5 / 11
笑わないのはどっち
しおりを挟む
ボロボロと涙を流すアニータのそばに、怒ったような顔をしているのに、眉を下げた微妙な表情のリアム殿下が立っていた。
「まず、アニータ。私はあなたと結婚する。あなたが不安ならば・・・既成事実というものを作ってもいい」
柔らかく抱き寄せられ、アニータは目を瞬かせる。
「王女殿下は、案内役なので共に行動することは多い。笑顔……か。仕事であれば、王子だからな。社交用の顔を作るのは上手いぞ?」
顎をくいっと持ち上げられた先にあるのは、綺麗な笑顔のリアム殿下。
けれど、ただ微笑んでいるだけの顔は、動かない。
アニータを見るリアム殿下は、いつも困った顔や怒った顔をして、アニータを叱るためならば、目でも話すことができるのではないかと思うほどだ。
そんなことを考えたことがあると、今頃思い出した。
「仕事以外では……そうだな、あまり笑わないのか、私は?」
意識したことがなかったと呟くリアム殿下は、作った笑顔を消したいつもの顔だ。
「アニータだって、私の前ではいつも泣いていたり怒っていたりして、あまり笑わない」
リアム殿下に言われて、アニータは固まる。
笑顔?
アニータは良く笑う方だと思う。
だけど、リアム殿下の前では、いつも必死だったもので、ひどい顔ばかり見せている気がする。
「え?あれ?」
彼が笑顔を見せてくれないと泣いていたけれど、私が泣いたり怒ったりしていたから?
「他の人と一緒なら、良く笑うのになと思っていたよ」
悲しそうな表情で言うリアム殿下を、アニータは呆然と見上げた。
リアム殿下はたくさん笑う人ではない。
それを知っていても、他の人に微笑む顔を見て悲しくなったというのに。
いつもにこにこしている人間が、自分の前でだけ笑わなくなったら?
そっちの方がひどくないか?
「ごめんなさいっ。私、嫌われているかと思って……」
涙をにじませるアニータを、またも驚いたように見て、リアム殿下は首を傾げる。
「私はあなたが好きだと言ったはずだ」
聞き間違いか、私の妄想ではなく!?
アニータの表情に、リアム殿下が嫌そうな顔をした。
考えたことを正確に読み取られたらしい。
「隣国と政略等の話はない。それがあれば、真っ先にマンフィニット侯爵に話が行くべきだ」
なんてこった。
それはそうだ。当然だ。
早々に結婚話が進むよりも先に、相談という形にしろ、父に話があるのが普通だ。
「どうして、私ってこんなに馬鹿なの?」
いつか呟いたことがある言葉が、また口からこぼれた。
「さあな」
リアム殿下の笑い声と共に、アニータが持ち上げられる。
両脇に手を差し込まれて、ひょいと持ち上げられたのだ。
抱き上げられたとは表現しづらい。
そのまま寝台に座らせられて、リアム殿下が隣に座った。
サイドボードから、絆創膏が出てきて、リアム殿下が手を差し出してきた。
アニータはいたたまれない気分だったが、いろいろとしでかしてしまったので、先に謝ろうと口を開いた。
「リアム殿下……ごめんなさい」
「私が言ったことを理解し、信じての謝罪か?」
リアム殿下がアニータの傷ついた方の手を取って、傷の深さを確認しているようだった。
すっかり忘れていたが、指を切っていた。
「うう……はい。これも、ごめんなさい」
わざと、短刀に触れたのだ。
アニータが傷つけば、リアム殿下に隙ができるだろうと分かったうえで。
「分かったなら、まあいいだろう」
そう言って、リアム殿下はアニータの指をぱくんと口に含んだ。
ちろちろと、傷口を舌が舐めて、血が消えた指に、彼が、絆創膏を巻きつけていた。
アニータは、しばらくそれを眺めてしまってから叫んだ。
「……。なっななっにを、するんですか!」
「消毒」
真っ赤になるアニータとは正反対に、リアム殿下は涼しい顔だ。
アニータはリアム殿下を押し倒したことさえあるというのに、真っ赤になってアタフタする様子に、リアム殿下は笑みをこぼす。
「まず、アニータ。私はあなたと結婚する。あなたが不安ならば・・・既成事実というものを作ってもいい」
柔らかく抱き寄せられ、アニータは目を瞬かせる。
「王女殿下は、案内役なので共に行動することは多い。笑顔……か。仕事であれば、王子だからな。社交用の顔を作るのは上手いぞ?」
顎をくいっと持ち上げられた先にあるのは、綺麗な笑顔のリアム殿下。
けれど、ただ微笑んでいるだけの顔は、動かない。
アニータを見るリアム殿下は、いつも困った顔や怒った顔をして、アニータを叱るためならば、目でも話すことができるのではないかと思うほどだ。
そんなことを考えたことがあると、今頃思い出した。
「仕事以外では……そうだな、あまり笑わないのか、私は?」
意識したことがなかったと呟くリアム殿下は、作った笑顔を消したいつもの顔だ。
「アニータだって、私の前ではいつも泣いていたり怒っていたりして、あまり笑わない」
リアム殿下に言われて、アニータは固まる。
笑顔?
アニータは良く笑う方だと思う。
だけど、リアム殿下の前では、いつも必死だったもので、ひどい顔ばかり見せている気がする。
「え?あれ?」
彼が笑顔を見せてくれないと泣いていたけれど、私が泣いたり怒ったりしていたから?
「他の人と一緒なら、良く笑うのになと思っていたよ」
悲しそうな表情で言うリアム殿下を、アニータは呆然と見上げた。
リアム殿下はたくさん笑う人ではない。
それを知っていても、他の人に微笑む顔を見て悲しくなったというのに。
いつもにこにこしている人間が、自分の前でだけ笑わなくなったら?
そっちの方がひどくないか?
「ごめんなさいっ。私、嫌われているかと思って……」
涙をにじませるアニータを、またも驚いたように見て、リアム殿下は首を傾げる。
「私はあなたが好きだと言ったはずだ」
聞き間違いか、私の妄想ではなく!?
アニータの表情に、リアム殿下が嫌そうな顔をした。
考えたことを正確に読み取られたらしい。
「隣国と政略等の話はない。それがあれば、真っ先にマンフィニット侯爵に話が行くべきだ」
なんてこった。
それはそうだ。当然だ。
早々に結婚話が進むよりも先に、相談という形にしろ、父に話があるのが普通だ。
「どうして、私ってこんなに馬鹿なの?」
いつか呟いたことがある言葉が、また口からこぼれた。
「さあな」
リアム殿下の笑い声と共に、アニータが持ち上げられる。
両脇に手を差し込まれて、ひょいと持ち上げられたのだ。
抱き上げられたとは表現しづらい。
そのまま寝台に座らせられて、リアム殿下が隣に座った。
サイドボードから、絆創膏が出てきて、リアム殿下が手を差し出してきた。
アニータはいたたまれない気分だったが、いろいろとしでかしてしまったので、先に謝ろうと口を開いた。
「リアム殿下……ごめんなさい」
「私が言ったことを理解し、信じての謝罪か?」
リアム殿下がアニータの傷ついた方の手を取って、傷の深さを確認しているようだった。
すっかり忘れていたが、指を切っていた。
「うう……はい。これも、ごめんなさい」
わざと、短刀に触れたのだ。
アニータが傷つけば、リアム殿下に隙ができるだろうと分かったうえで。
「分かったなら、まあいいだろう」
そう言って、リアム殿下はアニータの指をぱくんと口に含んだ。
ちろちろと、傷口を舌が舐めて、血が消えた指に、彼が、絆創膏を巻きつけていた。
アニータは、しばらくそれを眺めてしまってから叫んだ。
「……。なっななっにを、するんですか!」
「消毒」
真っ赤になるアニータとは正反対に、リアム殿下は涼しい顔だ。
アニータはリアム殿下を押し倒したことさえあるというのに、真っ赤になってアタフタする様子に、リアム殿下は笑みをこぼす。
46
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる