S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko

文字の大きさ
6 / 39
第1章

第6話:相棒

しおりを挟む
null との共闘関係が始まってから、数日が過ぎた。
しかし、事態は意外な形で停滞していた。

あれ以来、例の裏アカウントの更新が、ぴたりと止まったのだ。

『…動きが、ないですね』
深夜、ヘッドセットの向こうから、null の静かな声が聞こえる。
もうすっかり聞き慣れた、彼の声だ。

「うん…。警戒してるのかな」
『その可能性が高いです。下手に動いて、ボロを出さないようにしている』
「そっか…。じゃあ、犯人が分かるまで、まだ時間がかかるんだね」
『…すみません。俺の力不足です』

彼の声に、かすかな悔しさが滲んでいるのが分かった。
光は慌てて首を横に振る。誰も見ていないのに。

「そんなことない! null さんは、すごいよ!
私一人じゃ、きっと今頃も、ずっと泣いてただけだと思うから」

『……』
彼はまた、黙り込んでしまった。
きっと、照れているのだろう。テキストでのやり取りの時も、彼を褒めるといつも少しだけ返信が遅れた。
その不器用さが、なんだか可愛くて、光はくすりと笑う。

でも、捜査が進まないのは事実だ。
犯人が動かない限り、こちらも動きようがない。
張り詰めていた緊張の糸が緩み、気まずい沈黙が流れる。

『……少し、疲れていませんか』
沈黙を破ったのは、彼の方だった。
その声には、不器用ながらも気遣うような響きがあった。
「え? あ、うん…少しだけ」
本当はずっと、心臓が張り裂けそうなくらい緊張していた。
『…少し、気分転換をしませんか。こういう時は、一度頭を冷やすのも大事です』
「気分転換…?」
『はい。もしよければ…ですが。俺と、オンラインゲームでも』
彼の声は、どこか自信なさげで、おそるおそる、といった感じだった。

「へえ、オンラインゲーム!」
光は思わず声を上げた。
彼がゲームをするなんて、少し意外だった。

『はい。まあ、昔から、人より機械と話す方が楽だったので』
彼の声には、自嘲するような響きがあった。

「そんなことないよ。null さんは、話しやすいよ」
『……どうも』
「ねえ、そのゲーム、どんなゲームなの?」
光は、純粋な好奇心から尋ねた。

『…ファンタジー系の、MMORPG です。剣と魔法の世界で、モンスターを倒したり…』
「わあ、面白そう!」
『そうですか?』
「うん! 私も、やってみたいな…」

言った後で、光は「しまった」と思った。
彼を困らせてしまったかもしれない。
でも、彼の返事は、予想外のものだった。

『…やりますか?』
「え、いいの!?」
『はい。無料ですし。…もし、あなたがよければ』

その控えめな誘い方に、光の胸がトクンと鳴った。
これは、ただの捜査協力じゃない。
彼からの、初めての「お誘い」だ。

「やる! やってみたい!」
光は、弾む声で答えた。

---

その夜、二人はゲームの世界で合流した。
俺が長年プレイしている、MMORPG『Aethelgard Online』。
ボイスチャットを繋いだまま、俺は光にゲームのインストール方法から、キャラクターの作り方まで、一つ一つ丁寧に説明した。

『よし、これで OK です。ログインできますか』
「うん、できた! うわー、すごい! きれい!」

ヘッドセットの向こうから、光の感動した声が聞こえる。
俺のアバター、『null』が立っているのは、始まりの街の大聖堂前。
目の前に、一体のアバターが出現した。

光の作ったキャラクターは、金髪碧眼の、可愛らしいヒーラーだった。
初期装備の、みすぼらしいローブを身につけて、きょろきょろと周りを見回している。
その姿が、なんだかひどく庇護欲をそそった。

『どうも、null です』
俺はゲーム内のチャットで、そう挨拶を送った。

「わ、すごい! null さんのキャラ、めっちゃ強そう!」
俺のキャラクターは、全身を黒い鎧で固めた、このゲームでは最高レベルに近いウォーリアーだ。
背負った大剣も、レアな素材をいくつも使って作り上げた、自慢の一品だ。

『…まあ、長くやってるので』
「へへへ、私のキャラは『Hikari』だよ! よろしくね、null さん!」

現実世界とは、役割が完全に逆転していた。
俺がパーティを導くリーダーで、彼女がその後ろをついていく初心者。
それが、なんだか不思議で、少しだけ誇らしかった。

『では、最初のクエストを受けに行きましょう。こっちです』
俺は光を先導し、街のギルドへと向かった。
彼女はおぼつかない足取りで、一生懸命俺の後をついてくる。

「わ、すごい人いっぱいいる!」
「ねえ、あの人の武器、光ってない!?」
「あ、モンスターだ! かわいい!」

彼女は見るものすべてに、子供のようにはしゃいでいた。
その無邪気な声を聞いているだけで、俺のささくれた心が、少しずつ癒されていくような気がした。

『Hikari さん、最初の討伐クエストです。スライムを 10 匹、倒してください』
「うん、分かった! やってみる!」

街の外に出ると、ぷるぷるとした緑色のスライムが跳ねていた。
光は覚えたての攻撃魔法を、一生懸命スライムに放つ。
でも、なかなか当たらない。

「えい! あっ、よけた!」
「もう、なんでそっち行くのー!」
『落ち着いて。相手の動きをよく見て』
「うん…えいっ!」

光の放った小さな火の玉が、ようやく一匹のスライムに命中した。
ぽよん、という情けない音を立てて、スライムが消える。

「やった! 倒したよ、null さん!」
『…はい。おめでとうございます』
「へへっ。なんだか、楽しいね、これ」

その時だった。
光が倒したスライムの奥から、一回り大きな、赤黒いスライムが出現した。
このエリアに、ごく稀に出現するレアモンスターだ。

『Hikari さん、危ない!』
俺はとっさに彼女の前に立ち、大剣を構えた。
だが、レアモンスターの攻撃は、俺の想像よりも速かった。

「きゃっ!」
光の悲鳴。
彼女のキャラクターが、攻撃を受けて地面に倒れる。
HP がゼロになったわけではない。でも、初めての戦闘不能状態に、彼女は動揺していた。

『大丈夫ですか』
「う、うん…びっくりした…」
俺はすぐに回復薬を彼女に使い、レアモンスターと対峙する。
レベル差は圧倒的だ。俺は数回、剣を振るうだけで、簡単に敵を倒すことができた。

『…すみません。俺が、油断しました』
「ううん、私のせいだよ。ごめんね」
『いえ。あなたが謝ることはない』

しばらく、また沈黙が流れる。
ゲームの中の夜空には、満月が浮かんでいた。

「…なんだか、新鮮だなあ」
光が、ぽつりと呟いた。
「いつも、私がしっかりしなきゃって思ってたから。誰かに守ってもらうのって、初めてかも」
『……』
「学校でも、モデルの仕事でも、いつも完璧でいなきゃいけないって。そうしないと、誰も私のことなんて見てくれないって、ずっと思ってたから」
彼女の声は、少しだけ震えていた。
「でも、ここでは、私、ただの初心者だもんね。何もできなくて、当たり前。それが、なんだか、すごく楽」

彼女の言葉が、俺の胸に突き刺さる。
完璧でいなければいけない、というプレッシャー。
それは、方向性は違えど、俺がずっと抱えてきたものと、どこか似ていた。

『…俺も、同じです』
気づけば、俺はそう口にしていた。
「え?」
『俺は、昔から、人より機械と話す方が楽だった。プログラムは、裏切らないから。でも、だから、周りからはずっと、何を考えてるか分からないって、言われてきた』

それは、ずっと心の奥底に仕舞い込んできた、俺の弱さだった。
でも、今、この声だけの世界でなら、素直に言えた。

『…だから、あなたとこうして話しているのが、少し、不思議な感じです』
「そっか…。ふふ、おんなじだね、私たち」

光が、優しく笑った。
その笑い声を聞いて、俺は、心の中の何かが、少しだけ溶けていくのを感じた。

この夜を境に、俺たちの関係は、確かに変わった。
ただの匿名の協力者じゃない。
秘密を共有し、弱さを見せ合える、初めての「友人」に。
俺は、天野光という、複雑で、矛盾に満ちた、最高に厄介で、そして、どうしようもなく魅力的なプログラムのデバッグ作業に、本格的に乗り出すことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
平凡な俺、相葉祐樹が手にしたのは、ありえないはずの超名門男子校『獅子王院学園』からの合格通知。期待を胸に入学した先は、王子様みたいなイケメンだらけの夢の空間だった! ……はずが、ある夜、同室のクールな完璧王子・橘玲が女の子であるという、学園最大の秘密を知ってしまう。 なんとこの学園、俺以外、全員が“訳アリ”の男装女子だったのだ! 秘密の「共犯者」となった俺は、慣れない男装に悩む彼女たちの唯一の相談相手に。 「祐樹の前でだけは、女の子でいられる……」 クールなイケメンたちの、俺だけに見せる甘々な素顔と猛アプローチにドキドキが止まらない! 秘密だらけで糖度120%の学園ラブコメ、開幕!

バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」 高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。 そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。 見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。 意外な共通点から意気投合する二人。 だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは―― > 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」 一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。 ……翌日、学校で再会するまでは。 実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!? オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...