だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト

文字の大きさ
42 / 44
番外編

番外編 サモン16歳 アーモンとの出会い③

しおりを挟む
 寮の部屋は同室申請を出したら、問題が起きない限り、変更はない。
 フランと同室になって、何年経ったが──

「あっ、おかえり!」
「……」

 寮の部屋に戻ったら、フランが素っ裸で着替えている最中だった。

「おっと、こんな格好で失礼!」

 何年経っても、フランの裸に慣れない。


 不意打ちに動悸が走り、思わず眉間のシワが深まる。
 俺がどれほど我慢しているのか、この男はさっぱり分かっていないのだろう。
 思わず鳥肌が立ってしまった腕を撫でていると、着替え終わったフランがこちらに近づいてくる。

「着替え終わったよ。君ってやっぱり紳士だね」
「……なんのことだ?」
「ほら。風呂だって何度でも裸見せ合いっこしているでしょ? でも、こうして着替えの時とか僕に気を使って距離を置いてくれる。そういう気遣い、僕はとても嬉しいよ」

 今だって部屋壁に背を付けて、立ち止まってくれているでしょう?
 そう、フランが照れた顔をして、俺に微笑みかけた。──はぁ⁉

 ──それは、貴様の裸をむやみに目にいれないためだ。
 俺のことを信用しすぎだろう。この男、能天気過ぎる!
 俺がそう仕向けているにしても、フランは一度信用したものに対して、警戒心がなさすぎる。

 八つ当たりだと思いながら、「貴様が嫌がることを何故、俺がしなければならん」と睨んだ。
「あ……、うん……うんっ!」

 キラキラした碧眼が俺を見る。
 次に来る言葉もなんとなく分かったので、俺はもう一度部屋の外へ出た。




 そして、その夜のこと。
 机に向かって本を読んでいたら、隣の席に座るフランの頭がかく、かく、と落ち始めた。

 いつまでも俺が灯りを付けているから、彼は俺が眠るまで共に起きていようとする。
 時折、諦めて眠っているが、大抵はこうして眠いのを我慢して勉強に付き合ってくれていた。

「おい、フラン。ベッドへ……」

 声をかけた時、その頭がくたぁと完全に落ちた。
 机にうつ伏せになった彼から寝息が聞こえてくる。

「……」
 ベッドに移してやるか。
 俺は立ち上がり、フランを抱き上げた。

「ん」

 ベッドに寝かせると、彼が金色のまつ毛を震わせて、薄目を開ける。薄紅色の唇に、高揚した頬、普段ころころと表情を変える彼とは違う色気を纏っていた。
 
「……」
 その表情のあまりの艶やかさに、ぞくっと背筋にしびれが走る。

 いや、フランがどんな風な表情をしていても、きっと俺は手遅れだ。
 笑っても泣いても、怒っても……心を奪われてしまっているのだから。

 ──欲情する。
 その唇に口付けてみたい。
 唾液が口の中に勝手に溜まっていく。欲しい。
 同時に、まずいと警戒音が自分の脳に鳴り響く。

 視線をそらさなければ──そう思って、フランから離れようとしたとき、俺のシャツを彼が掴んでいることに気付く。
 ぎくり。

「サモン、くん……」
「……」

 甘えた声で呼ぶな。
 だが、次の言葉はやはりフランだった。

「勉強、ばっか……り、健康に、わる、いよぉ」

 むにゃむにゃ、と言って、そして瞼を閉じた。

「おい」
 ふぅと息を吐いたあと、声を掛けたが、寝息の返答しかこない。


 くそ。シャツは掴んだままじゃないか──
 溜め息を連発しながら、腹を括る。灯りを消して彼のベッドに入った。
 すると、傍にある体温がぴったりと俺の身体にくっつく。ざわ……と胸が騒いだ。

 絶対眠れない。
 だがここからがフランの不思議なところだった。
 彼の体温が横にあると、不思議と睡魔が襲ってくる。あれこれ考えてしまう前に、俺は瞼と閉じた──


 
 心地いい体温を感じながら、目が覚める。
 朝……
 腕の中にはあどけない寝顔がある。
 寝ても覚めても、フランが傍にいる。
 俺はその頬を指でなぞりながら、ベッドから降り立った。
 それから、何も感じていないように努めながら、フランの準備を始める。

「ふぁ……?」
「おはよう」
「お、はよ……」

 フランが寝ぼけまなこで俺をみつめる。
 それがどんなに興奮することか。だが、同時に隠すことも上手くなっていくようだ。





 はぁ、はぁ、はぁ──
 だからこそ、こんな風に欲望を向ける奴らが許せない。

 洗面所で顔を洗っているフランを廊下の陰から見つけるちんちくりんな男の背。茶色の髪の毛。
 男ばかりの寮だから、油断も隙もあったものではない。

「貴様、何をしている」

 俺が茶髪の男に声をかけた瞬間、男は大袈裟にビクゥッと飛び跳ねた。
しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 毎日更新?(笑)絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!

をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。 ボクの名前は、クリストファー。 突然だけど、ボクには前世の記憶がある。 ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て 「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」 と思い出したのだ。 あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。 そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの! そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ! しかも、モブ。 繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ! ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。 どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ! ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。 その理由の第一は、ビジュアル! 夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。 涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!! イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー! ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ! 当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。 ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた! そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。 でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。 ジルベスターは優しい人なんだって。 あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの! なのに誰もそれを理解しようとしなかった。 そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!! ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。 なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。 でも何をしてもジルベスターは断罪された。 ボクはこの世界で大声で叫ぶ。 ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ! ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ! 最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ! ⭐︎⭐︎⭐︎ ご拝読頂きありがとうございます! コメント、エール、いいねお待ちしております♡ 「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中! 連載続いておりますので、そちらもぜひ♡

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。