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笑わないのはどっち
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ボロボロと涙を流すアニータのそばに、怒ったような顔をしているのに、眉を下げた微妙な表情のリアム殿下が立っていた。
「まず、アニータ。私はあなたと結婚する。あなたが不安ならば・・・既成事実というものを作ってもいい」
柔らかく抱き寄せられ、アニータは目を瞬かせる。
「王女殿下は、案内役なので共に行動することは多い。笑顔……か。仕事であれば、王子だからな。社交用の顔を作るのは上手いぞ?」
顎をくいっと持ち上げられた先にあるのは、綺麗な笑顔のリアム殿下。
けれど、ただ微笑んでいるだけの顔は、動かない。
アニータを見るリアム殿下は、いつも困った顔や怒った顔をして、アニータを叱るためならば、目でも話すことができるのではないかと思うほどだ。
そんなことを考えたことがあると、今頃思い出した。
「仕事以外では……そうだな、あまり笑わないのか、私は?」
意識したことがなかったと呟くリアム殿下は、作った笑顔を消したいつもの顔だ。
「アニータだって、私の前ではいつも泣いていたり怒っていたりして、あまり笑わない」
リアム殿下に言われて、アニータは固まる。
笑顔?
アニータは良く笑う方だと思う。
だけど、リアム殿下の前では、いつも必死だったもので、ひどい顔ばかり見せている気がする。
「え?あれ?」
彼が笑顔を見せてくれないと泣いていたけれど、私が泣いたり怒ったりしていたから?
「他の人と一緒なら、良く笑うのになと思っていたよ」
悲しそうな表情で言うリアム殿下を、アニータは呆然と見上げた。
リアム殿下はたくさん笑う人ではない。
それを知っていても、他の人に微笑む顔を見て悲しくなったというのに。
いつもにこにこしている人間が、自分の前でだけ笑わなくなったら?
そっちの方がひどくないか?
「ごめんなさいっ。私、嫌われているかと思って……」
涙をにじませるアニータを、またも驚いたように見て、リアム殿下は首を傾げる。
「私はあなたが好きだと言ったはずだ」
聞き間違いか、私の妄想ではなく!?
アニータの表情に、リアム殿下が嫌そうな顔をした。
考えたことを正確に読み取られたらしい。
「隣国と政略等の話はない。それがあれば、真っ先にマンフィニット侯爵に話が行くべきだ」
なんてこった。
それはそうだ。当然だ。
早々に結婚話が進むよりも先に、相談という形にしろ、父に話があるのが普通だ。
「どうして、私ってこんなに馬鹿なの?」
いつか呟いたことがある言葉が、また口からこぼれた。
「さあな」
リアム殿下の笑い声と共に、アニータが持ち上げられる。
両脇に手を差し込まれて、ひょいと持ち上げられたのだ。
抱き上げられたとは表現しづらい。
そのまま寝台に座らせられて、リアム殿下が隣に座った。
サイドボードから、絆創膏が出てきて、リアム殿下が手を差し出してきた。
アニータはいたたまれない気分だったが、いろいろとしでかしてしまったので、先に謝ろうと口を開いた。
「リアム殿下……ごめんなさい」
「私が言ったことを理解し、信じての謝罪か?」
リアム殿下がアニータの傷ついた方の手を取って、傷の深さを確認しているようだった。
すっかり忘れていたが、指を切っていた。
「うう……はい。これも、ごめんなさい」
わざと、短刀に触れたのだ。
アニータが傷つけば、リアム殿下に隙ができるだろうと分かったうえで。
「分かったなら、まあいいだろう」
そう言って、リアム殿下はアニータの指をぱくんと口に含んだ。
ちろちろと、傷口を舌が舐めて、血が消えた指に、彼が、絆創膏を巻きつけていた。
アニータは、しばらくそれを眺めてしまってから叫んだ。
「……。なっななっにを、するんですか!」
「消毒」
真っ赤になるアニータとは正反対に、リアム殿下は涼しい顔だ。
アニータはリアム殿下を押し倒したことさえあるというのに、真っ赤になってアタフタする様子に、リアム殿下は笑みをこぼす。
「まず、アニータ。私はあなたと結婚する。あなたが不安ならば・・・既成事実というものを作ってもいい」
柔らかく抱き寄せられ、アニータは目を瞬かせる。
「王女殿下は、案内役なので共に行動することは多い。笑顔……か。仕事であれば、王子だからな。社交用の顔を作るのは上手いぞ?」
顎をくいっと持ち上げられた先にあるのは、綺麗な笑顔のリアム殿下。
けれど、ただ微笑んでいるだけの顔は、動かない。
アニータを見るリアム殿下は、いつも困った顔や怒った顔をして、アニータを叱るためならば、目でも話すことができるのではないかと思うほどだ。
そんなことを考えたことがあると、今頃思い出した。
「仕事以外では……そうだな、あまり笑わないのか、私は?」
意識したことがなかったと呟くリアム殿下は、作った笑顔を消したいつもの顔だ。
「アニータだって、私の前ではいつも泣いていたり怒っていたりして、あまり笑わない」
リアム殿下に言われて、アニータは固まる。
笑顔?
アニータは良く笑う方だと思う。
だけど、リアム殿下の前では、いつも必死だったもので、ひどい顔ばかり見せている気がする。
「え?あれ?」
彼が笑顔を見せてくれないと泣いていたけれど、私が泣いたり怒ったりしていたから?
「他の人と一緒なら、良く笑うのになと思っていたよ」
悲しそうな表情で言うリアム殿下を、アニータは呆然と見上げた。
リアム殿下はたくさん笑う人ではない。
それを知っていても、他の人に微笑む顔を見て悲しくなったというのに。
いつもにこにこしている人間が、自分の前でだけ笑わなくなったら?
そっちの方がひどくないか?
「ごめんなさいっ。私、嫌われているかと思って……」
涙をにじませるアニータを、またも驚いたように見て、リアム殿下は首を傾げる。
「私はあなたが好きだと言ったはずだ」
聞き間違いか、私の妄想ではなく!?
アニータの表情に、リアム殿下が嫌そうな顔をした。
考えたことを正確に読み取られたらしい。
「隣国と政略等の話はない。それがあれば、真っ先にマンフィニット侯爵に話が行くべきだ」
なんてこった。
それはそうだ。当然だ。
早々に結婚話が進むよりも先に、相談という形にしろ、父に話があるのが普通だ。
「どうして、私ってこんなに馬鹿なの?」
いつか呟いたことがある言葉が、また口からこぼれた。
「さあな」
リアム殿下の笑い声と共に、アニータが持ち上げられる。
両脇に手を差し込まれて、ひょいと持ち上げられたのだ。
抱き上げられたとは表現しづらい。
そのまま寝台に座らせられて、リアム殿下が隣に座った。
サイドボードから、絆創膏が出てきて、リアム殿下が手を差し出してきた。
アニータはいたたまれない気分だったが、いろいろとしでかしてしまったので、先に謝ろうと口を開いた。
「リアム殿下……ごめんなさい」
「私が言ったことを理解し、信じての謝罪か?」
リアム殿下がアニータの傷ついた方の手を取って、傷の深さを確認しているようだった。
すっかり忘れていたが、指を切っていた。
「うう……はい。これも、ごめんなさい」
わざと、短刀に触れたのだ。
アニータが傷つけば、リアム殿下に隙ができるだろうと分かったうえで。
「分かったなら、まあいいだろう」
そう言って、リアム殿下はアニータの指をぱくんと口に含んだ。
ちろちろと、傷口を舌が舐めて、血が消えた指に、彼が、絆創膏を巻きつけていた。
アニータは、しばらくそれを眺めてしまってから叫んだ。
「……。なっななっにを、するんですか!」
「消毒」
真っ赤になるアニータとは正反対に、リアム殿下は涼しい顔だ。
アニータはリアム殿下を押し倒したことさえあるというのに、真っ赤になってアタフタする様子に、リアム殿下は笑みをこぼす。
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