大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚

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第1章 2億年後

01-006 攻防戦

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 野戦陣地は、全周を土嚢で囲むことができた。土嚢積みは分銅形をしている。凹んでいる部分が東西の出入口で、土嚢の一部が道を挟み込むようになっている。
 これは、道の両側から射かけられるようにするためだ。
 ボウガンの現実的な射程は25メートルほど、有効射程は50メートルある。

 彩華の作戦は、シンガザリ兵を接近させないこと。剣を振りかざせることなく、殲滅する。
 もし、突破された場合は、クロスボウ隊は後退し、長槍隊で反撃する。

 ここに集まってきた村民は、例外なく20歳以下。10歳以下もいる。若い村民夫婦も複数組いる。
 女性が多く、男性は少ない。
 その数、75人。村の人口が300人ほどなので、25パーセントにもなる。
 食料を運んできたものがいるが、身体だけで避難してきたものが多い。

 健吾が「短期決戦しかない」と断じ、反対はない。籠城すれば、兵糧がないので数日で落城する。
 耕介が「たかが農民の反乱を鎮圧するのに、時間はかけねぇよ」とシンガザリ側のメンタルを分析する。

 シルカは亜子に「農民がどれだけ集まっても、シンガザリの正規軍にかなうはずがない」と断言している。
「1個小隊で半日あれば、村全体を殲滅できる」
 亜子が「農民を殺してしまったら、だれが畑を耕すの?」と尋ねる。
「アコ、農民は常に土地を求めている。
 次男、三男は受け継ぐ土地がない。
 その土地を与えることが、シンガザリ王の仕事だ。膨張し始めると、止められない。止まれば、権威を失う。
 他国を攻め続けるしかない。
 どこに逃げても、シンガザリは追ってくる」
「シルカ、じゃ、シルカはどうするの」
「ヒトは我らをエルフと呼ぶが、ヒトやドワーフの土地で生きようかと……。
 同族の煩わしさから、逃れられるかもしれないから……」
「ヒトだって、メンドクサイよ」
「みたいだ。
 亜子たちを見ていると、よくわかる。
 ヒトもエルフと大差ない」
「健吾が言うには、シンガザリは攻勢限界に達しているんじゃないかって」
「アコ、そのコウセイゲンカイとは何だ?」
「攻め続けられる限界点。
 民の数、武器の数、富の量、兵糧の確保。それらには限りがあり、永遠に攻め続けられるわけではない、と言うこと。
 セクアニは全土占領できたけど、メルディの東半分は勢力圏に入っていない。
 その状況で、トレウェリに攻め込んできたけれど、投入できる兵力は限られる。
 シンガザリを恐れるから、戦う前に負けてしまうけど、そうでなければ止められるかもしれない。
 侵略を」
「ケンゴは賢い」
「物知りだけど、賢くはない」
「アコ、そうなのか?」
「そうだよ。シルカ」

 健吾は、アルミ缶を粉にすることに苦労していた。酸化第二鉄は磁石を使って砂鉄を集め、薄く水を撒いて錆びさせた。それを鉢で擂った。
 最初の実験は失敗、二度目もわずかに燃焼しただけで失敗、三度目はすごい炎を上げた。
 広口の瓶にアルミ粉と鉄粉を混ぜて入れ、瓶の蓋に穴を開け電極を刺し込む。

「本当に大丈夫?」
 彩華の問いに健吾の顔は引きつっていた。
「大丈夫じゃない。
 だけど、リード線の長さが足りない。かき集めても7メートルしかないんだ。
 なら、これしかない」
「健吾、そのギリースーツ、サバゲー用で本物じゃないんだよ」
「わかっている。
 でも、これを着て畑に隠れるしかない。
 いまからではリモコン発火も時限発火も装置を作る時間がない。
 見つからないことを、願ってくれ」

 健吾は銃を持たず、剣を帯びず、丸腰で畑の中に入っていった。唯一の持ち物は、ジャンプスターターだけ。

 バスクアル遠征隊長は、追加2個分隊の到着を待った。現有の2個分隊での攻撃は避けた。
 理由は「女の数に比べて、兵が少ない」だった。つまり、事態を深刻には考えていなかった。
 根拠のない余裕から、増援が到着する1日を待った。
 これで、1個小隊規模50人の部隊になった。

 幼い子を守るため、耕介がフェミ川北岸への一時避難を提案したが、応じたのは全員ではなかった。
 魔獣を恐れるからだ。
 心美がランクル・ピックアップを運転して、13人を連れていくことになった。
 ルートは、耕介がハンターカブで案内し、彼だけがキャンプに戻ってきた。
 心美は銃よりもボウガンを希望したので、彼女が使い慣れているものとボルト20本を用意する。
 フェミ川北岸は魔境で、誰であっても長くとどまれない、と村民は信じていた。また、魔獣が棲むとも伝えられるが、これは事実で、それらしい動物が複数種いる。
 妖獣、聖獣、陰獣など、魔獣以外の怪しい生き物がいる、とされている。これは、迷信ではない。実際にいる。

 心美には全員の3食分を携帯させた。

 遠征隊長と副官は乗馬だが、2人以外は徒歩だ。
 これは意外だったし、シルカも驚いていた。胸甲騎兵が主力のシンガザリ軍に乗馬しない歩兵がいるとは、まったく考えていなかった。歩兵でもウマに乗る乗馬歩兵は、シルカも確認していた。だが、まったくの歩行の兵は意外だった。
 軍議でこれを伝えると、耕介が「ウマが足んねぇんだよ」と。さらに「健吾が言うように、攻勢限界ってヤツになってんじゃねぇか」と続けた。
 耕介が「どうでもいい。ぶっ飛ばせば、それで終わる。短期決戦だ。数時間でケリをつける。長引けば、連中は村民の処刑を始める。その前に叩き潰す」と展開の予測をする。
 彩華が説明する。
「敵は、道がない南正面からは攻めてこない。
 左右に展開し、西と東の道沿いに攻めてくる。
 西はシルカが、東は私が助勢する。
 だけど、戦うのは村のみんなだよ。
 指揮官の命令に従うんだ。戦いの最中に議論したりはダメだよ」
 助勢するとは言ったが、実際は西はシルカ、東は彩華が指揮することになる。
 南正面は、耕介が長槍を抱えて、村の男性たちと一緒に斜面を守る。クロスボウ隊を少数配置し、亜子はクロスボウを手に北面を警戒する。彼女たちは、予備戦力でもある。

 健吾はほくそ笑んでいた。
 南正面は、予想通り主攻にはならない。草丈が高く、分け入っても行動の制限が大きいからだ。
 兵力を東西に均等に分割した。だが道は狭い。キャンピングトレーラーが超低速で、やっと通過できるほどの道幅しかない。
 迂回するにしても南正面と同様に、草が伸び放題で簡単ではない。
 騎兵の突撃を覚悟していたが、歩兵だ。突破力が低い。しかし、狭い道幅で、戦列が作れないので、どう攻めてくるか予想できない。

 健吾が埋めた即製路側爆弾の真横に乗馬の指揮官が立つ。
 東西の戦闘が佳境になるまでは待つ気でいたが、東西から男性の喊声や女性の悲鳴が聞こえてきて、戦闘の開始を知ると同時に健吾は放電した。
 瓶の中の二酸化第二鉄と空き缶から作ったアルミの混合粉にジャンプスターターからの火花が散る。

 健吾は畑の中で俯せていたが、自分で仕掛けた爆発に驚きすぎて、180度回転し仰向けで尻餅をつき、ホラー顔負けで後退った。想像を絶する爆発的燃焼だった。
 ギリースーツが燃えていると感じるほどの熱風を受けた。
 テルミット反応は、あまりにも強烈だ。遠征隊長をウマごと吹き飛ばし、路側爆弾の最も近くにいた副長はウマもろとも立ったまま燃えていた。
 鉄をも溶かす3000度の熱だ。おそらく、骨まで焼けている。副長は、ウマに乗った武人像のようになっている。しかも、炎をまとって。
 南正面にいて、無事な兵はまったくいない。
 生きたまま燃えているか、死んで燃えているかのどちらか。

 この爆発には、シンガザリ軍の兵も驚いたが、村民たちも驚いた。
 戦闘が、一瞬だが、止まったほど。
 シンガザリの兵は尻込みし、にわか兵士となった村民たちは恐怖から解放され、嵩にかかる。

 西のシルカは、見たこともない火柱が上がる様子に一周だが気圧された。
 広範囲に畑が燃え始める。
 彼女はなぜか「早く消さなきゃ」と呟いた。
 早く消すには、この戦いを終わらせなければならない。

 誰かが恐怖心と高揚感から叫ぶ。
「皆殺しよ!」
 シルカは、腕の筋力の限界まで弓を射た。

 南正面は対峙する敵が消滅したので、少しの見張りを除いて、東西の援軍に向かう。
 土嚢に迫る敵兵は長槍の餌食となり、矢襖と槍襖で徹底的に叩く。

 東は、敵2個分隊との弓矢の撃ち合いになった。ただ、敵は弓手が3人しかおらず、弓は立ち上がらなければ射られなかった。
 対してクロスボウは立ち上がらなければボルトを装填できないが、俯せや膝立ちでも射れる。
 敵の弓手は、矢を数本射るが、次々にクロスボウのボルトの餌食になる。彼らの胸甲は、クロスボウには無力。胸甲にボルトが刺さり、倒れる。
 倒れた仲間の弓を拾い、射ろうと立ち上がると、針鼠になったようにボルトが刺さる。
 シンガザリ兵のやけくそ突撃は、意味がなかった。土嚢に取り付いた兵はなく、路上に屍を曝すことになる。

 戦いは1時間かからなかった。
 シンガザリ軍の捕虜は、3人だけ。うち1人がバスクアル遠征隊長だった。
 爆風で吹き飛ばされ、地面に叩き付けられて気絶していた。幸運にも火傷を負わなかった。

 畑の消火は、エンジンポンプと排水ポンプがなければ、延焼を食い止められなかった。
 延焼を食い止めるために、水を撒くだけでなく、刈り取りも行った。
 この作業に3時間も要した。

 耕介が心美を迎えに行くと、中央1軸ダブルタイヤの平荷台トレーラーの劣化したタイヤを交換して、修理していた。
 平荷台トレーラーには、小型のディーゼル発電機が積んであった。小型ではあるが、重さは200キロ近くある。修理の可否は不明。
 その他にも積荷はあるが、スコップやツルハシで金属部分は朽ちていない。トレーラーは錆が目立つが、強度を落とすほどではない。
 心美は「何もしないと、みんなが不安になっちゃうんだ」と修理した意味を説明する。

 耕介がトレーラーを牽引するランクル・ピックアップを運転し、心美がハンターカブに乗った。
 彼らはキャンプには戻らず、村役の屋敷に向かう。
 理由は、キャンプ周辺には死体が累々としているからだ。

 シークムントは郎党とともに、屋敷に立て籠もった。
 シンガザリ兵が負けるとは思っていなかったから、逃げる支度どころか、シンガザリのシンパとして生きていく術だけを考えていた。

 この村の戦いは、ここからが本番だった。
 怒り狂う若者たちを止める術は、生き残っている村役たちにはなかった。
 そもそも、この騒乱が終わった時点で村役を続けられるとは考えていない。
 数百年間変わらなかった村の慣習は、数時間で崩れたのだ。

 彩華は、トレウェリ産のひまわり油と名産の蒸留酒を混ぜてワイン瓶に詰めた火炎瓶を作る。

 シークムント邸と屋敷を取り囲む若者とは、激しい弓の撃ち合いが続いた。
 日没前までに決着をつけたい村の若者たちは、手押し車を遮蔽物にして、火炎瓶の投擲距離までどうにか接近する。

 10本もの火炎瓶が投げつけられ、シークムント邸の草葺き屋根が炎に包まれる。
 煙に追われて郎党が出てくると、容赦なくクロスボウが発射される。
 次々に郎等が倒れる。

 シークムントが両手を挙げて屋敷から出てきた。
「降参する。
 殺さないで……」
 長槍を持つ大男が近付いていく。
 裏切り者の腹に穂先が刺さる。

 シルカは、シークムント邸焼き討ちには参加しなかった。
 戦場清掃で、シンガザリ兵の死体を畑に掘った穴に埋める作業を続けていた。
 亜子、彩華、耕介、健吾が手伝う。敵兵の剣や槍を鹵獲する。売れば相応の銀貨になるし、その約束は村の若者たちとは合意ができていた。

 シンガザリの遠征隊長は、解き放った。
「おまえは、シンガザリに帰れば殺される。
 どうするかは、自分で決めろ」
 シルカは、そう言って、武装解除した。造作のいい剣は高額で売れそうだ。
 バスクアル遠征隊長はシルカをにらみつけ、無言で西に向かった。
 つまり、帰還を選択したのだ。

 クルナ村がシンガザリ軍を撃退した、という噂は近隣の村に伝わり、街にも伝播していく。
 数日後には、都ハイカン市中にこの噂が広まっていた。
 実際は1個小隊を退けただけなのだが、野火のごとく侵略を続けていたシンガザリの勢いが止まった、と広く認識された。

 夕食後のまったりした時間、シルカから提案があった。
「ここを去らないか?」
 亜子は想定の範囲内だが、彩華は意外に感じた。
 心美は驚き、レスティは泣き出してしまった。
 耕介と健吾は空気に変わる。

 亜子もシルカの意見に賛成している。
「ここにいれば、またシンガザリと戦わなくてはならなくなる。
 シンガザリの拡大は止まらない」
 健吾が現実的な提案をする。
「とは言っても、どこにも行けない。
 燃料には限りがあるし、ヒトの国があるとしても、住みやすいとは限らない。現在の燃料で、到達できるかもわからない。
 ここにいれば、少なくとも、燃料と食料はどうにかなる。
 この丘でなくてもいい。
 近くに拠点を置いて、周囲を探査したらどうだろう」
 心美の通訳を聞いていたシルカが気持ちを伝える。
「もう、戦いたくないんだ。
 殺すのも、殺されるのも、もうたくさんだ」
 亜子には案があった。
「川の北岸はどう?
 魔境で、誰も行きたがらない。
 魔獣もいるし……」
 耕介が即賛成する。
「森と森の間の草原は網目状になっている。
 迷路だ。
 移住者は、迷路に迷い込んで燃料を使い切ったり、物資の減少からトレーラーを捨てたりしている。
 理由はわからないが、何百年も前のクルマがあるし、数年前の比較的新しい物資もある。
 もっと、よく調べたら、俺たちは物持ちになれるんじゃねぇか?
 そのためにも、北岸に拠点を移すことに賛成する」
 レスティが怯える。
「魔獣はどうするの?
 ココは怖くないの?」
 心美が微笑む。
「かわいい顔してるよ」
 亜子、彩華、耕介、健吾が笑う。
 健吾がレスティにエルフの言葉で伝える。
「俺たちには、銃がある。
 魔獣でも倒せるよ」
 彩華が見解を述べる。
「ここに残るなら、人数分のAR15がいる。
 でも、ないし、いままでも見つけていない。
 ならば、ここを去り、北岸に移ることは、防衛上、安全上、合理性があるね」
 亜子がシルカに「どうする?」と尋ねる。
 シルカが彩華に尋ねる。
「アヤカ、どうやって暮らす?」
「15メートル四方に土嚢を積んで、その内側を生活圏にする。
 畑を作り、野菜を栽培する。
 状況を見て、生活圏を徐々に広げる」

 シルカが首を縦に振った。
 翌早朝、全員が車輌に乗り、フェミ川を渡渉する。
 この行動は、村民の誰にも伝えなかった。

 フェミ川北岸には、東に流れる小河川がいくつかあり、地形は南岸よりもかなり複雑。池程度の湖沼が点在しているので、そのひとつの畔にキャンプを設営する。
 透明度の高い美しい池で、体長30センチほどの魚がたくさん泳いでいる。
 亜子たちに必要な動物性タンパクの確保ができる。

 南岸のキャンプから回収してきた土嚢を積んで、全員で防衛ラインを構築していく。
 心美とレスティも手伝ってくれる。
 地面の草刈りよりも先に、ソーラー給湯器を設置する。亜子、彩華、心美、シルカ、レスティは、温かいシャワーがないと生きていけないそうだ。

 心美が確保した小型ディーゼル発電機は、手を焼いたが修理できた。2億年後において、使った形跡がなく、たぶん荷台の肥やしと化していた。小型ではあるが200キロもあるので、ガソリンエンジンの発電機のような手軽な使い方はできない。
 携行物資の選択を誤ると、この発電機のように死重となってしまう。

 キャンプの整備をしながら、並行して周辺の調査を始める。
 見つけた物資の回収を考えて、ランクルのピックアップを使うことにする。
 この仕事は、耕介と健吾が中心に行った。
 物資調達では、ドラム缶を狙った。錆びて穴の開いていないドラム缶を見つけることは、困難なのだが、幸運にも1缶見つけた。
 2人はこのドラム缶を荷台に積んで、クルナ村にひまわり油を買いに行く。

 村はちょっとした騒ぎになる。何も告げずに立ち去ったと思われていたが、キャンプの場所を変えただけで、シルカたちが近くにいることがわかったからだ。
 居場所を詮索されたが、都合の悪いことは言葉がわからないふりをする。
 油屋は、3グラム金貨1枚で200リットルのひまわり油を売ってくれた。これは、破格に高価だったらしい。油屋は大喜びだった。
 ひまわり油は、灯り用に使われており、生活の必需品だ。何の疑いもなく売ってくれた。
 実際は、小型ディーゼル発電機の燃料に使う。びまわり油をソーラー給湯器のお湯で湯煎して粘度を落とし、直接燃料として使う。給油は電磁ポンプを使う。そのための最初の実験となる。

 草原では半日探して何かが見つかる程度なのだが、見つけても多くは朽ちている。整備・修理でどうにかなる状態ではない。
 発見する車輌はすべてディーゼル車で、小型が多い。燃料消費の多い大型では、ここまで到達できない。燃費と機動性のいい軽量車だけが東の海岸付近まで至ることができる。
 ガソリンエンジンだがジムニーなら、さらに進めるだろう。トレールやATVバギーならば、より余裕があるはず。
 軍用車は皆無。装軌車も皆無。装甲車輌も皆無。
 目安として、ドアが開きそうなクルマがあれば、荷台や車内を調べた。遺棄されている物資の回収は、錆の具合を目安にした。

 使えそうなジェリカンを数個見つけたが、それ以外はドラム缶1缶のみ。使えそうな貨物トレーラーは複数見つけた。
 キャンピングトレーラーは見ない。地形や燃料の問題から、ここに至る前に放棄された。

 耕介と健吾は乏しい成果から、交換部品欲しさに、過去に物色している左側面が損傷している比較的新しいランクル70を再度物色する。グロープラグ、各種ケーブルから燃料噴射装置まで。外せそうな部品を持ち帰るつもりだった。

 耕介が作業している間、健吾は周囲を見張る。彼は周囲を観察していると、ダークグリーンの箱らしき物体を見つける。
 草に隠れていて、目にとまったのは偶然だった。
 健吾は、耕介には何を告げず、箱に向かう。

 草をかき分けると、長辺1.5メートルほどの空の木箱がいくつもあった。箱はきれいで、捨てられたのは1年か数カ月前と感じた。
 これほど新しい遺棄物は初めてだった。
 健吾は、蓋を1つ抱えて、耕介に向かった。

「木箱を見つけた」
 健吾が見せると、耕介が驚く。
「新しいな」
 健吾もここに注目していた。
「あぁ、数カ月前ってところかな」
「中身は?」
「見た限りでは、何もなかった」
「たくさんあるのか」
「あぁ、耕介、調べてみるか?」
「そうだな。
 外せるものは全部外したし」

 木箱は、すべて同サイズで10個あった。
 幅50センチ、深さ40センチ、長さ150センチほど。
 耕介が「椅子にちょうどいい」と言い、健吾が微笑む。椅子にベストなサイズだ。
 健吾が「3つでいいな」と耕介に同意を求める。

 箱の状態は大きな差はないが、できるだけきれいなものを選ぼうとしていた。
 耕介が驚く。
「これ、中に何か入っているぞ!」
 蓋は釘付けされていなかった。開けると、クルマのパーツが詰め込まれていた。未開封のバッテリーもある。燃料系や冷却系で使えるホースもある。
「めっけもんだ!」
 耕介の喜びは大きい。
 健吾も微笑む。
 欲が出て、他の箱も慌てて調べるが、空だった。
 空き箱3つを加えて、ランクルの荷台に置く。

 耕介が回収しない空き箱を見詰めている。
 健吾が「どうした?」と尋ねると、耕介が「見てくれ。何か書いてある」と促す。
 木箱は、外側はダークグリーン、内側は白の塗料で塗られている。
 その白い箱の底に油性ペンで文字が書かれている。
「英語じゃないよな?」
 耕介の問いに「違うな。キリル文字だと思う」と健吾は答えたが、自信はなかった。
 耕介が「何語だ?」と尋ねるので、健吾は「ロシア語か、ウクライナ語か、どちらにしてもスラブ系のヒトが残したのだと思う」と答える。
 健吾が「読めないが、持って帰ろう。翻訳機で訳せるかもしれない」と空箱の片側を持つと、耕介が躊躇う。
「ヤバイことが書かれているような」
 健吾が促す。
「だから、持って帰るんだ」

 この頃から彩華が「人数分のAR15が必要」と頻繁に言い始める。
 何となく、きな臭い空気を感じ始めてる。
 それは、亜子、耕介、健吾も同じだった。

 言語かわからないことから、箱の底に書かれた文の翻訳は一時的に棚上げにした。
 彩華は「銃を探しに、北岸沿いに西に向かおうよ」と主張し始める。

 耕介と健吾は、彩華の意見を2人で検討するが、意見は同じだった。
「武器を見つけても、朽ちているよ」
「そうだな。
 使えそうなものを見つけられる可能性は低いね。
 だけど……」
「だけど、何だ?
 健吾……?」
「耕介、わからないことが多すぎる。
 移住は1年2カ月間だけなのに、数百年も続いているように感じる。
 俺たちが騙されていたのか?
 それとも、俺たちが知らない事実があるのか?」
「健吾は亜子の説を知ってるか?」
「亜子の説?」
「あぁ、エルフはヒトから進化した。
 ウマはヒトが2億年後に連れてきた。それ以外の動物、魔獣とかは2億年の進化のたまもの」
「何だそれ!
 あり得ないだろ!」
「1年2カ月じゃね。
 だけど、2億年後の野生動物は、哺乳類じゃない。哺乳類に似ているが、哺乳類じゃない。
 健吾、亜子はそう考えている。
 そして、ヒトとウマは10万年以上前に2億年後にやって来て、独自に進化した」
「耕介はどうしたい?
 俺は、真実を求めて探検したい」
「健吾、俺も同じだ。
 俺たちがどんな状況にいるのか知らないと、気分が悪い。
 安全にも関わる」
 耕介の見解は、健吾としてもまったく同感だった。

 ランクル70のエンジンルームには余裕があるのだが、それでも1リットルのオイル缶を置くスペースには苦労する。
 入手したランクル70は、エンジンルーム内にわずかだが余裕があった。

 エンジンルーム内は70℃以上になる。つまり、エンジンルームにひまわり油を送り込んで、エンジンルームの熱で暖められれば、ひまわり油でも動かすことができる。そのためのバイク用1リットルオイル缶を空きスペースに固定した。
 冷えた状態での始動には軽油が必要。始動用軽油タンクが別途必要になる。
 このための4リットルオイル缶を利用したタンクを、モーターウインチを取り付けるために前方に延長したバンパー上に置いた。
 燃料系統が2つになるので、取り扱いは煩雑になる。だが、燃料の枯渇を心配しなくていい。

 ひまわり油で走るランクル・ピックアップで、数百キロの旅をすることは、耕介と健吾は怖かった。
 だから、24時間以内に徒歩で帰還できる25キロ圏の調査に限定する。
 いままでは西側の調査が多かったが、今回は北と北西を調査する。
 森と森との間にある草原は網目状になっており、迷路で、行き止まりも多い。少しの間違いで、脱出不能になる。
 そこそこ危険な仕事だ。

 彩華は、2億年後の世界が安全ではないことに危機感を感じている。それは、亜子も同じ。
 対して、耕介と健吾は、2億年後の辻褄の合わない現象に危機感を感じている。
 この意見と気持ちのすれ違いは、団結に溝を生む。彼らは、意識せずに危険な方向に進んでいた。
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