好きなものは好きなんです!

ざっく

文字の大きさ
12 / 21

恋の駆け引き7

しおりを挟む
 だが、しかし。
 リオは駆け引きなるものをした覚えがない。
 オリヴィア曰く、『自然と無意識で』やっていた駆け引きをどうやって伝えたらいいだろうか。
 使用人たちの無言の「やめてください!」の視線にリオが気がつくことは無かった。
 オリヴィアは、またゆっくりお話を聞かせてくださいと帰っていった。
 ということは、それまでにどうやればいいかの具体的事案を提案として出せる状態にしなければならないと言うことだ。

 レディコミの内容を思い出してみる。
 まあ、リオの恋愛的知識なんて、そこからしかないのだ。

 ――――ここはやっぱりオフィスラブだろうか?

 外はもう暗くなってしまった。残業で、会社に残ったのはもう二人だけ。
 「終わったか?帰ろうか」
 「あ、はい!」
 声をかけられて答えたのと同時に、女性の携帯が震える。
 女性は慌てて謝るが、上司である男性は、構わないと帰り支度を進める。
 「はい。うん。仕事終わったよ。今から?どうしたの?」
 女性は、こそこそと電話で会話をし、今から食事の約束をして電話を切った。
 さあ帰ろうと後ろを振り向くと、目の前にスーツに包まれた広い体がすぐそばにあった。
 驚いて身を引くと、ぐらりと体が傾いで・・・その体は、たくましい男性の腕に捕らえられる。
 「俺を置いてどこに行こうと言うんだ?」
 「え、かちょ・・・・・・んっ」
 突然抱きしめられてむさぼるように唇を奪われた。
 「オレ以外のもとに行こうなんて、許さないよ。君はオレだけのものだ」
 「そんな、急に・・・・・・」
 「急じゃない。嫉妬で頭がおかしくなりそうだ」
 課長と呼ばれた男は、さらに女性をきつく抱きしめて熱く見つめた。
 「こんなにオレを狂わせているくせに、そんな愛らしい瞳で、さらにオレを煽る気か?」
 女性が呆然としているのをいいことに、熱い息を吹き込むように、何度もキスを繰り返した。
 「君を世界一愛せるオレの腕の中から逃げられるとでも?」

 ――――なんちゃって!なんちゃって!

 と、妄想で萌えすぎているときに、アレクシオが現れたのだった。

 リオは、アレクシオが出て行ってしまった扉を呆然と眺めた。

 どうして?
 アレクシオはここで嫉妬に駆られてリオを激しく抱きしめて、「誰にも渡さない」とかいろいろ言う予定だったのだ。
 そんなに簡単に諦められるようなものだった?
 嫉妬に我を忘れるまでもなく?

 ショックを受けながらも、リオ自身がショックを受けるのはおかしいと、分かっていた。

 たまには違ったことを言われたいとか、嫉妬に我を忘れて欲しいとか。
 大好きな人を傷つけてまで欲しい言葉?
 嫉妬してほしいけれど、「愛している」って言葉をなくしてまで欲しい?
 抱き合う時間を我慢してまで欲しかった?

 そんなわけがない!

 「アレクシオ様っ!」
 慌ててアレクシオの私室の扉を開けば、
 「はい」
 待っていたように、アレクシオがリオを抱き上げた。
 「うゃっ!?」
 実際、分かっていたのだろう。毎日受け続ける視線で、リオがアレクシオ以外に心を移すはずがないと自信を持てるほどには、アレクシオはリオの心を理解していた。
 「今度は何を企んでいた?」
 いつも楽しそうに目を細めてくる視線が、まったく楽しそうじゃない。少し怖い。
 アレクシオがリオを信じていたとしても、今回の冗談は心臓に悪い。
 それを、リオも正確に把握していた。
 だけど、レディコミの中身が思い出された時、それを現実にする願望が止まらなかったのだ。

 「た……企んでいたわけじゃ……ないのよ?」

 とてもひどいことをした自覚があるから、声が小さくなる。
 同じことを言われたら、リオはその瞬間に泣き叫ぶだろう。
 それに思い至った途端、涙がにじんだ。
 リオの涙を見れば、普段なら優しく抱きしめてキスをくれるのに、アレクシオは泣きそうなリオを執務机の上に下ろした。
 「ごめんなさい」
 謝っても、執務机に座ったリオから体を離し、腕を組んで見下ろすだけだ。
 泣いている場合ではない。説明しなければ。

 怒った顔をするアレクシオに、リオは震える声で説明を始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています 【完結】

日下奈緒
恋愛
「地味な令嬢は妃に相応しくない」──そう言い放ち、セレナとの婚約を一方的に破棄した子爵令息ユリウス。彼が次に選んだのは、派手な伯爵令嬢エヴァだった。貴族たちの笑いものとなる中、手を差し伸べてくれたのは、幼馴染の第2皇子・カイル。「俺と婚約すれば、見返してやれるだろう?」ただの復讐のはずだった。けれど──これは、彼の一途な溺愛の始まり。

本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~

なか
恋愛
 私は本日、貴方と離婚します。  愛するのは、終わりだ。    ◇◇◇  アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。  初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。  しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。  それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。  この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。   レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。    全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。  彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……  この物語は、彼女の決意から三年が経ち。  離婚する日から始まっていく  戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。  ◇◇◇  設定は甘めです。  読んでくださると嬉しいです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

この結婚に、恋だの愛など要りません!! ~必要なのはアナタの子種だけです。

若松だんご
恋愛
「お前に期待するのは、その背後にある実家からの支援だけだ。それ以上のことを望む気はないし、余に愛されようと思うな」  新婚初夜。政略結婚の相手である、国王リオネルからそう言われたマリアローザ。  持参金目当ての結婚!? そんなの百も承知だ。だから。  「承知しております。ただし、陛下の子種。これだけは、わたくしの腹にお納めくださいませ。子を成すこと。それが、支援の条件でございますゆえ」  金がほしけりゃ子種を出してよ。そもそも愛だの恋だのほしいと思っていないわよ。  出すもの出して、とっとと子どもを授けてくださいな。

処理中です...