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狩猟会2
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もうすぐ秋になるというのに、今日は夏がぶり返してきたように暑かった。王族も到着して、色とりどりのドレスが緑の中に溢ていた。
フラミンゴみたいで、きれいだわ。
全く褒めていない思考に気付かないまま、リオはその光景を眺めた。
警備は日除けのためにマントを羽織っており、さらに暑そうだ。
「リオ、オレは陛下と共に狩りに参加する。義父上のところへ行っておいてくれ」
帽子をかぶったアレクシオに見とれていたところにそう言われ、少し寂しくなる。
「兵士の見学はしないように」
眉の下がっていたリオに、わざと意地悪く笑いながら言えば、拗ねたように頬が膨らむ。
「心配なら、さっさと獲物を見つけて帰ってくれば良いんだわ!」
わざと怒ったように言うリオに、アレクシオは柔らかく笑んでリオの頭をなでた。
「陛下の腕次第だ」
今日は警備のため、狩りに同行はするが、参加はしないらしい。訓練などで山登りした際は、実際に狩りをして食べる兵士が参加すれば、あっという間に終わってしまうだろう。アマチュアの中にプロが混ざるようなものだ。
「じゃあ、いってくる」
そう言った途端、素直に寂しそうにするリオをアレクシオは抱き寄せて、柔らかな頬にキスをした。
マントを翻して陛下の元へ歩いて行くアレクシオは、前世の記憶の中にあるマンガの主人公のようだ。格好良すぎる。
アレクシオをうっとりと見送った後、一人でいても仕方がないので、父の元へ行こうと思って、踵を返した。
その途中、リオと同年代の女の子の集団がいた。
「リオディーニ様!ご一緒に見学なさいません?」
綺麗な金髪をゆるく垂らした令嬢が声を掛けてきた。
金髪碧眼の絵本で見るような、お姫様そのままの容姿をしたオリヴィアが、とても嬉しそうに自分の隣を指し示している。
大きな柔らかそうなラグは、見るからに居心地が良さそうだ。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」
そこにいたのは、伯爵令嬢のオリヴィアと、その妹のモニカ、男爵令嬢のファビー、同じく男爵令嬢のアリルだった。
全員、独身女性で、公爵夫人となっているリオが一番身分は高いが、元々仲が良かったので、あまり気にせずに付き合いが続いている。
用意されたふかふかのクッションに座ると、待ち構えていたように、モニカが話しかけてくる。
「リオディーニ様!リオディーニ様は、公爵閣下が怖くはないのですか?」
「モニカ!」
姉であるオリヴィアが窘めてはいるものの、全員が興味津々でこちらをのぞき込んでくる。
怖い、ねえ・・・。
どう答えようか、しばし思案する。ステキすぎて怖いとか、自分が暴走しそうで怖いとかじゃないのは、さすがのリオでも、もう分かっている。
「アレクシオ様は、とてもお優しい方よ?」
語り尽くしたいあらゆることを飲み込んで、無難な一言にまとめた。
ようやく、最近になって、自分が特殊な好みであることを理解した。
本来、アレクシオのような体格の男性は、若い女性は特に怖がって近づかないのだ。
だから、あんなに優しくてステキなアレクシオが結婚もせずにいたのだけれど。
それを考えると、自分はなんて幸運なんだろうとうっとりしてしまう。
あんな素敵な方が、三十歳過ぎまで結婚せずに、リオを待っていてくれたのだ。そう思えば、運命さえも感じてしまう。
「でも、あんなに大きなお体で近寄って来られたら、気絶してしまうかも知れないわ」
モニカが、陛下と一緒に馬に乗るアレクシオを見ながら言った。
実際、遠目にするとはっきりと、アレクシオの格好良さが・・・じゃない、大きさが際立つ。
「そうね・・・・・・とても大きな方よね」
そして、リオはあの腕の中にすっぽりと収まってしまうのだ。ああ、さっき別れたばかりなのに、もう抱きしめられたい。
「でも、リオ様は、さっきだって、えと・・・ほら」
リオが別の世界に意識を飛ばしそうになっていると、アリルが恥ずかしそうに言い出した。
・・・・・・キスをしていたところも見られていたのか。
こんな、公衆の面前でしたのだ。見られていても当然だが、そうやってもじもじされると、リオも気恥ずかしい。
「だって、大好きなんですもの」
ふふっ。と、両手を頬にあててリオは幸せそうに微笑んだ。
そのリオの表情を見て、他の4人は少し顔を赤くした。
惚気すぎたかしら。そう思っていると、モニカが「こんなに愛らしい方が閣下の妻だなんて、勿体ないわ」と呟いているのが聞こえた。
その言葉に、またオリヴィアから怒られていたので、リオは聞こえないふりをした。
同年代の女の子達は、アレクシオとリオが一緒にいることに不思議に思うらしい。
わざわざ、そんな方を選ばなくても、選り取り見取りだったはずなのに、と。
リオは、その話を聞くたびに、アレクシオの外見はともかく、自分も?と不思議に思う。自分など、特に目立ちもしないチビなだけだ。
だが、そんな言葉も、もうほとんど聞かれない。
今期の社交界当初から、公爵夫妻の仲睦まじさは噂になっているのだ。
公爵邸での舞踏会でも、仲が良すぎて、最後は主催者二人が消えてしまっていたとの噂は本当かとモニカ達に聞かれた時はどうしようかと思った。
そんなことまで広まっているのか。
「さすがにそこまでのことは無いでしょう」と、夫妻を直接見てないものは言うが、一度でも目の前で見てしまえば、どう見ても、サンフラン公爵夫妻の仲睦まじさは、明らかだった。
フラミンゴみたいで、きれいだわ。
全く褒めていない思考に気付かないまま、リオはその光景を眺めた。
警備は日除けのためにマントを羽織っており、さらに暑そうだ。
「リオ、オレは陛下と共に狩りに参加する。義父上のところへ行っておいてくれ」
帽子をかぶったアレクシオに見とれていたところにそう言われ、少し寂しくなる。
「兵士の見学はしないように」
眉の下がっていたリオに、わざと意地悪く笑いながら言えば、拗ねたように頬が膨らむ。
「心配なら、さっさと獲物を見つけて帰ってくれば良いんだわ!」
わざと怒ったように言うリオに、アレクシオは柔らかく笑んでリオの頭をなでた。
「陛下の腕次第だ」
今日は警備のため、狩りに同行はするが、参加はしないらしい。訓練などで山登りした際は、実際に狩りをして食べる兵士が参加すれば、あっという間に終わってしまうだろう。アマチュアの中にプロが混ざるようなものだ。
「じゃあ、いってくる」
そう言った途端、素直に寂しそうにするリオをアレクシオは抱き寄せて、柔らかな頬にキスをした。
マントを翻して陛下の元へ歩いて行くアレクシオは、前世の記憶の中にあるマンガの主人公のようだ。格好良すぎる。
アレクシオをうっとりと見送った後、一人でいても仕方がないので、父の元へ行こうと思って、踵を返した。
その途中、リオと同年代の女の子の集団がいた。
「リオディーニ様!ご一緒に見学なさいません?」
綺麗な金髪をゆるく垂らした令嬢が声を掛けてきた。
金髪碧眼の絵本で見るような、お姫様そのままの容姿をしたオリヴィアが、とても嬉しそうに自分の隣を指し示している。
大きな柔らかそうなラグは、見るからに居心地が良さそうだ。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」
そこにいたのは、伯爵令嬢のオリヴィアと、その妹のモニカ、男爵令嬢のファビー、同じく男爵令嬢のアリルだった。
全員、独身女性で、公爵夫人となっているリオが一番身分は高いが、元々仲が良かったので、あまり気にせずに付き合いが続いている。
用意されたふかふかのクッションに座ると、待ち構えていたように、モニカが話しかけてくる。
「リオディーニ様!リオディーニ様は、公爵閣下が怖くはないのですか?」
「モニカ!」
姉であるオリヴィアが窘めてはいるものの、全員が興味津々でこちらをのぞき込んでくる。
怖い、ねえ・・・。
どう答えようか、しばし思案する。ステキすぎて怖いとか、自分が暴走しそうで怖いとかじゃないのは、さすがのリオでも、もう分かっている。
「アレクシオ様は、とてもお優しい方よ?」
語り尽くしたいあらゆることを飲み込んで、無難な一言にまとめた。
ようやく、最近になって、自分が特殊な好みであることを理解した。
本来、アレクシオのような体格の男性は、若い女性は特に怖がって近づかないのだ。
だから、あんなに優しくてステキなアレクシオが結婚もせずにいたのだけれど。
それを考えると、自分はなんて幸運なんだろうとうっとりしてしまう。
あんな素敵な方が、三十歳過ぎまで結婚せずに、リオを待っていてくれたのだ。そう思えば、運命さえも感じてしまう。
「でも、あんなに大きなお体で近寄って来られたら、気絶してしまうかも知れないわ」
モニカが、陛下と一緒に馬に乗るアレクシオを見ながら言った。
実際、遠目にするとはっきりと、アレクシオの格好良さが・・・じゃない、大きさが際立つ。
「そうね・・・・・・とても大きな方よね」
そして、リオはあの腕の中にすっぽりと収まってしまうのだ。ああ、さっき別れたばかりなのに、もう抱きしめられたい。
「でも、リオ様は、さっきだって、えと・・・ほら」
リオが別の世界に意識を飛ばしそうになっていると、アリルが恥ずかしそうに言い出した。
・・・・・・キスをしていたところも見られていたのか。
こんな、公衆の面前でしたのだ。見られていても当然だが、そうやってもじもじされると、リオも気恥ずかしい。
「だって、大好きなんですもの」
ふふっ。と、両手を頬にあててリオは幸せそうに微笑んだ。
そのリオの表情を見て、他の4人は少し顔を赤くした。
惚気すぎたかしら。そう思っていると、モニカが「こんなに愛らしい方が閣下の妻だなんて、勿体ないわ」と呟いているのが聞こえた。
その言葉に、またオリヴィアから怒られていたので、リオは聞こえないふりをした。
同年代の女の子達は、アレクシオとリオが一緒にいることに不思議に思うらしい。
わざわざ、そんな方を選ばなくても、選り取り見取りだったはずなのに、と。
リオは、その話を聞くたびに、アレクシオの外見はともかく、自分も?と不思議に思う。自分など、特に目立ちもしないチビなだけだ。
だが、そんな言葉も、もうほとんど聞かれない。
今期の社交界当初から、公爵夫妻の仲睦まじさは噂になっているのだ。
公爵邸での舞踏会でも、仲が良すぎて、最後は主催者二人が消えてしまっていたとの噂は本当かとモニカ達に聞かれた時はどうしようかと思った。
そんなことまで広まっているのか。
「さすがにそこまでのことは無いでしょう」と、夫妻を直接見てないものは言うが、一度でも目の前で見てしまえば、どう見ても、サンフラン公爵夫妻の仲睦まじさは、明らかだった。
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