200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第7章

07-185 バンジェル島防空戦

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 バンジェル島臨時政府は、バンジェル島を含む4島の工業生産力を徹底的に削いだ。航空と造船は壊滅的で、先行移住組の利点をことごとく潰してしまった。
 現在の暫定政府は強権的な超中央集権的政策については放棄したが、臨時政府の反動で政策の提言ができず、無政策が政策になってしまった。

 つまり、中央政府は何もできないのだ。

 バンジェル島北部の最も開発が進んでいる地区は、それでも華やかさがあった。港には大型船が何隻も接岸できるし、飛行場は滑走路が増え、ターミナルも増築されて空港と呼んでもいい程度に整備されている。街には食品や衣料の店も多い。レストランや飲み屋もある。
 だが、絶対に必要なものがない。
 防空戦闘機が極端に少ないのだ。

 南島では、セロの空襲に対して森の中に逃げることにしていた。
 抵抗の術がないからだ。
 南島の最北に位置する王冠湾地区は、対空兵器をかき集めて、何とか守ろうとしている。
 子供たちは、60式装甲車を改造した“装甲通園車”に乗ったまま地下壕に避難する。
 大人たちは、ありとあらゆる火器を動員して、銃口を空に向ける。それしか、対応策がないのだ。

 暫定政府には、武装を施したPZL-130オルリク単発複座練習機が6機あるし、西ユーラシアで製造したベルP-39ターボコブラが16機ある。
 だが、そのほとんどが飛行できない。ターボプロップエンジンを含む交換部品の製造が滞っているのだ。
 輸送機も同様だ。稼働率は日を追って落ちている。
 政策の失敗とは、かくも残酷なのかと、バンジェル島の住民は感じている。

 王冠湾には、臨時政府の関係者が複数、移住してきている。事実上の亡命なのだが、王冠湾は「真面目に働く」ことを条件に受け入れた。
 彼らは意気揚々と“乗り込んで”来たのだが、王冠湾はただ受け入れただけで、何らの支援をしない。彼らは、蓄えと売り食いで凌いでいるようだ。
 王冠湾では、働けないものには可能な限りの支援をするが、働かないものには何もしない。
 これがルールだ。
 そして、政治と軍事は有償ボランティアであって、労働とは見なされない。このルールは、ドミヤート、タザリンの両地区も同じ。
 ホティアはキラーエッグを気に入っている。機動性が高く、安定性もいい。信頼性もある。
 機体の割り振りにあぶれたマーニは、強引にラコタを奪った。中型ヘリで積載量があるから輸送に使われているが、武装して防空任務に就くことも可能だ。
 井澤加奈子とララは、武装を施したT-4練習機、通称いるかちゃんで出撃する。

 土井将馬はセロの空襲に対抗するため、ターボプロップ戦闘機の必要性を理解していた。ヒトが戦闘機を必要とする理由の大半は、セロの飛行船に対抗するためだ。
 飛行船の速度は最大でも時速120キロ程度で、この速度での空戦となるとジェット機は不適だ。ジェット機は速度が遅いと効率が下がり、エンジンのレスポンスも悪い。
 だから、プロペラ付きの戦闘機が必要になる。
 土井にはセロに対抗するための航空機の私案がいくつもあったが、この緊急時に間に合うはずはなかった。
 彼は空を見上げて、歯がみするしかなかった。

 加賀谷真梨は、土井将馬に頼まれたロケットの弾体を大量生産している。
 このロケットの発射機は、造船所が製造している。
 大型のロケットで、全長3メートル、直径25センチあり、ワイヤーによる有線誘導が可能。誘導方式は第1世代対戦車ミサイルと同様の手動指令照準線一致誘導方式で、ジョイスチックで操作する。
 最大射程は5000メートル、発射機は垂直での発射も可能。
 発射機の製造数は20基ほどだが、命中すれば250キロ爆弾の直撃と同程度の破壊力がある。
 セロの飛行船は、高度200メートルから300メートルで水平爆撃を行うので、何とか命中させられるのではないかと期待している。
 王冠湾の秘密兵器だが、永遠に秘密にしておきたいほど、不安を抱いている兵器でもあった。

 飛行船が航空機よりも優れている点は、航続距離だ。それ以外に性能的優位はない。
 フロリダ半島の南端からバンジェル島までは7000キロ。この大西洋横断を最も小型の25メートル級飛行船でさえ、楽々とやってのける。

 黒服によるバンジェル島空襲は、住民が朝の支度をする時間帯だった。
 セロの飛行船は、北島を通過し、真北からバンジェル島本島に迫る。北島の北方ですでにレーダーが探知していたが、バンジェル島北部中心地区への警報が遅れた。

 ドミヤートとタザリン両地区で空襲警報が鳴り響き、王冠湾でも接近してくる航空機をレーダーが捕らえていた。
 この時点で、北部中心地区では空襲を住民に知らせていなかった。
 空港は日常のままで、数少ない戦闘機はスクランブル態勢になかった。

 ドミヤート地区の飛行場からは、飛べる飛行機が全機離陸する。
 多くは空中に退避するためだ。空中に上がれば、破壊を免れる。
 王冠湾もそれに習う。
 C-1輸送機は土井将馬の操縦で、空中に退避。マーニとホティアは、それぞれのヘリコプターで出撃する。
 アネリアとトクタルは、ピッツスペシャルで離陸。7.62ミリ機関銃しか装備していないが、防空戦に参加する。
 井澤加奈子とララは、T-4練習機で離陸。こちらは迎撃態勢をとる。

 王冠湾内に停泊している船は、湾外への脱出を試みる。だが、ドックや船台にある船は無理。修理や整備で係留中の船も動けない。

 花山真弓はセロの攻撃の意図と目標を正確に分析している。
 セロの目的は1つしかない。ヒト属動物の殲滅。ヒト、精霊族、鬼神族を殺すために大西洋を渡ってくるのだ。
 ならば、攻撃目標は住民の密集地になる。つまり、バンジェル島の北地区だ。
 レーダーが探知した機影は10。50メートル級飛行船と推定している。このクラスだと、重量225キロの爆弾を8発搭載している。
 計80発。
 たった80発を分散して投下する意味はない。密集地に集中的に投下するはず。
 だから、田舎の王冠湾は攻撃対象ではない。だが投弾のタイミングを失った場合は、攻撃目標になるだろう。爆弾を海に捨てるよりは、ヒトが住む場所のほうが目的に沿う。

 セロの爆弾は火薬を使わない。水素または水素の化合物を爆発的燃焼させる。ヒトの爆弾のように破片で被害を拡大するのではなく、熱と爆風で破壊する。
 爆弾に充填されているのは、液体水素または液化された水素の化合物だ。
 赤服と青服は常温で保存できるヒドラジンをよく使うが、黒服は液体水素を多用している。
 市街地に80発も落とされたら、北地区の壊滅は避けられない。
 花山真弓は冷徹だった。
「南島上空には侵入させないように。防空戦は、海上かバンジェル島本島上空で実施する」とかねてから指示している。
 マーニ、ホティア、ララは、タザリン地区以北で戦うつもりだ。ドミヤートやタザリン両地区には、家族や友人がたくさん住んでいる。

 少ない戦力を効率よく運用するには、緻密に立案された作戦と戦力を運用するためのシステムが必要。だが、バンジェル島は、そのどちらも欠けていた。

 空戦は北島を通過し、バンジェル島北の海上で始まる。
 バンジェル島空港では、空中退避する機よりも先に邀撃可能な全機を離陸させた。
 これは、いい判断だった。

 各機はバラバラに離陸し、まったく異なる指揮系統にあったが、1機が西側、つまり大西洋側から攻撃を開始すると、全機がそれに習う。
 結果、黒服の飛行船は大陸側に押されるような態勢になった。
 飛行船の巨大な浮体は、機関銃や機関砲でいくら撃ってもまったくダメージを受けていないように見える。
 だが、浮体下のゴンドラを攻撃すれば、明確なダメージを与えられる。
 推進機を破壊することも、行動を制約することにつながる。また、ゴンドラから伸びるウェポンスポンソンに下がる爆弾を狙うことも効果がある。
 パイロットたちは、セロとの空戦を続ける中で、戦い方を経験的に会得していた。

 至近での低高度防空戦であることから、航空機の速度はあまり関係なかった。
 複葉のピッツスペシャルに乗るアネリアは、飛行船の後部に回り込んで、後方から推進機を狙った。
 黒服の飛行船はゴンドラの後部に動力があり、2枚プロペラの推進機は、ベルトによって駆動される。プロペラやベルトには、防弾が施されておらず、小口径弾でも破壊できる。

 土井将馬は、上空から防空戦の様子を見ていた。高速のジェット機よりも、プロペラ機のほうが圧倒的にこの戦いに向いている。
 そして、2機の複葉機が予想以上に奮戦している。
 井澤加奈子とララは、ロケット弾を浮体に命中させているが、見かけの派手さとは異なり、ダメージは大きくないように見える。
 セロの飛行船は、よほどの損傷を受けない限り、飛行高度が下がるなどの目に見える損害を示さない。
 これは、ヒトに強い悲壮感を抱かせる。
 だが、浮体の破壊は重要だ。セロは浮体が健在である限り、どれだけゴンドラが破壊されても飛行船を再生するからだ。
 それと、セロは効果的な対空兵器を欠いている。陸戦用の火器を発射するが、ヒトの飛行機には偶然以外では命中させられない。

 土井将馬は、ヒトとセロの空中戦を観察しながら、まったく異なる技術との衝突に打ち勝つ方法を探していた。

 ターボコブラがプロペラの回転軸から発射する37ミリ機関砲は、確実に効果がある。離陸した小数のターボコブラは、飛行船に対して確実にダメージを与えている。
 内翼下面にロケット弾を懸吊した双発旅客機のアイランダーが飛行船の後方から肉迫する。動きが緩慢な旅客機でさえ、飛行船よりは敏捷だ。
 至近でロケット弾を発射。ゴンドラの半分が吹き飛ぶ。ゴンドラ内にいたセロがバラバラと海上に落ちていく。

 空戦は5分ほどで決着が付いた。
 動力を失って浮遊しているだけの飛行船は4。ゴンドラが半壊している飛行船は3。爆弾に被弾して、浮体が燃えている飛行船が2。浮体からガスが抜け、降下している飛行船が1。
 各地域がバラバラに戦ったわりには、大打撃を与えられた。
 しかし、反撃はここまで。どの機も弾切れだった。
 燃えている機は全力で南東に向かっている。大陸にある黒服の根拠地を目指しているのだ。浮遊しているだけの機と浮力を失った機は、爆弾を海に捨てた。
 結局、黒服の初空襲は空振りだった。赤服や青服のほうが、巧妙な爆撃を行う。戦訓を組み入れない、稚拙な攻撃だった。

 この空襲後、暫定政府は臨時政府による工業の国営化政策を誤りであったと認め、民間の経済活動を妨害しないと確約した。
 暫定政府が臨時政府の政策の誤りを始めて認めたことになり、以後、多くの政策の失敗を公式に表明していくことになる。
 これによって、ようやく、正常な活動ができるようになった。

 土井将馬は、固定翼機と回転翼機のライセンス生産の可能性を、バンジェル島ドミヤート地区、クフラックの中核であるカナリア諸島、クフラックの一地方となったカラバッシュに打診していた。
 しかし、どの街からも前向きな答えはなかった。競争相手が増えることを好まないからだ。
 だが、ヒトと精霊族の混血が主流を占めるカラバッシュからは、機数限定の半完成機売却ならば応じてもいい、との応答があった。
 対象は、単胴双発の輸送機。精霊族らしく固有名はない。
 カラバッシュの主力は3機種。単胴双発双尾翼機、単胴4発双尾翼機、単発複座機。主生産機とは異なる単胴双発双尾翼機の競合機を提案してきた。
 機体がやや小型で、タンデム複座のコックピットを持つ。矩形断面の胴体、高翼など、カラバッシュらしい機体だが、垂直尾翼は1枚だけ。
 この機体の半完成機を提案されている。
 土井はこの提案を受け入れるつもりでいた。
 この空戦後、彼は、対セロ防空戦では大型機と大口径機関砲の組み合わせが向いていると確信するに至った。

 黒服による最初の空爆は、どうにか撃退したがすぐに第2撃があることは容易に想像できた。
 土井将馬は、くじらちゃんによる迎撃戦も考えている。荷室に艦載用のガトリング砲を搭載し、飛行船の浮体部に集中攻撃を加える計画をすぐに始めた。

 黒服の空襲は2日後だった。ヒトは、準備はともかく、心構えはできていた。
 今回は、南からバンジェル島に迫ってきた。王冠湾は、全力で出撃し、迎え撃つ。

 前回の空襲でわかったことがある。
 セロの飛行船は、推進機が脆弱なのだ。ゴンドラには防弾がなく、見かけ以上に損傷を受ける。
 一方、浮体は燃えにくく、燃料は爆発しにくい。
 行動の自由を阻害するには、浮体、ゴンドラ、ゴンドラ最後部の機関を攻撃するよりも、推進機を破壊することが容易で効果がある。
 推進機の直径は、最大6メートルにもなるが、軽くするためか構造は複雑で脆弱。

 土井将馬の意見を入れて、花山真弓は作戦を変えた。
「飛べる機体はすべて飛ぼう。
 ジャイロも武装して。ロケット弾装備機はゴンドラや浮体を狙うけど、小口径機関銃装備機は推進機に集中攻撃するように。
 飛行船の足を止めれば、風に流される風船みたいなものになるから」
 タンデム2人乗りのオートジャイロには7.62ミリMG34機関銃を2超、4人乗りには機関銃に加えて小型ロケット弾2発を懸吊する。どちらも、重量制限からパイロットだけが乗る。
 照準器が簡易なものなので、命中精度はあまり期待できない。

 過去、セロ同士の“艦隊戦”は何度か目撃されている。セロは好戦的な生物で、ヒトと同様に同種間で殺し合う。
 セロの飛行船による空戦は、帆船時代のヒトの海戦によく似ている。
 飛行船同士が至近まで近付き、併走しながら銃や砲を撃ち合うのだ。これが同航戦。すれ違いざまに撃ち合う反航戦もある。
 どちらにしても、逃げる敵を長時間追撃し、捕捉したらどちらかが無力化するまで戦いが続く。
 一方、浮体に空気よりも軽いガスを詰めて浮揚させるのではなく、空気の流れを利用した揚力で飛行するヒトの航空機では、帆船同士のようなのどかな戦いにはならない。
 もっとも低速でも時速150キロ、最高速なら音速を超える速度での空戦になる。
 ヒトの航空機は損傷すれば簡単に落ちるが、セロの飛行船は燃えても落ちない。
 両者はまったく異質なのだ。
 セロの飛行船には複葉機でも簡単に追いつけるが、逆にセロの飛行船のように低速で飛び続けられない。
 結局、長時間の追撃は無理なのだ。結果、ヒットエンドラン的な一撃離脱戦を繰り返すしかなくなる。継続的な打撃を与えられないから、撃墜は至難になる。
 だが、ヒトには対空砲という武器もある。これの効果は、セロとの接触初期から変わらない。
 35ミリ、37ミリ、40ミリの大口径機関砲と、75ミリ級と105ミリ級の高射砲は確実に効果がある。
 航空機によって海上で迎撃し、陸に進入された場合は対空砲火で迎え撃つ戦術が効果的だ。
 しかし、陸に進入されたら、確実に被害が出る。可能な限り、海上で撃退したい。
 艦船での迎撃は難しい。航空機としては遅いセロの飛行船だが、それでも時速120キロくらい出る。巡航速度は時速60キロから90キロ程度だが、水上船では追いつけない。
 ヒトの固定翼機では、ガンシップが効果的だった。セロの飛行船の周囲を周回しながら、大口径機関砲や榴弾砲の攻撃によって、撃墜した例もある。
 だが、ガンシップに向く大型機は少ないし、高価だし、大型機は輸送機に使いたい。結局、バンジェル島には2機しかない。
 その2機もいまは整備不良で飛べない。

 南島に侵入しようとした4機の飛行船には、巨像に群がる羽虫のようにオートジャイロが攻撃を仕掛ける。
 1発の7.62ミリNATO弾では大きなダメージにはならないが、何百発と撃ち込めばそれなりの効果はある。
 それに、今回は推進機を集中的に狙っている。1回の攻撃ではどうにもならなくても、繰り返し攻撃すればプロペラを破壊できる。
 推力を失った飛行船は風に流されるだけ。放っておけばいい。
 少数の固定翼機は、ゴンドラや浮体に攻撃を仕掛けるが、ダメージを感じさせないことから焦燥感を抱かせる。
 いるかちゃんで出撃したララと井澤加奈子もそうだ。
「ダメだ。ロケット弾2発じゃ落ちない!」
 井澤加奈子の叫びは、ララも同感だった。

 土井将馬が操縦するくじらちゃんが、先頭の飛行船を中心に旋回を始める。クジラちゃんのほうが高度がやや高い。
 個体側面後部のドアを開けると、20ミリバルカン砲を突き出す。
 そして、撃ち始める。
 浮体に命中するが、飛行船は悠々と飛んでいる。だが、徐々に高度が下がり初め、爆弾などの重量物を海上に捨て、ゆっくりと旋回して、遁走に入る。
 ガンシップによる攻撃は、効果があるのだ。

 2日目の攻撃は、陸の直前まで迫られたが、どうにか撃退する。だが、セロの飛行船は前日同様、1隻も落とせなかった。
 撃墜できなければ、また襲ってくる。

 バンジェル島に対する3回目の攻撃はなかった。
 だが、カナリア諸島が攻撃される。アゾレス諸島から出撃したセロの飛行船が来襲したのだ。
 こちらは赤服だった。

 その夜の会議は紛糾する。
 追い払ったものの、飛行機と対空砲は明らかに数と威力が不足している。
 購入する資金は限られるし、購入したくても売り手がいない。
 花山真弓は、現実に向き合わなくてはならなかった。
「高射砲と高射機関砲を売ってくれる街はないし、買えるとしても資金は限られている。
 みなさん、いまできることは限られる。この点をどうか理解してほしいんだけど……」
 土井将馬が間髪入れず立ち上がる。
「飛行機を買うしかないんだ。
 それしか、方法がない……。
 カラバッシュが導入が進んでいない双発機を売ってくれる。
 それをガンシップにする。今日明日は間に合わないけど、手長族との戦いはこれからも続く」
 土井にはある程度の目算があった。対潜哨戒機P-2JネプチューンのT64-IHI-10E ターボプロップ3060軸馬力エンジンとP-3CオライオンのアリソンT56-A-14ターボプロップ4600軸馬力エンジンをベルーガで運んできた。
 発電など何かの役に立つ程度の動機だったが、各8基を保有している。ネプチューンは退役済みで、エンジンは余剰だったから保管状態だった。オライオンはP-1の就役に伴って、解体を待つ状態だった。
 それらの中古エンジンを保有している。
 土井はカラバッシュの単尾翼双発機がダグラスA-20に似ていることから、同機の愛称であるハボックと呼んでいた。名無しではヒトとしては都合が悪いからだ。
「私は、その機をハボックと呼んでいるのだけど、機体の規模としては確かに中途半端かもしれない。
 貨物輸送機としても旅客輸送機としても、カラバッシュが製造している別の双発機よりも小さいからね。
 カラバッシュはエンジンレスならば、いつでも引き渡してくれるそうだ」
 ヒトの老人がやや批難の口調で問う。
「エンジンがなければ、飛べないだろう?」
 土井が微笑む。
「エンジンならある。
 エンジンはあるんだ。たぶん、適合させられる。エンジンナセルごと取り替えられる。
 きっと、きっと上手くいく」
 すると、褐色の精霊族の男が叫ぶ。
「その機体を受取に行こう!」
 その場で多くが賛意を示す。

 王冠湾は揚陸船キヌエティ以外の全通甲板を有する船舶を売却していた。地域を維持する資金を得るためには、仕方なかった。
 機体の受領には、必然的にベルーガを使うことに決定する。
 黒服は10数隻の飛行船を損傷している。ヒトならば、修理に数週間は必要。セロは不明。
 だが、1週間か2週間は攻めてこない。
 その間に、迎撃の準備をしたい。おそらく、赤服によるカナリア諸島攻撃が一段落する頃、再度、黒服はバンジェル島を攻めるだろう。
 迎撃準備に残された時間は少なかった。

 長宗元親がカラバッシュにハボック2機を受け取りに行っている間、土井将馬はターボマスタング4機の最終調整に取りかかっていた。
 パイロットは、アネリア、トクタル、ララ、井澤加奈子と決まった。

 花山真弓は、土井将馬のガンシップ構想に危うさを感じていた。邪魔とは思ったが、我慢できず彼の仕事場を訪ねる。
「土井さん、レシプロ機をターボプロップ機にするなんて、簡単じゃないんでしょ?」
「いいえ、換装するだけなら簡単だよ。
 幸い、ネプチューンのエンジンナセルごとあるんで、そっくり交換しちゃう。
 辻褄の合わないところは、アルミ板を切ったり叩いたりして、何とかするよ」
「でも……」
「問題は重量バランスなんだけど、単発機よりは調整が簡単かな。受け取った資料から判断すると、エンジンの取り付け位置が少し前進する程度で何とかなるはず。
 それと、エンジン、エンジンナセル、プロペラもネプチューンのものを使うから、総取っ替えになるので、大きな問題はないと思う」
 花山は、カラバッシュからの資料については信頼していた。彼らは精霊族の特徴を引き継いでいて、こういったことはヒトよりも緻密なのだ。

 1週間が経過すると、ターボマスタングの慣熟飛行が連日行われた。
 ここで、問題が発覚。マスタングは高速域での舵の効きがいいのだが、低速では鈍くなる。この傾向は機体固有の本質的なものではなく、ある程度の修正は可能だ。
 だが、それをしている時間的余裕がない。
 飛行船相手の空戦では、ターボマスタングの本領は発揮しにくい。零戦のように、低速での機動性重視のほうが、対飛行船戦闘には向いている。
 新たな問題発覚で、王冠湾の面々は頭を抱えた。だが、あるもので戦わなくてはならない。
「空に向かって、石を投げるよりはマシだよ」
 井澤加奈子の発言は、的を射ていた。

 黒服の陸上部隊が北上を開始すると、王冠湾の航空隊はその支援も考えなければならなかった。
 対地攻撃に関しては、ターボマスタングは完全に適している。想定してはいたが、原型機の特性をそのまま引き継いでいる。

 ベルーガのヘリ甲板に無理矢理強引に積んできた2機の双発機は、カラバッシュが多用する双発単胴双尾翼の機種よりも半周りほど小さい。くじらちゃんと比べたら、半分程度の大きさに見える。
 この機をクレーンで降ろし、トラクターで牽引して、滑走路に隣接する整備用格納庫まで運ぶ。
 その後、花山は開発途上国の自動車改造工場の作業と同じ光景を見せられた。
 緻密な計算をしているのだろうが、ネプチューン対潜哨戒機のエンジンをナセルごと強引に取り付け、辻褄の合わない部分はジュラルミンの板をハンマーで叩いて板金加工し、取り付けてしまったのだ。
 工作で問題になったのは、主脚の格納だが、ネプチューンのナセルに都合よく収まった。「こうでもしなきゃ間に合いませんよ」と土井は言ったが、花山には考えられない荒っぽい工作だった。
 正直、こんな飛行機には乗りたくないと思った。

 このカラバッシュ製双発機は、全長14.6メートルある。この機の胴体に全長5メートル弱のエリコン35ミリ機関砲を取り付ける。
 砲口は、機首にある。この大口径機関砲の榴弾で、飛行船の浮体を攻撃する。
 胴体左側面には、20ミリM39リボルバーカノンを連装で装備する。この機関砲で、周回したり、並走して攻撃を加える。

 口には出さないが「こんな飛行機、絶対乗らない」と思っていた花山だったが、土井に装填手をやれと言われてしまう。
「大丈夫ですよ。
 飛行機って、意外と落ちないものですよ」
 土井の慰めにもならない言葉に、彼女はイラついた。

 黒服の再来襲を待っていたが、その前に大陸側が不穏になる。
 クマンの旧王都付近まで、黒服の陸上部隊が北上してきたのだ。しかも大軍。ヒトの戦力では、守り切れないほどの大軍だった。
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