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番外編
番外編 サモン16歳 アーモンとの出会い③
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寮の部屋は同室申請を出したら、問題が起きない限り、変更はない。
フランと同室になって、何年経ったが──
「あっ、おかえり!」
「……」
寮の部屋に戻ったら、フランが素っ裸で着替えている最中だった。
「おっと、こんな格好で失礼!」
何年経っても、フランの裸に慣れない。
不意打ちに動悸が走り、思わず眉間のシワが深まる。
俺がどれほど我慢しているのか、この男はさっぱり分かっていないのだろう。
思わず鳥肌が立ってしまった腕を撫でていると、着替え終わったフランがこちらに近づいてくる。
「着替え終わったよ。君ってやっぱり紳士だね」
「……なんのことだ?」
「ほら。風呂だって何度でも裸見せ合いっこしているでしょ? でも、こうして着替えの時とか僕に気を使って距離を置いてくれる。そういう気遣い、僕はとても嬉しいよ」
今だって部屋壁に背を付けて、立ち止まってくれているでしょう?
そう、フランが照れた顔をして、俺に微笑みかけた。──はぁ⁉
──それは、貴様の裸をむやみに目にいれないためだ。
俺のことを信用しすぎだろう。この男、能天気過ぎる!
俺がそう仕向けているにしても、フランは一度信用したものに対して、警戒心がなさすぎる。
八つ当たりだと思いながら、「貴様が嫌がることを何故、俺がしなければならん」と睨んだ。
「あ……、うん……うんっ!」
キラキラした碧眼が俺を見る。
次に来る言葉もなんとなく分かったので、俺はもう一度部屋の外へ出た。
そして、その夜のこと。
机に向かって本を読んでいたら、隣の席に座るフランの頭がかく、かく、と落ち始めた。
いつまでも俺が灯りを付けているから、彼は俺が眠るまで共に起きていようとする。
時折、諦めて眠っているが、大抵はこうして眠いのを我慢して勉強に付き合ってくれていた。
「おい、フラン。ベッドへ……」
声をかけた時、その頭がくたぁと完全に落ちた。
机にうつ伏せになった彼から寝息が聞こえてくる。
「……」
ベッドに移してやるか。
俺は立ち上がり、フランを抱き上げた。
「ん」
ベッドに寝かせると、彼が金色のまつ毛を震わせて、薄目を開ける。薄紅色の唇に、高揚した頬、普段ころころと表情を変える彼とは違う色気を纏っていた。
「……」
その表情のあまりの艶やかさに、ぞくっと背筋にしびれが走る。
いや、フランがどんな風な表情をしていても、きっと俺は手遅れだ。
笑っても泣いても、怒っても……心を奪われてしまっているのだから。
──欲情する。
その唇に口付けてみたい。
唾液が口の中に勝手に溜まっていく。欲しい。
同時に、まずいと警戒音が自分の脳に鳴り響く。
視線をそらさなければ──そう思って、フランから離れようとしたとき、俺のシャツを彼が掴んでいることに気付く。
ぎくり。
「サモン、くん……」
「……」
甘えた声で呼ぶな。
だが、次の言葉はやはりフランだった。
「勉強、ばっか……り、健康に、わる、いよぉ」
むにゃむにゃ、と言って、そして瞼を閉じた。
「おい」
ふぅと息を吐いたあと、声を掛けたが、寝息の返答しかこない。
くそ。シャツは掴んだままじゃないか──
溜め息を連発しながら、腹を括る。灯りを消して彼のベッドに入った。
すると、傍にある体温がぴったりと俺の身体にくっつく。ざわ……と胸が騒いだ。
絶対眠れない。
だがここからがフランの不思議なところだった。
彼の体温が横にあると、不思議と睡魔が襲ってくる。あれこれ考えてしまう前に、俺は瞼と閉じた──
心地いい体温を感じながら、目が覚める。
朝……
腕の中にはあどけない寝顔がある。
寝ても覚めても、フランが傍にいる。
俺はその頬を指でなぞりながら、ベッドから降り立った。
それから、何も感じていないように努めながら、フランの準備を始める。
「ふぁ……?」
「おはよう」
「お、はよ……」
フランが寝ぼけまなこで俺をみつめる。
それがどんなに興奮することか。だが、同時に隠すことも上手くなっていくようだ。
はぁ、はぁ、はぁ──
だからこそ、こんな風に欲望を向ける奴らが許せない。
洗面所で顔を洗っているフランを廊下の陰から見つけるちんちくりんな男の背。茶色の髪の毛。
男ばかりの寮だから、油断も隙もあったものではない。
「貴様、何をしている」
俺が茶髪の男に声をかけた瞬間、男は大袈裟にビクゥッと飛び跳ねた。
フランと同室になって、何年経ったが──
「あっ、おかえり!」
「……」
寮の部屋に戻ったら、フランが素っ裸で着替えている最中だった。
「おっと、こんな格好で失礼!」
何年経っても、フランの裸に慣れない。
不意打ちに動悸が走り、思わず眉間のシワが深まる。
俺がどれほど我慢しているのか、この男はさっぱり分かっていないのだろう。
思わず鳥肌が立ってしまった腕を撫でていると、着替え終わったフランがこちらに近づいてくる。
「着替え終わったよ。君ってやっぱり紳士だね」
「……なんのことだ?」
「ほら。風呂だって何度でも裸見せ合いっこしているでしょ? でも、こうして着替えの時とか僕に気を使って距離を置いてくれる。そういう気遣い、僕はとても嬉しいよ」
今だって部屋壁に背を付けて、立ち止まってくれているでしょう?
そう、フランが照れた顔をして、俺に微笑みかけた。──はぁ⁉
──それは、貴様の裸をむやみに目にいれないためだ。
俺のことを信用しすぎだろう。この男、能天気過ぎる!
俺がそう仕向けているにしても、フランは一度信用したものに対して、警戒心がなさすぎる。
八つ当たりだと思いながら、「貴様が嫌がることを何故、俺がしなければならん」と睨んだ。
「あ……、うん……うんっ!」
キラキラした碧眼が俺を見る。
次に来る言葉もなんとなく分かったので、俺はもう一度部屋の外へ出た。
そして、その夜のこと。
机に向かって本を読んでいたら、隣の席に座るフランの頭がかく、かく、と落ち始めた。
いつまでも俺が灯りを付けているから、彼は俺が眠るまで共に起きていようとする。
時折、諦めて眠っているが、大抵はこうして眠いのを我慢して勉強に付き合ってくれていた。
「おい、フラン。ベッドへ……」
声をかけた時、その頭がくたぁと完全に落ちた。
机にうつ伏せになった彼から寝息が聞こえてくる。
「……」
ベッドに移してやるか。
俺は立ち上がり、フランを抱き上げた。
「ん」
ベッドに寝かせると、彼が金色のまつ毛を震わせて、薄目を開ける。薄紅色の唇に、高揚した頬、普段ころころと表情を変える彼とは違う色気を纏っていた。
「……」
その表情のあまりの艶やかさに、ぞくっと背筋にしびれが走る。
いや、フランがどんな風な表情をしていても、きっと俺は手遅れだ。
笑っても泣いても、怒っても……心を奪われてしまっているのだから。
──欲情する。
その唇に口付けてみたい。
唾液が口の中に勝手に溜まっていく。欲しい。
同時に、まずいと警戒音が自分の脳に鳴り響く。
視線をそらさなければ──そう思って、フランから離れようとしたとき、俺のシャツを彼が掴んでいることに気付く。
ぎくり。
「サモン、くん……」
「……」
甘えた声で呼ぶな。
だが、次の言葉はやはりフランだった。
「勉強、ばっか……り、健康に、わる、いよぉ」
むにゃむにゃ、と言って、そして瞼を閉じた。
「おい」
ふぅと息を吐いたあと、声を掛けたが、寝息の返答しかこない。
くそ。シャツは掴んだままじゃないか──
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すると、傍にある体温がぴったりと俺の身体にくっつく。ざわ……と胸が騒いだ。
絶対眠れない。
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彼の体温が横にあると、不思議と睡魔が襲ってくる。あれこれ考えてしまう前に、俺は瞼と閉じた──
心地いい体温を感じながら、目が覚める。
朝……
腕の中にはあどけない寝顔がある。
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それから、何も感じていないように努めながら、フランの準備を始める。
「ふぁ……?」
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フランが寝ぼけまなこで俺をみつめる。
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はぁ、はぁ、はぁ──
だからこそ、こんな風に欲望を向ける奴らが許せない。
洗面所で顔を洗っているフランを廊下の陰から見つけるちんちくりんな男の背。茶色の髪の毛。
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「貴様、何をしている」
俺が茶髪の男に声をかけた瞬間、男は大袈裟にビクゥッと飛び跳ねた。
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