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恥ずかしくない!
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アニータは、すうっと息を吸って、一気に羽織っていたマントを脱ぎ捨てた。
「―――なんて格好をしているんだ!」
リアム殿下が目をむいて怒鳴り声をあげた。
アニータは、マントの下は薄い肌着一枚だった。
(恥ずかしくない、恥ずかしくない!)
心の中で唱えながら、寝台の上で仁王立ちをして腰に手を当てた。
「どうですか?」
「どうもこうもない。マントを羽織りなさい」
アニータの問いに、こちらに視線を向けることもなく、リアム殿下は吐き捨てた。
じっと動かずにリアム殿下を見ても、彼はこちらを見てはくれない。
兄の声が脳裏によみがえる。
『これを着たアニータを見れば、リアム殿下だっていちころだよ!』
(・・・・・・嘘つき)
全然、いちころじゃない。
それどころか、こちらを見てさえくれないではないか。
「マントを羽織って、靴を履け。送って行こう」
リアム殿下の言葉に、アニータは唇をかんだ。
寝台の上でマントを脱げば、後はなるようになると言われていた。
その『なるように』のところを詳しく聞きたかったのだが、なんだかんだとはぐらかされてしまった。
兄様たちが言っていたようにはならない。
リアム殿下はアニータを離さなくなるだろうと言っていたのに。
彼らを責めそうになる思考を断ち切るために、アニータは首を振った。
「やっぱり、婚約破棄したいんですね」
「どうしてそうなる!?」
否定のような言葉を叫びながらも、彼はこちらに視線を向けない。
「王女様が好きになったんでしょう?だから、私をライアン殿下の婚約者にしようとしているんだわ!」
「どこから飛んだらそうなるのか、分かるように説明してくれるか」
アニータの言葉を聞いて、頭を抱えてしまったリアム殿下を見て、もう、無理なのだろうと思った。
兄たちは、既成事実だ、最終奥義だと送り出してくれたが、アニータはそれが無理だろうと思っていた。
「私は、侯爵令嬢です」
突然、宣言したアニータを不思議そうにチラリと見上げて、リアム殿下はまた視線を下へ向けた。
「こんなでも、侯爵令嬢なのです。幼いころから、有事の際には他国へと政略結婚でも人質でもなるように教育されているのです」
足元に放り投げたマントを手に取った。
―――兄様、たくさん教えてくださったのに、ごめんなさい。
「自分の未来を選ぶことができるのならば、私はリアム殿下と共にありたかった。そのために、殿下ご自身の意思も無視する覚悟でいろいろと画策しました」
自嘲気味に笑って、アニータはマントを羽織った。
「けれど、国の情勢が関わってくるのならば、私は・・・それで我儘を言うほどに子供ではありませんっ……!」
声が震えてしまった。
アニータがマントを羽織った気配を感じたのか、リアム殿下が顔をあげた。
「何の事だかわからない」
「どうして、殿下が言ってくださらないのっ?王女様と結婚するから、私とはできないと!」
「王女と結婚するってのはどこからきたんだ!」
こうまで言っても肯定しないリアム殿下に違和感を感じつつも、アニータは寝台から降りて、先ほど放り出した靴を履いた。
「ライアン殿下が、自分と結婚したくなったらいつでも来て良いとおっしゃったの」
「………は?」
突拍子もないと感じているのだろうか、リアム殿下が口を開けてアニータを見た。
「あの方が私と結婚する気になるだなんて、何かあると考えるのが普通だわ。リアム殿下から婚約破棄を言い渡されるであろう私に同情してくださったのだと思うのです」
靴を履き終わって、マントもしっかりと前を合わせて、アニータは顔をあげた。
「そうすると、それはきっと、国にとって覆せないことだと。リアム殿下は王女様とご結婚し、捨てられた私を娶らないと仕方がなくなってしまったのね」
アニータは大きなため息を吐いた。
その拍子に、溜まっていた涙がこぼれた。
「ちょっと、いろいろとおかしい!待て!」
リアム殿下が叫んでいたが、アニータは首を振った。
「リアム殿下も、王女様と仲良くしてらしたわ。……私には、笑顔などほとんど見せてくださらないのに」
恨みごとを言ってしまって、アニータは両手で顔を覆った。
「ごめんなさい」
こんなことを言うつもりはなかったのに。
私は、貴族としての役目を果たす程度の分別を持っているのだと見せつけたかったのに。
バタン!がちゃん!
乱暴にドアを閉め、鍵をかける音がした。
「―――なんて格好をしているんだ!」
リアム殿下が目をむいて怒鳴り声をあげた。
アニータは、マントの下は薄い肌着一枚だった。
(恥ずかしくない、恥ずかしくない!)
心の中で唱えながら、寝台の上で仁王立ちをして腰に手を当てた。
「どうですか?」
「どうもこうもない。マントを羽織りなさい」
アニータの問いに、こちらに視線を向けることもなく、リアム殿下は吐き捨てた。
じっと動かずにリアム殿下を見ても、彼はこちらを見てはくれない。
兄の声が脳裏によみがえる。
『これを着たアニータを見れば、リアム殿下だっていちころだよ!』
(・・・・・・嘘つき)
全然、いちころじゃない。
それどころか、こちらを見てさえくれないではないか。
「マントを羽織って、靴を履け。送って行こう」
リアム殿下の言葉に、アニータは唇をかんだ。
寝台の上でマントを脱げば、後はなるようになると言われていた。
その『なるように』のところを詳しく聞きたかったのだが、なんだかんだとはぐらかされてしまった。
兄様たちが言っていたようにはならない。
リアム殿下はアニータを離さなくなるだろうと言っていたのに。
彼らを責めそうになる思考を断ち切るために、アニータは首を振った。
「やっぱり、婚約破棄したいんですね」
「どうしてそうなる!?」
否定のような言葉を叫びながらも、彼はこちらに視線を向けない。
「王女様が好きになったんでしょう?だから、私をライアン殿下の婚約者にしようとしているんだわ!」
「どこから飛んだらそうなるのか、分かるように説明してくれるか」
アニータの言葉を聞いて、頭を抱えてしまったリアム殿下を見て、もう、無理なのだろうと思った。
兄たちは、既成事実だ、最終奥義だと送り出してくれたが、アニータはそれが無理だろうと思っていた。
「私は、侯爵令嬢です」
突然、宣言したアニータを不思議そうにチラリと見上げて、リアム殿下はまた視線を下へ向けた。
「こんなでも、侯爵令嬢なのです。幼いころから、有事の際には他国へと政略結婚でも人質でもなるように教育されているのです」
足元に放り投げたマントを手に取った。
―――兄様、たくさん教えてくださったのに、ごめんなさい。
「自分の未来を選ぶことができるのならば、私はリアム殿下と共にありたかった。そのために、殿下ご自身の意思も無視する覚悟でいろいろと画策しました」
自嘲気味に笑って、アニータはマントを羽織った。
「けれど、国の情勢が関わってくるのならば、私は・・・それで我儘を言うほどに子供ではありませんっ……!」
声が震えてしまった。
アニータがマントを羽織った気配を感じたのか、リアム殿下が顔をあげた。
「何の事だかわからない」
「どうして、殿下が言ってくださらないのっ?王女様と結婚するから、私とはできないと!」
「王女と結婚するってのはどこからきたんだ!」
こうまで言っても肯定しないリアム殿下に違和感を感じつつも、アニータは寝台から降りて、先ほど放り出した靴を履いた。
「ライアン殿下が、自分と結婚したくなったらいつでも来て良いとおっしゃったの」
「………は?」
突拍子もないと感じているのだろうか、リアム殿下が口を開けてアニータを見た。
「あの方が私と結婚する気になるだなんて、何かあると考えるのが普通だわ。リアム殿下から婚約破棄を言い渡されるであろう私に同情してくださったのだと思うのです」
靴を履き終わって、マントもしっかりと前を合わせて、アニータは顔をあげた。
「そうすると、それはきっと、国にとって覆せないことだと。リアム殿下は王女様とご結婚し、捨てられた私を娶らないと仕方がなくなってしまったのね」
アニータは大きなため息を吐いた。
その拍子に、溜まっていた涙がこぼれた。
「ちょっと、いろいろとおかしい!待て!」
リアム殿下が叫んでいたが、アニータは首を振った。
「リアム殿下も、王女様と仲良くしてらしたわ。……私には、笑顔などほとんど見せてくださらないのに」
恨みごとを言ってしまって、アニータは両手で顔を覆った。
「ごめんなさい」
こんなことを言うつもりはなかったのに。
私は、貴族としての役目を果たす程度の分別を持っているのだと見せつけたかったのに。
バタン!がちゃん!
乱暴にドアを閉め、鍵をかける音がした。
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