落ちて拾われて売られて買われた私

ざっく

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本当の姿

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「いろいろな姿をとれるのですね」
座ってもいいとは言われていないが、ナナはお茶を飲む気が無いのだろうと思って、勝手に座る。
歩き続けていたこともあるし、最後にはサランダに力いっぱいしがみついたため、疲れていた。
久しぶりにポットで淹れられたお茶は芳醇な香りを放ち、とても美味しい。
「反応が薄いわ!?」
ナナがひゅんと風のように近づいてくる。
ふわりと私の前髪が動いた感触がした。
「薄くないです。最初の変身で、それはもう驚きました。今のは二回目だったので」
最初より少々反応が薄くなったとしても仕方がない。紅茶の香りを楽しみながら答えた私に、ナナは目を丸くする。
「だって、魔物の姿になったのよ!?魔物だったのよ!」
「サランダが魔王だと聞いていますから、知っています」
紅茶は美味しいが、お茶請けが欲しい。クッキーなどあったらいいなあと思う。
私が紅茶を飲んでいる姿を呆然と眺めたナナは――しばらくのちに、ゆっくりと嬉しそうに微笑んだ。
「――だったらいいのよ。安心したわ」
「安心ですか?……ああ、ナナ様がどんな姿をとられても構わないので、楽な姿で……あ、やっぱり、男性の姿は着替えるときに緊張するので、女性だったらいいです。」
そういえば、ナナは身の回りの世話をしてくれると言っていた。
遊女として名を馳せてはいたが、実際に男性に肌を晒したことはほとんどない。触る前に脱いで見せてくれという特殊な客がいたときくらいだ。
元が女性だと分かっていても、男性からじろじろ見られながら着替えをするのは……と考えて、ふと思いつく。
「ナナは、性の対象は男性だと思っていいですか?」
これだけ変身をされると、もしかしたら、女性に見えるが男性だということも考えられる。
真剣に訊いたのに、ナナは呆れた顔を隠さずにため息を吐く。
「さっきから、予想した反応ではない斜め上の言葉が返ってくるわ」
さっきから。
どのあたりの事だろう。
「モノによっては、性は関係ないというモノもいるわね。ただ、私は女性で、男性が好きだわ。男に変身することはできなくはないけど、自分の体を大きくする変身は疲れるからやらないわ」
ナナの言葉に、私はにっこりと微笑んで頷く。
「それはよかったです」
少なくとも、着替えで気を使う必要はないということだ。
ナナは突然、私が彼女のために準備した紅茶をひっつかんで、グイッと呷るように飲み干す。
「ごちそうさま。陛下呼んでくるわ」
「はい?」
ここにあった茶葉でお茶を入れて、ごちそうさまと言われたことにも驚くが、何故、陛下?
サランダはナナに私の世話を頼んだ。
ということは、今日はもう忙しいのだろうと思っていた。
私が驚いている間に、ナナは部屋から消える。
ドアが開いたので、きちんとドアから出て行ったのだろうが、急に姿が見えなくなったような気がしたのだ。
そして、すぐに
「おい!?なんだいきなり!」
サランダが放り込まれてきた。
比喩とかではなく、本当にポーンと投げられたような状態でサランダが部屋に入ってきたのだ。
「陛下が嘘を吐いておられたので、確認をしようかと」
そして、私のわきにナナが立つ。
さっきから、どれだけの速さで移動しているのだろう。彼女が動くたびに風が舞いあがるのだ。
「嘘って……ナナ!?何故その姿に戻っている!?人間の姿のままでいろと言っただろう!」
「リンカが一番楽な格好で良いと言ったので。ねえ?」
最後の呼びかけで私を振り返って、ナナはにっこりと笑う。
私はお茶のおかわりに手を伸ばしたところだった。ポットを手にしたまま、私は頷く。
「はい。別にどんな姿でもいいのですが……お茶を入れましょうか?」
サランダは、旅装を解かないまま、先ほどと変わらない格好をしている。
疲れているのではないかと思って聞いたのだが。サランダにはもっと気になることがあるようで、私とナナの間で視線を行き来させている。
「どんな姿でも、って……リンカ、怖いだろ?無理しなくても、いい」
「失礼ですね」
間髪入れずにナナが突っ込んでいるが、サランダに気にした様子はない。
私は改めて傍らに立つナナを見上げる。
髪の毛はうねうねと動いているが、銀色に輝いてきれいだし、赤い瞳も牙も、ナナの美しい容姿にとても似合っている。
「あ、抜け毛も動きますか?それは、突然落ちていたらびっくりするかも」
足元にヘビがいたのかと思ってビクッとする自分が想像できる。
「抜け毛……人間と一緒にしないで頂戴。この子たちは全部生きているのよ」
髪の毛だと思っていたが、どうやら違うようだ。
ナナの髪の毛の数本が私の方へにょろにょろと伸びてくる。
ナナは気にしていないし、サランダも心配そうにしているが特に止める様子はないので危険はないのだろう。
可愛いかと聞かれれば、特に可愛いわけではない。多少太いが髪の毛に見えるし。
動く髪の毛。
私は、そっと手を伸ばして触れる。
すると、ひゅるんと力を失ったように垂れてしまった。
「……ん?あら、急に眠いわ」
急に気を失ったようには眠らないが、ナナにも多少影響があるようだ。
「あなた、何か……妙な力があるわね?」
ナナが頭を振ると、さっき動かなくなっていた髪の毛はどれか分からなくなった。
私に興味があって、何かの意図を持って近づいてきたものに触れれば、対象は寝てしまう。
普段、特に意識していないときは触れられても眠らせたりはしないのだが、ナナの髪の毛は私に興味があったようだ。
ナナは不思議そうにしながらも、「眠いから寝る」と、部屋を出て行ってしまった。
残ったのは、眉間にしわを寄せたサランダと私。
食事をとっていた時、サランダはお茶を好んでいたようだったから、彼の分のお茶を準備する。
「座らない?」
もう一度声をかけると、サランダはゆっくりと私と目を合わせる。
そのままじっと動かないなと思っていると、小さな声で何かつぶやいた。
「本当の姿じゃない」
小さすぎて、何を言ったのか解するのに時間を要した。
聞き間違えかと思って、もう一度聞いてみる。

「よく、聞こえなかったみたい」




「俺は、本当はこの姿じゃない」
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