200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚

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第3章

第八五話 迎撃

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 コーカレイの城外、陸側には城壁から二キロの距離に頂点がある二等辺三角形の土塁が築いてある。
 セロに対する備えだ。
 土塁の高さは三メートルあり、土留めは土嚢と現地で手に入る木材を使っている。
 この土塁を突破しない限り、コーカレイの城壁にはたどり着けない。
 入り口は二カ所あり、どちらも城壁との東西の接点に近い。
 東西にある二つの等辺には、辺の中央に正三角形の小さな出っ張りがある。

 この地で行動するセロの部隊は一個中隊程度で、正面からの攻撃では戦力的にコーカレイを攻略できない。
 嫌がらせ程度の攻撃はしばしばあるが、本格的な攻城を企図した作戦はなかった。
 コーカレイ側も車輌の不足から、セロ部隊を追撃することはできない。

 由加とケンちゃんがコーカレイを訪れたとき、俺は〝行方不明〟であった。
 二日後、俺の生存を知る。
 俺の生存を知った翌日、俺が一個大隊規模の追撃を受けていることを知る。
 このときの由加は、俺に対して非常な怒りを感じていた。
 無謀な敵基地攻撃を行い、陸路五〇〇キロを走破し、途中で未確認の直立二足歩行動物を保護するという常軌を逸した行動をした俺に対して……。
 さらに、俺は一個大隊規模のセロを引き連れてコーカレイに戻ろうとしているのだ。

 指揮官代理の相馬は、頭を抱えていた。
 セロを迎え撃つ機満々の蛮族の面々。
 立ち去ろうとしない商人たち。
 行き場のない保護した人々。
 機動力を持たない守備隊。
 貧弱な防衛装備。
 撤退しようにも、二度と入手困難かもしれない船舶二隻を預かっているから動けない。
 コーカレイには、口うるさいノイリン各地区の視察団もいる。

 この状況で、相馬は名案を思いつく。
 由加に防衛を丸投げしよう、と。
 無理だし、無責任だとも承知しているが、愚痴代わりに由加にいってみた。
「どうしたら、コーカレイを守れますか?」
 由加が答える。
「私に任せれば守れる」
 相馬は内心驚いた。
「では、防衛作戦は由加さんに一任します」
 由加が引き受けた理由は、俺に対する怒り。その怒り矛先が、セロに向けられている。

 こうして、第二次コーカレイ防衛戦が始まった。

 由加がコーカレイの防衛を掌握した翌日日没直前、俺たちはロワール川南岸に達した。
 俺たちは正確な位置をわかっておらず、コーカレイが東西のどちらにあるのか判断できなかった。
 東西どちらにもコーカレイの城壁は見えず、上流に進むべきか、下流に向かうべきか、皆目見当がつかない。
 昨日から航空支援もない。
 留まることはできない。留まればセロの餌食となるだけだ。
 動かなければならない。

 リーヌスが案を出す。
「コーカレイに電波を出してもらいましょう。
 おおよその方向程度ならわかります」
 目的地の方向を知る常套の手段だ。

 リーヌスが報告する。
「コーカレイは西です」
 すでに太陽は地平線に没している。
 俺は、日没後の移動を決める。
「西に移動する。
 一〇キロから二〇キロ進めば、コーカレイが見えるだろう。
 進路にある森を避けるため、川岸から少し離れる」
 ミルカが同族に通訳する。
 安堵と不安の入り交じった表情が痛々しい。ミルカ自身も相当な不安を感じているようだ。コーカレイ入城と同時に身柄を拘束される可能性だってあるのだ。

 コーカレイには、水路でミューズとララの親子が到着してた。
 俺たちが精霊族と思われる未知の種族を保護したと聞き、支援のために志願してやって来たのだ。
 コーカレイには精霊族や鬼神族の商人もやってくる。
 彼らはコーカレイに留まっていた。セロは精霊族や鬼神族を攻撃しない、という判断があるらしい。

 水上機に乗せた重傷の子供は、コーカレイにいた。
 この子を治療するために、由加とは別便で能美がコーカレイを訪れている。

 ロワール川に沿って西に二キロ移動し、川岸まで迫る密度の濃い針葉樹の森を避けて南に五キロ移動する。
 森の南辺を迂回して、森の西に出る。
 そこから、城壁を煌々とライトアップしたコーカレイが見えた。
 俺は驚いていたし、ブロルとリーヌスも呆然としている。
 城壁のライトアップは美しいのだが、セロの大軍が迫っているし、第一、貴重な電力の無駄遣いだ。
 褐色肌の精霊族がざわついている。
 ミルカが馬上から俺にいう。
「これほど美しい光景を見たことがありません。
 あの光は、魔法ですか?」
 ブロルが答える。
「いいや、魔法じゃないよ。
 戦いの狼煙だ。
 セロに『おまえたちなんて怖くないぞ』と宣言しているんだ」
 俺が全員を促す。
「急ごう」

 水陸両用トラック〝バスタブ〟のヘッドライトの放つ光芒は、夜間の冷えた空気を斬り裂いて、森を迂回した時点でコーカレイの監視哨に発見されていた。
 ヘッドライトは上下左右に揺れながら、コーカレイを目指している。

 土塁の手前で形ばかりの誰何を受けたが、答える前にゲートは開いていた。
 土塁を登り切ると、助手席に座っていた俺は、地面に飛び降りた。
 少しふらつき、相馬が手を添えた。
 ケンちゃんが左手にブリキの自動車を握って走ってくる。
「ハッちゃ~ん」と叫ぶ。
 誰がどう見ても父子の感動の再会だ。
 俺はケンちゃんを抱き上げた。
 由加が歩いてくる。絶対に怒っている。
 由加が俺の前に立ち、俺がケンちゃんを地面に降ろす。
 由加は抱きついたりしないが、いつもは微笑んでくれる。だが、明らかに怒っている。
 由加の右手が動き、パチン、と音がした。
 由加の平手打ちだ。
 彼女がいった。
「バカ。
 何やってるの?」
 俺が答える。
「ごめん」
 蛮族が呆然としている。彼らの文化では、女が男に手を上げるなど考えられないのだ。

 コーカレイの城門をくぐり、入城する。
 ミューズとララが城門で待っていた。
 二人が褐色肌の精霊族に声をかける。
 水陸両用トラックとウマが止まり、褐色肌の精霊族はリーヌスに促されて下馬する。
 子供たちがトラックの荷台から飛び降りる。そして、ララの周りに集まる。
 俺がミューズに問う。
「言葉、伝わってる?」
 彼女が答える。
「ダメみたい」
 ミルカがウマの顔を撫でながら伝える。
「あなたの言葉、半分くらいわかります」
 ミューズがミルカにいう。
「みなさんをこちらに。
 ウマは預けて……。
 食事を用意してあります」
 二四頭のウマが城内の人々に引き渡される。
 褐色肌の精霊族は、徒歩で宿舎に向かう。

 俺に精霊族の商人が話しかける。
「あのものを助けたのは、貴殿か?」
「あなた、商人ではないな?」
「すまぬが、教えて欲しい」
「森には数千が住んでいたそうだ。
 生き残りは彼らだけだ」
 鬼神族の商人が背後から問いかける。
「やはりな。
 ヒトとセロの争いではなかったか」
 彼も商人ではない。
 精霊族がいう。
「この街で、ヒトがセロとどう戦うのか見定める。
 そして、セロを知る……」
 鬼神族が応じる。
「我らもそのつもりでここに来た」
 精霊族と鬼神族の観戦武官だ。

 俺はこの瞬間、この地域に住むすべての直立二足歩行動物にとって、決して負けられない戦いが始まることを確信した。

 俺はシャワーを浴びた。
 湯は適度に熱く、心地いい。
 オリーブドラブの作業衣に着替え、使い古している弾帯を腰に巻く。
 M14を持ち、司令部に向かう。

 司令部は、以前のまま何も変わっていない。だが、ノイリンの住民だけでなく、蛮族の衣服を着た男が二人、精霊族と鬼神族の男が各一人いる。
 相馬と由加が並んで立つ。

 相馬が俺を見る。
「状況を説明します」
 俺には、相馬に命令する権限はない。曖昧に頷く。
 相馬の状況説明が始まる。
「コーカレイ防衛の指揮官として、城島由加を指名しました」
 俺は、これにかなり驚く。驚きは顔に出たと思う。
 相馬が続ける。
「コーカレイの守備隊は三〇。
 車輌班、航空班、輸送班(船舶)、交易班、機械班(武器製造)、医療班など、すべてのノイリン住民を集めても一〇〇を少し超える程度です」
 俺は遠慮がちに問うた。
「装備は?」
 相馬が上官に答えるような口調をする。
「はい。
 守備隊はボルトアクション小銃を装備しています。短機関銃もあります。
 MG3機関銃二挺。
 七六・二ミリ高射砲、三七ミリ対戦車砲、七六・二ミリ山砲が各一門です。
 RPG‐7はありません。
 迫撃砲弾はありますが、砲がありません」
 俺が事実だけを伝える。
「迫撃砲は持ち帰った。
 故障はしていない。
 MG3が一挺あるから、装備に加えてくれ」
 相馬が続ける。
「先週、トラクターと装甲ドーザーは、回収されてノイリンに向かいました。
 機動力は、ウマと馬車だけです」
 俺が問う。
「アッパーハット号には、一〇輌の稼働可能な車輌が積まれていたし、自動小銃が八〇〇挺あったはずだ」
 相馬が答える。
「到着と同時にノイリンに向かいました」
 とても戦争するような装備じゃない。
 俺は何もいい出せない。
 由加が発言。
「高射砲を城内広場から、城外土塁先端に移動する。
 東西の突出陣地に対戦車砲と山砲をそれぞれ据え、その両側に機関銃陣地を構築する。機関銃の不足は、短機関銃で補う。
 迫撃砲は、西側に配置する」
 精霊族と鬼神族は、何も発言しない。
 蛮族の年かさが問う。
「で、我らは何をすればいい?
 セロをウマで蹴散らそうか」
 声音はやや嘲笑気味だ。
 指揮官とされた由加が女だからだ。
 由加が答える。
「その必要はない。
 セロに土塁は越えさせない。
 戦力不足で野戦は無理だ。
 篭城しかない」
 年かさの蛮族は直接的な表現を使った。
「男なら臆病者といわれるが、あんたは女だからな」
 誰も笑わない。
 そのことに年かさの蛮族が狼狽える。
 相馬が由加に問う。
「篭城するには、食料が足りません。
 ここ数日で滞在者が増えてしまって……。
 一〇日が限度かと」
 由加が答える。
「この戦いは二日か三日で終わる。
 篭城といっても水路は開いている。
 物資の補給はできるし、対岸へも渡れる。
 三方を包囲されても、孤立することにはならない。
 セロの主力をコーカレイに引き付けて、叩く。
 セロはヒトを殺すためにコーカレイに来る。
 ヒトを殺すまで、ここを立ち去らない。
 ならば、ここに縛り付けて、セロを倒す。
 こちらから攻めなくとも、セロから向かってくる。
 御しやすい敵だ」
 俺は由加を見ていた。
 いつも思うことなのだが、敵の性質を端的に分析し、敵の弱点を冷酷に突く。
 捕食者に追われて巣穴に逃げ込んだ怯えた動物を演じながら、捕食者が巣穴に入り込んできたら喉をかみ砕くつもりなのだ。
 窮鼠猫を噛む。
 由加は、窮鼠を演じるつもりだ。

 甲冑を着た若い蛮族が発言を求める。
「よろしいか」
 凛とした声音だ。
 そして、女の声だ。
「我が名はベアーテ。
 ヴルマン族、長の娘。
 ノイリン族、戦いの長に問いたい。
 我らは不要か?」
 由加が答える。
「これはヒトの戦いであって、ノイリンの戦いではない。
 助力を感謝する。
 土塁内側の前衛に銃隊、後衛に弓隊を置く。銃隊は敵正面を、弓隊は敵の頭上から矢を落とす」
 ベアーテが重ねて問う。
「今合戦において、馬上より剣を振るい、敵と鎬〈しのぎ〉を削る戦いはないということか?」
 由加は曖昧には答えない。
「そのとおり。
 セロを引き寄せ、一方的に殺す。
 セロを駆除する」
 ベアーテが少し笑う。
「心得た。
 ヴルマン族は、貴殿の指揮に従う」
 相馬の副官が俺に耳打ちする。
「ヴルマン族は北方系で、フルギアの隷属民ではなかったそうです。
 河口の北岸を領有する勇猛な民族です」
 俺は、少し驚いていた。
 こんな狭い地域でも、いろいろなヒトたちが生活しているのだ。

 壮年の蛮族がベアーテを見る。
「ヴルマンの若長がそういうなら、我らも従うとする。
 銃弾はできる限り持っては来たんだが、かなり少ない。
 ノイリンの支援がいる」
 相馬が答える。
「四四口径弾は用意してあります。
 必要量は?」
「銃兵は二〇ほど。
 一挺五〇〇発として、一万発」
 壮年の蛮族はふっかけたつもりだ。
 だが、由加のほうが上手だった。
「この戦いは、そんな弾数では収まらない。
 その三倍から四倍は必要になる」
 壮年の蛮族は目をむいた。

 翌早朝、城内広場に設置してある七六・二ミリ野戦高射砲の移動が始まる。
 機械班の指導で移動するのだが、二・八トンに達する重量があり、車輪があるとはいえ、それを人力だけで移動するのだ。
 由加がベアーテに何かをいうと、彼女はヴルマンの戦士にこの重量物の移動の手助けを命じる。
 三門しかない砲は、由加が自ら設置を指揮した。
 七六・二ミリ野戦高射砲は、土塁先端付近に配置。
 周囲を土嚢で厚く囲み、全周旋回を可能にした。この高初速砲の射界から逃れられる敵はいない。
 三七ミリ砲は被帽付徹甲弾(APC)が多いが、徹甲榴弾(APHE)や榴弾(HE)も少しある。
 七六・二ミリ山砲の原形砲は、FV101スコーピオンの搭載砲L23A1だ。短砲身の軽量砲で、主に榴弾を発射する。黒魔族の戦車に対抗するための対戦車榴弾(HEAT)もある。

 俺たちを追跡していたセロは、コーカレイの戦備が整う前に姿を現した。
 土嚢は積み終わっておらず、有刺鉄線は半分ほどが未設置だ。
 由加はすべての工事を中止して、非戦闘員は城壁内へ、戦闘員は土塁の内部に配置する。

 ブロルは「縫合が上手」ということで、能美が開設した野戦診療所で働いている。
 リーヌスは土塁内で、狙撃を担当する。
 ミルカは同族を促して、弓を受け取り、弓隊の一員となった。

 俺は城壁上にいる。
 精霊族と鬼神族、ノイリン各地区の代表も一緒だ。
 俺はデジタル双眼鏡を覗いている。
 白旗を掲げて、騎馬三が西側土塁防衛線に近付いてくる。一は使者、一は司祭、一は通訳だ。
 由加が徒歩で出て行く。
 セロの顔を拡大して見る。
「あれがギョロ目か」
 俺が小声で呟くと、隣に立つ精霊族がチラリと見る。
 確かに目が大きいが、気味の悪さはない。眼球が大きく、滑稽ではある。
 インカムから由加とギョロ目の声が聞こえる。
 通訳はヒトではなくセロだ。
「神の加護を受けぬ似非の生き物よ。
 抗わず、神の御心に沿い滅びよ。
 我らが手を貸そう」
「意味不明だ。
 きみたちの戯言に付き合うつもりはない。
 さっさと攻めてきなさい」
 由加の怒気は無線を介しても感じられた。
 おそらく、セロも感じただろう。
 三騎は通訳の言葉を聞くと、すぐに踵〈きびす〉を返した。
 この地区で行動しているセロ部隊と合流すれば、総兵力は一〇〇〇に達する。
 こちらは雑多な集団で、戦闘員は三〇〇ほどだ。うち、一〇〇以上は銃を持っていない。

 セロは我々の右翼、西側に歩兵を展開する。単なる草原だが、草の丈がやや高い。
 整列しようとするセロ歩兵との距離は、約七〇〇メートル。
 その後方では、投射砲と思われる多連装の発射機が設置される。
 初めて見る兵器だ。横に筒が五本、それが二列で一門。一〇連装のロケットランチャーか?
 鹵獲できれば性能を算定できるが、由加はそういった斟酌はしないだろう。

 思った通りだ。
 由加はすぐに敵の砲列を潰しにかかる。七六・二ミリ山砲と迫撃砲の発射が始まる。
 着弾観測は城壁上から行っている。この一帯は見渡す限り草原だ。視界を遮るものがない。城壁の上は、最高の着弾観測点だ。
 大仰角で迫撃砲弾が落下し、平射に近い角度で山砲が発射される。
 たった二門だが、射程の短いセロのロケット兵器では、ヒトの砲によってアウトレンジされる。
 迫撃砲の効力射に耐えかねて、セロの砲兵が南に移動する。
 高射砲の砲身がそれを追う。
 ノイリンの高射砲には、自衛用に直接照準器が用意されている。移動する目標も照準できる。
 セロの砲兵の先頭が吹き飛ぶ。高射砲の水平射撃は恐るべき威力で、ノイリンの高射砲は三発まで半自動で連射できる。
 連続発射で、移動中の四門が横転する。一門は先行が横転し、それに巻き込まれた。

 セロの戦列歩兵は、ロケット投射の支援が期待できない状況でも、整然と前進を始める。
 戦列歩兵戦は、この一帯に陣取っているセロの中隊は採らない。射程の長い銃を使うヒトとの戦闘において、戦列は単なる標的にしかならない。
 そのことを実戦で学び、現在は散兵戦を仕掛けてくる。
 実戦で血を流して学んだはずなのに、戦列を作っている。
 理由は明白。
 ヒトとの戦いを経験していない新参部隊ということだ。現地部隊指揮官はヒトとの戦い方を説いたはずだが、新しい指揮官は無視した。あるいは嘲笑した。

 由加は容赦しない。

 西の前衛は、銃を構える。
 少しの間を置き、後衛が弓に矢をつがえる。
 弓の大仰角による投射から始まる。
 弓の最大射程は四〇〇メートル。大仰角での落下ならば、最大射程付近でも相応の威力がある。
 徒歩で迫るセロの戦列が距離三〇〇メートルを切ると、前衛の銃も発射を始める。
 すさまじい弾幕だ。
 一挺のMG3が七・六二ミリ弾をばら撒いている。一五〇発発射ごとに加熱した銃身を取り替えるのだが、にわか兵士の集まりであるノイリンの機関銃手はやや手間取っている。
 ボルトアクションの小銃は一〇連発だが、最初の一〇発を撃ち切ると、五連のクリップひとつを弾倉に押し込み、射撃を再開する。
 ボルトアクションの場合、実用を考えると一分間に一〇発から一五発の発射速度になる。
 弾倉内の弾薬を撃ち切ると、弾薬ポーチに手を突っ込み、クリップを取り出し、機関部の上に乗せ、親指で五連の弾を押し込むのに五秒を要する。
 全将兵が同時に発射するので、弾倉への再装填もわずかな時間差となってしまう。
 この間、弾幕が薄くなる。
 特に今回のような〝撃ちまくる〟戦い方では、致命的な結果に結びつきやすい。
 このくらいのことは、ドラキュロとの戦いで、俺でも知っている。

 由加が弓矢を銃隊の後方に配置し、大仰角で投射させる理由がわかった。
 弓は一分間に七から一〇の発射速度がある。だが、その投射間隔は比較的均一で、銃のように、何発撃ったら一休み、という現象が置きにくい。
 戦列が前進を始めて、弓の射程に入る直前から弓隊は射始めた。
 矢は戦列の手前に落ちる。戦列の前進とともに、矢は戦列の後方まで届くようになる。
 正面から銃弾が撃たれ、頭上からは矢が降り注ぎ、小銃弾の弾幕が薄くなっても、機関銃が補うとともに、矢の雨がセロの前進を阻害する。
 矢の投射は体力を使う。ヴルマン族の弓は、木と鋼を使った複合弓で、一六〇センチの長さがあるロングボウだ。
 普通の男なら一五も射れば、腕の筋肉は悲鳴を上げる。
 時間の経過とともに射手は体力を消耗し、投射数が減っていく。

 だが、銃の発射は止まらない。
 銃を発射するだけならば、たいした筋力は必要ないからだ。

 結果、弾幕は薄くならない。

 俺は、由加とこの世界に来なければ、とっくに死んでいたと思う。
 由加は、俺の戦女神だ。

 セロの戦列歩兵が甚大な被害を出す状況を間近に見ていたセロの騎兵二〇〇が、予定の行動なのか、それともとっさの判断なのか不明だが、大きく南に迂回しながら、土塁の東側に展開する。
 明らかにセロの砲兵の失敗を教訓にした行動で、七六・二ミリ高射砲の射程を避けようとしている。
 ノイリンの高射砲は、最大射高九〇〇〇メートル。最大射程一万四〇〇〇メートルもある。
 少しばかり南に迂回したところで、射程外に出られるものではない。

 高射砲は、全速で東に回り込もうとするセロの縦隊の側面を砲撃する。
 それでもセロの騎兵はウマを巧みに操り、潅木やブッシュ、木立を利用して、東に回り込んだ。

 由加は、西からの攻撃に際して、東からの増援は一切命じなかった。
 戦闘が始まる前、作戦会議の席上、由加は「東か西、どちらかが主攻で、どちらかが陽動だ」と断言している。
 さらに「戦力が多くても陽動はありえる」ともいっていた。
 由加の読みがあたった。
 結果かもしれないが、西の戦列歩兵が陽動で、東の騎兵が主攻なのだ。

 恐ろしいものを見た。
 東側配備の三七ミリ対戦車砲の砲弾が、セロの騎兵一体の頭部に命中。
 首から上が消滅した。
 首から下は、長刀を突き出した抜刀突撃の姿勢をしたまま、騎兵の先頭となって土塁に突進してくる。
 その異様に怖気付いたのか、複数の騎馬が突撃を中断する。
 三七ミリの榴弾では威力は限定的だが、敵が至近に迫っても発射をやめない。
 機関銃が発射を続け、歩兵は手榴弾を投げる。弓の投射も続く。
 セロの騎兵は土塁前衛を突破していないが、殺したウマの下敷きになる兵も出ている。
 壮絶な白兵戦になった。

 戦闘は三七ミリ砲陣地付近が激戦となる。この一角の土嚢が崩れ、ウマが駆け登れる斜面ができてしまったからだ。
 弓隊が弓を捨て、剣や刀を抜く。
 馬上からセロが長刀を振り下ろす。

 乾いた連射の音がする。
 鉄板と鉄パイプで作った、と揶揄されるステンガンが発射されている。
 近接戦闘での短機関銃の威力は圧倒的。
 次々とセロが倒される。

 ヴルマンの大男が剣を叩き落された。
 その男にノイリンの若者がステンガンを投げる。
 大男は太い指を用心鉄に入れ、引き金を引く。
 馬上からセロが落下する。
 ステンガンをヴルマンの戦士に渡した若者は、トップブレイクのリボルバーを抜いて、セロを倒していく。
 小銃を逆手に持ち、落馬したセロの頭に銃床振り下ろすノイリンの男。
 左手に銃剣、右手にリボルバーを持つ、ノイリンの女。

 壮絶な戦いは、一〇分を過ぎてようやく終わった。

 戦列歩兵は屍の山を築き、セロの騎兵はウマを捨てて逃げるか、泥にまみれて死んだ。

 双眼鏡の中の由加は、この結果が当然であるかのごとく、表情を変えない。

 負傷者の収容と手当てが始まる。
 能美の戦いが本格化する。
 この時点において、由加と相馬の二人は、戦いの本番はこれから、と覚悟を決めていた。
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