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狩猟会4
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オリヴィアの体がかすかにだが、震えたことに気がついて、リオは傍でオリヴィアを覗き込んだ。
「オリヴィア様、わたしが傍にいます。この人は、動くベッドだとでも思いなさい」
手を握って言えば、軽くまぶたが動いた。
体を動かすことが億劫なのだろう。
リオは、何故早く気がつかなかったのかと、唇をきゅっと噛みしめた。
「失礼します」
体格の良い彼が、ひょいとオリヴィアを抱き上げる。
少し驚いたように身じろぎしたが、すみませんと、か細く謝る声が聞こえた。
「馬車へ向かいます。楽にしていただいて構いませんよ」
ちょっと嬉しそうに兵士が歩き始める。
役得とか思っていそうだ。
「急いで冷やさなければならないの」
悠々と歩く兵士に走りながら話しかけると、「そうですか」と答えた後に、困ったようにリオを見て言った。
「奥様、急ぐんですよね?先に行ってもいいですか?」
私が遅いというの!?ぜはぜは言いながらでは、そんな声も出ない。
景観が崩れるとかで、馬車は随分遠くに止めているようだ。
こっちに来てくれればいいのに!とリオは怒ったが、馬車はその時、他の馬車に積んだ全ての氷を移動している真っ最中だった。
本来であれば、医者でもなんでもないリオの一言で、近衛も侍従もみんなが一斉に動くことなどありえないのだろうが、公爵邸において、リオが肩こりの対策を教えたことなどが、使用人を通じて口から口へと伝わっていたため、リオの指示に全員が従ったのだ。
リオは知らないことだが、公爵夫人が指示したことであれば、何かあるに違いないと使用人全員が感じていた。
「大丈夫。ベッドだと思っていてください。決して傷つけません」
さきほどのリオの言葉を、笑顔と共に、もう一度オリヴィアに伝えて、兵士は走り出した。
うん。絶対追いつけない。
だけど、大きな男性と一緒なのは怖いだろうと思う。動かない体の時は、特に。
できるだけ急いで、リオも馬車へ向かった。
着いた時には、その兵士は馬車の外で警護をしていて、リオは全く役に立ちもしなかったのだけれど。
オリヴィアはその後、すぐに屋敷に戻ることとなった。
付き添った兵士は、一輛だけで戻る馬車を心配し、護衛について帰ってくれた。
オリヴィアを見送った後、振り返れば、尊敬と驚愕のまなざしで注目されていた。
熱中症の対策は、通常知り得ない知識の一つだったはずだ。無我夢中だったとはいえ、大勢の人間の前で披露しすぎた。
いつものように、カーディ商会で手に入れた・・・と済ませようとすれば、何度もお世話になった老医術士と目が合った。
医術士は、目を見開いたまま固まっていた。
―――――どうしよう。
言い訳など、通じない相手がいたことで、リオは動揺した。医術知識を、勝手に手に入れた人間はどうなるのだっけ?体をただ冷すという行為は、医術行為か、否か。
重大な罪に、リオは真っ青になって、その場に頽れそうになった。
「リオ!」
その時、森の方から全速力で一騎の馬が走ってきた。アレクシオだ。
多分、マッシュが連絡をしてくれたのだろう。アレクシオが全速力でかけてきた。
馬を走らせながら、リオの近くでひらりと羽のように軽く飛び降りて、リオを抱きしめた。
「リオ、無事か?」
アレクシオの身軽な身のこなしに見惚れて感動することもできないほどに動揺して、リオはアレクシオに助けを求めるように手を伸ばした。
「あ、わ、私は平気で・・・、オリヴィア様が・・・熱を出されて帰られました」
正確に言えば、熱中症だが、正確に言わない方がいいだろうと思った。
アレクシオは、リオの動揺と、周りの注目の様子で、大体の当たりを付けた。そして、きゅっと眉を寄せ、周りを睨むように眺めまわしてから口を開――――く前に、医術士の朗々たる声が響いた。
「なんと!さすが私の弟子じゃ!見事な判断だったの!」
「オリヴィア様、わたしが傍にいます。この人は、動くベッドだとでも思いなさい」
手を握って言えば、軽くまぶたが動いた。
体を動かすことが億劫なのだろう。
リオは、何故早く気がつかなかったのかと、唇をきゅっと噛みしめた。
「失礼します」
体格の良い彼が、ひょいとオリヴィアを抱き上げる。
少し驚いたように身じろぎしたが、すみませんと、か細く謝る声が聞こえた。
「馬車へ向かいます。楽にしていただいて構いませんよ」
ちょっと嬉しそうに兵士が歩き始める。
役得とか思っていそうだ。
「急いで冷やさなければならないの」
悠々と歩く兵士に走りながら話しかけると、「そうですか」と答えた後に、困ったようにリオを見て言った。
「奥様、急ぐんですよね?先に行ってもいいですか?」
私が遅いというの!?ぜはぜは言いながらでは、そんな声も出ない。
景観が崩れるとかで、馬車は随分遠くに止めているようだ。
こっちに来てくれればいいのに!とリオは怒ったが、馬車はその時、他の馬車に積んだ全ての氷を移動している真っ最中だった。
本来であれば、医者でもなんでもないリオの一言で、近衛も侍従もみんなが一斉に動くことなどありえないのだろうが、公爵邸において、リオが肩こりの対策を教えたことなどが、使用人を通じて口から口へと伝わっていたため、リオの指示に全員が従ったのだ。
リオは知らないことだが、公爵夫人が指示したことであれば、何かあるに違いないと使用人全員が感じていた。
「大丈夫。ベッドだと思っていてください。決して傷つけません」
さきほどのリオの言葉を、笑顔と共に、もう一度オリヴィアに伝えて、兵士は走り出した。
うん。絶対追いつけない。
だけど、大きな男性と一緒なのは怖いだろうと思う。動かない体の時は、特に。
できるだけ急いで、リオも馬車へ向かった。
着いた時には、その兵士は馬車の外で警護をしていて、リオは全く役に立ちもしなかったのだけれど。
オリヴィアはその後、すぐに屋敷に戻ることとなった。
付き添った兵士は、一輛だけで戻る馬車を心配し、護衛について帰ってくれた。
オリヴィアを見送った後、振り返れば、尊敬と驚愕のまなざしで注目されていた。
熱中症の対策は、通常知り得ない知識の一つだったはずだ。無我夢中だったとはいえ、大勢の人間の前で披露しすぎた。
いつものように、カーディ商会で手に入れた・・・と済ませようとすれば、何度もお世話になった老医術士と目が合った。
医術士は、目を見開いたまま固まっていた。
―――――どうしよう。
言い訳など、通じない相手がいたことで、リオは動揺した。医術知識を、勝手に手に入れた人間はどうなるのだっけ?体をただ冷すという行為は、医術行為か、否か。
重大な罪に、リオは真っ青になって、その場に頽れそうになった。
「リオ!」
その時、森の方から全速力で一騎の馬が走ってきた。アレクシオだ。
多分、マッシュが連絡をしてくれたのだろう。アレクシオが全速力でかけてきた。
馬を走らせながら、リオの近くでひらりと羽のように軽く飛び降りて、リオを抱きしめた。
「リオ、無事か?」
アレクシオの身軽な身のこなしに見惚れて感動することもできないほどに動揺して、リオはアレクシオに助けを求めるように手を伸ばした。
「あ、わ、私は平気で・・・、オリヴィア様が・・・熱を出されて帰られました」
正確に言えば、熱中症だが、正確に言わない方がいいだろうと思った。
アレクシオは、リオの動揺と、周りの注目の様子で、大体の当たりを付けた。そして、きゅっと眉を寄せ、周りを睨むように眺めまわしてから口を開――――く前に、医術士の朗々たる声が響いた。
「なんと!さすが私の弟子じゃ!見事な判断だったの!」
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