刺さりそう。
 俺は苦笑いしながら、八乙女に背を向けて自分の荷物を手に持った。

「じゃ、明日は休日なので、明後日伺いま……」

 振り向いた瞬間、八乙女が真後ろにいて、ガシッと肩を掴まれる。
 営業スマイルが凍り付く。
 いつもと違って煙草の匂いもするし、眉間のシワがより濃くなっている。こえぇ。

「七生さん」
「……はい……な、なんですか?」


 おいおい、なんでそんなに睨むんだ!?
 今からでも胸ぐら掴まれて脅されそうな雰囲気じゃん。
 一体何を言うつもりで……

「なんでしょう。なんなのでしょうねぇ……僕はずっと我慢しています。我慢しすぎて血管が切れそうですよ。首に男の匂いを巻き付けて逆上してから、ずっと抑えられない。厭らしい貴方を見たあと、抱かなかったのを褒めて欲しいくらいです。もうどこにぶつけていいのやら。でも、それを感じているのは僕だけなんです。まったく名残惜しくもなく、飄々と帰られると。こうね……」

「へ……?」


僕のそのシャツ平然と着て。僕はそれはもう物凄く嬉しがっていますけど。明後日には平然と返されると思うと物凄く腹立ちますね」

 思っていた言葉じゃないけど、──え。それを人は八つ当たりというのでは。

 それより、八乙女のメンチの切り方……、本気でキレてる? 

 危機感! 流石の俺も身体が自然と玄関へと向かって走る。
 だけど、玄関ドアの取っ手を持つ前に、お決まりになりつつある長い腕が伸びてドアドンされた。そして、ヤンキーが脅すように俺の耳元で囁く。

「僕も理性では分かっていますよ」

「ですがね……」と言いながら前を向かされる。囲まれるように両手ついて玄関ドンされている。

 帰らせてくれ。俺にどうしろと!?
 半泣きになっていると、両頬をガッシと掴まれた。
 もしかしなくても、これはいつもの!?

「お、お気を確かに! 今日は既に沢山キスしました」
「どうすれば、貴方も名残惜しんでいただけますかねぇ」
「ひぃいい、じゅうぶ……んんんんん」

 
 

 この日俺は思った。
 アルファにとって、首は非常に大事で、他の人間の匂いを付けただけで理性が壊れる。
 絶対、してはならない。
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